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第十七章 大西洋海戦
対空戦
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『瑞鶴さん、如何しますか?』
そう問う鳳翔の声にはどこか楽しそうな感情が乗っているように、瑞鶴には思えた。
「……射程ギリギリであんななんだから、陣形の内側に突っ込んだら壊滅させられるのは明らかね」
『では長門さん達に頑張ってもらいますか?』
「それも考えたけど……別に長門の能力を疑ってる訳じゃないけど、向こうは戦艦5隻だし、航空援護なしに突っ込むのは無謀だと思うわ」
『では、逃げますか?』
「足止めする手段もないんだし、無意味よ」
『第五艦隊を捨て駒にしようとは思わないのですか?』
「……思わないわよ、そんなこと」
長門はもうすっかり旧式とは言え41cm砲艦である。当然ながら41cm砲に耐え得る装甲を持っている訳だ。ビスマルクでも主砲は38cmなので、かなり長い間耐えることも可能だろう。
「クソッ。どうしようもない」
『瑞鶴さんは旗艦なのですから、諦められては皆さんが困りますよ』
「それは分かってるけど……。最悪な選択肢しか出てこないわ」
『おっと、そんなことを言っている暇はないようですよ。ドイツの艦載機が仕掛けてきました』
「クッ。全艦、対空戦闘用意!!」
大洋艦隊もこちらと同様、艦隊への直接攻撃を仕掛けて来たのである。ドイツ艦隊の攻撃機(もっともドイツ軍は攻撃機と爆撃機と区別を早くからなくしているが)およそ120機が急速に接近する。艦隊への距離が30kmを切ったところで、瑞鶴は長門と陸奥に三式弾による迎撃を命じて、30機ばかりが落ちた。
「やるじゃない、二人とも」
『当然だ』
『お褒めいただき光栄ね』
そう言えば陸奥と直接に会話するのは初めてだと思いつつも、瑞鶴は艦隊の指揮に集中する。
「全艦、高角砲撃ち方始め!」
距離が15kmを切ったところで一斉に対空砲撃を開始する。瑞鶴など大東亜戦争以来の艦は大抵が12.7cm高角砲で、涼月と瑞牆は長10cm砲と、なかなか雑多な装備である。長10cm砲の連射力は15発/分と高く、特に瑞牆は片舷12門と破格の重装備であり、ドイツのジェット機も次々に落ちていく。
『それでは私も参りましょう』
「そう言えばあんたの高角砲は見たことない奴よね」
『長12. 7cm砲と言います。これ自体は8年前からありましたが、皆さんあまり使いたがらないので、装備している艦は少数なのです』
「なるほどねえ」
過去を持つ船魄はほとんどが軍艦時代の兵装をそのまま使いたがるものだ。その方が手に馴染むというものである。実際、瑞鶴はより優れた長10cm砲に換装する機会もあったというのに、未だに12. 7cm砲を使い続けている。
『では、撃ちます』
長12. 7cm砲は、長10cm砲並の連射速度を持ちつつも、口径の増大によって危害半径はおよそ1. 5倍という優れた砲である。鳳翔はこれを両舷合わせて28門装備しており、この艦隊では最高の対空戦闘能力を持っているのだ。鳳翔は砲撃を開始し、これまた敵機を次々に落としていく。
「おお……やるわね」
『最新鋭なのですから、このくらいはしませんと』
艦隊の対空砲火によって敵機は60機まで減った。が、瑞鶴は嫌な予感がした。
「残ってるのはアメリカの攻撃機ばっかりな気がするんだけど……」
『エンタープライズの艦載機だけ残っているのは不思議ではあるまい』
ツェッペリンは言う。経験不足のエーギル・ニョルズの艦載機が簡単に落ちて、エンタープライズの艦載機は砲火を軽々回避する。エンタープライズと戦ったことのある者ならば、それをこそ当然と思うだろう。
『エンタープライズというのは、それほどの船魄なのですか?』
「ええ。エンタープライズはマトモじゃないし、私と同じくらい強いと思った方がいいわ。それにあんたと同じ原子力空母だから、艦載機も大量に積んでるし」
『そうなのですか……』
「っと、そいつが迫ってきてるわ。全艦、機銃を撃ち方始め!」
つまるところエンタープライズ機はほとんど損耗していないのだ。機銃の斉射で落としきらなければならない。
『ここも、私に任せてください。皆さんより強力な機銃を積んでいます』
「任せたわよ……」
鳳翔以外は皆25mm機銃を使っているが、鳳翔は40mm機銃を200門も装備している。一撃当てれば確実に敵を撃墜できる強力な機関砲であり、連射力は25mm機銃より寧ろ向上している。
空母を中心とする輪形陣の上空にエンタープライズ機が突入した。陣形の中心にいる鳳翔は両舷の機銃を全力で唸らせ、もちろん他の艦も手を抜くことは一切ない。砲弾の雨嵐は流石のエンタープライズでも回避し切ることはできず、攻撃を仕掛ける機会を見出せないようで艦載機は上空を旋回している。
しかし、エンタープライズがそんなことで撤退してくれる筈もない。半分は落ちた頃、エンタープライズは行動に出た。
『瑞鶴さん!! 直上に敵が!!』
妙高が叫ぶ。
「何? クソッ! 落とせない!!」
瑞鶴の真上からほぼ垂直に急降下するヘルダイヴァーは、急降下爆撃という言葉では済まない急降下をして、そして瑞鶴の飛行甲板に真正面から突入した。特攻である。飛行甲板の前方左側を機体が貫き、格納庫で爆発して飛行甲板がめくれ上がった。
「クソッ……やってくれるわね……」
『ふむ。瑞鶴さんが旗艦だと分かっていたのでしょうか』
鳳翔は瑞鶴を気にかける様子もなく尋ねた。
「多分、最初から私を狙ってたのよ」
『最初から?』
『そ、その辺りの事情は、妙高がご説明します』
妙高はエンタープライズが瑞鶴に異様に執着していることを伝えた。恐らくは過去の自分を殺してくれた瑞鶴に恋しているのだろうと。そしてエンタープライズは好きな人を独占したいタイプなのだろうと。
『――なるほど。変わった趣味の方ですね、エンタープライズというのは』
「変わった趣味で済めばよかったんだけどねえ」
『しかし、合理性を無視し、瑞鶴さんしか見えていないような相手なら、対処はそう難しくありません』
実際、鳳翔の言う通り、エンタープライズは瑞鶴にばかり攻撃しようとして、その度に鳳翔の40mm機銃がヘルダイヴァーを撃ち落とした。流石のエンタープライズも艦載機を失い過ぎたのか、残り10機になったところでようやく離脱し始めた。
そう問う鳳翔の声にはどこか楽しそうな感情が乗っているように、瑞鶴には思えた。
「……射程ギリギリであんななんだから、陣形の内側に突っ込んだら壊滅させられるのは明らかね」
『では長門さん達に頑張ってもらいますか?』
「それも考えたけど……別に長門の能力を疑ってる訳じゃないけど、向こうは戦艦5隻だし、航空援護なしに突っ込むのは無謀だと思うわ」
『では、逃げますか?』
「足止めする手段もないんだし、無意味よ」
『第五艦隊を捨て駒にしようとは思わないのですか?』
「……思わないわよ、そんなこと」
長門はもうすっかり旧式とは言え41cm砲艦である。当然ながら41cm砲に耐え得る装甲を持っている訳だ。ビスマルクでも主砲は38cmなので、かなり長い間耐えることも可能だろう。
「クソッ。どうしようもない」
『瑞鶴さんは旗艦なのですから、諦められては皆さんが困りますよ』
「それは分かってるけど……。最悪な選択肢しか出てこないわ」
『おっと、そんなことを言っている暇はないようですよ。ドイツの艦載機が仕掛けてきました』
「クッ。全艦、対空戦闘用意!!」
大洋艦隊もこちらと同様、艦隊への直接攻撃を仕掛けて来たのである。ドイツ艦隊の攻撃機(もっともドイツ軍は攻撃機と爆撃機と区別を早くからなくしているが)およそ120機が急速に接近する。艦隊への距離が30kmを切ったところで、瑞鶴は長門と陸奥に三式弾による迎撃を命じて、30機ばかりが落ちた。
「やるじゃない、二人とも」
『当然だ』
『お褒めいただき光栄ね』
そう言えば陸奥と直接に会話するのは初めてだと思いつつも、瑞鶴は艦隊の指揮に集中する。
「全艦、高角砲撃ち方始め!」
距離が15kmを切ったところで一斉に対空砲撃を開始する。瑞鶴など大東亜戦争以来の艦は大抵が12.7cm高角砲で、涼月と瑞牆は長10cm砲と、なかなか雑多な装備である。長10cm砲の連射力は15発/分と高く、特に瑞牆は片舷12門と破格の重装備であり、ドイツのジェット機も次々に落ちていく。
『それでは私も参りましょう』
「そう言えばあんたの高角砲は見たことない奴よね」
『長12. 7cm砲と言います。これ自体は8年前からありましたが、皆さんあまり使いたがらないので、装備している艦は少数なのです』
「なるほどねえ」
過去を持つ船魄はほとんどが軍艦時代の兵装をそのまま使いたがるものだ。その方が手に馴染むというものである。実際、瑞鶴はより優れた長10cm砲に換装する機会もあったというのに、未だに12. 7cm砲を使い続けている。
『では、撃ちます』
長12. 7cm砲は、長10cm砲並の連射速度を持ちつつも、口径の増大によって危害半径はおよそ1. 5倍という優れた砲である。鳳翔はこれを両舷合わせて28門装備しており、この艦隊では最高の対空戦闘能力を持っているのだ。鳳翔は砲撃を開始し、これまた敵機を次々に落としていく。
「おお……やるわね」
『最新鋭なのですから、このくらいはしませんと』
艦隊の対空砲火によって敵機は60機まで減った。が、瑞鶴は嫌な予感がした。
「残ってるのはアメリカの攻撃機ばっかりな気がするんだけど……」
『エンタープライズの艦載機だけ残っているのは不思議ではあるまい』
ツェッペリンは言う。経験不足のエーギル・ニョルズの艦載機が簡単に落ちて、エンタープライズの艦載機は砲火を軽々回避する。エンタープライズと戦ったことのある者ならば、それをこそ当然と思うだろう。
『エンタープライズというのは、それほどの船魄なのですか?』
「ええ。エンタープライズはマトモじゃないし、私と同じくらい強いと思った方がいいわ。それにあんたと同じ原子力空母だから、艦載機も大量に積んでるし」
『そうなのですか……』
「っと、そいつが迫ってきてるわ。全艦、機銃を撃ち方始め!」
つまるところエンタープライズ機はほとんど損耗していないのだ。機銃の斉射で落としきらなければならない。
『ここも、私に任せてください。皆さんより強力な機銃を積んでいます』
「任せたわよ……」
鳳翔以外は皆25mm機銃を使っているが、鳳翔は40mm機銃を200門も装備している。一撃当てれば確実に敵を撃墜できる強力な機関砲であり、連射力は25mm機銃より寧ろ向上している。
空母を中心とする輪形陣の上空にエンタープライズ機が突入した。陣形の中心にいる鳳翔は両舷の機銃を全力で唸らせ、もちろん他の艦も手を抜くことは一切ない。砲弾の雨嵐は流石のエンタープライズでも回避し切ることはできず、攻撃を仕掛ける機会を見出せないようで艦載機は上空を旋回している。
しかし、エンタープライズがそんなことで撤退してくれる筈もない。半分は落ちた頃、エンタープライズは行動に出た。
『瑞鶴さん!! 直上に敵が!!』
妙高が叫ぶ。
「何? クソッ! 落とせない!!」
瑞鶴の真上からほぼ垂直に急降下するヘルダイヴァーは、急降下爆撃という言葉では済まない急降下をして、そして瑞鶴の飛行甲板に真正面から突入した。特攻である。飛行甲板の前方左側を機体が貫き、格納庫で爆発して飛行甲板がめくれ上がった。
「クソッ……やってくれるわね……」
『ふむ。瑞鶴さんが旗艦だと分かっていたのでしょうか』
鳳翔は瑞鶴を気にかける様子もなく尋ねた。
「多分、最初から私を狙ってたのよ」
『最初から?』
『そ、その辺りの事情は、妙高がご説明します』
妙高はエンタープライズが瑞鶴に異様に執着していることを伝えた。恐らくは過去の自分を殺してくれた瑞鶴に恋しているのだろうと。そしてエンタープライズは好きな人を独占したいタイプなのだろうと。
『――なるほど。変わった趣味の方ですね、エンタープライズというのは』
「変わった趣味で済めばよかったんだけどねえ」
『しかし、合理性を無視し、瑞鶴さんしか見えていないような相手なら、対処はそう難しくありません』
実際、鳳翔の言う通り、エンタープライズは瑞鶴にばかり攻撃しようとして、その度に鳳翔の40mm機銃がヘルダイヴァーを撃ち落とした。流石のエンタープライズも艦載機を失い過ぎたのか、残り10機になったところでようやく離脱し始めた。
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