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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)
ネーデルラント沖海戦Ⅱ
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「クッ……我の爆撃機を落としたな……」
連合国軍は甚だ圧倒されているが、グラーフ・ツェッペリンも無傷では済まなかった。既に3機の爆撃機を失って、その痛みと死の感覚が彼女を襲っていた。
「ツェッペリン、先程から顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「お前などに心配されるほど落ちぶれてはおらん!」
「……分かった。このまま戦闘を継続しよう」
いつもならグラーフ・ツェッペリンが「我に命令するな」と小言を言うところであったが、彼女にはそんな余裕もなく、意識の全てを戦場に集中させていた。
「よし……。次は、ネルソンかロドニーか知らんが、あれを沈めてくれよう」
「落伍せずに着いてきているのならロドニーの方だろう」
「そうか。なれば、フリッツXの威力を味あわせてくれよう」
ツェッペリンは本国艦隊旗艦たるロドニーに狙いを定めると、その右舷にたちまち3発のフリッツXを命中させた。もちろん母機の方に損害はない。ロドニーの装甲を容易に貫いた誘導爆弾は艦の内側で大爆発を起こし、右舷に大きな風穴を開けた。
○
「や、やられたのか!?」
「そのようです!!」
ツェッペリンの攻撃を受けたロドニーは、足場が傾いているのが感覚で分かるほど急速に右に傾いていった。
「注水は間に合わんのか!?」
ムーア大将は艦長に尋ねるが、あまりにも浸水が激しく、現状維持はとても不可能だというのが返答であった。そして即座に総員退艦の命令が出された。
「閣下も早くお逃げください! この艦はもう持ちません!!」
「な、なんてことだ……。我々のロドニーが……」
ネルソンとロドニーは既に旧式化しつつあるとは言え、イギリス海軍で二隻しかない16インチ砲艦であり、最強と言ってもいい戦闘能力を誇る戦艦であった。その片割れが無惨にも沈もうとしていた。
ムーア大将は心ここに在らずと言った様子ながらも、部下達に大急ぎで連れられ、救命ボートに乗ってロドニーから脱出した。その頃にはロドニーは右に30度ばかり傾いており、その傾きはなおも増大していった。
「転覆してしまう……ロドニーが……」
「そのよう、ですね……」
やがてロドニーの傾きは復元力の限界を超え、巨大な水飛沫を上げながら真っ逆さまにひっくり返って、赤色の船底を晒した。そして次の瞬間、脱出した兵士達は一斉に方向感覚というものを失った。
ロドニーの弾薬庫が大爆発を起こし、目が焼かれるような閃光が放たれ、耳が壊れるような爆音が轟いのである。
一時的に失明していたにも等しい状態であった兵士達が正気に戻ると、ロドニーがあった場所から巨大なキノコ雲が上がって雲を貫いていた。キノコ雲はロンドンからでも目視でよく確認できたという。
「ダメだ……。何もかも、ダメだ……。我々は一体、どうすればよかったんだ……」
ムーア大将はすっかり戦意を喪失してしまったが、今や大した問題ではない。残存する戦艦も次々と無力化ないし撃沈され、炎上する戦艦を自沈させる余力すら艦隊には残されていなかった。
ムーア大将はその後駆けつけた軽巡シェフィールドから指揮を執ったが、何をしてもグラーフ・ツェッペリン相手には何の意味もなかった。彼の役目はひたすらに艦艇が撃沈された報告を聞くことだけであった。
「閣下! ウォースパイトとネルソンが追いつきました! 援軍です!!」
艦隊が進むことすらままならなくなっていたので、スクリューを損傷しているウォースパイトとネルソンが追いついた。
「援軍、か。戦艦がいくら来たところで、何の役にも立たないだろうがな
「そ、それは……」
しかしそんな増援が来たところで、何の役にも立たないのは明白であった。
「ウォースパイトが攻撃を受けています!!」
「彼女も、もうお終いだな……。まあスクラップにされるよりは、戦って散った方がまだ良いというものだろうか……」
大将はすっかり指揮を放棄して、ウォースパイトが沈みゆく様を見つめていた。ウォースパイトの船体はフリッツXの攻撃と火薬庫の誘爆によって真っ二つに折れ、あっという間に海の底に消えてしまった。残るネルソンもまた、同じような運命を辿った。
かくして連合国遠征軍は最後の希望であった戦艦部隊をすべて失い、ツェッペリンを除いたドイツ海軍に反抗する力すら失ってしまったのである。
○
「終わった……。ようやく、全て終わった…………」
連合国軍を壊滅させたツェッペリンは、攻撃に出ていた艦載機を全て着艦させ、ようやく戦いの負担から開放された。
「よくやってくれた。総統もお喜びになっているに違いない」
「…………」
「ん? ツェッペリン?」
「どうやら寝ているみたいです」
ツェッペリンは椅子の上で死んだように眠っていた。
「そう、か。ツェッペリンもやはり疲れていたのか。いや、こんな女の子に連合国と戦争をさせて、疲れない訳がないか。ベッドに運んでやってくれ」
「はっ!」
ツェッペリンはすぐに艦内のベッドに運び込まれて、軽く12時間は目覚めなかった。その間の操艦は手動で行われた。
連合国軍は甚だ圧倒されているが、グラーフ・ツェッペリンも無傷では済まなかった。既に3機の爆撃機を失って、その痛みと死の感覚が彼女を襲っていた。
「ツェッペリン、先程から顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「お前などに心配されるほど落ちぶれてはおらん!」
「……分かった。このまま戦闘を継続しよう」
いつもならグラーフ・ツェッペリンが「我に命令するな」と小言を言うところであったが、彼女にはそんな余裕もなく、意識の全てを戦場に集中させていた。
「よし……。次は、ネルソンかロドニーか知らんが、あれを沈めてくれよう」
「落伍せずに着いてきているのならロドニーの方だろう」
「そうか。なれば、フリッツXの威力を味あわせてくれよう」
ツェッペリンは本国艦隊旗艦たるロドニーに狙いを定めると、その右舷にたちまち3発のフリッツXを命中させた。もちろん母機の方に損害はない。ロドニーの装甲を容易に貫いた誘導爆弾は艦の内側で大爆発を起こし、右舷に大きな風穴を開けた。
○
「や、やられたのか!?」
「そのようです!!」
ツェッペリンの攻撃を受けたロドニーは、足場が傾いているのが感覚で分かるほど急速に右に傾いていった。
「注水は間に合わんのか!?」
ムーア大将は艦長に尋ねるが、あまりにも浸水が激しく、現状維持はとても不可能だというのが返答であった。そして即座に総員退艦の命令が出された。
「閣下も早くお逃げください! この艦はもう持ちません!!」
「な、なんてことだ……。我々のロドニーが……」
ネルソンとロドニーは既に旧式化しつつあるとは言え、イギリス海軍で二隻しかない16インチ砲艦であり、最強と言ってもいい戦闘能力を誇る戦艦であった。その片割れが無惨にも沈もうとしていた。
ムーア大将は心ここに在らずと言った様子ながらも、部下達に大急ぎで連れられ、救命ボートに乗ってロドニーから脱出した。その頃にはロドニーは右に30度ばかり傾いており、その傾きはなおも増大していった。
「転覆してしまう……ロドニーが……」
「そのよう、ですね……」
やがてロドニーの傾きは復元力の限界を超え、巨大な水飛沫を上げながら真っ逆さまにひっくり返って、赤色の船底を晒した。そして次の瞬間、脱出した兵士達は一斉に方向感覚というものを失った。
ロドニーの弾薬庫が大爆発を起こし、目が焼かれるような閃光が放たれ、耳が壊れるような爆音が轟いのである。
一時的に失明していたにも等しい状態であった兵士達が正気に戻ると、ロドニーがあった場所から巨大なキノコ雲が上がって雲を貫いていた。キノコ雲はロンドンからでも目視でよく確認できたという。
「ダメだ……。何もかも、ダメだ……。我々は一体、どうすればよかったんだ……」
ムーア大将はすっかり戦意を喪失してしまったが、今や大した問題ではない。残存する戦艦も次々と無力化ないし撃沈され、炎上する戦艦を自沈させる余力すら艦隊には残されていなかった。
ムーア大将はその後駆けつけた軽巡シェフィールドから指揮を執ったが、何をしてもグラーフ・ツェッペリン相手には何の意味もなかった。彼の役目はひたすらに艦艇が撃沈された報告を聞くことだけであった。
「閣下! ウォースパイトとネルソンが追いつきました! 援軍です!!」
艦隊が進むことすらままならなくなっていたので、スクリューを損傷しているウォースパイトとネルソンが追いついた。
「援軍、か。戦艦がいくら来たところで、何の役にも立たないだろうがな
「そ、それは……」
しかしそんな増援が来たところで、何の役にも立たないのは明白であった。
「ウォースパイトが攻撃を受けています!!」
「彼女も、もうお終いだな……。まあスクラップにされるよりは、戦って散った方がまだ良いというものだろうか……」
大将はすっかり指揮を放棄して、ウォースパイトが沈みゆく様を見つめていた。ウォースパイトの船体はフリッツXの攻撃と火薬庫の誘爆によって真っ二つに折れ、あっという間に海の底に消えてしまった。残るネルソンもまた、同じような運命を辿った。
かくして連合国遠征軍は最後の希望であった戦艦部隊をすべて失い、ツェッペリンを除いたドイツ海軍に反抗する力すら失ってしまったのである。
○
「終わった……。ようやく、全て終わった…………」
連合国軍を壊滅させたツェッペリンは、攻撃に出ていた艦載機を全て着艦させ、ようやく戦いの負担から開放された。
「よくやってくれた。総統もお喜びになっているに違いない」
「…………」
「ん? ツェッペリン?」
「どうやら寝ているみたいです」
ツェッペリンは椅子の上で死んだように眠っていた。
「そう、か。ツェッペリンもやはり疲れていたのか。いや、こんな女の子に連合国と戦争をさせて、疲れない訳がないか。ベッドに運んでやってくれ」
「はっ!」
ツェッペリンはすぐに艦内のベッドに運び込まれて、軽く12時間は目覚めなかった。その間の操艦は手動で行われた。
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