319 / 376
第十七章 大西洋海戦
第五艦隊の到着
しおりを挟む
「これで双方の戦力は互角……いえ、エンタープライズと鳳翔であればエンタープライズの方が強力な船魄ですから、我が方が有利になったと言えます」
グラーフ・ローンはビスマルクとティルピッツに言う。鳳翔の方が艦載機搭載数は多いのだが、鳳翔は一度の実戦を経験したこともなく、エンタープライズに比べれば見劣りすると言わざるを得ない。故に天秤はドイツ軍に傾いているのだ。
「しかし、それで瑞鶴が降伏してくれるでありましょうか?」
「それは私には分かりませんが、瑞鶴は倍の敵を前にしても臆しないと聞いています」
「だが、それは逃げ道がある時の話だ。実際、日本艦隊と刃を交えた時は我が国に逃げ込んできたんだからな」
「ふむ……。こういう時は瑞鶴に聞いてみるのであります」
ビスマルクはそう思い立つと早速瑞鶴に投降を呼び掛けた。が、瑞鶴は『降伏なんてするわけないでしょ』と言って交渉する気もないようであった。
「うむ……。やはり圧倒的な戦力がなければ降伏してはくれないのでありますか」
「優勢ですが圧倒的とは言い難いですからね」
「圧倒的と言ってもいいくらいの戦力差はあると思うんだがな」
ドイツ側の空母はペーター・シュトラッサー、エーギル、ニョルズ、エンタープライズであり、月虹側の空母は瑞鶴、グラーフ・ツェッペリン、鳳翔である。艦載機は合計して450対280であり、相当に優勢である。
「どうしたものか……」
「姉さん、そもそもの話だが、仮に戦闘状態に入ったら、鳳翔は本当に月虹と共に戦うのか?」
ドイツの軍艦と日本の軍艦が戦闘状態に入れば、最悪の場合は戦争に発展するかもしれない。その危険を日本が冒すだろうか。
「我々と鳳翔が交戦した場合、我が国と日本の関係が非常に悪化することは間違いないのであります。しかし戦争などにはならないでしょう。何故ならば、どちらも戦争を望んでいないからであります」
「戦争にならないから、日本軍は私達と戦うことにも躊躇しないと?」
「そうであります。そして日本は自らの船魄技術が流出することを非常に恐れているのであります。故に、瑞鶴やその他日本の船魄が他国に奪われることは絶対に許容しないでしょう」
「分かった。なら、とっとと戦闘を始めた方がいいんじゃないか? 日本軍の援軍がまた来るかもしれない」
「ティルピッツの言う通りであります。本当は話し合いだけで解決したかったものですが、仕方がないのでしょう。ティルピッツ、OKWに戦闘開始の許可を取って欲しいのであります」
「了解だ」
ティルピッツは国防軍最高司令部に現況を伝え戦闘開始の許可を求めた。が、OKWはなかなか結論を出せず、6時間が経っても返答はなかった。
「まったく、OKWは何をやってるんだ……」
「まあまあティルピッツ。国家の重大な決定なのでありますから、そう簡単に結論は出ないというものでありますよ」
「それはそうかもしれないが……」
と、その時であった。グラーフ・ローンが緊張した声で言う。
「お二人とも、大変です。西から接近する未知の艦影を探知しました。それも単艦ではなく艦隊です」
「どうやら、噂をすればというものでありますな。日本軍の増援でしょう」
「どうすんだ、姉さん?」
「困ったものでありますな。ティルピッツ、一先ずはOKWにこのことを伝えてください。それとグラーフ・ローン、シュロス基地に偵察機を飛ばして敵の戦力を把握するよう伝えてください」
そういう訳で人間の偵察機が掴んだ情報は、ビスマルクの予想した通りであった。日本海軍の第五艦隊、戦艦二隻と空母二隻を含む有力な艦隊である。特に旧式とは言え戦艦が敵に加わった影響は大きい。
「敵は西から来ています。このままでは第二隊群が挟み撃ちにされますが」
「そうでありますな。これで挟撃は意味をなくしてしまいました。直ちに第二隊群は第一隊群に合流させます」
「シュロス基地は放っておいていいのですか?」
「流石に我が国の領土――ああいえ、イギリスの領土に直接攻撃してくることはないでしょう。戦力としても偵察にしか役に立たないのでありますし」
「分かりました。では陣形を再構築しましょう。ついでにエンタープライズとも合流するのはいかがですか?」
「名案であります。そのようにしましょう」
大洋艦隊はエンタープライズの許に集結し、空母達を中心にした輪形陣を敷いた。
○
「まさかあんたまで来るとは思わなかったわ、長門」
『命令で来ただけだ』
「あ、そう」
相変わらず瑞鶴と長門の仲は最悪である。
「取り敢えず、第五艦隊には私の指揮下に入ってもらおうかしら」
『……分かった。それが最も合理的だ』
今回の連合艦隊は空母が主体である。瑞鶴が指揮するのが適切だろう。
「それと、鳳翔にも私の指揮を受けるように言っておいて」
『人を召使いのように……』
と言いつつも、長門は鳳翔艦隊にも連絡を付けて、瑞鶴の指揮下に入ることを納得させた。そういう訳で日本艦隊も空母を中心とした輪形陣を組み、両軍はおよそ80kmという近距離に対陣した。
グラーフ・ローンはビスマルクとティルピッツに言う。鳳翔の方が艦載機搭載数は多いのだが、鳳翔は一度の実戦を経験したこともなく、エンタープライズに比べれば見劣りすると言わざるを得ない。故に天秤はドイツ軍に傾いているのだ。
「しかし、それで瑞鶴が降伏してくれるでありましょうか?」
「それは私には分かりませんが、瑞鶴は倍の敵を前にしても臆しないと聞いています」
「だが、それは逃げ道がある時の話だ。実際、日本艦隊と刃を交えた時は我が国に逃げ込んできたんだからな」
「ふむ……。こういう時は瑞鶴に聞いてみるのであります」
ビスマルクはそう思い立つと早速瑞鶴に投降を呼び掛けた。が、瑞鶴は『降伏なんてするわけないでしょ』と言って交渉する気もないようであった。
「うむ……。やはり圧倒的な戦力がなければ降伏してはくれないのでありますか」
「優勢ですが圧倒的とは言い難いですからね」
「圧倒的と言ってもいいくらいの戦力差はあると思うんだがな」
ドイツ側の空母はペーター・シュトラッサー、エーギル、ニョルズ、エンタープライズであり、月虹側の空母は瑞鶴、グラーフ・ツェッペリン、鳳翔である。艦載機は合計して450対280であり、相当に優勢である。
「どうしたものか……」
「姉さん、そもそもの話だが、仮に戦闘状態に入ったら、鳳翔は本当に月虹と共に戦うのか?」
ドイツの軍艦と日本の軍艦が戦闘状態に入れば、最悪の場合は戦争に発展するかもしれない。その危険を日本が冒すだろうか。
「我々と鳳翔が交戦した場合、我が国と日本の関係が非常に悪化することは間違いないのであります。しかし戦争などにはならないでしょう。何故ならば、どちらも戦争を望んでいないからであります」
「戦争にならないから、日本軍は私達と戦うことにも躊躇しないと?」
「そうであります。そして日本は自らの船魄技術が流出することを非常に恐れているのであります。故に、瑞鶴やその他日本の船魄が他国に奪われることは絶対に許容しないでしょう」
「分かった。なら、とっとと戦闘を始めた方がいいんじゃないか? 日本軍の援軍がまた来るかもしれない」
「ティルピッツの言う通りであります。本当は話し合いだけで解決したかったものですが、仕方がないのでしょう。ティルピッツ、OKWに戦闘開始の許可を取って欲しいのであります」
「了解だ」
ティルピッツは国防軍最高司令部に現況を伝え戦闘開始の許可を求めた。が、OKWはなかなか結論を出せず、6時間が経っても返答はなかった。
「まったく、OKWは何をやってるんだ……」
「まあまあティルピッツ。国家の重大な決定なのでありますから、そう簡単に結論は出ないというものでありますよ」
「それはそうかもしれないが……」
と、その時であった。グラーフ・ローンが緊張した声で言う。
「お二人とも、大変です。西から接近する未知の艦影を探知しました。それも単艦ではなく艦隊です」
「どうやら、噂をすればというものでありますな。日本軍の増援でしょう」
「どうすんだ、姉さん?」
「困ったものでありますな。ティルピッツ、一先ずはOKWにこのことを伝えてください。それとグラーフ・ローン、シュロス基地に偵察機を飛ばして敵の戦力を把握するよう伝えてください」
そういう訳で人間の偵察機が掴んだ情報は、ビスマルクの予想した通りであった。日本海軍の第五艦隊、戦艦二隻と空母二隻を含む有力な艦隊である。特に旧式とは言え戦艦が敵に加わった影響は大きい。
「敵は西から来ています。このままでは第二隊群が挟み撃ちにされますが」
「そうでありますな。これで挟撃は意味をなくしてしまいました。直ちに第二隊群は第一隊群に合流させます」
「シュロス基地は放っておいていいのですか?」
「流石に我が国の領土――ああいえ、イギリスの領土に直接攻撃してくることはないでしょう。戦力としても偵察にしか役に立たないのでありますし」
「分かりました。では陣形を再構築しましょう。ついでにエンタープライズとも合流するのはいかがですか?」
「名案であります。そのようにしましょう」
大洋艦隊はエンタープライズの許に集結し、空母達を中心にした輪形陣を敷いた。
○
「まさかあんたまで来るとは思わなかったわ、長門」
『命令で来ただけだ』
「あ、そう」
相変わらず瑞鶴と長門の仲は最悪である。
「取り敢えず、第五艦隊には私の指揮下に入ってもらおうかしら」
『……分かった。それが最も合理的だ』
今回の連合艦隊は空母が主体である。瑞鶴が指揮するのが適切だろう。
「それと、鳳翔にも私の指揮を受けるように言っておいて」
『人を召使いのように……』
と言いつつも、長門は鳳翔艦隊にも連絡を付けて、瑞鶴の指揮下に入ることを納得させた。そういう訳で日本艦隊も空母を中心とした輪形陣を組み、両軍はおよそ80kmという近距離に対陣した。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
月は夜をかき抱く ―Alkaid―
深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。
アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる