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第十六章 第二次世界大戦(後日編)
ツェッペリンの脱走
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輸送機であっという間にキールに到着したゲッベルスは、現地の将官から説明を受けると、まずティルピッツを呼び出した。ティルピッツは相変わらず無愛想な様子で現れた。
「ティルピッツ、君にツェッペリンを生け捕りにして欲しいんだが、可能か?」
「無理だろう。相手は空母だ。戦艦が空母と追いかけっこをして勝てると思ってるのか?」
「そ、そうか……」
空母と戦艦の機動力は雲泥の差。戦艦が追いつける訳がない。
「じゃあ、巡洋艦なら追いつけるか?」
「そうだろうが、巡洋艦程度で正規空母に勝てるとは思えないな」
「それでも、何もできないよりはいい。プリンツ・オイゲンはいるか?」
大型艦としては最も新しく船魄化された重巡洋艦プリンツ・オイゲン。金髪碧眼に白い羽を持つ天使のような少女はすぐにやって来た。こちらもゲッベルスに敬意を払う気などまるでない。
「プリンツ・オイゲン、君にツェッペリンの追跡を頼みたいんだが、可能か?」
「ええ勿論。私の方が彼女より速いのだから。でも、ツェッペリンを生け捕りにできるとは思わないことね」
「君でも、厳しいのか?」
「重巡洋艦で空母の相手をするのは分が悪いわ。仕方ないでしょう。あなたが予備の空母くらい建造しておかなかったせいではないかしら?」
「痛いところを突いてくるなあ。では一先ず、攻撃はしなくていい。今すぐグラーフ・ツェッペリンを追跡してくれ。頼む」
「ええ、分かったわ」
プリンツ・オイゲンはまだ船魄化されていない姉妹艦のアトミラール・ヒッパーや駆逐艦数隻を率いてキールを出撃した。一先ずの命令を終えたゲッベルスはベルリンに戻り、デーニッツ国家元帥と対応を協議することにした。
「申し上げます。現在、グラーフ・ツェッペリンは大ベルト海峡を通過中です」
バルト海の出口に当たる幅25kmほどの狭い海峡のことである。
「そこで食い止められないのか?」
ゲッベルスはデーニッツ国家元帥に尋ねた。
「確かに海峡には沿岸要塞が設置してありますが、ツェッペリンには返り討ちにされるだけかと」
「クッ……。分かった。だがそうなると、こちらの戦力はプリンツ・オイゲンくらいしかないということか」
「ヴィルヘルムスハーフェンから艦隊を出せば、ツェッペリンの進路を塞ぐこともできますが」
「ツェッペリンに勝てる軍艦なんてあるのか?」
「ありませんな」
ドイツ海軍は今のところ、赤色海軍を牽制することが最大の任務であり、それ故に主力艦隊はキールに集結していた。ヴィルヘルムスハーフェンに大型艦艇は配備されていないのである。
「もっとも、正確には瑞鶴がおりますが」
「彼女はドイツの艦艇じゃないし、こんな内乱に使う訳にはいかない」
「承知しています」
「暫くは様子を見る他ないか……」
ツェッペリンは何の妨害も受けずにバルト海を出た。ちょうどその頃、プリンツ・オイゲンなどの追撃部隊がツェッペリンを攻撃の射程に収めた。
「大統領閣下からご命令があれば、海軍はいつでも攻撃を開始できます。如何しますか?」
「……勝てるのか?」
「グラーフ・ツェッペリンは空母としては稀に見る重武装艦ですから、艦載機がなかったとしても五分五分でしょう」
「そんなの無理じゃないか……」
「プリンツ・オイゲンの言うように、空母と重巡洋艦では、奇襲でもしない限り勝ち目はありますまい」
ツェッペリンはこちらから手を出さなければ手を出すつもりはなさそうだ。ゲッベルスは結局、ツェッペリンに攻撃する決断を下すことはできなかった。
「しかし……こうなってしまうと、最早我が軍ではどうしようもありませんな」
「イギリス・フランスの海軍に協力を頼むとかは?」
「イギリス海軍など存在しないも同然です。フランスなら多少の戦艦はありますが、船魄化されていません」
「ダメか……。なら、やっぱり瑞鶴に協力を頼む他にないか?」
「おや、本当によろしいのですか?」
「この際だ。仕方ない。瑞鶴とて、僕達にそれなりに恩はある筈だ。彼女に協力を頼む」
「承知しました。ではそのように」
早速ヴィルヘルムスハーフェンの瑞鶴に電文が打たれたが、その返事は承認でも拒否でもなかった。
「だ、大統領閣下、国家元帥閣下、瑞鶴より返信です」
「読んでくれ」
「はっ……。グラーフ・ツェッペリンが脱走するなら私もドイツは抜けさせてもらう、とのこと……」
「…………何だって?」
「その、どうやら、瑞鶴はヴィルヘルムスハーフェンから勝手に出港して、ツェッペリンと合流するつもりのようです」
「なるほどなあ…………」
ゲッベルスは何も考える気が起きなくなった。
「まあ、我々も一時は瑞鶴を解剖しようなどと考えておりましたからな。信用されていないのは仕方がないでしょう」
「そう言われても困るよ……」
ツェッペリンが瑞鶴の身の安全を保証させていたので、ツェッペリンがドイツを離れれば瑞鶴も一緒に離れていくのは道理であった。
「もう無理だ。瑞鶴とツェッペリンを同時に相手するなんて不可能だ。追撃は中止させてくれ」
「はっ」
こうしてドイツを唯一の空母と客人の空母を失い、ペーター・シュトラッサーの建造を再開せざるを得なくなったのである。ツェッペリンの計画通りであった。
「ティルピッツ、君にツェッペリンを生け捕りにして欲しいんだが、可能か?」
「無理だろう。相手は空母だ。戦艦が空母と追いかけっこをして勝てると思ってるのか?」
「そ、そうか……」
空母と戦艦の機動力は雲泥の差。戦艦が追いつける訳がない。
「じゃあ、巡洋艦なら追いつけるか?」
「そうだろうが、巡洋艦程度で正規空母に勝てるとは思えないな」
「それでも、何もできないよりはいい。プリンツ・オイゲンはいるか?」
大型艦としては最も新しく船魄化された重巡洋艦プリンツ・オイゲン。金髪碧眼に白い羽を持つ天使のような少女はすぐにやって来た。こちらもゲッベルスに敬意を払う気などまるでない。
「プリンツ・オイゲン、君にツェッペリンの追跡を頼みたいんだが、可能か?」
「ええ勿論。私の方が彼女より速いのだから。でも、ツェッペリンを生け捕りにできるとは思わないことね」
「君でも、厳しいのか?」
「重巡洋艦で空母の相手をするのは分が悪いわ。仕方ないでしょう。あなたが予備の空母くらい建造しておかなかったせいではないかしら?」
「痛いところを突いてくるなあ。では一先ず、攻撃はしなくていい。今すぐグラーフ・ツェッペリンを追跡してくれ。頼む」
「ええ、分かったわ」
プリンツ・オイゲンはまだ船魄化されていない姉妹艦のアトミラール・ヒッパーや駆逐艦数隻を率いてキールを出撃した。一先ずの命令を終えたゲッベルスはベルリンに戻り、デーニッツ国家元帥と対応を協議することにした。
「申し上げます。現在、グラーフ・ツェッペリンは大ベルト海峡を通過中です」
バルト海の出口に当たる幅25kmほどの狭い海峡のことである。
「そこで食い止められないのか?」
ゲッベルスはデーニッツ国家元帥に尋ねた。
「確かに海峡には沿岸要塞が設置してありますが、ツェッペリンには返り討ちにされるだけかと」
「クッ……。分かった。だがそうなると、こちらの戦力はプリンツ・オイゲンくらいしかないということか」
「ヴィルヘルムスハーフェンから艦隊を出せば、ツェッペリンの進路を塞ぐこともできますが」
「ツェッペリンに勝てる軍艦なんてあるのか?」
「ありませんな」
ドイツ海軍は今のところ、赤色海軍を牽制することが最大の任務であり、それ故に主力艦隊はキールに集結していた。ヴィルヘルムスハーフェンに大型艦艇は配備されていないのである。
「もっとも、正確には瑞鶴がおりますが」
「彼女はドイツの艦艇じゃないし、こんな内乱に使う訳にはいかない」
「承知しています」
「暫くは様子を見る他ないか……」
ツェッペリンは何の妨害も受けずにバルト海を出た。ちょうどその頃、プリンツ・オイゲンなどの追撃部隊がツェッペリンを攻撃の射程に収めた。
「大統領閣下からご命令があれば、海軍はいつでも攻撃を開始できます。如何しますか?」
「……勝てるのか?」
「グラーフ・ツェッペリンは空母としては稀に見る重武装艦ですから、艦載機がなかったとしても五分五分でしょう」
「そんなの無理じゃないか……」
「プリンツ・オイゲンの言うように、空母と重巡洋艦では、奇襲でもしない限り勝ち目はありますまい」
ツェッペリンはこちらから手を出さなければ手を出すつもりはなさそうだ。ゲッベルスは結局、ツェッペリンに攻撃する決断を下すことはできなかった。
「しかし……こうなってしまうと、最早我が軍ではどうしようもありませんな」
「イギリス・フランスの海軍に協力を頼むとかは?」
「イギリス海軍など存在しないも同然です。フランスなら多少の戦艦はありますが、船魄化されていません」
「ダメか……。なら、やっぱり瑞鶴に協力を頼む他にないか?」
「おや、本当によろしいのですか?」
「この際だ。仕方ない。瑞鶴とて、僕達にそれなりに恩はある筈だ。彼女に協力を頼む」
「承知しました。ではそのように」
早速ヴィルヘルムスハーフェンの瑞鶴に電文が打たれたが、その返事は承認でも拒否でもなかった。
「だ、大統領閣下、国家元帥閣下、瑞鶴より返信です」
「読んでくれ」
「はっ……。グラーフ・ツェッペリンが脱走するなら私もドイツは抜けさせてもらう、とのこと……」
「…………何だって?」
「その、どうやら、瑞鶴はヴィルヘルムスハーフェンから勝手に出港して、ツェッペリンと合流するつもりのようです」
「なるほどなあ…………」
ゲッベルスは何も考える気が起きなくなった。
「まあ、我々も一時は瑞鶴を解剖しようなどと考えておりましたからな。信用されていないのは仕方がないでしょう」
「そう言われても困るよ……」
ツェッペリンが瑞鶴の身の安全を保証させていたので、ツェッペリンがドイツを離れれば瑞鶴も一緒に離れていくのは道理であった。
「もう無理だ。瑞鶴とツェッペリンを同時に相手するなんて不可能だ。追撃は中止させてくれ」
「はっ」
こうしてドイツを唯一の空母と客人の空母を失い、ペーター・シュトラッサーの建造を再開せざるを得なくなったのである。ツェッペリンの計画通りであった。
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