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第十七章 大西洋海戦
援軍の到着
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月虹と大洋艦隊の追いかけっこが始まってから4日。月虹はバミューダ諸島より東に200kmほどの地点にいた。これで大洋艦隊の挟み撃ちの完成である。
「全艦、ここで止まりましょう。敵の出方を見るわ」
と、瑞鶴は命令し、月虹は何もない洋上に留まることとなった。追いかけてきていた大洋艦隊第一隊群もまた100kmほどの距離を取って停止した。もちろん戦艦の主砲も届かない距離だが、ほんの2時間も走れば射程圏内である。
『で? ここからどうするつもりだ?』
ツェッペリンは無線越しに問う。
「様子を見るって言ったでしょ。そのうちドイツ軍から交渉を持ちかけてくる筈よ。私達で本気で戦ったら、ドイツにも相当な損害が出るのは間違いないし」
『お前のよく分からん特殊能力とやらで分かるのか?』
「いいえ。あれは相手が遠くとも10km以内にいないと働かないわ」
瑞鶴の集合的な思考を感じ取って翔鶴として映し出す能力は、海戦ではほとんど役に立たないのである。
『使えんな』
「仕方ないでしょ」
ドイツにとって万全の体制が整ったというのに攻撃して来ない。これは多少なりとも交渉すほ意思があるということだ。そういう訳で月虹は何もせずにドイツから呼び掛けがあるのを待っていたののだが、その時であった。
突如として瑞鶴の前方50mの水面に複数の水柱が上がり、衝撃波が瑞鶴を襲った。艦橋が少し揺れた程度であったが、突然の爆発に緊張が走る。
『せ、潜水艦でしょうか……』
高雄は一番あり得そうな推測をするが、瑞鶴はすぐに否定する。
「いいえ。水中電探にも水中聴音機にも引っかからなかった」
『そう、ですか。では一体……』
瑞鶴のバルバス・バウに埋め込まれた水中聴音機は優秀で、10km先の魚雷を探知できる。艦隊が完全に止まっている状態で魚雷を見逃す筈がない。
『お姉ちゃん、砲弾の破片みたいなのが浮いてるわよ』
『砲弾、ですか……』
「砲弾? まさか100km先から撃って来たって?」
『私に言われても知らないわ。ただ事実を言っただけ』
『瑞鶴さん、本当に砲弾かもしれません』
瑞鶴はふざけて言ったつもりなのだが、高雄に肯定されてしまった。
「いやいや、幾らなんでもあり得ないでしょ」
『ドイツ軍は巨大な大砲で使う噴進砲弾を開発しています。それが本当なら、戦艦にそれを搭載するのも道理かと』
かつて80cm列車砲などというふざけた兵器を実用化していた国だ。大砲、砲弾の製造技術なら世界一である。そしてその後継である52cm列車砲は、威力を減らした代わりに砲弾自身に推進力を持たせ、最大射程150kmを達成しているらしい。
「なるほどね。つまりグラーフ・ローンの51cm砲弾がここまで届くと」
『た、大変じゃないですか!』
妙高は怯えた声で言うが、瑞鶴は危機感を持つこともなかった。51cm砲弾など、ここにいる誰に直撃しても一撃で轟沈なのだが。
「あのねえ、100km飛ばすのに何分かかると思ってるの? 命中する訳ないわ。ただの脅しよ」
『た、確かに、それもそうですね……。そう言われても安心はできないですけど』
「ビクビクし過ぎよ。っと、噂をすれば――」
ドイツ海軍から月虹に通信の要請があった。瑞鶴はそれに受けドイツと交渉することとした。
『本艦はビスマルク。ドイツ海軍大洋艦隊旗艦であります』
「瑞鶴よ。何の用?」
『先程の砲撃はご覧になったでありましょう? あれは我が艦隊のグラーフ・ローンの砲撃であります』
「そう。やっぱりね」
『分かっていたのでありますか。であれば、我々に降伏すべきであるということも、お分かりいただけたでしょう?』
「こんな距離から撃って当たる大砲がある訳ないわ。だってどんなに精確に照準を定めても、砲弾が落ちる頃にはそこにいないんだから」
『当然であります。ですから本艦など戦艦は、偏差射撃を本懐としているのであります』
砲弾が落ちる頃に敵艦がいるであろう場所に照準を合わせることだ。
「まあ40kmくらいまでならそれで何とかなるかもしれないかど、100kmも離れたら、そっちが撃ってきたのを見てから方向転換できるわ。張子の虎ね」
船というのは遍く急激な方向転換を行うこと困難である。しかし流石に1分後の位置を推定するのは不可能だ。
『なるほど。流石は世界最古の船魄、歴戦の瑞鶴殿でありますな』
瑞鶴に論破されたビスマルクであるが、全く動じる様子は見せなかった。流石、外交の天才であるオットー・フォン・ビスマルクの名を授けられただけはある。
「で? 私達を脅す材料がなくなった訳だけど、どうする?」
『どうもこうも――』
と、その時、急にビスマルクの声が途切れ、通信機の向こうが慌ただしくなった。
「ちょっと? ビスマルク?」
と同時に、瑞鶴にも急な報告が飛んで来る。
『瑞鶴、南方から未知の空母が接近して来ているぞ。あれは何だ?』
「え、何それ? えーと、ツェッペリン、高雄に偵察写真でも送って。高雄、近付いてくるのは何?」
『え、ええと、これは……』
高雄は黙り込む。どうやら知らない艦らしい。
『高雄も知らない艦なの?』
妙高が尋ねる。
『ええ、わたくしは知りません。しかし隣に峯風型駆逐艦がいますから日本の空母ですね。そしてこれと比較すれば、全長はおよそ……320mとなります』
『320? 日本にそんなに空母がいるなんて聞いたことないけれど』
『愛宕も知りませんか。しかしこの規模に相当する艦となると、該当するのは一隻しかありません。公称では全長308m基準排水量5万2千トンとありましたが、帝国海軍が先日まで建造中だった空母、原子力空母鳳翔です』
敵か味方か分からないが、どうやら世界最大級の空母がお出ましになったらしい。
「全艦、ここで止まりましょう。敵の出方を見るわ」
と、瑞鶴は命令し、月虹は何もない洋上に留まることとなった。追いかけてきていた大洋艦隊第一隊群もまた100kmほどの距離を取って停止した。もちろん戦艦の主砲も届かない距離だが、ほんの2時間も走れば射程圏内である。
『で? ここからどうするつもりだ?』
ツェッペリンは無線越しに問う。
「様子を見るって言ったでしょ。そのうちドイツ軍から交渉を持ちかけてくる筈よ。私達で本気で戦ったら、ドイツにも相当な損害が出るのは間違いないし」
『お前のよく分からん特殊能力とやらで分かるのか?』
「いいえ。あれは相手が遠くとも10km以内にいないと働かないわ」
瑞鶴の集合的な思考を感じ取って翔鶴として映し出す能力は、海戦ではほとんど役に立たないのである。
『使えんな』
「仕方ないでしょ」
ドイツにとって万全の体制が整ったというのに攻撃して来ない。これは多少なりとも交渉すほ意思があるということだ。そういう訳で月虹は何もせずにドイツから呼び掛けがあるのを待っていたののだが、その時であった。
突如として瑞鶴の前方50mの水面に複数の水柱が上がり、衝撃波が瑞鶴を襲った。艦橋が少し揺れた程度であったが、突然の爆発に緊張が走る。
『せ、潜水艦でしょうか……』
高雄は一番あり得そうな推測をするが、瑞鶴はすぐに否定する。
「いいえ。水中電探にも水中聴音機にも引っかからなかった」
『そう、ですか。では一体……』
瑞鶴のバルバス・バウに埋め込まれた水中聴音機は優秀で、10km先の魚雷を探知できる。艦隊が完全に止まっている状態で魚雷を見逃す筈がない。
『お姉ちゃん、砲弾の破片みたいなのが浮いてるわよ』
『砲弾、ですか……』
「砲弾? まさか100km先から撃って来たって?」
『私に言われても知らないわ。ただ事実を言っただけ』
『瑞鶴さん、本当に砲弾かもしれません』
瑞鶴はふざけて言ったつもりなのだが、高雄に肯定されてしまった。
「いやいや、幾らなんでもあり得ないでしょ」
『ドイツ軍は巨大な大砲で使う噴進砲弾を開発しています。それが本当なら、戦艦にそれを搭載するのも道理かと』
かつて80cm列車砲などというふざけた兵器を実用化していた国だ。大砲、砲弾の製造技術なら世界一である。そしてその後継である52cm列車砲は、威力を減らした代わりに砲弾自身に推進力を持たせ、最大射程150kmを達成しているらしい。
「なるほどね。つまりグラーフ・ローンの51cm砲弾がここまで届くと」
『た、大変じゃないですか!』
妙高は怯えた声で言うが、瑞鶴は危機感を持つこともなかった。51cm砲弾など、ここにいる誰に直撃しても一撃で轟沈なのだが。
「あのねえ、100km飛ばすのに何分かかると思ってるの? 命中する訳ないわ。ただの脅しよ」
『た、確かに、それもそうですね……。そう言われても安心はできないですけど』
「ビクビクし過ぎよ。っと、噂をすれば――」
ドイツ海軍から月虹に通信の要請があった。瑞鶴はそれに受けドイツと交渉することとした。
『本艦はビスマルク。ドイツ海軍大洋艦隊旗艦であります』
「瑞鶴よ。何の用?」
『先程の砲撃はご覧になったでありましょう? あれは我が艦隊のグラーフ・ローンの砲撃であります』
「そう。やっぱりね」
『分かっていたのでありますか。であれば、我々に降伏すべきであるということも、お分かりいただけたでしょう?』
「こんな距離から撃って当たる大砲がある訳ないわ。だってどんなに精確に照準を定めても、砲弾が落ちる頃にはそこにいないんだから」
『当然であります。ですから本艦など戦艦は、偏差射撃を本懐としているのであります』
砲弾が落ちる頃に敵艦がいるであろう場所に照準を合わせることだ。
「まあ40kmくらいまでならそれで何とかなるかもしれないかど、100kmも離れたら、そっちが撃ってきたのを見てから方向転換できるわ。張子の虎ね」
船というのは遍く急激な方向転換を行うこと困難である。しかし流石に1分後の位置を推定するのは不可能だ。
『なるほど。流石は世界最古の船魄、歴戦の瑞鶴殿でありますな』
瑞鶴に論破されたビスマルクであるが、全く動じる様子は見せなかった。流石、外交の天才であるオットー・フォン・ビスマルクの名を授けられただけはある。
「で? 私達を脅す材料がなくなった訳だけど、どうする?」
『どうもこうも――』
と、その時、急にビスマルクの声が途切れ、通信機の向こうが慌ただしくなった。
「ちょっと? ビスマルク?」
と同時に、瑞鶴にも急な報告が飛んで来る。
『瑞鶴、南方から未知の空母が接近して来ているぞ。あれは何だ?』
「え、何それ? えーと、ツェッペリン、高雄に偵察写真でも送って。高雄、近付いてくるのは何?」
『え、ええと、これは……』
高雄は黙り込む。どうやら知らない艦らしい。
『高雄も知らない艦なの?』
妙高が尋ねる。
『ええ、わたくしは知りません。しかし隣に峯風型駆逐艦がいますから日本の空母ですね。そしてこれと比較すれば、全長はおよそ……320mとなります』
『320? 日本にそんなに空母がいるなんて聞いたことないけれど』
『愛宕も知りませんか。しかしこの規模に相当する艦となると、該当するのは一隻しかありません。公称では全長308m基準排水量5万2千トンとありましたが、帝国海軍が先日まで建造中だった空母、原子力空母鳳翔です』
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