上 下
217 / 326
第十一章 キューバ戦争

扶桑と山城

しおりを挟む
 第六艦隊及び第七艦隊はキューバのグアンタナモ湾に立ち寄って、月虹や第五艦隊の信濃・大鳳と合流した。

 第六艦隊の艦艇は扶桑・隼鷹・飛鷹・愛宕・熊野・暁・雷・電であり、第七艦隊の艦艇は山城・龍驤・千歳・千代田・最上・三隈・陽炎・不知火である。信濃・大鳳・瑞鶴を合わせれば空母8隻という大艦隊だ。

「愛宕がいるのね。高雄も連れてくればよかったわ」

 愛宕は高雄型重巡洋艦二番艦である。高雄とも仲が良かったと聞いているので、高雄を引き合わせればよかったと、瑞鶴は思った。

「高雄は修理中ですし……あまり混乱を招くことはしない方がいいかと……」

 妙高は言う。今はアメリカとの戦いに集中すべきで、取り敢えず敵味方識別装置のことは置いておこうと。

「ま、それもそうね。そう言えば、あなたの妹達はどこにいるの?」
「妙高の妹達はシンガポールとかインドとかに配置されていた筈です。妙高が帝国海軍にいた頃は、ですが」
「なら暫くは会えなさそうね」
「ま、まあ、そうですね……」
「なんかごめん」

 それはそれとして、瑞鶴と妙高は早速、グアンタナモ基地の地上施設で扶桑と山城に会うことにした。妙高も特に縁がなく、船魄の彼女達とは会ったことがなかった。

「瑞鶴さんはこちらでよろしかったでしょうか?」

 部屋に入ってきたのは、白く非常に長い髪に緑の目、紅葉色の着物を着た、性格が良さそうなのが溢れ出している少女であった。

「ええ、私が瑞鶴よ」
「お初にお目にかかります。わたくしは扶桑型戦艦一番艦の扶桑と申します。よろしくお願いいたしまね」

 部屋に足を踏み入れて早々、扶桑は優雅にお辞儀をした。その礼儀正しさに瑞鶴も無意識に背筋を伸ばしてしまう。因みに扶桑は明治時代に起工された最後の戦艦であり、妙高や長門より遥かに年上である。

「え、ええ、よろしく。山城はどうしたの?」
「山城ならこちらに」

 扶桑に続いて入ってきたのは、扶桑とは対照的に短髪で、かつ非常にやる気のなさそうな少女であった。

「ほら、山城、挨拶をしないと」

 扶桑が促すと、山城は心底面倒臭そうに溜息を吐いて、嫌々ながらと言った様子で応えた。瑞鶴にとってはそちらの方が寧ろやりやすくあったが。

「…………扶桑型戦艦二番艦、山城よ」
「そう。私は瑞鶴よ。よろしくね」
「はあ。私とはあまり関わらない方がいいわ。不幸が移るから」
「不幸?」
「山城ったら、自分のことを不幸体質だと思い込んでいるんですよ。そんなのは思い込みだと常々言いつけてあるのですが」
「思い込みなんかじゃないわ。私は呪われてるのよ」
「随分重症ねえ……」
「それは一旦置いておいて、話し合いを始めましょう」
「そうね。あんまり時間もないし」

 アメリカ艦隊は既に出撃している。無駄話をしている暇はない。

「ところで、そちらの方はどなたなのですか?」

 扶桑は妙高に視線を移す。

「あ、すみません、自己紹介が遅れました。私は妙高っていいます」
「妙高さんでしたか。あなたも、よろしくお願いいたしますね」
「は、はい……」

 扶桑の所作が余りにも大人びており、妙高は畏れ多くて縮こまってしまう。これが明治最後の戦艦の威厳かと。

「あんたと扶桑でそんなに歳は変わらないでしょうに。何でそんなに怯えてるのよ」
「いやいや、10年くらいの差はありますから……」
「そうなの? 私昭和生まれだから、大正のことはあんま分かんないのよね」

 瑞鶴からすると、扶桑型戦艦も長門型戦艦も妙高型重巡洋艦も大体同じ頃に生まれたようなものなのである。

「そんなテキトウな……」
「確かに瑞鶴さんはこの中で唯一の昭和生まれですね」
「そう、その話よ。誰がこの艦隊を指揮するかって話。私に任せてもらおうと思うんだけど、扶桑、山城、異論はないわね?」

 瑞鶴は反論を許さぬ勢いで捲し立てる。が、扶桑にはそういう話術は通じない模様である。

「あなたが艦隊の指揮を執ると? お言葉ですが、一艦隊の旗艦すら経験したことのないあなたがですか?」
「私はこれまで月虹を指揮して生き残らせてきたわ。それで十分でしょ」
「たった4隻の艦隊など……」
「文句ある? それに、航空機のない時代に生まれたあんた達に指揮は任せられないわ」
「そう言われてしまうと、確かにあまり言い返せないのですが。とは言えわたくしも、空母の指揮くらいしたことはありますよ」
「そうなの? でも指揮したことがある程度じゃねえ。実戦経験なんてないでしょ?」
「確かに、我々第六艦隊は基本的に治安維持程度しかしたことがありません。山城もそうですよね?」
「ええ、そうよ」
「じゃあやっぱりダメじゃない」
「しかし艦隊を指揮した経験のない方にこれをお任せするのはどうかと」
「だから艦隊の指揮は今してるって――」
「はっきり申し上げますが、非正規の寄り集まりなど艦隊の内に入りません」

 瑞鶴と扶桑に言い争いは終わりが見えず、全くもって非生産的な時間が過ぎていった。

「姉さん、この時間何なの? もう帰りたいのだけど」

 山城が空気を読まずに言い放った。

「そう言いましても、誰が旗艦かは必ず決めなければなりません」
「じゃあ妙高にでもやらせたら?」
「ふえぇ!?」
「私は別に構わないけど」
「瑞鶴さん!?」
「そう言えば、妙高さんは艦隊旗艦を務めたこともありましたよね?」
「ま、まあ、一応、珊瑚海海戦では機動部隊旗艦をしましたが……」

 珊瑚海海戦では翔鶴と瑞鶴を中心とするMO機動部隊を麾下に入れていた。

「では妙高さんにやってもらいましょう。決まりです」
「い、いいんでしょうか……」

 瑞鶴も扶桑もお互いに譲る気がないし、信濃は艦隊旗艦を務めたことがなく、敵味方識別装置のことを知らない大鳳は都合が悪かろうということで、結局妙高が旗艦を任されることとなった。もちろん第六・第七艦隊の面々にはそれぞれの旗艦を通して命令を伝えてもらうことになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ

俊也
ライト文芸
実際の歴史では日本本土空襲・原爆投下・沖縄戦・特攻隊などと様々な悲劇と犠牲者を生んだ太平洋戦争(大東亜戦争) しかし、タイムスリップとかチート新兵器とか、そういう要素なしでもう少しその悲劇を防ぐか薄めるかして、尚且つある程度自主的に戦後の日本が変わっていく道はないか…アメリカ等連合国に対し「勝ちすぎず、程よく負けて和平する」ルートはあったのでは? そういう思いで書きました。 歴史時代小説大賞に参戦。 ご支援ありがとうございましたm(_ _)m また同時に「新訳 零戦戦記」も参戦しております。 こちらも宜しければお願い致します。 他の作品も お手隙の時にお気に入り登録、時々の閲覧いただければ幸いです。m(_ _)m

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[不定期更新中] ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...