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第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)
王立海軍最期の日
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「前進一杯!! グラーフ・ツェッペリンに追いつけッ!!」
ムーア大将はデューク・オブ・ヨークの艦橋に上がってきて、艦長を押しやる勢いで指揮を執る。デューク・オブ・ヨークは缶が壊れることも気にせず出力を全開にしてグラーフ・ツェッペリンに追いすがる。
「敵です! ツェッペリンの艦載機かと!!」
「構うな! 全て無視して進み続けろ!!」
ツェッペリンはデューク・オブ・ヨークに多数の爆弾を投下。上甲板は高角砲や副砲が粉砕されて火と血の海になっているが、そんなことは些細なことである。
「閣下!! ツェッペリンが見えてきました!!」
「よしッ!! A、B主砲撃ち方始めッ!!」
デューク・オブ・ヨークの艦橋より前には四連装砲塔一つと連装砲塔一つが装備されている。前方に主砲6門を向けられるということだ。
距離はおよそ25km。制空権が全く確保できないので、観測機などは飛ばせず目視とレーダーによる射撃。それも主砲の射程かなりギリギリでの射撃である。
「落着! ツェッペリンとの距離は250m!」
「よし! いけるぞ! 次を――」
その時であった。艦橋に激しい衝撃が走り、数人の士官が床に倒れ込んだ。
「何があった!?」
「左舷に被弾しました!」
「進水激しい! 一撃で大穴を開けられました!」
「ダメージコントロール急げ!!」
「ダメです! とても間に合いません!」
「まさか、またフリッツXか……」
ムーア大将の額から冷や汗が流れ落ちた。この損害、ドイツ軍の秘密兵器、戦艦をも一撃で屠る航空爆弾、フリッツXに違いない。デューク・オブ・ヨークは激しく浸水し、たちまち傾斜していく。
「何をしている! 早く撃て!!」
「傾いた状態で撃つなんて無茶ですよ!」
「何とかしろ! 王立海軍の意地を見せろ!!」
左に5度は傾いた状態で主砲斉射。しかしそんな状態ではマトモに照準を定めることもできず、砲弾はあさっての方向に飛んでいってしまった。
「クソッ! ここまで来てッ!!」
「閣下!! 敵です!! 敵が真上に!!」
「なっ――」
グラーフ・ツェッペリンの爆撃機が、デューク・オブ・ヨークの艦橋に爆弾を投下した。ムーア大将や艦長もろともに、艦橋は吹き飛ばされた。艦橋が失われてしまえばデューク・オブ・ヨークの戦闘能力は失われたも同然であった。
それに、もう彼女の命運は決している。浸水は増々激しくなり、デューク・オブ・ヨークは逆さまにひっくり返ってそのまま英仏海峡の底に沈んでいった。本国艦隊の主力艦はこれで全滅した。
○
「ご報告いたします。デューク・オブ・ヨークは轟沈、グラーフ・ツェッペリンは中破しつつも、依然健在です」
連合国遠征軍最高司令部は、グラーフ・ツェッペリンを撃沈する乾坤一擲の作戦が失敗に終わったことを知った。
「これで、終わりか。我々の海上戦力は全滅した。イギリス本土を守るものは、何もない」
アイゼンハワー大将は将軍達に告げた。次は本土決戦しかないということを。
「閣下、本当に本土決戦に突入するのですか? 非現実的と言わざるを得ませんが……」
地上戦力指揮官のブラッドレー米陸軍中将は問う。
「そんなことは分かっている。だが、チャーチルが和平を受けない限り、我々には戦う以外の選択肢がない」
連合国遠征軍最高司令部は戦争のやり方を決める機関であって、戦争をするか否かを決める権限はないのである。
「アイゼンハワー大将、これは英国の問題だ。アメリカ人は帰ってくれて構わないぞ」
モンゴメリー陸軍元帥はそっけなく言った。
「ば、馬鹿なことは言わないでもらいたい。我々に敵前逃亡をしろと言うのか?」
「敵前から逃亡できるほどの兵士もないと思うがな。それに、こんな馬鹿げた戦争だ。非難する奴はおるまい。我々と一緒に死ぬ必要はないだろう」
「それはそうかもしれんが……」
「アメリカ人がいては指揮系統に余計な混乱が生じるだけだ。お前達はエディンバラにでも避難していろ。ただの邪魔だ」
アメリカ軍はフランスでほぼ全滅しており、アイゼンハワー大将は部下もいないのに最高司令部に居座っている状況である。モンゴメリー元帥の主張は正しく、アイゼンハワー大将らアメリカ軍人は素直に退き、以後の指揮はイギリス軍に全面的に任された。
○
さて、モンゴメリー元帥はアメリカ軍人を追い払って自分が最高指揮官になったことなどをチャーチルに報告しに来ていた。
「――閣下、ドイツ軍はもう間もなく、本土に上陸してくることでしょう。今一度、ドイツとの和平を検討してはもらえませんか?」
「何度も何度も煩いな、お前達軍人は。俺は何度も言ったぞ。ドイツと話し合いなどありえない。ドイツ人が全滅するか、さもなくばイギリス人が絶滅するか、これはそういう戦争だ」
「閣下はイギリスを滅ぼしたいのですか?」
「ドイツの属国になるくらいなら臣民全員地獄に行った方がマシだ。だが、まだ勝機はある。我々の船魄が完成すれば、戦局はひっくり返る」
かくしてイギリスは本土決戦に突入するのである。
ムーア大将はデューク・オブ・ヨークの艦橋に上がってきて、艦長を押しやる勢いで指揮を執る。デューク・オブ・ヨークは缶が壊れることも気にせず出力を全開にしてグラーフ・ツェッペリンに追いすがる。
「敵です! ツェッペリンの艦載機かと!!」
「構うな! 全て無視して進み続けろ!!」
ツェッペリンはデューク・オブ・ヨークに多数の爆弾を投下。上甲板は高角砲や副砲が粉砕されて火と血の海になっているが、そんなことは些細なことである。
「閣下!! ツェッペリンが見えてきました!!」
「よしッ!! A、B主砲撃ち方始めッ!!」
デューク・オブ・ヨークの艦橋より前には四連装砲塔一つと連装砲塔一つが装備されている。前方に主砲6門を向けられるということだ。
距離はおよそ25km。制空権が全く確保できないので、観測機などは飛ばせず目視とレーダーによる射撃。それも主砲の射程かなりギリギリでの射撃である。
「落着! ツェッペリンとの距離は250m!」
「よし! いけるぞ! 次を――」
その時であった。艦橋に激しい衝撃が走り、数人の士官が床に倒れ込んだ。
「何があった!?」
「左舷に被弾しました!」
「進水激しい! 一撃で大穴を開けられました!」
「ダメージコントロール急げ!!」
「ダメです! とても間に合いません!」
「まさか、またフリッツXか……」
ムーア大将の額から冷や汗が流れ落ちた。この損害、ドイツ軍の秘密兵器、戦艦をも一撃で屠る航空爆弾、フリッツXに違いない。デューク・オブ・ヨークは激しく浸水し、たちまち傾斜していく。
「何をしている! 早く撃て!!」
「傾いた状態で撃つなんて無茶ですよ!」
「何とかしろ! 王立海軍の意地を見せろ!!」
左に5度は傾いた状態で主砲斉射。しかしそんな状態ではマトモに照準を定めることもできず、砲弾はあさっての方向に飛んでいってしまった。
「クソッ! ここまで来てッ!!」
「閣下!! 敵です!! 敵が真上に!!」
「なっ――」
グラーフ・ツェッペリンの爆撃機が、デューク・オブ・ヨークの艦橋に爆弾を投下した。ムーア大将や艦長もろともに、艦橋は吹き飛ばされた。艦橋が失われてしまえばデューク・オブ・ヨークの戦闘能力は失われたも同然であった。
それに、もう彼女の命運は決している。浸水は増々激しくなり、デューク・オブ・ヨークは逆さまにひっくり返ってそのまま英仏海峡の底に沈んでいった。本国艦隊の主力艦はこれで全滅した。
○
「ご報告いたします。デューク・オブ・ヨークは轟沈、グラーフ・ツェッペリンは中破しつつも、依然健在です」
連合国遠征軍最高司令部は、グラーフ・ツェッペリンを撃沈する乾坤一擲の作戦が失敗に終わったことを知った。
「これで、終わりか。我々の海上戦力は全滅した。イギリス本土を守るものは、何もない」
アイゼンハワー大将は将軍達に告げた。次は本土決戦しかないということを。
「閣下、本当に本土決戦に突入するのですか? 非現実的と言わざるを得ませんが……」
地上戦力指揮官のブラッドレー米陸軍中将は問う。
「そんなことは分かっている。だが、チャーチルが和平を受けない限り、我々には戦う以外の選択肢がない」
連合国遠征軍最高司令部は戦争のやり方を決める機関であって、戦争をするか否かを決める権限はないのである。
「アイゼンハワー大将、これは英国の問題だ。アメリカ人は帰ってくれて構わないぞ」
モンゴメリー陸軍元帥はそっけなく言った。
「ば、馬鹿なことは言わないでもらいたい。我々に敵前逃亡をしろと言うのか?」
「敵前から逃亡できるほどの兵士もないと思うがな。それに、こんな馬鹿げた戦争だ。非難する奴はおるまい。我々と一緒に死ぬ必要はないだろう」
「それはそうかもしれんが……」
「アメリカ人がいては指揮系統に余計な混乱が生じるだけだ。お前達はエディンバラにでも避難していろ。ただの邪魔だ」
アメリカ軍はフランスでほぼ全滅しており、アイゼンハワー大将は部下もいないのに最高司令部に居座っている状況である。モンゴメリー元帥の主張は正しく、アイゼンハワー大将らアメリカ軍人は素直に退き、以後の指揮はイギリス軍に全面的に任された。
○
さて、モンゴメリー元帥はアメリカ軍人を追い払って自分が最高指揮官になったことなどをチャーチルに報告しに来ていた。
「――閣下、ドイツ軍はもう間もなく、本土に上陸してくることでしょう。今一度、ドイツとの和平を検討してはもらえませんか?」
「何度も何度も煩いな、お前達軍人は。俺は何度も言ったぞ。ドイツと話し合いなどありえない。ドイツ人が全滅するか、さもなくばイギリス人が絶滅するか、これはそういう戦争だ」
「閣下はイギリスを滅ぼしたいのですか?」
「ドイツの属国になるくらいなら臣民全員地獄に行った方がマシだ。だが、まだ勝機はある。我々の船魄が完成すれば、戦局はひっくり返る」
かくしてイギリスは本土決戦に突入するのである。
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