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第十一章 キューバ戦争
ユカタン海峡海戦Ⅱ
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「ふむ……日本軍は攻撃を諦めたのか。意外だな」
「本当に諦めたんでしょうかね? もう一度攻撃してくるつもりかもしれませんよ?」
と、エンタープライズは楽しそうに言う。スプルーアンス元帥は日本艦隊の位置までは把握していない。もしかしたら非常に遠くから攻撃してきていて、航続距離の限界に達したから下がっただけかもしれない。
「それならそれで、もう一度迎撃するまでだ。まずは日本艦隊の位置を探す。偵察機をありったけ出せ!」
「私もお手伝いしましょうか?」
「いや、いい。君は休んでいてくれ」
偵察については人間がやろうと船魄がやろうと違いはない。スプルーアンス元帥はエンタープライズの体力を温存させておき、日本艦隊の位置を掴むことにした。非占領地域であってもスパイを仕込んであるので、陸軍からの報告がないとなると、日本艦隊はかなり沖合に存在すると予想される。
それからおよそ3時間。
「閣下、敵艦隊を発見しました! ジャマイカの北にいたようです」
「やはりそんな遠くにいたか……だが思ったほど遠くではない。航続距離切れで帰った訳ではないな」
日本艦隊は航空戦力で決着をつけることを諦めたのだと、スプルーアンス元帥は判断した。
「あの、閣下、報告はそれだけではなく……」
「ん? 確かに早とちりだったな」
元帥は再び報告書に目を通し、最後まできちんと読み込んだ。そこには興味深く不気味なことが書いてあった。
「事前の偵察より艦艇の数が少ない、か……。それも空母以外の艦が」
「はい。どうも空母と戦艦しか見当たらないのです」
「別働隊、ということか……。引き続き偵察を厳とせよ! 絶対に敵を見逃すんじゃないぞ!」
日本軍お得意の水雷戦隊による夜襲でもする気かと、元帥は警戒する。そうでなくとも、機動部隊の護衛に旧式戦艦2隻しか残さないという徹底ぶり、何か仕掛けてくるつもりなのは間違いあるまい。
「それでどうされるんですか、元帥閣下?」
エンタープライズは命令を待ち侘びている。
「迷うところだな。航空戦力が出払っている間に奇襲を食らうというのは余りにも最悪な展開だが、艦隊の直掩を残しているようでは日本軍の防御は突破できないだろう」
「ちゃんと偵察しているんじゃなかったのですか?」
「それはそうだが…………いや、その通りだな。部下を信じられないようでは、勝てる戦いも勝てない。エンタープライズ、艦載機を出せるだけ出して日本軍を襲撃せよ。目標は敵の空母だ。沈めてもいいが、無力化できればそれでいい」
戦力を分散していてはどうやっても勝てない。危険を冒してでも航空戦力を集中して運用すべきであろう。
「ふふ。承知しました。全艦載機、発艦します」
エンタープライズは自分で扱える限界まで艦載機を出して、日本艦隊の襲撃に出撃した。
○
「敵が来たわよ、妙高」
『分かりました。予定通り迎撃してください』
「了解。さあみんな、行くわよ」
全体の指揮は妙高が執るが、空母機動部隊の指揮は妙高から依頼されるという形で瑞鶴が執ることになっている。
「敵はおよそ500か。艦戦だけ出して迎え撃つ。出撃!」
迎撃ということで攻撃機や爆撃機を動かす必要はない。瑞鶴は空母達に命じて艦上戦闘機のみを、合計でおよそ200機を出させた。見かけの上では敵の方が倍の数いるように見えるが、実際の戦力は拮抗どころかこちらに優位である。
「さあ、全機、敵を近づけるんじゃないわよ!」
『瑞鶴よ、もう少し旗艦らしい物言いはできんのか?』
ツェッペリンが文句を言ってきた。
「何よ、旗艦らしいって」
『もう少しこう、命令する感じでいけ。旗艦は絶対の権力者でなければならん』
「珍しく真っ当な意見だけど、そんなこと言ってる暇はないわよ。真面目に戦いなさい」
『あ、当たり前であろうが!』
日本艦隊から西方およそ80kmの地点で両航空艦隊は会敵。激しい航空戦が開始された。
『ふん。エンタープライズとは言え、大したことはないな』
「まああんたはそうだろうけど」
瑞鶴、ツェッペリンはエンタープライズの艦載機を相手にしてなお優勢を保っている。元々の技量が同等で、エンタープライズが無理をして多数の機体を動かしているのであれば、彼女らに軍配が上がるのも必然であろう。
「そんなこと言ってる余裕があるなら、他の子の援護でもしてよね。簡単でしょう」
『そう簡単に言うな』
「あら、その程度もできないで余裕ぶってるの?」
『そ、そんなことはない! 我の前では一機とて落とさせぬわ!』
「ええ、その意気よ、頑張ってー」
『き、貴様、貴様こそもっと他の者を気にしろ!』
「そうしたいところなんだけどね」
やはり経験の薄い船魄にエンタープライズの相手は厳しいものがある。一部の空母は船魄としては今日が初実戦らしい。瑞鶴もツェッペリンも援護を試みるが、他の機をかばいながら戦えるほどの余力もなかった。それに、更に悪いことに――
『おい瑞鶴! 奴め自爆を仕掛けてきたぞ!』
「ここでそう来るか……面倒ね」
エンタープライズの得意技、爆撃機や攻撃機で戦闘機に体当たりして自爆する戦術である。これをやられるとこちらの戦闘機が一方的に減らされてしまう訳で、非常に面倒である。
「本当に諦めたんでしょうかね? もう一度攻撃してくるつもりかもしれませんよ?」
と、エンタープライズは楽しそうに言う。スプルーアンス元帥は日本艦隊の位置までは把握していない。もしかしたら非常に遠くから攻撃してきていて、航続距離の限界に達したから下がっただけかもしれない。
「それならそれで、もう一度迎撃するまでだ。まずは日本艦隊の位置を探す。偵察機をありったけ出せ!」
「私もお手伝いしましょうか?」
「いや、いい。君は休んでいてくれ」
偵察については人間がやろうと船魄がやろうと違いはない。スプルーアンス元帥はエンタープライズの体力を温存させておき、日本艦隊の位置を掴むことにした。非占領地域であってもスパイを仕込んであるので、陸軍からの報告がないとなると、日本艦隊はかなり沖合に存在すると予想される。
それからおよそ3時間。
「閣下、敵艦隊を発見しました! ジャマイカの北にいたようです」
「やはりそんな遠くにいたか……だが思ったほど遠くではない。航続距離切れで帰った訳ではないな」
日本艦隊は航空戦力で決着をつけることを諦めたのだと、スプルーアンス元帥は判断した。
「あの、閣下、報告はそれだけではなく……」
「ん? 確かに早とちりだったな」
元帥は再び報告書に目を通し、最後まできちんと読み込んだ。そこには興味深く不気味なことが書いてあった。
「事前の偵察より艦艇の数が少ない、か……。それも空母以外の艦が」
「はい。どうも空母と戦艦しか見当たらないのです」
「別働隊、ということか……。引き続き偵察を厳とせよ! 絶対に敵を見逃すんじゃないぞ!」
日本軍お得意の水雷戦隊による夜襲でもする気かと、元帥は警戒する。そうでなくとも、機動部隊の護衛に旧式戦艦2隻しか残さないという徹底ぶり、何か仕掛けてくるつもりなのは間違いあるまい。
「それでどうされるんですか、元帥閣下?」
エンタープライズは命令を待ち侘びている。
「迷うところだな。航空戦力が出払っている間に奇襲を食らうというのは余りにも最悪な展開だが、艦隊の直掩を残しているようでは日本軍の防御は突破できないだろう」
「ちゃんと偵察しているんじゃなかったのですか?」
「それはそうだが…………いや、その通りだな。部下を信じられないようでは、勝てる戦いも勝てない。エンタープライズ、艦載機を出せるだけ出して日本軍を襲撃せよ。目標は敵の空母だ。沈めてもいいが、無力化できればそれでいい」
戦力を分散していてはどうやっても勝てない。危険を冒してでも航空戦力を集中して運用すべきであろう。
「ふふ。承知しました。全艦載機、発艦します」
エンタープライズは自分で扱える限界まで艦載機を出して、日本艦隊の襲撃に出撃した。
○
「敵が来たわよ、妙高」
『分かりました。予定通り迎撃してください』
「了解。さあみんな、行くわよ」
全体の指揮は妙高が執るが、空母機動部隊の指揮は妙高から依頼されるという形で瑞鶴が執ることになっている。
「敵はおよそ500か。艦戦だけ出して迎え撃つ。出撃!」
迎撃ということで攻撃機や爆撃機を動かす必要はない。瑞鶴は空母達に命じて艦上戦闘機のみを、合計でおよそ200機を出させた。見かけの上では敵の方が倍の数いるように見えるが、実際の戦力は拮抗どころかこちらに優位である。
「さあ、全機、敵を近づけるんじゃないわよ!」
『瑞鶴よ、もう少し旗艦らしい物言いはできんのか?』
ツェッペリンが文句を言ってきた。
「何よ、旗艦らしいって」
『もう少しこう、命令する感じでいけ。旗艦は絶対の権力者でなければならん』
「珍しく真っ当な意見だけど、そんなこと言ってる暇はないわよ。真面目に戦いなさい」
『あ、当たり前であろうが!』
日本艦隊から西方およそ80kmの地点で両航空艦隊は会敵。激しい航空戦が開始された。
『ふん。エンタープライズとは言え、大したことはないな』
「まああんたはそうだろうけど」
瑞鶴、ツェッペリンはエンタープライズの艦載機を相手にしてなお優勢を保っている。元々の技量が同等で、エンタープライズが無理をして多数の機体を動かしているのであれば、彼女らに軍配が上がるのも必然であろう。
「そんなこと言ってる余裕があるなら、他の子の援護でもしてよね。簡単でしょう」
『そう簡単に言うな』
「あら、その程度もできないで余裕ぶってるの?」
『そ、そんなことはない! 我の前では一機とて落とさせぬわ!』
「ええ、その意気よ、頑張ってー」
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「そうしたいところなんだけどね」
やはり経験の薄い船魄にエンタープライズの相手は厳しいものがある。一部の空母は船魄としては今日が初実戦らしい。瑞鶴もツェッペリンも援護を試みるが、他の機をかばいながら戦えるほどの余力もなかった。それに、更に悪いことに――
『おい瑞鶴! 奴め自爆を仕掛けてきたぞ!』
「ここでそう来るか……面倒ね」
エンタープライズの得意技、爆撃機や攻撃機で戦闘機に体当たりして自爆する戦術である。これをやられるとこちらの戦闘機が一方的に減らされてしまう訳で、非常に面倒である。
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