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第十六章 第二次世界大戦(後日編)
イタリア亡命
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ムッソリーニはトリポリ港までわざわざ迎えに来ていた。まあ艦から離れろ言われたらツェッペリンも瑞鶴も拒否するのだが。ヴィットリオ・ヴェネトに連れられ、総統の待ち構える部屋の扉を開けると、元気な老人が暇そうに歩き回っていたが、彼女らを見つけた途端に威勢よく声を掛けてきた。
「君がグラーフ・ツェッペリンか! 君が瑞鶴か!」
「うむ。我こそはグラーフ・ツェッペリンである」
「瑞鶴よ。ムッソリーニね?」
「いかにも! イタリア首相のベニート・ムッソリーニだ! 君達を歓迎するぞ! さあさあ、まずは座ってくれたまえ」
「総統、そこまでなさらなくても……」
ヴィットリオ・ヴェネトが困惑している横で、ムッソリーニは自ら椅子を引いてツェッペリンと瑞鶴を座らせた。そしてムッソリーニ本人もドンと向かいに座り、ヴィットリオ・ヴェネトはその傍に綺麗な姿勢で立っている。
「私がここに来たのは、君達の真意を確かめたいからだ。君達は本当に、イタリアに味方してくれるのかね?」
「お前達が我の整備を請け負うのであれば無論、それなりの対価は血によって払おう」
「私も同意見ね」
「それはよかった! 君達がいればイタリア海軍は世界最強! ドイツにだって対抗できるぞ!」
ムッソリーニはこの返答だけで満足したらしい。
「しかし、ドイツとイタリアは仲が悪いのか? ゲッベルスの演説の件は知っているが、それだけでこうも露骨に対立するものか?」
ツェッペリンは依然としてイタリアを完全に信用し切れてはいなかった。瑞鶴の特殊能力とやらもどこまで信じられるのか分からない。
「あの演説の意味は結構大きいのだぞ。何せ、イタリアはバチカンと盟友だからな。カトリックを馬鹿にされては黙ってられんのだ」
ローマにバチカン市国という独立国を建国するのを許したのはムッソリーニであり、カトリックはイタリアの国教である。もっとも、ムッソリーニ自身はカトリックに良い感情を持ってはいないと噂されているが。
「それに、私はユダヤ人とか北方人種とか、そういう概念に興味はないから、元からドイツと仲は悪いのだよ。ツェッペリン、君なら言いたいことは分かるだろう?」
「うむ……」
ツェッペリンは何とも言えない表情で唸ることしかできなかった。瑞鶴はおおよそムッソリーニの言いたいことは察したようであった。
白人国家の例に漏れずイタリアにも人種差別はあるが、人種を理由に強制収容所に収監したり虐殺したりするようなことは決してない。イギリスやフランスなどより遥かに開明的な国家なのである。それ故に戦前は公然とドイツと対立していたし、戦時中は大同小異として結束したものの、両国の対立は再び表面化している。
「それに、ゲッベルスの小僧を私は気に入らんのだ」
「おお、それについては同意見だぞ」
「そうなのか? 気が合うじゃないか!」
「けど、本当に大丈夫なの? ドイツとは陸続きだし」
瑞鶴は問う。島国の日本ならともかく、イタリアにおいて海軍は抑止力としてあまり機能しないのではないかと。
「確かに陸続きだが、我が国は非常に細長く、かつ海に囲まれている。空母の君達なら、どこにでも援護を行うことができるだろう?」
「そういうことね。まあそのくらいは余裕よ」
細長いイタリア半島であるが、その幅は最大でも300kmほどしかない。どんな艦載機でも軽々と横断することができるだろう。
「そういう訳だ。君達には期待しているぞ! 困ったことがあったら何でも言ってくれたまえ!」
ヒトラーより一回りは歳上だと言うのに衰える気配が全くないムッソリーニは、陽気にその場を去った。
○
そうして暫くはイタリアに居座ることにしたツェッペリンと瑞鶴であったが、ドイツは結局空母の増強に舵を取り、二人がいてもなお圧倒的な優勢を維持できるとは言えなくなってきた。
1952年になると、ドイツはペーター・シュトラッサーの他に新型のリヒトホーフェン級を2隻揃え、大和に匹敵するモルトケ級戦艦を整備し、一方でイタリアは戦前の艦艇を船魄化することしかできず、差は縮まるどころか追い抜かれてしまった。
「すまない、君達。どうやらこの辺りが潮時のようだ」
ムッソリーニはわざわざ謝罪しに来た。
「構わぬ。我も十分に休めた。大儀である」
「そう思ってくれると私も嬉しいぞ。君達の次の亡命先は手配してある。引き続き、私に任せてくれたまえ」
「そ、そうなのか? 用意がいいな……」
そうしてツェッペリンと瑞鶴は、イタリアの密かな援助の下、南米に亡命して身を潜めることとなったのである。
○
時間は現在、妙高とツェッペリンの乗る夜行列車に戻る。
「――というのが、我がお前達と会うまでの話だ。どうだ? 面白かったか?」
ツェッペリンは妙高に尋ねる。
「面白かった、という言葉は適切じゃない気がしますが、お聞きできてよかったです!」
「そ、そうか」
「でもツェッペリンさん、シュトラッサーさんの為にドイツを離れたんですね」
「ま、まあな……」
それを言われると、ツェッペリンは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「シュトラッサーさんにそう言えばいいのに」
「は、恥ずかしいだろ、そんなこと……。今更そんなことは言えん。お、お前も、勝手な事はするなよ!」
「大丈夫です。勝手に告げ口したりはしません!」
「そ、それでよい」
「でも、ちゃんと仲直りしてくださいよ?」
「まあ、いずれな。さあもう夜も更けたし、とっとと寝るぞ!」
という訳で、ツェッペリンと妙高はパリに到着するまで眠りについた。
「君がグラーフ・ツェッペリンか! 君が瑞鶴か!」
「うむ。我こそはグラーフ・ツェッペリンである」
「瑞鶴よ。ムッソリーニね?」
「いかにも! イタリア首相のベニート・ムッソリーニだ! 君達を歓迎するぞ! さあさあ、まずは座ってくれたまえ」
「総統、そこまでなさらなくても……」
ヴィットリオ・ヴェネトが困惑している横で、ムッソリーニは自ら椅子を引いてツェッペリンと瑞鶴を座らせた。そしてムッソリーニ本人もドンと向かいに座り、ヴィットリオ・ヴェネトはその傍に綺麗な姿勢で立っている。
「私がここに来たのは、君達の真意を確かめたいからだ。君達は本当に、イタリアに味方してくれるのかね?」
「お前達が我の整備を請け負うのであれば無論、それなりの対価は血によって払おう」
「私も同意見ね」
「それはよかった! 君達がいればイタリア海軍は世界最強! ドイツにだって対抗できるぞ!」
ムッソリーニはこの返答だけで満足したらしい。
「しかし、ドイツとイタリアは仲が悪いのか? ゲッベルスの演説の件は知っているが、それだけでこうも露骨に対立するものか?」
ツェッペリンは依然としてイタリアを完全に信用し切れてはいなかった。瑞鶴の特殊能力とやらもどこまで信じられるのか分からない。
「あの演説の意味は結構大きいのだぞ。何せ、イタリアはバチカンと盟友だからな。カトリックを馬鹿にされては黙ってられんのだ」
ローマにバチカン市国という独立国を建国するのを許したのはムッソリーニであり、カトリックはイタリアの国教である。もっとも、ムッソリーニ自身はカトリックに良い感情を持ってはいないと噂されているが。
「それに、私はユダヤ人とか北方人種とか、そういう概念に興味はないから、元からドイツと仲は悪いのだよ。ツェッペリン、君なら言いたいことは分かるだろう?」
「うむ……」
ツェッペリンは何とも言えない表情で唸ることしかできなかった。瑞鶴はおおよそムッソリーニの言いたいことは察したようであった。
白人国家の例に漏れずイタリアにも人種差別はあるが、人種を理由に強制収容所に収監したり虐殺したりするようなことは決してない。イギリスやフランスなどより遥かに開明的な国家なのである。それ故に戦前は公然とドイツと対立していたし、戦時中は大同小異として結束したものの、両国の対立は再び表面化している。
「それに、ゲッベルスの小僧を私は気に入らんのだ」
「おお、それについては同意見だぞ」
「そうなのか? 気が合うじゃないか!」
「けど、本当に大丈夫なの? ドイツとは陸続きだし」
瑞鶴は問う。島国の日本ならともかく、イタリアにおいて海軍は抑止力としてあまり機能しないのではないかと。
「確かに陸続きだが、我が国は非常に細長く、かつ海に囲まれている。空母の君達なら、どこにでも援護を行うことができるだろう?」
「そういうことね。まあそのくらいは余裕よ」
細長いイタリア半島であるが、その幅は最大でも300kmほどしかない。どんな艦載機でも軽々と横断することができるだろう。
「そういう訳だ。君達には期待しているぞ! 困ったことがあったら何でも言ってくれたまえ!」
ヒトラーより一回りは歳上だと言うのに衰える気配が全くないムッソリーニは、陽気にその場を去った。
○
そうして暫くはイタリアに居座ることにしたツェッペリンと瑞鶴であったが、ドイツは結局空母の増強に舵を取り、二人がいてもなお圧倒的な優勢を維持できるとは言えなくなってきた。
1952年になると、ドイツはペーター・シュトラッサーの他に新型のリヒトホーフェン級を2隻揃え、大和に匹敵するモルトケ級戦艦を整備し、一方でイタリアは戦前の艦艇を船魄化することしかできず、差は縮まるどころか追い抜かれてしまった。
「すまない、君達。どうやらこの辺りが潮時のようだ」
ムッソリーニはわざわざ謝罪しに来た。
「構わぬ。我も十分に休めた。大儀である」
「そう思ってくれると私も嬉しいぞ。君達の次の亡命先は手配してある。引き続き、私に任せてくれたまえ」
「そ、そうなのか? 用意がいいな……」
そうしてツェッペリンと瑞鶴は、イタリアの密かな援助の下、南米に亡命して身を潜めることとなったのである。
○
時間は現在、妙高とツェッペリンの乗る夜行列車に戻る。
「――というのが、我がお前達と会うまでの話だ。どうだ? 面白かったか?」
ツェッペリンは妙高に尋ねる。
「面白かった、という言葉は適切じゃない気がしますが、お聞きできてよかったです!」
「そ、そうか」
「でもツェッペリンさん、シュトラッサーさんの為にドイツを離れたんですね」
「ま、まあな……」
それを言われると、ツェッペリンは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「シュトラッサーさんにそう言えばいいのに」
「は、恥ずかしいだろ、そんなこと……。今更そんなことは言えん。お、お前も、勝手な事はするなよ!」
「大丈夫です。勝手に告げ口したりはしません!」
「そ、それでよい」
「でも、ちゃんと仲直りしてくださいよ?」
「まあ、いずれな。さあもう夜も更けたし、とっとと寝るぞ!」
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