軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第十二章 ドイツ訪問(上陸編)

黒色作戦Ⅱ

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 アイルランドの北方200kmほどの地点で、月虹は敵と相対していた。ドイツ海軍の予想に反してイギリスを上から回り込むような針路を取ってきたのである。

「敵は戦艦が5隻……全部イギリスのね。ドイツ海軍は来ないのかしら」

 月虹の前に立ち塞がったのはイギリスの戦艦5隻を中心とする艦隊であった。空母などはおらず、はっきり言って叩き潰そうと思えば直ちに殲滅できる戦力でしかない。とは言え、イギリスと戦争になればそれはドイツと戦争になることを意味する。月虹から仕掛けることは決してしない。

『瑞鶴さん、ドイツ海軍もこちらに向かって来ているようです。空母4隻戦艦4隻の大艦隊です』

 瑞鶴とは別に偵察機を飛ばしていた高雄はそう報告した。グレートブリテン島とアイルランドの間を抜けてドイツ海軍が全力で向かって来ている。接敵までは恐らく3時間ほど。

『そんな大艦隊、流石にあなたでも相手にならないでしょうね』

 愛宕は味方だというのに挑発するような口調で言った。

「ええ、そうね。流石に無理よ。でもドイツ海軍がそれだけ私を高く買ってくれてるみたいで嬉しいわ」
『はい。今回の作戦には好都合ですね』

 まさかドイツ海軍と戦うつもりなどない。月虹の目的はドイツ海軍の主力艦隊をイギリスの北に引き寄せておくことなのである。

 ○

 同刻。グラーフ・ツェッペリンと妙高は船魄だけが漁船のような小型船に乗り込んで、フランスのブルターニュを目指していた。艦としてのツェッペリンと妙高は瑞鶴達の方にいる。月虹艦隊でイギリスやフランスの沿岸警備艦隊を遠くに引き寄せて、その隙にフランスに密上陸しようという計画なのである。

 妙高に同行しているのは、ツェッペリンが一人になるのが寂しかったからである。まあ本人は不測の事態に備えてなのだと言って譲らなかったが。瑞鶴が来てしまったら空母を操れる者がいなくなってしまうし、高雄を連れてくると愛宕も自動的に着いてきたしまうということで、選択肢は妙高しかなかった。

 船の操舵はカミロ・シエンフエゴスとかいうキューバ軍の兵士にやってもらっている。これくらいならドイツに敵対したということにはならないだろう。

「あ、あの……ツェッペリンさん……。先程からフランス軍の艦艇とよくすれ違う気がするんですけど……」

 妙高は拳銃を頭に突きつけられているような震えた声で言った。

「確かにそうだな。フランス海軍は我らの迎撃には出ていないらしい」
「ふえぇ……」
「そう遠くに布陣した訳ではないが、作戦は失敗かもしれんな」

 忍び込みたい場所に敵を引き寄せては意味がない。とは言えフランスから余りにも離れた場所だとフランス海軍が動いてくれない。イギリス北海岸というのはなかなかいい場所だとツェッペリンは考えたが、どうもダメだったらしい。

「だ、ダメじゃないですかぁ……」
「少なくともドイツ海軍はおらぬようだ。それだけで効果はあったであろう。安心しろ、妙高。フランス海軍など雑魚も同然である」
「今の妙高達は水雷艇にも対抗できないんですけど……」
「や、奴らの目は節穴だ。何とかなる」

 ツェッペリンの発言に根拠などなかった。かくして見つからないことを祈りつつ航行を続けていると、近くを通りかかった駆逐艦から通信の呼び掛けがあった。

「ど、どうするんですか……これ……」
「こういう時の為にスペイン語ができる奴を連れてきたのだ。ほらカミロとやら、対応しろ」
「了解だ」

 ツェッペリンは船員として連れてきたカミロに無線機を押し付けた。彼はすぐにスペイン語で、自らがスペイン船籍の漁船であると返答した。キューバは基本的にスペイン語圏であり、怪しまれることはない。

「見逃してくれるみたいだ」
「ふはは。我の言った通りであろう」
「よ、よかったです……」

 フランス海軍も直接関与してはいないが、ヨーロッパが敵対勢力から攻撃を受けようとしている事態にあって、こんな何の戦力にもならない漁船に構っている余裕などないらしい。

 さて、瑞鶴達と別れてから12時間ほどが経過した。目的地のブルターニュ半島まで100kmを切っている。残り3時間もあれば到着するだろう。が、目的地を目の前にして難題が降り掛かってきた。

「ツェッペリンさん……前方に戦艦がいるんですが……」
「何? どうしてこんなところに戦艦がおるのだ」

 妙高とツェッペリンは双眼鏡で前方の艦影を確認した。

「あれはリシュリュー級であるな。気持ちの悪い4連装砲塔が特徴だ」
「は、はあ……」

 4連装主砲を艦橋より前に2基搭載という、あまり例のない武装配置をした戦艦である。ツェッペリンもこれと戦ったことがある。

「何も問題はあるまい。またスペインの漁船のフリをして堂々と航行すればよい」
「そ、そうですね……」

 確かにその手で既に3度、フランス海軍の追及を免れている。何事もなければよいて願っていると、その戦艦から通信の呼び掛けがあった。

「今度も頼むぞ」
「あ、はい」

 4度目の通信である。聞こえてきたのは懇切丁寧ながらも力強い声であった。

『こちらはフランス海軍公海艦隊旗艦、リシュリューですわ。このような海域を航行している理由を教えてくださるかしら?』
「こちらはサン・ファン・バウティスタ号。ただのしがない漁船です」
『漁船? その名前からしてスペインの漁船ですわね?』
「はい、そうです」
『この海域はスペインとの協定に従って我が国が占有しています。あなた方は違法操業しているということになりますわよ?』
「……そ、そうでしたか。どうやら計器を見間違えたようです。すぐに引き上げますし、まだ漁は始めておりませんから、何卒ご勘弁を……」
『そうですか。しかし規則に従って、臨検をさせて頂きます。やましいことがなければ数分で終わるでしょう。機関を停止してお待ちなさい』
「あ、はい……」

 カミロは一先ず指示に従って船の機関を停止した。
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