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第十二章 ドイツ訪問(上陸編)
ドイツを動かすⅡ
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とは言え、ツェッペリンは総統に会うことを諦めてはいなかった。暫し考えを巡らし、次の提案を叩きつける。
「なれば、我らをお前がドイツに連れて行け」
「船魄だけということ?」
「そうだ。それならば容易であろう」
船魄だけドイツ北米方面艦隊の誰かに乗せてドイツ本土まで連れて行ってもらうという作戦である。
「不可能ではない、と思うけど、北米方面艦隊が本土に戻る理由がないし、上手くでっち上げたとしても、あなた達を密かに本土に上陸させられるとは思えない」
例えばシャルンホルストに乗ったままドイツ本国の港に入ったら、あっという間に海軍の兵士に見つかって捕まるだろう。見つからなかったとしても港湾から出て総統の許を目指すのは非常に厳しい。
「まったく、使えぬ奴だな。そこを上手くやる方法はお前が考えよ」
「何故、私があなた達の為に努力しなければならない?」
「ま、まあ、その道理は別にないが……」
まだ望みのある案ではあったが、とても現実的とは言えないものであった。しかしツェッペリンはまだ食い下がらない。
「であれば……近くまで我らを運んで、そこからカッターなどでドイツ本国に上陸するというのはどうだ? いや、地理的に考えればイギリスかフランスに上陸した方がよいか」
「なるほど。少しは現実的、かもしれない。しかし、沿岸警備はそんなにザルではない。そんなことをしたら海の上で捕まる可能性が非常に大きい」
「フランス海軍ごときにそんな警備ができるのか?」
「植民地を全て失ったことで、逆に本国周辺の警備に集中している。それに、ドイツ海軍も沿岸の警備には協力している」
「ぐぬっ……」
「これで分かった? 我らが総統に会いに行くなんて、全く現実的ではない」
「しかし……お前はこの状況を何とも思わんのか? アメリカの侵略を見て見ぬふりをするとでも?」
ツェッペリンは心にもないことをシャルンホルストに問う。
「それは……。個人的にはアメリカの息の根を止めた方が良いとは思っているけど、私達は軍人。命令に従う以外の行動原理は存在しない」
「それはそうだろうな。だが命じられていないことならば、少しは勝手をしてもよいのではないか?」
「……どういうこと?」
「我らがドイツに行くのを見逃してくれればよい。それ以上は求めぬ」
「不可能ではないけど、本当にドイツに行くつもり? とてもお勧めはできないけど」
「我はいいことを思い付いたのだ。沿岸の警備が厳しいのであれば、その目を他に向けさせればよい。つまり、ドイツ本国に攻撃を仕掛け、その隙に船魄のみで大陸に侵入するのだ」
「ドイツと戦争をするつもり?」
「いいや、本当に戦うつもりはない。しかし我ら月虹がヨーロッパに現れれば、警備などをしている暇はあるまい」
「それはそうだろうけど……」
ツェッペリンの余りにも無茶な計画に、シャルンホルストは溜息を吐いて、反論する気も起きなかった。
「分かった。個人的にはあなた達の行動には賛成している。あなた達を見逃すくらいは、しても構わない。だが、燃料はどうするつもり?」
「それは今から考える」
「……勝手にして。言っておくけど、ドイツに敵対するような行動に加担することはできない。見逃すのが限界」
「そんなことは分かっておる。先の言葉、ゆめゆめ忘れるなよ」
「もちろん」
かくしてシャルンホルストに協力を約束させ、ツェッペリンは早々にキューバに戻ろうとしたが、シュロス基地の中で彼女を呼び止める者があった。プリンツ・オイゲンである。
「――オイゲン、お前いたのか」
「ええ。あなたが急に来た時はちょっと別の仕事をやっていたわ。ザイドリッツが出迎えをしたそうね」
「ああ。お前の妹はお前とは似ても似つかないな」
「よく言われるわ。そんなことより、ちょっと話したいことがあるの。私の部屋に来てくれるかしら?」
「よからぬことを企んでいるのではなかろうな?」
ツェッペリンはプリンツ・オイゲンにシャルンホルストより警戒感を懐いている。それは恐らく、オイゲンが妙高に手を出したいなどと口走っていたからだろう。
「まさか。そんなことはしないわ。あなただけを捕まえたところで意味ないし」
「……よかろう」
プリンツ・オイゲンの私室に案内される。オイゲンの部屋は壁に装飾過多のドレスが何着も飾られている異様なものであった。
「ここは服屋か何かか?」
「どれも売り物じゃないわ。私が趣味で作ってるの。かわいいでしょ?」
「……我にはよう分からん」
「それは残念。で、本題だけど、あなたに一つお願いしたいことがあるの」
「ほう。言ってみよ」
「今後、どこでもいいから私と同じアトミラール・ヒッパー型重巡洋艦を見かけたら、すぐ私に教えて」
「構わんが……ただでは受けてやらんぞ?」
正直言ってそのくらいただで受けてやってもいいが、もらえるものはもらっておくべきであろう。
「ええ、もちろん。対価は、あなた達に大西洋を航行する給油艦の居場所を教えてあげる」
「何?」
それが本当ならば、ツェッペリンの作戦唯一の障害が解消されることになる。
「そんな重要な情報を、その程度で売ってくれるのか?」
「何? 要らないの? ならもっと値段を上げさせてもらうけど」
「いやいや、そんなことはないぞ。よい取引だ」
「そう。じゃあ取引成立ね。よろしく」
「その程度、我に任せよ。というか、お前、我とシャルンホルストの会話を聞いていたのか?」
「ええ。ザイドリッツに盗み聞きしてもらったわ」
「あ奴……。まあいい。くれぐれも約定を違えるでないぞ」
「私は嘘は嫌いよ」
交渉成立である。ツェッペリンは今度こそグアンタナモ基地に帰還した。
「なれば、我らをお前がドイツに連れて行け」
「船魄だけということ?」
「そうだ。それならば容易であろう」
船魄だけドイツ北米方面艦隊の誰かに乗せてドイツ本土まで連れて行ってもらうという作戦である。
「不可能ではない、と思うけど、北米方面艦隊が本土に戻る理由がないし、上手くでっち上げたとしても、あなた達を密かに本土に上陸させられるとは思えない」
例えばシャルンホルストに乗ったままドイツ本国の港に入ったら、あっという間に海軍の兵士に見つかって捕まるだろう。見つからなかったとしても港湾から出て総統の許を目指すのは非常に厳しい。
「まったく、使えぬ奴だな。そこを上手くやる方法はお前が考えよ」
「何故、私があなた達の為に努力しなければならない?」
「ま、まあ、その道理は別にないが……」
まだ望みのある案ではあったが、とても現実的とは言えないものであった。しかしツェッペリンはまだ食い下がらない。
「であれば……近くまで我らを運んで、そこからカッターなどでドイツ本国に上陸するというのはどうだ? いや、地理的に考えればイギリスかフランスに上陸した方がよいか」
「なるほど。少しは現実的、かもしれない。しかし、沿岸警備はそんなにザルではない。そんなことをしたら海の上で捕まる可能性が非常に大きい」
「フランス海軍ごときにそんな警備ができるのか?」
「植民地を全て失ったことで、逆に本国周辺の警備に集中している。それに、ドイツ海軍も沿岸の警備には協力している」
「ぐぬっ……」
「これで分かった? 我らが総統に会いに行くなんて、全く現実的ではない」
「しかし……お前はこの状況を何とも思わんのか? アメリカの侵略を見て見ぬふりをするとでも?」
ツェッペリンは心にもないことをシャルンホルストに問う。
「それは……。個人的にはアメリカの息の根を止めた方が良いとは思っているけど、私達は軍人。命令に従う以外の行動原理は存在しない」
「それはそうだろうな。だが命じられていないことならば、少しは勝手をしてもよいのではないか?」
「……どういうこと?」
「我らがドイツに行くのを見逃してくれればよい。それ以上は求めぬ」
「不可能ではないけど、本当にドイツに行くつもり? とてもお勧めはできないけど」
「我はいいことを思い付いたのだ。沿岸の警備が厳しいのであれば、その目を他に向けさせればよい。つまり、ドイツ本国に攻撃を仕掛け、その隙に船魄のみで大陸に侵入するのだ」
「ドイツと戦争をするつもり?」
「いいや、本当に戦うつもりはない。しかし我ら月虹がヨーロッパに現れれば、警備などをしている暇はあるまい」
「それはそうだろうけど……」
ツェッペリンの余りにも無茶な計画に、シャルンホルストは溜息を吐いて、反論する気も起きなかった。
「分かった。個人的にはあなた達の行動には賛成している。あなた達を見逃すくらいは、しても構わない。だが、燃料はどうするつもり?」
「それは今から考える」
「……勝手にして。言っておくけど、ドイツに敵対するような行動に加担することはできない。見逃すのが限界」
「そんなことは分かっておる。先の言葉、ゆめゆめ忘れるなよ」
「もちろん」
かくしてシャルンホルストに協力を約束させ、ツェッペリンは早々にキューバに戻ろうとしたが、シュロス基地の中で彼女を呼び止める者があった。プリンツ・オイゲンである。
「――オイゲン、お前いたのか」
「ええ。あなたが急に来た時はちょっと別の仕事をやっていたわ。ザイドリッツが出迎えをしたそうね」
「ああ。お前の妹はお前とは似ても似つかないな」
「よく言われるわ。そんなことより、ちょっと話したいことがあるの。私の部屋に来てくれるかしら?」
「よからぬことを企んでいるのではなかろうな?」
ツェッペリンはプリンツ・オイゲンにシャルンホルストより警戒感を懐いている。それは恐らく、オイゲンが妙高に手を出したいなどと口走っていたからだろう。
「まさか。そんなことはしないわ。あなただけを捕まえたところで意味ないし」
「……よかろう」
プリンツ・オイゲンの私室に案内される。オイゲンの部屋は壁に装飾過多のドレスが何着も飾られている異様なものであった。
「ここは服屋か何かか?」
「どれも売り物じゃないわ。私が趣味で作ってるの。かわいいでしょ?」
「……我にはよう分からん」
「それは残念。で、本題だけど、あなたに一つお願いしたいことがあるの」
「ほう。言ってみよ」
「今後、どこでもいいから私と同じアトミラール・ヒッパー型重巡洋艦を見かけたら、すぐ私に教えて」
「構わんが……ただでは受けてやらんぞ?」
正直言ってそのくらいただで受けてやってもいいが、もらえるものはもらっておくべきであろう。
「ええ、もちろん。対価は、あなた達に大西洋を航行する給油艦の居場所を教えてあげる」
「何?」
それが本当ならば、ツェッペリンの作戦唯一の障害が解消されることになる。
「そんな重要な情報を、その程度で売ってくれるのか?」
「何? 要らないの? ならもっと値段を上げさせてもらうけど」
「いやいや、そんなことはないぞ。よい取引だ」
「そう。じゃあ取引成立ね。よろしく」
「その程度、我に任せよ。というか、お前、我とシャルンホルストの会話を聞いていたのか?」
「ええ。ザイドリッツに盗み聞きしてもらったわ」
「あ奴……。まあいい。くれぐれも約定を違えるでないぞ」
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