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第十七章 大西洋海戦
遊撃部隊の衝突Ⅱ
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両艦隊はまるで鋏のような形でゆっくりと距離を詰めていった。開戦から20分ほどで両艦隊の距離は30kmを切り、重巡洋艦の主砲が敵を射程に収めた。
『妙高、この辺りが潮時ではありませんか?』
高雄は問う。そう言われると、妙高の心臓が高鳴る。
「そう、だね。躊躇っていたらダメだ……。瑞牆さん以外全艦、最大戦速! シャルンホルストに水雷攻撃を掛けます!!」
シャルンホルストは装甲が薄いとは言え戦艦であり、重巡洋艦の主砲では相手にならない。瑞牆の主砲は通じるだろうが、それに頼っていては先にやられるのは瑞牆だろう。そういう訳で妙高は、魚雷でシャルンホルストを大破させることを決めていた。
同航戦を挑むと敵に思わせておいた遊撃部隊は、先頭の瑞牆を除いて全艦が進路を直角に変え、敵艦隊に向かって一気に突撃を始めたのである。
『妙高、私達は囮に使ってくれて構わないぞ』
と、峯風が提案してきた。第五艦隊を裏切った手前、峯風に危険な命令は出せなかったのだが、向こうから言ってきてくれたのである。
「い、いいの? 危険だと思うけど……」
『大丈夫だ。駆逐艦は艦体が小さ過ぎて、砲弾が貫通するからな』
「そ、それ、いいの……?」
実際、そういう事例は多々あった。本来なら艦内で炸裂することで最大の効果を発揮する徹甲弾などが貫通して外に抜けてしまい、結果的に大した被害を出さずに済むという事例だ。
『ああ、問題ない』
「他の二人は、それでいいのかな……?」
『雪風は問題ないですよ。まあ、雪風を連れて行くと雪風の代わりに誰かが沈むと思いますけど』
「え、えっと……」
『気にするな、妙高。実際にそんなことにはなってない』
「う、うん。涼月ちゃんは?」
『涼月は防空艦なんだから、そっちの方に同行させておく。くれぐれも傷付けるなよ?』
「わ、分かった……」
秋月型駆逐艦は魚雷を全く載せないことも検討されていた防空艦であり、敵に積極的に肉薄攻撃を仕掛けることは本来の運用目的から外れている。そういう訳で峯風と雪風が先鋒として敵に突撃することとなった。
『よし、行くぞ、雪風』
『はい。どうなっても知りませんが』
峯風と雪風は最大戦速37ノットを出し、重巡洋艦達を置き去りにし、艦隊から突出して突撃を始めた。重巡洋艦を気にすることなく動き回れるので、砲撃を回避することも容易い。プリンツ・オイゲンとザイドリッツの攻撃を躱しつつ、急速に距離を詰めていく。
と、その時であった。妙高に向けてドイツ側から通信が掛かってきたのである。妙高は話し合いができるかもと思い、即座にそれを受けた。
『こんにちは。プリンツ・オイゲンよ』
「こちらは妙高です。何の御用でしょうか……?」
『あなた達がドイツに行く前、アトミラール・ヒッパー級を見かけたら教えてって言ったわよね? どうだった?』
「どうと言われましても……。アトミラール・ヒッパーさんとブリュッヒャーさんなら見ましたが……」
アトミラール・ヒッパー級重巡洋艦の一番艦と二番艦である。大洋艦隊第一隊群に所属しているので、ドイツ本国にいるのは当然である。
『それだけ?』
「はい、それだけですけど……」
『そう。なら成果はなしね。ありがとう』
「そ、それだけの為に通信を?」
『ええ。生きてたらまた会いましょ?』
プリンツ・オイゲンは通信を切断してしまった。ドイツ軍に交渉する気がないと知って妙高はガッカリした。が、そんなことにうつつを抜かしてはいられない。
『そろそろこっちから撃ち返さないの?』
愛宕は問う。先程から遊撃部隊は敵に撃たれるのに任せ、一切の反撃を行っていない。
「そ、そうですね。敵への牽制として、反撃することにしましょう。妙高達の主砲なら、簡単に沈むことはないでしょうから」
『じゃ、遠慮なく』
『わたくしも、撃ちます』
敵に頭を向けた状態で三隻の重巡は砲撃を開始した。使えるのは艦橋より手前にある主砲6門だけだが、こちらの方が一隻多いので、有効な主砲の合計は18対16と寧ろ上回っている。
「欲を言えば、船魄に気絶してもらえると助かりますが……」
『狙ってできるものじゃないでしょう』
「で、ですよね……。ともかく、敵の危険を減らすことに集中してください。狙うなら主砲を」
砲撃が開始された。できるだけ主砲を狙って敵の攻撃力を削ぎ落とすことを狙うが、そう簡単に命中弾を得ることはできない。突出する駆逐艦達は敵艦隊まで10kmを切り、重巡洋艦も15kmほどの地点にいる。
と、その瞬間であった。愛宕の2番主砲塔に敵の攻撃が命中し、主砲塔が吹き飛んだのである。
『愛宕!! 無事ですか!?』
『え、ええ、お姉ちゃん。このくらい、どうってことないわ』
苦しそうな様子は隠しきれていなかった。しかしこの程度で撤退させる訳にはいかない。
『でしたら……このまま作戦を続行しましょう』
『最初から、そのつもりよ。私がお姉ちゃんから離れる訳、ないじゃない』
「すみません……妙高のせいで……」
『そんなこと、言ってる暇があるなら、とっとと、弾の一つくらい当てなさい!』
「は、はい!」
更に距離が詰まっていく。妙高が敵艦隊まで10kmを切った時点で、愛宕と妙高がそれぞれ一発ずつ被弾、ザイドリッツが三発被弾という被害状況であった。
『妙高、この辺りが潮時ではありませんか?』
高雄は問う。そう言われると、妙高の心臓が高鳴る。
「そう、だね。躊躇っていたらダメだ……。瑞牆さん以外全艦、最大戦速! シャルンホルストに水雷攻撃を掛けます!!」
シャルンホルストは装甲が薄いとは言え戦艦であり、重巡洋艦の主砲では相手にならない。瑞牆の主砲は通じるだろうが、それに頼っていては先にやられるのは瑞牆だろう。そういう訳で妙高は、魚雷でシャルンホルストを大破させることを決めていた。
同航戦を挑むと敵に思わせておいた遊撃部隊は、先頭の瑞牆を除いて全艦が進路を直角に変え、敵艦隊に向かって一気に突撃を始めたのである。
『妙高、私達は囮に使ってくれて構わないぞ』
と、峯風が提案してきた。第五艦隊を裏切った手前、峯風に危険な命令は出せなかったのだが、向こうから言ってきてくれたのである。
「い、いいの? 危険だと思うけど……」
『大丈夫だ。駆逐艦は艦体が小さ過ぎて、砲弾が貫通するからな』
「そ、それ、いいの……?」
実際、そういう事例は多々あった。本来なら艦内で炸裂することで最大の効果を発揮する徹甲弾などが貫通して外に抜けてしまい、結果的に大した被害を出さずに済むという事例だ。
『ああ、問題ない』
「他の二人は、それでいいのかな……?」
『雪風は問題ないですよ。まあ、雪風を連れて行くと雪風の代わりに誰かが沈むと思いますけど』
「え、えっと……」
『気にするな、妙高。実際にそんなことにはなってない』
「う、うん。涼月ちゃんは?」
『涼月は防空艦なんだから、そっちの方に同行させておく。くれぐれも傷付けるなよ?』
「わ、分かった……」
秋月型駆逐艦は魚雷を全く載せないことも検討されていた防空艦であり、敵に積極的に肉薄攻撃を仕掛けることは本来の運用目的から外れている。そういう訳で峯風と雪風が先鋒として敵に突撃することとなった。
『よし、行くぞ、雪風』
『はい。どうなっても知りませんが』
峯風と雪風は最大戦速37ノットを出し、重巡洋艦達を置き去りにし、艦隊から突出して突撃を始めた。重巡洋艦を気にすることなく動き回れるので、砲撃を回避することも容易い。プリンツ・オイゲンとザイドリッツの攻撃を躱しつつ、急速に距離を詰めていく。
と、その時であった。妙高に向けてドイツ側から通信が掛かってきたのである。妙高は話し合いができるかもと思い、即座にそれを受けた。
『こんにちは。プリンツ・オイゲンよ』
「こちらは妙高です。何の御用でしょうか……?」
『あなた達がドイツに行く前、アトミラール・ヒッパー級を見かけたら教えてって言ったわよね? どうだった?』
「どうと言われましても……。アトミラール・ヒッパーさんとブリュッヒャーさんなら見ましたが……」
アトミラール・ヒッパー級重巡洋艦の一番艦と二番艦である。大洋艦隊第一隊群に所属しているので、ドイツ本国にいるのは当然である。
『それだけ?』
「はい、それだけですけど……」
『そう。なら成果はなしね。ありがとう』
「そ、それだけの為に通信を?」
『ええ。生きてたらまた会いましょ?』
プリンツ・オイゲンは通信を切断してしまった。ドイツ軍に交渉する気がないと知って妙高はガッカリした。が、そんなことにうつつを抜かしてはいられない。
『そろそろこっちから撃ち返さないの?』
愛宕は問う。先程から遊撃部隊は敵に撃たれるのに任せ、一切の反撃を行っていない。
「そ、そうですね。敵への牽制として、反撃することにしましょう。妙高達の主砲なら、簡単に沈むことはないでしょうから」
『じゃ、遠慮なく』
『わたくしも、撃ちます』
敵に頭を向けた状態で三隻の重巡は砲撃を開始した。使えるのは艦橋より手前にある主砲6門だけだが、こちらの方が一隻多いので、有効な主砲の合計は18対16と寧ろ上回っている。
「欲を言えば、船魄に気絶してもらえると助かりますが……」
『狙ってできるものじゃないでしょう』
「で、ですよね……。ともかく、敵の危険を減らすことに集中してください。狙うなら主砲を」
砲撃が開始された。できるだけ主砲を狙って敵の攻撃力を削ぎ落とすことを狙うが、そう簡単に命中弾を得ることはできない。突出する駆逐艦達は敵艦隊まで10kmを切り、重巡洋艦も15kmほどの地点にいる。
と、その瞬間であった。愛宕の2番主砲塔に敵の攻撃が命中し、主砲塔が吹き飛んだのである。
『愛宕!! 無事ですか!?』
『え、ええ、お姉ちゃん。このくらい、どうってことないわ』
苦しそうな様子は隠しきれていなかった。しかしこの程度で撤退させる訳にはいかない。
『でしたら……このまま作戦を続行しましょう』
『最初から、そのつもりよ。私がお姉ちゃんから離れる訳、ないじゃない』
「すみません……妙高のせいで……」
『そんなこと、言ってる暇があるなら、とっとと、弾の一つくらい当てなさい!』
「は、はい!」
更に距離が詰まっていく。妙高が敵艦隊まで10kmを切った時点で、愛宕と妙高がそれぞれ一発ずつ被弾、ザイドリッツが三発被弾という被害状況であった。
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