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第十一章 キューバ戦争
帝国の参戦
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フロリダからおよそ100機のB50が飛び立って、大和を爆撃しに向かった。その程度の情報、帝国海軍ならすぐに察知することができる。
「――なるほど。戦略爆撃機か」
「戦略爆撃機なんてどうってことないわよ。当たる訳がないわ」
「それは我々が動いている時に限る」
「だったら一度ここを離れて回避行動を取りましょう。ゲバラ、いいわね?」
一時的にシエンフエーゴスを離れることになるだろう。とは言え、本当に一時的、恐らく数時間ほどのことである。ゲバラは特に反対する理由もなかった。大和は一度シエンフエーゴスの湾から外洋に出た。
「さて、私に喧嘩を売ってくる馬鹿は皆殺しにしましょうか」
「颶風では戦略爆撃機に届かないと思うのだが」
「まあ最高高度で来られたら無理だけど、それならそれで爆弾が当たる訳ないし、いいんじゃない?」
「偶然にでも当たれば致命傷なんだぞ……」
楽観的な瑞鶴に、有賀中将は溜息を吐いた。
「だったらどうやって対処しろって言うのよ」
「まあ、そう言われると何とも言えないのだが」
一先ずは敵の出方を窺うということになった。アメリカ軍の作戦が判明したのは、B50の群れがキューバ本土に差し掛かった頃のことである。
「敵の戦略爆撃機は行動15,000mを飛んでいるとのことだ」
「そう。私には無理ね」
「ああ。回避行動を取って当たらないように祈るしかないだろう」
瑞鶴は迎撃を諦めて全力で爆弾を回避することに決めた。戦艦の操艦には全く慣れないが何とかするしかない。と、その時であった。
「閣下、空軍から連絡です」
「空軍が? 今は忙しいんだが」
「それが、空軍がメキシコから震電を500機飛ばしたとのことです。それ故、我々は何もする必要はないと」
「それは、そうだろうがな……」
震電改は強力な局地戦闘機である。B50など4門の30mm機関砲が一瞬で粉砕するだろう。だが有賀中将の心配は戦闘の勝敗ではなかった。
「大本営はアメリカと戦争を始めるつもりなのか?」
「さ、さあ……」
「いや、すまない。無意味な質問だった」
パイロットは当然ながら全員日本人である。つまりこれまでの、あくまで兵器を供与しているだけだという建前を帝国は放棄した訳である。これは帝国がアメリカに宣戦布告したにも等しい事態だ。
「どうせ日本は戦争してるようなもんだし、今更でしょ」
「建前というのは重要だ。だが……我々が政治を気にしているのは時間の無駄だな。我々は我々の仕事に集中するとしよう」
「その必要はないんじゃない?」
瑞鶴の言う通りであった。大量の震電改に襲撃されて、B50の編隊はあっという間に殲滅された。キューバ北部には巨大な残骸が多数降り注いで何人か巻き添えになってしまったようだが。
「終わったそうだ。シエンフエーゴスに戻ろうか」
「分かった」
アメリカ最新鋭の戦略爆撃機はこうして、何の成果も挙げられず全滅という残念な初陣を飾ったのであった。
○
「何!? 全滅だと!?」
ルメイ大将は報告に来た兵士に怒鳴りつけた。
「は、はい、閣下……。攻撃隊は全て撃ち落とされました。生存者はそれなりにはいますが……」
「生存者などどうでもいい。クソッ」
「か、閣下! アイゼンハワー首相閣下から直通の電話です!」
「首相から? すぐに代われ」
大将はすぐさま電話を受けた。
「ルメイ空軍大将です。首相閣下、今回のことは誠に申し訳ございません」
「いや、終わったことなどどうでもいい。それよりも、日本の迎撃機が現れたというのは本当か?」
「はい。メキシコから数百機が飛んで来ました」
「そうか……。日本は我々と戦争する気なのか……」
「閣下、今こそ日本に宣戦を布告しましょう! 南北アメリカ大陸から日本人を追放し、新大陸をことごとく民主化するのです! それが合衆国の明白なる天命なのですから!!」
ルメイ大将はこの時を待ち侘びていた。キューバのような雑魚相手ではなく、大国を相手に総力戦をする日を。だが当然、アイゼンハワー首相にそんなことを聞き入れる気はない。
「馬鹿を言え。更迭されたいのか?」
「な、何を仰いますか! 日本が先に攻撃してきたのです! 我々には日本を攻撃する正当な権利があります!!」
「政治とはそう簡単なものじゃないんだ。それに、日本と戦争を始めれば、我々は侵略者として世界の敵になる」
「で、では、このまま日本に一方的に攻撃されるのを許すのですか!?」
「そんな気はない。もちろん反撃はする。だが相手は何があってもキューバ軍だ。意味は分かるな?」
「……承知しました」
敵が日本人だろうと誰だろうと、それはキューバ人ということにする。アメリカは日本に対して何もしないし何も言わない。これがアイゼンハワー首相の判断であった。
「だが、君の好きなようにはしていい。日本軍に雪辱を果たせ」
「はっ!」
ルメイ大将は日本空軍と戦争してもいいというだけで有頂天である。
「私が陣頭指揮を執る! 全員続け!!」
「か、閣下!?」
「早く準備しろ!! 遅れた奴は置いていくぞ!!」
ルメイ大将は自らB50に乗り込んで、南方軍の総力を挙げて出撃した。
「――なるほど。戦略爆撃機か」
「戦略爆撃機なんてどうってことないわよ。当たる訳がないわ」
「それは我々が動いている時に限る」
「だったら一度ここを離れて回避行動を取りましょう。ゲバラ、いいわね?」
一時的にシエンフエーゴスを離れることになるだろう。とは言え、本当に一時的、恐らく数時間ほどのことである。ゲバラは特に反対する理由もなかった。大和は一度シエンフエーゴスの湾から外洋に出た。
「さて、私に喧嘩を売ってくる馬鹿は皆殺しにしましょうか」
「颶風では戦略爆撃機に届かないと思うのだが」
「まあ最高高度で来られたら無理だけど、それならそれで爆弾が当たる訳ないし、いいんじゃない?」
「偶然にでも当たれば致命傷なんだぞ……」
楽観的な瑞鶴に、有賀中将は溜息を吐いた。
「だったらどうやって対処しろって言うのよ」
「まあ、そう言われると何とも言えないのだが」
一先ずは敵の出方を窺うということになった。アメリカ軍の作戦が判明したのは、B50の群れがキューバ本土に差し掛かった頃のことである。
「敵の戦略爆撃機は行動15,000mを飛んでいるとのことだ」
「そう。私には無理ね」
「ああ。回避行動を取って当たらないように祈るしかないだろう」
瑞鶴は迎撃を諦めて全力で爆弾を回避することに決めた。戦艦の操艦には全く慣れないが何とかするしかない。と、その時であった。
「閣下、空軍から連絡です」
「空軍が? 今は忙しいんだが」
「それが、空軍がメキシコから震電を500機飛ばしたとのことです。それ故、我々は何もする必要はないと」
「それは、そうだろうがな……」
震電改は強力な局地戦闘機である。B50など4門の30mm機関砲が一瞬で粉砕するだろう。だが有賀中将の心配は戦闘の勝敗ではなかった。
「大本営はアメリカと戦争を始めるつもりなのか?」
「さ、さあ……」
「いや、すまない。無意味な質問だった」
パイロットは当然ながら全員日本人である。つまりこれまでの、あくまで兵器を供与しているだけだという建前を帝国は放棄した訳である。これは帝国がアメリカに宣戦布告したにも等しい事態だ。
「どうせ日本は戦争してるようなもんだし、今更でしょ」
「建前というのは重要だ。だが……我々が政治を気にしているのは時間の無駄だな。我々は我々の仕事に集中するとしよう」
「その必要はないんじゃない?」
瑞鶴の言う通りであった。大量の震電改に襲撃されて、B50の編隊はあっという間に殲滅された。キューバ北部には巨大な残骸が多数降り注いで何人か巻き添えになってしまったようだが。
「終わったそうだ。シエンフエーゴスに戻ろうか」
「分かった」
アメリカ最新鋭の戦略爆撃機はこうして、何の成果も挙げられず全滅という残念な初陣を飾ったのであった。
○
「何!? 全滅だと!?」
ルメイ大将は報告に来た兵士に怒鳴りつけた。
「は、はい、閣下……。攻撃隊は全て撃ち落とされました。生存者はそれなりにはいますが……」
「生存者などどうでもいい。クソッ」
「か、閣下! アイゼンハワー首相閣下から直通の電話です!」
「首相から? すぐに代われ」
大将はすぐさま電話を受けた。
「ルメイ空軍大将です。首相閣下、今回のことは誠に申し訳ございません」
「いや、終わったことなどどうでもいい。それよりも、日本の迎撃機が現れたというのは本当か?」
「はい。メキシコから数百機が飛んで来ました」
「そうか……。日本は我々と戦争する気なのか……」
「閣下、今こそ日本に宣戦を布告しましょう! 南北アメリカ大陸から日本人を追放し、新大陸をことごとく民主化するのです! それが合衆国の明白なる天命なのですから!!」
ルメイ大将はこの時を待ち侘びていた。キューバのような雑魚相手ではなく、大国を相手に総力戦をする日を。だが当然、アイゼンハワー首相にそんなことを聞き入れる気はない。
「馬鹿を言え。更迭されたいのか?」
「な、何を仰いますか! 日本が先に攻撃してきたのです! 我々には日本を攻撃する正当な権利があります!!」
「政治とはそう簡単なものじゃないんだ。それに、日本と戦争を始めれば、我々は侵略者として世界の敵になる」
「で、では、このまま日本に一方的に攻撃されるのを許すのですか!?」
「そんな気はない。もちろん反撃はする。だが相手は何があってもキューバ軍だ。意味は分かるな?」
「……承知しました」
敵が日本人だろうと誰だろうと、それはキューバ人ということにする。アメリカは日本に対して何もしないし何も言わない。これがアイゼンハワー首相の判断であった。
「だが、君の好きなようにはしていい。日本軍に雪辱を果たせ」
「はっ!」
ルメイ大将は日本空軍と戦争してもいいというだけで有頂天である。
「私が陣頭指揮を執る! 全員続け!!」
「か、閣下!?」
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