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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)
ツェッペリンの目覚めⅡ
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ツェッペリンは周囲を見渡す。なかなか個性の強い政府高官達が居並んでいたが、ツェッペリンの興味をひいたのは、少し後ろで猫背気味に椅子に座った、老人のように憔悴した男だけであった。
ツェッペリンは手術台から裸足のまま床に降り立つと、その男の目の前に歩み寄って、静かに跪いた。
「あなたこそが総統に違いない。そうでなければドイツなど滅びた方がいい。違いますか?」
メンゲレ博士やリッベントロップ外務大臣とは全く正反対の丁寧な態度。男は余りの態度の違いに目を丸くした。
「驚いたな……。いかにも、私がドイツ国総統、アドルフ・ヒトラーだ」
東西の戦線が崩壊しつつある今、総統は酷く心身を消耗していた。この戦争が始まる前の偉大な様子は既にない。まだ56歳だというのに、まるで70歳を越えた老人のようである。
「やはり、そうでしたか。あなたにならば、私は無限の忠誠を誓いましょう」
「ありがとう。しかしどうして分かったんだ? もっと、いかにも総統といった背格好の者は他にもいると思うのだがね」
「ここにいる人間達の中で閣下だけが、指導者たるに相応しい素質を持っておいでです。他の者など、精々は優秀な官吏に過ぎないでしょう」
「なるほどなあ……」
「我が総統、このような妄言を信じませんように。どうせ最初から知っていたのでしょう」
侮蔑するように言いながら、総統とツェッペリンの間に割って入ってくる地味な鼻眼鏡の男。ハインリヒ・ヒムラー親衛隊全国指導者である。ツェッペリンは直ちにヒムラーを睨みつけた。
「貴様、我が虚言を吐いていると言うか?」
「我が総統の歓心を買う為の狂言だとしか思えんな」
「我は貴様のような総統に付け入ることしか能のない愚か者とは違うのだ。付け上がるな!」
「なっ……」
ヒムラーは絶句する。それもそうだろう。ドイツ全土の警察を動かせる彼にそんな口を効く人間などまずいないのだから。
「まあまあ、二人ともその辺にしておけ」
「しかし我が総統――」
「彼女は君のことを知らないのだ。仕方ないだろう。それよりも、私が彼女に求めるのは結果だ。グラーフ・ツェッペリン、期待しているぞ」
「はっ。我が前に敵などいよう筈がありません」
「ところでなんだが、そろそろちゃんとした服を着た方がいいと思うぞ」
ツェッペリンはほとんど下着のような薄布を纏っているだけであった。まあつい先程まで手術を受けていたようなものなのだから、当然だろう。
「えっ…………。あ、こ、これは、その……」
ツェッペリンは顔を真っ赤にして、しゃがんだまま奇妙な格好で後ずさりしてしまった。
「そういうことなら心配しなくていいぞ!」
「な、何だお前?」
人々の中から前に出てきたのは、陽気な太った男であった。
「私はヘルマン・ゲーリング国家元帥。この国のお飾りみたいなものだ」
ゲーリングはドイツ軍で唯一国家元帥の称号を持つ男である。元は第一次世界大戦のエースパイロットで、国民からの人気も非常に高いのだが、政治力に乏しく、現在の政権内では浮いた存在である。
「ゲーリング、何か用意があるのか?」
「もちろんですとも、我が総統。ツェッペリン、委細私に任せたまえ」
「お、おう……」
ゲーリングが合図すると数人の女性が近寄ってきて、ツェッペリンを奥の部屋に拉致していった。そしておよそ15分後。
「おお、流石は私のデザインした服だ。似合ってるじゃないか」
ツェッペリンは黒い軍服に赤い装飾を混ぜたような格好をして現れた。美しさと気高さを同時に感じさせる服装であった。
「お前が作ったのか? まあ悪くはないが……」
「お褒めいただき光栄だ。私にできることはこのくらいだがね」
「そうか。大義であった」
ドイツ軍で階級としては一番上の人間でも、ツェッペリンはまるで敬意を払おうとはしなかった。
「ゴホン。ツェッペリン、そろそろ真面目な話をしようか」
メンゲレ博士は言う。
「真面目な話?」
「ああ。本作戦、ツィクロン作戦にとって非常に重要な方々を紹介しよう」
「好きにせよ」
「……まずはこちらの方だ。エーリヒ・レーダー海軍元帥閣下、ツィクロン作戦を最も強力に支援してくれた方で、海軍の序列一位のお方だ」
「レーダーだ。私がツィクロン作戦の言い出しっぺでね。まずは君が目覚めてくれて安心しているよ」
「なるほど。それは大義であった」
この男がいなければツェッペリンはこの世に存在していないのである。
「そしてもう一人。オットー・シュニーヴィント海軍上級大将閣下。海軍の序列第二位のお方だ」
「さっきのお前か。そんな偉かったのか」
「先程は君を騙そうとして、すまなかった」
「そうか。で、お前はどういう立場でここにいるのだ?」
「君の戦術上のアドバイザーというのが私の役目だ」
「海軍で第二位ともいう男が、我に構っていてよいのか?」
「そこら辺の事情は複雑でね。今の私ははっきり言って暇なんだ」
と言うのも、シュニーヴィント上級大将は現在、総統と反りが合わないことで軍務から斥けられているのである。
「そうか。もっとも、我に顧問など不要であるがな」
「まあまあ。君のお目付け役というのも兼ねているんだ」
「目付けだと? ふん、我の邪魔になるようなら排除するからな」
「そうはならないと約束しよう」
シュニーヴィント上級大将はかつてティルピッツなどの水上艦艇で連合国の護送船団を襲撃して壊滅させた男である。水上艦艇による戦果としてはこの戦争で最大のものだ。
ツェッペリンは手術台から裸足のまま床に降り立つと、その男の目の前に歩み寄って、静かに跪いた。
「あなたこそが総統に違いない。そうでなければドイツなど滅びた方がいい。違いますか?」
メンゲレ博士やリッベントロップ外務大臣とは全く正反対の丁寧な態度。男は余りの態度の違いに目を丸くした。
「驚いたな……。いかにも、私がドイツ国総統、アドルフ・ヒトラーだ」
東西の戦線が崩壊しつつある今、総統は酷く心身を消耗していた。この戦争が始まる前の偉大な様子は既にない。まだ56歳だというのに、まるで70歳を越えた老人のようである。
「やはり、そうでしたか。あなたにならば、私は無限の忠誠を誓いましょう」
「ありがとう。しかしどうして分かったんだ? もっと、いかにも総統といった背格好の者は他にもいると思うのだがね」
「ここにいる人間達の中で閣下だけが、指導者たるに相応しい素質を持っておいでです。他の者など、精々は優秀な官吏に過ぎないでしょう」
「なるほどなあ……」
「我が総統、このような妄言を信じませんように。どうせ最初から知っていたのでしょう」
侮蔑するように言いながら、総統とツェッペリンの間に割って入ってくる地味な鼻眼鏡の男。ハインリヒ・ヒムラー親衛隊全国指導者である。ツェッペリンは直ちにヒムラーを睨みつけた。
「貴様、我が虚言を吐いていると言うか?」
「我が総統の歓心を買う為の狂言だとしか思えんな」
「我は貴様のような総統に付け入ることしか能のない愚か者とは違うのだ。付け上がるな!」
「なっ……」
ヒムラーは絶句する。それもそうだろう。ドイツ全土の警察を動かせる彼にそんな口を効く人間などまずいないのだから。
「まあまあ、二人ともその辺にしておけ」
「しかし我が総統――」
「彼女は君のことを知らないのだ。仕方ないだろう。それよりも、私が彼女に求めるのは結果だ。グラーフ・ツェッペリン、期待しているぞ」
「はっ。我が前に敵などいよう筈がありません」
「ところでなんだが、そろそろちゃんとした服を着た方がいいと思うぞ」
ツェッペリンはほとんど下着のような薄布を纏っているだけであった。まあつい先程まで手術を受けていたようなものなのだから、当然だろう。
「えっ…………。あ、こ、これは、その……」
ツェッペリンは顔を真っ赤にして、しゃがんだまま奇妙な格好で後ずさりしてしまった。
「そういうことなら心配しなくていいぞ!」
「な、何だお前?」
人々の中から前に出てきたのは、陽気な太った男であった。
「私はヘルマン・ゲーリング国家元帥。この国のお飾りみたいなものだ」
ゲーリングはドイツ軍で唯一国家元帥の称号を持つ男である。元は第一次世界大戦のエースパイロットで、国民からの人気も非常に高いのだが、政治力に乏しく、現在の政権内では浮いた存在である。
「ゲーリング、何か用意があるのか?」
「もちろんですとも、我が総統。ツェッペリン、委細私に任せたまえ」
「お、おう……」
ゲーリングが合図すると数人の女性が近寄ってきて、ツェッペリンを奥の部屋に拉致していった。そしておよそ15分後。
「おお、流石は私のデザインした服だ。似合ってるじゃないか」
ツェッペリンは黒い軍服に赤い装飾を混ぜたような格好をして現れた。美しさと気高さを同時に感じさせる服装であった。
「お前が作ったのか? まあ悪くはないが……」
「お褒めいただき光栄だ。私にできることはこのくらいだがね」
「そうか。大義であった」
ドイツ軍で階級としては一番上の人間でも、ツェッペリンはまるで敬意を払おうとはしなかった。
「ゴホン。ツェッペリン、そろそろ真面目な話をしようか」
メンゲレ博士は言う。
「真面目な話?」
「ああ。本作戦、ツィクロン作戦にとって非常に重要な方々を紹介しよう」
「好きにせよ」
「……まずはこちらの方だ。エーリヒ・レーダー海軍元帥閣下、ツィクロン作戦を最も強力に支援してくれた方で、海軍の序列一位のお方だ」
「レーダーだ。私がツィクロン作戦の言い出しっぺでね。まずは君が目覚めてくれて安心しているよ」
「なるほど。それは大義であった」
この男がいなければツェッペリンはこの世に存在していないのである。
「そしてもう一人。オットー・シュニーヴィント海軍上級大将閣下。海軍の序列第二位のお方だ」
「さっきのお前か。そんな偉かったのか」
「先程は君を騙そうとして、すまなかった」
「そうか。で、お前はどういう立場でここにいるのだ?」
「君の戦術上のアドバイザーというのが私の役目だ」
「海軍で第二位ともいう男が、我に構っていてよいのか?」
「そこら辺の事情は複雑でね。今の私ははっきり言って暇なんだ」
と言うのも、シュニーヴィント上級大将は現在、総統と反りが合わないことで軍務から斥けられているのである。
「そうか。もっとも、我に顧問など不要であるがな」
「まあまあ。君のお目付け役というのも兼ねているんだ」
「目付けだと? ふん、我の邪魔になるようなら排除するからな」
「そうはならないと約束しよう」
シュニーヴィント上級大将はかつてティルピッツなどの水上艦艇で連合国の護送船団を襲撃して壊滅させた男である。水上艦艇による戦果としてはこの戦争で最大のものだ。
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