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第十三章 ドイツ訪問(地上編)
ベルリンとポツダム
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「おぉ……! これがベルリンですか……!」
「パリなぞより余程優れた都市であろう?」
「優れているかどうかは分かりませんけど、パリよりずっと栄えてるのは間違いないです」
ヒトラー総統とシュペーア軍需大臣が推し進めた『世界首都ゲルマニア』と呼ばれる都市計画によって、ベルリンは生まれ変わった。全近代的な入り組んだ路地は整然と方形に整理され、8車線の巨大な道路(アウトバーン)がベルリンを縦横に貫き、無数の自動車が行き交っている。
「このベルリンこそがまさに、世界の首都なのだ!」
「ま、まあ、そう言われても疑わないくらい凄いです」
「だろう? とは言え、ここに逗留している時間もないのだがな」
「そうですね。急がないと」
ツェッペリンと妙高は一旦ベルリン中央駅から出て朝食を軽く済ませると、すぐ駅に戻って来た。次の目的地にもこのベルリン中央駅からの列車が通っているのである。
「そう言えばツェッペリンさん、あの大きな建物は何ですか?」
巨大な凱旋門を抜けてメインストリートの先にある、古代ローマの建築のようなドームを持った巨大な建造物。駅から見えたそれに、妙高は興味を持たざるを得なかった。
「あれは大議事堂だ。中身は欧州議会と帝国議会だな」
ヨーロッパ・アーリア人共同体(EAU)加盟各国から選出された議員が集まる欧州議会が1階にあり、ドイツの比例代表制の議会が帝国議会である。
「あれが議会ですか……。国会議事堂が比べ物にならないですね」
「日本の国会議事堂か? あんなもの、グローセ・ハレの中に何十個でも入るだろうな」
「そ、そうですね……」
まあまあ日本を馬鹿にされたが、そんなことが気にならないほどの威容をグローセ・ハレは誇っていた。駅からよく見えるようになっているのは、ベルリンを訪問する者にこのような気持ちを味合わせる為なのであろう。
「さて、ではそろそろ行くぞ。次の目的地はポツダムのシャルロッテンホーフだ」
「何分くらいかかります?」
「ポツダムはベルリンの一部のようなものだからな。30分くらいであろう」
「意外とすぐですね」
「うむ。では行くぞ」
高速列車ではなく普通の通勤列車に乗って、ツェッペリンと妙高はポツダムに向かった。椅子は埋まっていたのでずっと立ちっぱなしであった。
「よし、着いたぞ」
「ベルリンと比べると落ち着いた場所ですね」
「郊外だからな。さて……我らの目の前にある川をハーフェル川と言うが、その対岸に我が総統の別荘がある。対岸に渡るのは誰でもできるが、どう忍び込んだものか」
「え、そこ考えてなかったんですか?」
「そうだが?」
「それが一番難しいのでは……」
「その場に行けば何とかなるだろう」
「本当ですかぁ……?」
取り敢えずフェリーに乗ってハーフェル川を渡り、20分ほど南の方に歩くと、総統別荘が見えてきた。一般的な別荘と比べてもこぢんまりとした木造建築で、周囲は原っぱになっている。これではどうやっても忍び寄れそうにない。
「それと……あそこに重巡洋艦くらいの軍艦が居るように見えるんですけど……」
「ドイッチュラント級――いや今はリュッツオウ級だな。そう言えばシュトラッサーが総統護衛艦などと言っていたが、あれがそうなのだろうな」
リュッツオウ級重巡洋艦は、艦橋の前後に3連装主砲を1基ずつ装備した異色の軍艦である。
「一人の警備に重巡洋艦を使ってるなんて……」
「我が総統はヨーロッパの歴史において最も重大なお方である。寧ろ重巡洋艦程度では警備が足りぬであろう」
自分に不利になることなのに、ツェッペリンは誇らしげに言う。妙高は呆れたように「そうですかぁ……」と返事する。
「う、うむ。しかし人間の警備はいないようだな」
「確かに、そうですね」
総統別荘の周辺には警備施設らしきものは一つもなく、警備員の一人も見えなかった。
「まあリュッツオウ級が1隻いれば、侵入者など肉片の一つも残さず殲滅できるだろうからな」
「ふぇぇ……どうするんですかぁ……」
「恐らく相手は船魄であろう。であれば、交渉が通じる筈だ」
「こっちから呼びかける手段はないと思うんですけど……」
「案ずるな。我は世界最初の船魄だぞ」
「それは瑞鶴さんでは?」
話の本筋に関係ないことは明らかだったが、妙高は突っ込まざるを得なかった。
「ま、まあ、一番と二番など大して変わるまい。で、我にも少しばかり特殊能力が使えるのだ。ちょうど先代のエンタープライズのようにな」
「エンタープライズさんですか? それって遠くからテレパシーみたいなので呼びかけるってことです?」
「いかにも。瑞鶴にも多分できるのだがな。ではやるぞ」
ツェッペリンは大きく深呼吸してから、少し声を張り上げて言う。
「我こそは、我が総統第一の忠臣、グラーフ・ツェッペリンである! 我が総統に申し上げねばならぬことがあり、ここに参上した! 我が前に道を開けよ!」
「ええっと……それでちゃんと届いてるんですか?」
「多分な。確かめる手段は――いや、そんなことをするまでもないようだ」
総統別荘の辺りに照準を定めていたリュッツオウ級の主砲が、真っ直ぐの待機状態に戻された。ツェッペリンの声はちゃんと聞こえていたらしい。
「パリなぞより余程優れた都市であろう?」
「優れているかどうかは分かりませんけど、パリよりずっと栄えてるのは間違いないです」
ヒトラー総統とシュペーア軍需大臣が推し進めた『世界首都ゲルマニア』と呼ばれる都市計画によって、ベルリンは生まれ変わった。全近代的な入り組んだ路地は整然と方形に整理され、8車線の巨大な道路(アウトバーン)がベルリンを縦横に貫き、無数の自動車が行き交っている。
「このベルリンこそがまさに、世界の首都なのだ!」
「ま、まあ、そう言われても疑わないくらい凄いです」
「だろう? とは言え、ここに逗留している時間もないのだがな」
「そうですね。急がないと」
ツェッペリンと妙高は一旦ベルリン中央駅から出て朝食を軽く済ませると、すぐ駅に戻って来た。次の目的地にもこのベルリン中央駅からの列車が通っているのである。
「そう言えばツェッペリンさん、あの大きな建物は何ですか?」
巨大な凱旋門を抜けてメインストリートの先にある、古代ローマの建築のようなドームを持った巨大な建造物。駅から見えたそれに、妙高は興味を持たざるを得なかった。
「あれは大議事堂だ。中身は欧州議会と帝国議会だな」
ヨーロッパ・アーリア人共同体(EAU)加盟各国から選出された議員が集まる欧州議会が1階にあり、ドイツの比例代表制の議会が帝国議会である。
「あれが議会ですか……。国会議事堂が比べ物にならないですね」
「日本の国会議事堂か? あんなもの、グローセ・ハレの中に何十個でも入るだろうな」
「そ、そうですね……」
まあまあ日本を馬鹿にされたが、そんなことが気にならないほどの威容をグローセ・ハレは誇っていた。駅からよく見えるようになっているのは、ベルリンを訪問する者にこのような気持ちを味合わせる為なのであろう。
「さて、ではそろそろ行くぞ。次の目的地はポツダムのシャルロッテンホーフだ」
「何分くらいかかります?」
「ポツダムはベルリンの一部のようなものだからな。30分くらいであろう」
「意外とすぐですね」
「うむ。では行くぞ」
高速列車ではなく普通の通勤列車に乗って、ツェッペリンと妙高はポツダムに向かった。椅子は埋まっていたのでずっと立ちっぱなしであった。
「よし、着いたぞ」
「ベルリンと比べると落ち着いた場所ですね」
「郊外だからな。さて……我らの目の前にある川をハーフェル川と言うが、その対岸に我が総統の別荘がある。対岸に渡るのは誰でもできるが、どう忍び込んだものか」
「え、そこ考えてなかったんですか?」
「そうだが?」
「それが一番難しいのでは……」
「その場に行けば何とかなるだろう」
「本当ですかぁ……?」
取り敢えずフェリーに乗ってハーフェル川を渡り、20分ほど南の方に歩くと、総統別荘が見えてきた。一般的な別荘と比べてもこぢんまりとした木造建築で、周囲は原っぱになっている。これではどうやっても忍び寄れそうにない。
「それと……あそこに重巡洋艦くらいの軍艦が居るように見えるんですけど……」
「ドイッチュラント級――いや今はリュッツオウ級だな。そう言えばシュトラッサーが総統護衛艦などと言っていたが、あれがそうなのだろうな」
リュッツオウ級重巡洋艦は、艦橋の前後に3連装主砲を1基ずつ装備した異色の軍艦である。
「一人の警備に重巡洋艦を使ってるなんて……」
「我が総統はヨーロッパの歴史において最も重大なお方である。寧ろ重巡洋艦程度では警備が足りぬであろう」
自分に不利になることなのに、ツェッペリンは誇らしげに言う。妙高は呆れたように「そうですかぁ……」と返事する。
「う、うむ。しかし人間の警備はいないようだな」
「確かに、そうですね」
総統別荘の周辺には警備施設らしきものは一つもなく、警備員の一人も見えなかった。
「まあリュッツオウ級が1隻いれば、侵入者など肉片の一つも残さず殲滅できるだろうからな」
「ふぇぇ……どうするんですかぁ……」
「恐らく相手は船魄であろう。であれば、交渉が通じる筈だ」
「こっちから呼びかける手段はないと思うんですけど……」
「案ずるな。我は世界最初の船魄だぞ」
「それは瑞鶴さんでは?」
話の本筋に関係ないことは明らかだったが、妙高は突っ込まざるを得なかった。
「ま、まあ、一番と二番など大して変わるまい。で、我にも少しばかり特殊能力が使えるのだ。ちょうど先代のエンタープライズのようにな」
「エンタープライズさんですか? それって遠くからテレパシーみたいなので呼びかけるってことです?」
「いかにも。瑞鶴にも多分できるのだがな。ではやるぞ」
ツェッペリンは大きく深呼吸してから、少し声を張り上げて言う。
「我こそは、我が総統第一の忠臣、グラーフ・ツェッペリンである! 我が総統に申し上げねばならぬことがあり、ここに参上した! 我が前に道を開けよ!」
「ええっと……それでちゃんと届いてるんですか?」
「多分な。確かめる手段は――いや、そんなことをするまでもないようだ」
総統別荘の辺りに照準を定めていたリュッツオウ級の主砲が、真っ直ぐの待機状態に戻された。ツェッペリンの声はちゃんと聞こえていたらしい。
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