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第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)

前哨戦

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「急げ! 一時間でも早く海峡に辿り着くんだ! 落伍する艦は置いていって構わん!」

 艦隊は25ノットほどの高速で英仏海峡を一直線に目指した。この速度なら丸一日もあればフランス西海岸を通過して英仏海峡に到達できるだろう。だが、ツェッペリンがその間黙っていてくれている訳もなかった。

 12時間が経過した頃である。

「閣下! 再び敵が現れました!」
「クソッ……。今回もやることは変わらない。前進することを全てに優先せよ!」

 既に空母そのものが減っているし、艦載機も全滅状態である。空からの援護はまるで期待することができない絶望的な状態で、ムーア大将はツェッペリンと二度目の決戦に挑まざるを得なかった。

「インディファティガブル、航行不能!!」
「フォーミダブルが、爆沈、しました……」
「閣下、これで、我々の空母は全滅しました……」

 ついに本国艦隊が抱えていた空母が全て沈められるか無力化された。イギリス海軍全体を見ても空母はこれでほぼ全滅である。

「囮が全て沈んだ、か。だが、ツェッペリンの弾薬も、そう多くは残っていない筈だ」

 肉を切らせて骨を断つとはこのこと。ムーア大将は最終的な勝利を掴む為ならば、何をしても構わないと考えていた。

「キング・ジョージ・5世が攻撃を受けています!」
「少しでも長く耐えてくれよ……」

 キング・ジョージ・5世はキング・ジョージ・5世級戦艦の一番艦であり、王立海軍の戦艦としては最も新しいものである。攻撃力は同世代の戦艦達と比べると多少劣るが、防御力は日本の大和型を除いてトップクラスだ。

 グラーフ・ツェッペリンは艦上の兵装に爆撃を加え、左舷から魚雷を叩き込むが、キング・ジョージ・5世は炎上しつつも、戦闘能力を喪失せず、戦列から落伍することもなかった。

「敵が、撤退していきます……!」

 戦闘は3時間ほどで終息した。本国艦隊はツェッペリンの艦載機を5機ほど落としたが、その間に主力艦を5隻失った。壊滅的な敗北であるが、それを嘆いている暇など彼らにはない。

「よし……。よく耐えてくれた……」
「あと状態のキング・ジョージ5世を、このまま同行させるのですか?」
「ああ、そうだ。そうするしかない。こんなことは本当は言いたくないが、彼女には次の攻撃の囮になってもらう」
「はっ……」

 既にA砲塔が破壊されて戦闘力が半減しているキング・ジョージ5世は、戦闘においては役に立たないだろう。しかし、ツェッペリンは恐らくすぐに沈められそうな彼女を最初に狙い、その為に貴重な弾薬を無駄にしてくれる筈だ。

 ○

 一方その頃。グラーフ・ツェッペリンの本体は英仏海峡に留まっている。その船魄はスペインの飛行場に艦載機を戻し終えると、艦橋の椅子からヨロヨロと立ち上がった。

「おいツェッペリン、大丈夫か?」

 その瀕死の病人のような立ち居振る舞いに、シュニーヴィント上級大将はまるで肉親のように心配してしまう。

「どうという、ことはない。慣れぬこと故、疲れただけだ……。我は暫し、休ませてもらうぞ」

 ツェッペリンは艦内の寝室に戻ろうと歩き出すが、数歩歩いたところで床に倒れ込んでしまった。

「おいおい、とても大丈夫には見えないぞ。一先ず、私が連れて行ってやるから、大人しくしていてくれ」

 そんなことは部下にでも任せればいいのに、シュニーヴィント上級大将は自らツェッペリンを背負って寝室に運び、ベッドに寝かせた。ツェッペリンは相当に具合が悪いらしく、横になった途端に眠ってしまった。

 上級大将はツェッペリンを生み出した科学者たるメンゲレ博士も呼びつけて、ツェッペリンを診察させた。メンゲレ博士は医者でもある。

「メンゲレ博士、ツェッペリンの具合はどうだ?」
「特に異常という異常は見られません。ただの過労かと」
「そうか。しかし、それほど大規模な作戦を行ったでもないのに、今日はやけに疲れている。これはどういうことだ?」
「仮説として考えられるのは、艦載機までの距離が遠いことでしょう」
「遠いと制御するのに疲れるということか」
「はい。しかし、ツェッペリンを生み出した私が言うのもなんですが、確証はありません。あくまで状況証拠によるものです」

 船魄というものの性質について、メンゲレ博士も実際のところよく分かっていなかった。よく分からないところは日本からもたらされた情報通りに作って誤魔化しただけなのだ。

「分かった。では次の攻撃はなるべくフランスの飛行場を使うことにしよう」
「よいのですか? イギリス艦隊をそこまで近寄せてしまって」
「問題はあるまい。ツェッペリンの状態が万全なら、イギリス本国艦隊など敵ではない」

 ツェッペリンが疲労困憊していることで、イギリス艦隊は暫しの時間的猶予を得ることができ、その間にブルターニュ半島の南西100kmほどの地点まで一気に北上することができた。
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