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第十一章 キューバ戦争
戦略的奇襲
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8時間後、モンタナ級などの主力艦隊は既に空母機動部隊から300km以上離れているが、瑞鶴に到達するまでまだ700km近くある。
『妙高、まだやらないの?』
「いえ、まだです。もっと二つの艦隊の距離を離して、お互いに援護できないようにします」
『そう。分かった』
更に8時間。日本側空母機動部隊にアメリカ側主力艦隊が到達するまで300kmほど。ここで妙高は、ついに作戦の発動を決意した。
○
「閣下! 一大事です! ずっと発見できずにいた敵の別働隊が現れました!!」
「何? どこからだ?」
「フロリダ海峡です!」
「そ、そんな馬鹿なッ!! どうして敵がそんな場所に!」
キューバの北方、日本の空母機動部隊からすればキューバをグルリと反時計回りに180度回った辺りに、日本軍の別働隊が存在しているのだ。
「何故だ……そんな場所にいるのなら、バハマのドイツ海軍が確実に察知している筈だ。いや、そうしないということは、ドイツは我々を見限ったということか」
「ど、どうしましょうか……」
「出撃させた主力艦隊は到底間に合わないだろう。ここで迎え撃つしかない」
別働隊がフロリダ海峡を通過すれば、すぐそこにアメリカの空母機動部隊がある。護衛についているのは戦艦1隻と僅かな巡洋艦や駆逐艦だけであり、空母を守り切れる確証はとても得られない。
「フロリダ海峡は海軍が封鎖してるんじゃなかったのか?」
マッカーサー元帥は問う。そう聞かれるの、スプルーアンス元帥は不快感を分かりやすく顔に出す。
「昔はそうだった。だが今では、東海岸にマトモな戦力は残っていない。駆逐艦くらいしか食い止められないだろう」
「海上要塞とやらはどうしたんだ?」
「そんな名前は国内向けのプロパガンダだ。実際はただの海上補給基地に過ぎない。軍事的にはとても役に立つ設備だが、戦闘能力はない」
「使えんな。まったく、どうするんだ」
「戦艦は残っている。このミズーリで何とか敵を撃退する」
「ま、頑張ってくれ。負けそうになったら本土に逃げ帰ればいいさ」
「ああ……」
スプルーアンス元帥はまたしても敗北する未来しか予想できなかった。
○
妙高率いる巡洋艦と駆逐艦のみの艦隊、つまり水雷戦隊は、アメリカ軍の水上要塞が点在するフロリダ海峡を全速力で通過していた。水上要塞は円形でその外周に多数の入口があって、その中にはそれぞれドックがある。武装は若干の高射砲があるだけで、巨大な浮きドックと呼んでも過言ではない。
『海上要塞というのは名前だけのようですね。何の攻撃もしてきません』
高雄は珍しく、少し調子に乗っていた。妙高の作戦が順調なのが嬉しいのである。
「事前にそうとは聞いていたけど、情報が間違ってなくてよかった。このまま突破しよう」
『分かりました。愛宕、大丈夫ですね?』
『ふふふ、もちろん大丈夫よ、お姉ちゃん』
通信機から響く艶かしい声は、高雄のすぐ下の妹、高雄型重巡洋艦二番艦愛宕のものである。高雄を愛していると公言して全く恥らわない彼女は、高雄を見るや否や、敵味方識別装置の呪縛を断ち切ってしまったのである。そのお陰で愛宕を通して各艦に妙高の命令を伝えることができている。
しかし、高雄は妙高を見るだけでは妙高だと認識してくれなかったので、妙高は高雄と愛宕の関係に少々嫉妬してしまっていた。まあそんなことを言っている余裕はないのだが。
『妙高、雷からの報告よ。敵の駆逐艦が4隻、こっちに近寄って来てるわ』
「分かりました。では妙高と高雄で迎え撃ちます。こういうのは慣れてますから」
撃沈せずに無力化するということである。
『せっかくなんだし、私も入れてよ』
「……絶対に敵艦を撃沈しないと約束してくださるのなら」
『お姉ちゃんはそうしてるの?』
『もちろんです』
『なら私も従うわ』
「でしたら、ご協力をお願いします。魚雷に最大限注意しつつ、敵部隊を無力化します」
事情が分かっている妙高、高雄、愛宕(愛宕はどこまで分かっているのかよく分からないが)は、アメリカの健気な抵抗を粉砕しに向かった。
『敵艦を射程に捉えました。いつでも撃てます』
3隻の重巡洋艦は単縦陣を組み、敵はその射程に突入してきた。
「高雄、主砲の方は大丈夫かな?」
高雄の四番と五番主砲はドイツ製のSK-C/34に置き換えられている。主砲が統一されていないというのは、砲撃戦を主とする軍艦に致命的な影響を与えるだろう。
『大丈夫です。ちゃんと練習してきましたから』
「分かった。信じるよ。じゃあ全艦、敵艦に致命傷を与えないように、撃ち方始め!」
妙高と高雄にとっては慣れたこと。愛宕も高雄がやるのなら、全力で従ってくれた。やることは簡単で、敵艦の一番前か後ろの主砲を狙うのである。艦首や艦尾が吹き飛んでも艦は沈まないが、船魄は無事では済まない。
「3隻が無力化。残り1隻は私がやるよ」
『妙高、魚雷です!』
「やられる前に撃っておいたって感じか。回避を優先して!」
駆逐艦が身命を賭して放った魚雷はしかし、重巡洋艦達に簡単に回避された。そして妙高が最後に残った駆逐艦の1番主砲を粉砕したところで、戦場は沈黙したのである。
『妙高、まだやらないの?』
「いえ、まだです。もっと二つの艦隊の距離を離して、お互いに援護できないようにします」
『そう。分かった』
更に8時間。日本側空母機動部隊にアメリカ側主力艦隊が到達するまで300kmほど。ここで妙高は、ついに作戦の発動を決意した。
○
「閣下! 一大事です! ずっと発見できずにいた敵の別働隊が現れました!!」
「何? どこからだ?」
「フロリダ海峡です!」
「そ、そんな馬鹿なッ!! どうして敵がそんな場所に!」
キューバの北方、日本の空母機動部隊からすればキューバをグルリと反時計回りに180度回った辺りに、日本軍の別働隊が存在しているのだ。
「何故だ……そんな場所にいるのなら、バハマのドイツ海軍が確実に察知している筈だ。いや、そうしないということは、ドイツは我々を見限ったということか」
「ど、どうしましょうか……」
「出撃させた主力艦隊は到底間に合わないだろう。ここで迎え撃つしかない」
別働隊がフロリダ海峡を通過すれば、すぐそこにアメリカの空母機動部隊がある。護衛についているのは戦艦1隻と僅かな巡洋艦や駆逐艦だけであり、空母を守り切れる確証はとても得られない。
「フロリダ海峡は海軍が封鎖してるんじゃなかったのか?」
マッカーサー元帥は問う。そう聞かれるの、スプルーアンス元帥は不快感を分かりやすく顔に出す。
「昔はそうだった。だが今では、東海岸にマトモな戦力は残っていない。駆逐艦くらいしか食い止められないだろう」
「海上要塞とやらはどうしたんだ?」
「そんな名前は国内向けのプロパガンダだ。実際はただの海上補給基地に過ぎない。軍事的にはとても役に立つ設備だが、戦闘能力はない」
「使えんな。まったく、どうするんだ」
「戦艦は残っている。このミズーリで何とか敵を撃退する」
「ま、頑張ってくれ。負けそうになったら本土に逃げ帰ればいいさ」
「ああ……」
スプルーアンス元帥はまたしても敗北する未来しか予想できなかった。
○
妙高率いる巡洋艦と駆逐艦のみの艦隊、つまり水雷戦隊は、アメリカ軍の水上要塞が点在するフロリダ海峡を全速力で通過していた。水上要塞は円形でその外周に多数の入口があって、その中にはそれぞれドックがある。武装は若干の高射砲があるだけで、巨大な浮きドックと呼んでも過言ではない。
『海上要塞というのは名前だけのようですね。何の攻撃もしてきません』
高雄は珍しく、少し調子に乗っていた。妙高の作戦が順調なのが嬉しいのである。
「事前にそうとは聞いていたけど、情報が間違ってなくてよかった。このまま突破しよう」
『分かりました。愛宕、大丈夫ですね?』
『ふふふ、もちろん大丈夫よ、お姉ちゃん』
通信機から響く艶かしい声は、高雄のすぐ下の妹、高雄型重巡洋艦二番艦愛宕のものである。高雄を愛していると公言して全く恥らわない彼女は、高雄を見るや否や、敵味方識別装置の呪縛を断ち切ってしまったのである。そのお陰で愛宕を通して各艦に妙高の命令を伝えることができている。
しかし、高雄は妙高を見るだけでは妙高だと認識してくれなかったので、妙高は高雄と愛宕の関係に少々嫉妬してしまっていた。まあそんなことを言っている余裕はないのだが。
『妙高、雷からの報告よ。敵の駆逐艦が4隻、こっちに近寄って来てるわ』
「分かりました。では妙高と高雄で迎え撃ちます。こういうのは慣れてますから」
撃沈せずに無力化するということである。
『せっかくなんだし、私も入れてよ』
「……絶対に敵艦を撃沈しないと約束してくださるのなら」
『お姉ちゃんはそうしてるの?』
『もちろんです』
『なら私も従うわ』
「でしたら、ご協力をお願いします。魚雷に最大限注意しつつ、敵部隊を無力化します」
事情が分かっている妙高、高雄、愛宕(愛宕はどこまで分かっているのかよく分からないが)は、アメリカの健気な抵抗を粉砕しに向かった。
『敵艦を射程に捉えました。いつでも撃てます』
3隻の重巡洋艦は単縦陣を組み、敵はその射程に突入してきた。
「高雄、主砲の方は大丈夫かな?」
高雄の四番と五番主砲はドイツ製のSK-C/34に置き換えられている。主砲が統一されていないというのは、砲撃戦を主とする軍艦に致命的な影響を与えるだろう。
『大丈夫です。ちゃんと練習してきましたから』
「分かった。信じるよ。じゃあ全艦、敵艦に致命傷を与えないように、撃ち方始め!」
妙高と高雄にとっては慣れたこと。愛宕も高雄がやるのなら、全力で従ってくれた。やることは簡単で、敵艦の一番前か後ろの主砲を狙うのである。艦首や艦尾が吹き飛んでも艦は沈まないが、船魄は無事では済まない。
「3隻が無力化。残り1隻は私がやるよ」
『妙高、魚雷です!』
「やられる前に撃っておいたって感じか。回避を優先して!」
駆逐艦が身命を賭して放った魚雷はしかし、重巡洋艦達に簡単に回避された。そして妙高が最後に残った駆逐艦の1番主砲を粉砕したところで、戦場は沈黙したのである。
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