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第十三章 ドイツ訪問(地上編)
夜
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「お言葉ですが、犯罪者には一切の妥協をせず断固とした態度を取るべきでは?」
グデーリアン元帥は言う。それはそれで正論そのものである。
「まあ確かに彼女達は犯罪者だが、別に誰も殺してはいないし、被害に遭ったのは少量の燃料だけじゃないか」
「軽犯罪だから見逃すと? そんな国でしたか、我が国は?」
「そういうつもりじゃないんだが……もう少し交渉してみてくれ。もしかしたら要求を取り下げて帰ってくれるかもしれない」
グデーリアン元帥は不満そうだったが、一先ず大統領の命令に従うことにした。一方で、デーニッツ国家元帥は瑞鶴との交渉を進める手筈を整える。
○
ゲッベルス大統領が困り果てている間、妙高とツェッペリンは夜行列車でのんびりと寛いでいた。それ以外にできることがあるかと言われると特にないのだが。
「瑞鶴さん達、大丈夫でしょうか……」
妙高はベッドに横になったまま、同じくベッドに仰向けに寝ているツェッペリンに尋ねた。
「瑞鶴なら何とかするであろう。心配するだけ無駄だ」
「そ、そうでしょうか……。いくら瑞鶴さんでも無謀な気がしてきたんですけど……」
「無謀なことなどこれまで何度もやって来ただろう?」
「ま、まあ、確かに」
「もしや、自分がいないと瑞鶴が何をしでかすか分からなくて不安なのか?」
「自分で言うのもあれですが……そうかもしれません」
妙高は瑞鶴の参謀になったような気分であった。すっかり瑞鶴に対して仲間意識を持ったものである。
「お前はやはり存外に自信家なのだな」
「い、いや、そんなことは」
「そんなことはあるだろう。隠しても無駄だぞ」
「は、はい……」
否定はできない妙高であった。
「で、では、そろそろ寝ましょうか。朝も早いでしょうし」
「うむ、そうだな。しっかり睡眠時間は確保せねばならんな」
可能な限り長く眠りたいツェッペリンはすぐさま目を閉じた。だが目を閉じると彼女は逆に眠気が覚めてきてしまった。
「な、なあ、妙高」
「何でしょうか」
「明日には我が総統に会うのだと思うと、急に緊張してきた……」
「そ、そうですか……」
そう言われてもどう声をかければいいか、どうすればいいのか分からない妙高であった。妙高は当然ながらヒトラー総統との面識などない。
「そんな何十年ぶりの再開ということもないですし、気楽に行きましょうよ」
「そ、それはそうかもしれんが……我は我が総統をも裏切ったに等しい。もしも拒絶されたら、どうしよう……」
ツェッペリンは普段の勝気な態度が崩れるほど、本気で恐れているようだった。そして一度考え始めると、恐怖は勝手に増殖していく。
「妙高にはツェッペリンさんとヒトラーさんの関係性なんて分からないので……ごめんなさい、何も言えません」
事情を何も知らないのに気休めを言うのも違うと、妙高は思った。
「い、いや、謝ることなどない。い、いいのだ、どうせ、我が総統に会ってみれば分かることだ」
「ツェッペリンさん……」
ツェッペリンはやはり、この時まで強がっていただけなのだろう。或いは不安から目を逸らして気にしないようにしていたのか。妙高は少しでもツェッペリンの不安を和らげてあげようと思った。
妙高はベッドから出ると、ツェッペリンのベッドに素早く入り込んだ。
「みょ、妙高!?」
「こういう時は人が近くにいると不安が和らぐんです。今日は一緒に寝ましょう?」
「……わ、分かった。お前の厚意、ありがたく受け取っておこう」
「ふふ、ありがとうございます」
せっかくベッドが2つ用意されているのに、ツェッペリンと妙高は1つのベッドで体を寄せ合い眠りについた。ツェッペリンは妙高の狙った通り、ぐっすり眠ることができた。
○
翌朝、ツェッペリンは『まもなくベルリン中央駅』という車内放送を聞いて目覚めた。ベルリン中央駅はヒトラー総統によるベルリン大改造でベルリン各所に散らばっていたターミナル駅を集約した巨大な駅である。これによりベルリン中央駅はヨーロッパの心臓と呼ばれるに至っている。
放送の音声は小さく、妙高はまだツェッペリンのすぐ隣で眠っている。
「妙高……。眠りこけているところも可愛いな」
ツェッペリンは妙高の髪を一撫ですると、カーテンを開けて妙高に「朝だぞ」と声をかけて起こした。
「ふあぁ……。もう到着ですか?」
「あ、ああ。もうじきベルリン、世界最高の都ベルリンである」
ツェッペリンは窓の外を見ながら言った。
「ツェッペリンさん、よく眠れましたか?」
「眠れたぞ。お前のお陰だ。感謝する」
「よかったです。では降りる準備をしましょう」
「うむ、そうだな」
間もなく列車はベルリン中央駅の15番線に到着した。ツェッペリンと妙高は元より大した荷物は持っていなかったので、耳と翼を隠すように服装を整えると、すぐにベルリンに降り立った。
グデーリアン元帥は言う。それはそれで正論そのものである。
「まあ確かに彼女達は犯罪者だが、別に誰も殺してはいないし、被害に遭ったのは少量の燃料だけじゃないか」
「軽犯罪だから見逃すと? そんな国でしたか、我が国は?」
「そういうつもりじゃないんだが……もう少し交渉してみてくれ。もしかしたら要求を取り下げて帰ってくれるかもしれない」
グデーリアン元帥は不満そうだったが、一先ず大統領の命令に従うことにした。一方で、デーニッツ国家元帥は瑞鶴との交渉を進める手筈を整える。
○
ゲッベルス大統領が困り果てている間、妙高とツェッペリンは夜行列車でのんびりと寛いでいた。それ以外にできることがあるかと言われると特にないのだが。
「瑞鶴さん達、大丈夫でしょうか……」
妙高はベッドに横になったまま、同じくベッドに仰向けに寝ているツェッペリンに尋ねた。
「瑞鶴なら何とかするであろう。心配するだけ無駄だ」
「そ、そうでしょうか……。いくら瑞鶴さんでも無謀な気がしてきたんですけど……」
「無謀なことなどこれまで何度もやって来ただろう?」
「ま、まあ、確かに」
「もしや、自分がいないと瑞鶴が何をしでかすか分からなくて不安なのか?」
「自分で言うのもあれですが……そうかもしれません」
妙高は瑞鶴の参謀になったような気分であった。すっかり瑞鶴に対して仲間意識を持ったものである。
「お前はやはり存外に自信家なのだな」
「い、いや、そんなことは」
「そんなことはあるだろう。隠しても無駄だぞ」
「は、はい……」
否定はできない妙高であった。
「で、では、そろそろ寝ましょうか。朝も早いでしょうし」
「うむ、そうだな。しっかり睡眠時間は確保せねばならんな」
可能な限り長く眠りたいツェッペリンはすぐさま目を閉じた。だが目を閉じると彼女は逆に眠気が覚めてきてしまった。
「な、なあ、妙高」
「何でしょうか」
「明日には我が総統に会うのだと思うと、急に緊張してきた……」
「そ、そうですか……」
そう言われてもどう声をかければいいか、どうすればいいのか分からない妙高であった。妙高は当然ながらヒトラー総統との面識などない。
「そんな何十年ぶりの再開ということもないですし、気楽に行きましょうよ」
「そ、それはそうかもしれんが……我は我が総統をも裏切ったに等しい。もしも拒絶されたら、どうしよう……」
ツェッペリンは普段の勝気な態度が崩れるほど、本気で恐れているようだった。そして一度考え始めると、恐怖は勝手に増殖していく。
「妙高にはツェッペリンさんとヒトラーさんの関係性なんて分からないので……ごめんなさい、何も言えません」
事情を何も知らないのに気休めを言うのも違うと、妙高は思った。
「い、いや、謝ることなどない。い、いいのだ、どうせ、我が総統に会ってみれば分かることだ」
「ツェッペリンさん……」
ツェッペリンはやはり、この時まで強がっていただけなのだろう。或いは不安から目を逸らして気にしないようにしていたのか。妙高は少しでもツェッペリンの不安を和らげてあげようと思った。
妙高はベッドから出ると、ツェッペリンのベッドに素早く入り込んだ。
「みょ、妙高!?」
「こういう時は人が近くにいると不安が和らぐんです。今日は一緒に寝ましょう?」
「……わ、分かった。お前の厚意、ありがたく受け取っておこう」
「ふふ、ありがとうございます」
せっかくベッドが2つ用意されているのに、ツェッペリンと妙高は1つのベッドで体を寄せ合い眠りについた。ツェッペリンは妙高の狙った通り、ぐっすり眠ることができた。
○
翌朝、ツェッペリンは『まもなくベルリン中央駅』という車内放送を聞いて目覚めた。ベルリン中央駅はヒトラー総統によるベルリン大改造でベルリン各所に散らばっていたターミナル駅を集約した巨大な駅である。これによりベルリン中央駅はヨーロッパの心臓と呼ばれるに至っている。
放送の音声は小さく、妙高はまだツェッペリンのすぐ隣で眠っている。
「妙高……。眠りこけているところも可愛いな」
ツェッペリンは妙高の髪を一撫ですると、カーテンを開けて妙高に「朝だぞ」と声をかけて起こした。
「ふあぁ……。もう到着ですか?」
「あ、ああ。もうじきベルリン、世界最高の都ベルリンである」
ツェッペリンは窓の外を見ながら言った。
「ツェッペリンさん、よく眠れましたか?」
「眠れたぞ。お前のお陰だ。感謝する」
「よかったです。では降りる準備をしましょう」
「うむ、そうだな」
間もなく列車はベルリン中央駅の15番線に到着した。ツェッペリンと妙高は元より大した荷物は持っていなかったので、耳と翼を隠すように服装を整えると、すぐにベルリンに降り立った。
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