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第十七章 大西洋海戦
鳳翔
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突然現れた超大型空母。ビスマルクは一先ず、鳳翔にその意図を問い質すことにした。
「こちらはドイツ海軍大洋艦隊旗艦、ビスマルクであります。貴官は日本海軍の鳳翔殿でありますね?」
返ってきたのは、軍人とは思えないような優しく穏やかな声であった。
『ええ。お初にお目にかかります。大日本帝国海軍の原子力空母、鳳翔と申します。よろしくお願いいたします』
「こちらこそ、よろしくお願いするのであります。しかし、現在の状況を鳳翔殿は分かっておいでですか?」
『もちろんです。そうでなければここに現れたりはいたしませんよ』
「確かに、それも道理でありますな。では鳳翔殿は、誰の味方をする為に来たので在ります?」
『誰の味方も致しません。私はただ、無用な争いを避けるよう、警告しに参りました』
「無用な争い、でありますか。それは月虹に味方しているに等しいと思いますが」
『そう理解していただいても構いません』
「ほう……。貴艦はなかなか筋の通ったお方のようであります」
『お褒めいただき光栄です』
鳳翔の目的はドイツ海軍と月虹を停戦させることだそうだが、それはつまり月虹を取り逃がすということで、大洋艦隊にとっては敗北も同然である。ビスマルクにとってとても受け入れられるものではない。
「貴艦の意思は理解したのであります。我らも対応を検討いたしますので、暫しお待ちを」
『ええ勿論。構いませんよ』
ビスマルクも予想外の勢力の襲来に困り果てている。一先ずはティルピッツ、グラーフ・ローンと軍議を開くことにした。
「実際のところ、鳳翔の能力はいかほどでありましょうか。グラーフ・ローン、分かりますか?」
「鳳翔の能力はほとんど秘匿されていましたから、精確な判断をすることはできません。しかし、外見から判断するに全長320m、基準排水量6万トンほどでしょう。エーギル級より多少大きい程度です。艦載機の収容能力は精々1.1倍かと」
「ふむ。それでは大したことはないということでありますな」
鳳翔は原子力艦というだけで、空母としての能力はエーギル級とほぼ同じなのである。
「姉さん、これで空母の数は同じになったんだ。しかも瑞鶴やツェッペリンは恐らく、エーギル級より強い。航空戦力は不利になったと言わざるを得ないんじゃないか?」
「決定的に不利という訳では無いのであります。であれば、依然として我らの有利は覆らないのであります」
月虹には戦艦が一隻もない。ビスマルク、ティルピッツ、グラーフ・ローンを砲撃戦で相手にするなど到底不可能である。そういう訳でビスマルクは、作戦を中止する理由はないと鳳翔に通告した。
『左様ですか……。それは残念です』
「我らの意思は伝えたのであります。後はご自由に」
『ええ。自由にさせていただきます』
とまあ、状況はますます膠着状態に陥ってしまった。戦力では優勢であるが、月虹に降伏を迫れるほどの有利ではない。
○
ビスマルクとの交渉を終えた後、鳳翔は深く溜息を吐いた。
鳳翔は最新鋭の第四世代型船魄であり、その特徴は背中に生えた巨大な翼と、両腕両脚を制御装置に置き換えていることである。それ故に彼女は自らで歩くことも物を手に取ることもできず、普段の生活は彼女に直属する夕風が担っている。
駆逐艦夕風の船魄は大正時代らしいメイド服を着た小さな少女であり、軍艦としては長門や妙高などと同世代である。
「はぁ。ドイツ軍の皆さんは、私など大したことはないと思っているのでしょうか……」
「そんなことはありません。鳳翔様は世界最強の空母なのです。きっと今頃、どうしたものかと右往左往していることでしょう」
「ふふ。ありがとうございます、夕風。しかし……私はこれからどうすればいいのでしょうか。予定ではドイツ海軍が撤退してくれる筈でしたが……」
「軍令部に問い合わせてみます。少しお待ちください」
今回の派遣は政治的な意味合いが強く、それ故に鳳翔達は連合艦隊司令部を通さず軍令部総長から直接の命令を受けている。
「――お待たせしました、鳳翔様。神軍令部総長からのご命令は、待機です。決してこちらから手を出すなと」
「そうですか。ありがとうございます。しかし、些か疲れてしまいました」
「鳳翔様は一応これが初めての実戦なのですから、無理はありません」
「横になりたいわ。手伝ってもらえますか?」
「はい、もちろんです」
動けない鳳翔に配慮して彼女の艦橋にはベッドや風呂など生活に必要なものが完備されている。まるでホテルの一室のようであるが、他に人間が来ることもないので問題あるまい。夕風の補助で鳳翔はすぐ側のベッドに横になった。
「……おや、これは…………」
横になったまま、鳳翔は何かを感じたようだ。
「どうされましたか?」
「電探に感がありました。北西から非常に大きな艦影が接近しています」
「北西、ですか。帝国海軍でそのような艦艇が配備されているとは存じ上げません。考えられるとしたら……」
「ええ。巡航中とは思えない速度を出していますから、アメリカのエンタープライズに他ならないでしょう」
少し遅れてエンタープライズも到着したようだ。世界に二隻しかない原子力空母がここに相見えたのである。それが敵なのか味方なのかは分からないが。
「こちらはドイツ海軍大洋艦隊旗艦、ビスマルクであります。貴官は日本海軍の鳳翔殿でありますね?」
返ってきたのは、軍人とは思えないような優しく穏やかな声であった。
『ええ。お初にお目にかかります。大日本帝国海軍の原子力空母、鳳翔と申します。よろしくお願いいたします』
「こちらこそ、よろしくお願いするのであります。しかし、現在の状況を鳳翔殿は分かっておいでですか?」
『もちろんです。そうでなければここに現れたりはいたしませんよ』
「確かに、それも道理でありますな。では鳳翔殿は、誰の味方をする為に来たので在ります?」
『誰の味方も致しません。私はただ、無用な争いを避けるよう、警告しに参りました』
「無用な争い、でありますか。それは月虹に味方しているに等しいと思いますが」
『そう理解していただいても構いません』
「ほう……。貴艦はなかなか筋の通ったお方のようであります」
『お褒めいただき光栄です』
鳳翔の目的はドイツ海軍と月虹を停戦させることだそうだが、それはつまり月虹を取り逃がすということで、大洋艦隊にとっては敗北も同然である。ビスマルクにとってとても受け入れられるものではない。
「貴艦の意思は理解したのであります。我らも対応を検討いたしますので、暫しお待ちを」
『ええ勿論。構いませんよ』
ビスマルクも予想外の勢力の襲来に困り果てている。一先ずはティルピッツ、グラーフ・ローンと軍議を開くことにした。
「実際のところ、鳳翔の能力はいかほどでありましょうか。グラーフ・ローン、分かりますか?」
「鳳翔の能力はほとんど秘匿されていましたから、精確な判断をすることはできません。しかし、外見から判断するに全長320m、基準排水量6万トンほどでしょう。エーギル級より多少大きい程度です。艦載機の収容能力は精々1.1倍かと」
「ふむ。それでは大したことはないということでありますな」
鳳翔は原子力艦というだけで、空母としての能力はエーギル級とほぼ同じなのである。
「姉さん、これで空母の数は同じになったんだ。しかも瑞鶴やツェッペリンは恐らく、エーギル級より強い。航空戦力は不利になったと言わざるを得ないんじゃないか?」
「決定的に不利という訳では無いのであります。であれば、依然として我らの有利は覆らないのであります」
月虹には戦艦が一隻もない。ビスマルク、ティルピッツ、グラーフ・ローンを砲撃戦で相手にするなど到底不可能である。そういう訳でビスマルクは、作戦を中止する理由はないと鳳翔に通告した。
『左様ですか……。それは残念です』
「我らの意思は伝えたのであります。後はご自由に」
『ええ。自由にさせていただきます』
とまあ、状況はますます膠着状態に陥ってしまった。戦力では優勢であるが、月虹に降伏を迫れるほどの有利ではない。
○
ビスマルクとの交渉を終えた後、鳳翔は深く溜息を吐いた。
鳳翔は最新鋭の第四世代型船魄であり、その特徴は背中に生えた巨大な翼と、両腕両脚を制御装置に置き換えていることである。それ故に彼女は自らで歩くことも物を手に取ることもできず、普段の生活は彼女に直属する夕風が担っている。
駆逐艦夕風の船魄は大正時代らしいメイド服を着た小さな少女であり、軍艦としては長門や妙高などと同世代である。
「はぁ。ドイツ軍の皆さんは、私など大したことはないと思っているのでしょうか……」
「そんなことはありません。鳳翔様は世界最強の空母なのです。きっと今頃、どうしたものかと右往左往していることでしょう」
「ふふ。ありがとうございます、夕風。しかし……私はこれからどうすればいいのでしょうか。予定ではドイツ海軍が撤退してくれる筈でしたが……」
「軍令部に問い合わせてみます。少しお待ちください」
今回の派遣は政治的な意味合いが強く、それ故に鳳翔達は連合艦隊司令部を通さず軍令部総長から直接の命令を受けている。
「――お待たせしました、鳳翔様。神軍令部総長からのご命令は、待機です。決してこちらから手を出すなと」
「そうですか。ありがとうございます。しかし、些か疲れてしまいました」
「鳳翔様は一応これが初めての実戦なのですから、無理はありません」
「横になりたいわ。手伝ってもらえますか?」
「はい、もちろんです」
動けない鳳翔に配慮して彼女の艦橋にはベッドや風呂など生活に必要なものが完備されている。まるでホテルの一室のようであるが、他に人間が来ることもないので問題あるまい。夕風の補助で鳳翔はすぐ側のベッドに横になった。
「……おや、これは…………」
横になったまま、鳳翔は何かを感じたようだ。
「どうされましたか?」
「電探に感がありました。北西から非常に大きな艦影が接近しています」
「北西、ですか。帝国海軍でそのような艦艇が配備されているとは存じ上げません。考えられるとしたら……」
「ええ。巡航中とは思えない速度を出していますから、アメリカのエンタープライズに他ならないでしょう」
少し遅れてエンタープライズも到着したようだ。世界に二隻しかない原子力空母がここに相見えたのである。それが敵なのか味方なのかは分からないが。
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