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第十一章 キューバ戦争
局地的艦隊決戦
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単縦陣を組むアメリカの6隻の重巡洋艦に対し、妙高・高雄・愛宕は圧倒的に不利な状態である。しかしながら、やはりと言うべきか、船魄の能力差によって、こちらが押している。
『重巡1隻、無力化したわ』
『こちらも1隻を沈黙させました!』
「うぅ……妙高はやっぱり射撃が下手だな……」
『そんなことはありませんよ。わたくし達の方がたまたま当てただけです』
高雄と愛宕が敵艦の主砲を吹き飛ばして沈黙させ、こちらの被害が皆無の間に戦力は逆転しようとしていた。と、その時、妙高の艦尾で爆発が起こり、爆炎が妙高の艦橋から後ろを覆い隠した。
『妙高!? 大丈夫ですか!?』
高雄は焦って通信をかけるが、妙高は大して痛がりもしていなかった。
「うん、大丈夫。榴弾が当たっただけだから、損傷はほとんどないよ」
『そ、そうですか……』
見た目だけは派手な榴弾であった。妙高のような装甲目標に対しては効果がないだろう。上甲板の機銃が多少破壊されたくらいの損害しかなかった。
『しかし、敵は何故榴弾など……』
「徹甲弾不足なのか、高角砲を破壊したかっただけかな。そんなことより、そろそろ第二戦隊にも突入してもらおうかな」
『わ、分かりました。そうしましょう』
『うちの重巡はみんな優秀だから、心配する必要はないわ』
「期待しています。第二戦隊、突入してください」
第二戦隊、最上・三隈・熊野が遅れて突撃を開始する。敵の単縦陣の頭を押さえ込むように斜め前から突入した。敵艦は第一戦隊と交戦中で陣形を乱す訳にいかず、これに何ら対処できなかった。
『妙高、敵の駆逐艦が第二戦隊に近寄ってきているそうよ?』
「問題ありません。無力化、やむを得ない場合は排除してください」
『了解よ』
少なくとも日本では、重巡洋艦は元より駆逐艦や軽巡洋艦を排除するべく建造された艦だ。そのような排除される対象の艦が束になってきたところで、勝ち目がある訳がない。第二戦隊はあっという間にこれらを無力化し、敵重巡洋艦に主砲斉射をかけた。この時点で残る敵の重巡洋艦は3隻に過ぎなかった。
「敵重巡は完全に無力化。残るは戦艦だけか……」
第一戦隊と第二戦隊の十字砲火を受け、アメリカの重巡洋艦は全滅した。
残るは後方の戦艦だけである。重巡洋艦に混じって砲撃戦に参加していればまだ勝機があったものを、駆逐隊と重巡隊への対処をどっちつかずにしていた結果、今の所は何の役にも立っていない。
「駆逐隊に仕留めてもらう予定だったけど、予定を変更しよう。私達で一気に仕留める」
『わ、分かりました』
『重巡の方が撃たれる可能性が高いと思うけれど?』
「多少撃たれても死にはしません。それに、あまり時間をかけてもいられません」
第六駆逐隊と第十八駆逐隊は敵の駆逐艦と撃ち合いを続けており、決着にはまだ暫しの時間がかかりそうである。
「では行きましょう。第一戦隊は戦艦の左から、第二戦隊は右から同航戦を仕掛け、魚雷で一気に仕留めます」
『承知しました』
『いいわ。楽しくなってきたわね』
戦艦は必死に応戦するが、特定の誰かを狙い撃てばいいものを、全体的に疎らに攻撃するせいで、何の戦果を挙げることもできない。派手な水柱をそこらに作り出すだけである。戦艦と比べれば圧倒的に優速な重巡達は、あっという間に戦艦を左右から挟み込んだ。
『下準備は終わり、という感じかしら?』
「ええ。陣形は完璧です。全艦、ありったけの魚雷を叩き込んでください」
『了解よ』
戦艦を左右から、合計70本の魚雷が襲う。魚雷は必ずしも敵艦目掛けて発射しているのではなく、回避するであろう先にも放ってあるので、逃げ場などどこにもない。
妙高は勝利を確信し、実際すぐに戦艦は無力化されるのだが、まさにその時であった。
『三隈ッ!』
愛宕が鋭く叫んだ。三隈の艦尾に今度こそ大爆発が起こって、主砲が数m吹き飛ばされたのである。
「愛宕さん! 三隈さんの状況は!?」
『…………沈むことはないみたい。ただ機関が吹き飛んだわ。熊野が曳航して帰るって』
「そうですか……。よかったです」
戦艦の最後の反撃は功を奏したが、次の瞬間にはその左右で大爆発が起こり、あっという間に無力化された。最後に抵抗を続ける駆逐艦も重巡達が無力化し、スプルーアンス元帥の作戦は完全に粉砕されたのであった。
○
「閣下、敵水雷戦隊は、我が艦隊を突破。ここに迫りつつあります……」
「クソッ。ダメだったか」
「ど、どうされますか?」
「逃げる。アメリカ本土まで逃げ帰ればこっちのものだ」
「ほう。主力艦隊を置いて逃げるのか?」
マッカーサー元帥は挑発するように言った。
「そんなつもりはない。向こうの艦隊も撤退させるし、航空援護を怠るつもりはない。エンタープライズ、逃げながらでも艦載機の制御は問題ないな?」
「はい、問題ありません。しかし、艦載機の燃料が尽きてしまうかもしれません」
「多少は捨てても構わん。主力艦隊を守り抜いてくれればな」
「承知しました。それならば問題はありません。まあ、瑞鶴を手に入れられなかったのは残念ですが」
「しかし相手は駆逐艦と巡洋艦だ。空母が逃げ切れるのか?」
「その点については抜かりない。逃げ切れるように計算してある」
「なかなか強かな奴だな」
「そうでもなければ軍人として出世はできんだろう」
かくして戦闘は収束した。フロリダ海峡は妙高艦隊に封鎖されているので、アメリカ艦隊はテキサスに逃げ込むことにした。
『重巡1隻、無力化したわ』
『こちらも1隻を沈黙させました!』
「うぅ……妙高はやっぱり射撃が下手だな……」
『そんなことはありませんよ。わたくし達の方がたまたま当てただけです』
高雄と愛宕が敵艦の主砲を吹き飛ばして沈黙させ、こちらの被害が皆無の間に戦力は逆転しようとしていた。と、その時、妙高の艦尾で爆発が起こり、爆炎が妙高の艦橋から後ろを覆い隠した。
『妙高!? 大丈夫ですか!?』
高雄は焦って通信をかけるが、妙高は大して痛がりもしていなかった。
「うん、大丈夫。榴弾が当たっただけだから、損傷はほとんどないよ」
『そ、そうですか……』
見た目だけは派手な榴弾であった。妙高のような装甲目標に対しては効果がないだろう。上甲板の機銃が多少破壊されたくらいの損害しかなかった。
『しかし、敵は何故榴弾など……』
「徹甲弾不足なのか、高角砲を破壊したかっただけかな。そんなことより、そろそろ第二戦隊にも突入してもらおうかな」
『わ、分かりました。そうしましょう』
『うちの重巡はみんな優秀だから、心配する必要はないわ』
「期待しています。第二戦隊、突入してください」
第二戦隊、最上・三隈・熊野が遅れて突撃を開始する。敵の単縦陣の頭を押さえ込むように斜め前から突入した。敵艦は第一戦隊と交戦中で陣形を乱す訳にいかず、これに何ら対処できなかった。
『妙高、敵の駆逐艦が第二戦隊に近寄ってきているそうよ?』
「問題ありません。無力化、やむを得ない場合は排除してください」
『了解よ』
少なくとも日本では、重巡洋艦は元より駆逐艦や軽巡洋艦を排除するべく建造された艦だ。そのような排除される対象の艦が束になってきたところで、勝ち目がある訳がない。第二戦隊はあっという間にこれらを無力化し、敵重巡洋艦に主砲斉射をかけた。この時点で残る敵の重巡洋艦は3隻に過ぎなかった。
「敵重巡は完全に無力化。残るは戦艦だけか……」
第一戦隊と第二戦隊の十字砲火を受け、アメリカの重巡洋艦は全滅した。
残るは後方の戦艦だけである。重巡洋艦に混じって砲撃戦に参加していればまだ勝機があったものを、駆逐隊と重巡隊への対処をどっちつかずにしていた結果、今の所は何の役にも立っていない。
「駆逐隊に仕留めてもらう予定だったけど、予定を変更しよう。私達で一気に仕留める」
『わ、分かりました』
『重巡の方が撃たれる可能性が高いと思うけれど?』
「多少撃たれても死にはしません。それに、あまり時間をかけてもいられません」
第六駆逐隊と第十八駆逐隊は敵の駆逐艦と撃ち合いを続けており、決着にはまだ暫しの時間がかかりそうである。
「では行きましょう。第一戦隊は戦艦の左から、第二戦隊は右から同航戦を仕掛け、魚雷で一気に仕留めます」
『承知しました』
『いいわ。楽しくなってきたわね』
戦艦は必死に応戦するが、特定の誰かを狙い撃てばいいものを、全体的に疎らに攻撃するせいで、何の戦果を挙げることもできない。派手な水柱をそこらに作り出すだけである。戦艦と比べれば圧倒的に優速な重巡達は、あっという間に戦艦を左右から挟み込んだ。
『下準備は終わり、という感じかしら?』
「ええ。陣形は完璧です。全艦、ありったけの魚雷を叩き込んでください」
『了解よ』
戦艦を左右から、合計70本の魚雷が襲う。魚雷は必ずしも敵艦目掛けて発射しているのではなく、回避するであろう先にも放ってあるので、逃げ場などどこにもない。
妙高は勝利を確信し、実際すぐに戦艦は無力化されるのだが、まさにその時であった。
『三隈ッ!』
愛宕が鋭く叫んだ。三隈の艦尾に今度こそ大爆発が起こって、主砲が数m吹き飛ばされたのである。
「愛宕さん! 三隈さんの状況は!?」
『…………沈むことはないみたい。ただ機関が吹き飛んだわ。熊野が曳航して帰るって』
「そうですか……。よかったです」
戦艦の最後の反撃は功を奏したが、次の瞬間にはその左右で大爆発が起こり、あっという間に無力化された。最後に抵抗を続ける駆逐艦も重巡達が無力化し、スプルーアンス元帥の作戦は完全に粉砕されたのであった。
○
「閣下、敵水雷戦隊は、我が艦隊を突破。ここに迫りつつあります……」
「クソッ。ダメだったか」
「ど、どうされますか?」
「逃げる。アメリカ本土まで逃げ帰ればこっちのものだ」
「ほう。主力艦隊を置いて逃げるのか?」
マッカーサー元帥は挑発するように言った。
「そんなつもりはない。向こうの艦隊も撤退させるし、航空援護を怠るつもりはない。エンタープライズ、逃げながらでも艦載機の制御は問題ないな?」
「はい、問題ありません。しかし、艦載機の燃料が尽きてしまうかもしれません」
「多少は捨てても構わん。主力艦隊を守り抜いてくれればな」
「承知しました。それならば問題はありません。まあ、瑞鶴を手に入れられなかったのは残念ですが」
「しかし相手は駆逐艦と巡洋艦だ。空母が逃げ切れるのか?」
「その点については抜かりない。逃げ切れるように計算してある」
「なかなか強かな奴だな」
「そうでもなければ軍人として出世はできんだろう」
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