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第十一章 キューバ戦争
大和防衛戦
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「閣下! 電探に感あり! 2時の方向距離50海里より、多数の敵航空機を捉えました!」
「そうか……。それだけ離れていれば大和の主砲では到底届かないが、航空機にはあっという間の距離だな」
50海里、つまり90kmというのは、大和の電探の探知距離より遥かに手前である。アメリカ軍はどうやら、シエンフエーゴスに近い飛行場から一気に航空機を飛ばして大和に奇襲を仕掛けようとしているらしい。
「なるほど。私が護衛を出す前に大和を叩こうってつもりみたいね」
「瑞鶴、何とかなるか?」
「ええ、もちろん。これを想定してない筈がないわ」
瑞鶴は大東亜戦争で何度かやったように、陸上の飛行場に艦載機を待機させていた。飛行甲板上のものと合わせ、所有する艦上戦闘機颶風を一度に襲撃させられるのである。当然だが攻撃機や爆撃機を出す必要はない。あっという間に40機の颶風を離陸させ、敵襲に備えた。
「颶風《ぐふう》か……。本当にそれで大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。今までずっと飄風《ひょうふう》相手に戦ってきたんだし」
プロペラ機とジェット機の性能差など歴然の筈なのだが、瑞鶴は全く気にしていなかった。
「確かに赤城や加賀と正面切って戦っていたようだが」
「ジェット機ってのは速いだけで小回り効かないから大したことないわ」
「そう言い切れるのは、敵の動きを完璧に見切れる目があってこそだな」
「分かってるじゃない。じゃ、敵を消すわ。見てなさい」
「頼んだ」
米軍機は全部で合わせて150機ほど。陸上機かつジェット機なので、颶風と比べれば遥かに高い性能を持っていることだろう。だが人間の機体だ。瑞鶴の敵ではない。それは戦いと呼べるようなものではなく、一方的な狩りであった。
「これは凄いな……。本当に一方的じゃないか」
「さっきからそう言ってるじゃない。それに、あんたは別に初めて見るって訳じゃないでしょ」
「それはそうだが、格上の機体相手にもこれほど圧倒的に優勢とは思わなかったのでね」
「多少の性能差で人間が船魄に勝てる訳ないのよ」
瑞鶴の活躍によってアメリカの航空戦隊はたちまち壊滅した。だが、その時であった。
「閣下! こっちに突っ込んで来る奴がいます!」
「そのようだな」
「クソッ! 抜けられたッ!」
自爆覚悟で大和に突っ込む攻撃機が一機。瑞鶴もすぐに追うが、やはり速度差が大きく追い付けない。
「そっちで何とかしてッ!!」
「案ずるな。左舷の機関砲は全部使え! あれを撃ち落とせ!」
大和の舷側にずらりと並んだ25mm機関砲が一斉に火を噴いた。片弦だけで軽く100門はあるだろう。流石にこれを前にしては、どんな航空機も持たない。あっという間に火を吹いて空中で大爆発したのであった。
「何か聞いたことない音が混じってたんだけど?」
「そんなことにまで気付けるのか。君は凄いな」
瑞鶴は機関砲の射撃音が九六式二十五粍機銃のそれではないことに気が付いた。それより低い音だった。
「それは五式四十粍機関砲の音だな」
「40mmねえ。大和に勝手なもの付けないでよ」
「機関砲くらいいいじゃないか。本当は高角砲も九八式に変えたいところだが、機関砲の他は何も変えていない」
「あっそう。まあそれくらいなら許してあげるわ」
「助かるよ」
機関砲など甲板の上に乗っけてあるだけだ。瑞鶴はそう割り切ることにした。かくしてクラーク大将の作戦は失敗し、大和には傷の一つも付かなかったのである。
○
作戦が完膚なきまでに叩きのめされたという報は、すぐさまハバナに届けられた。
「閣下、作戦は失敗です。作戦に参加した航空機で戻って来たのは僅かに12機だけでした……」
「そうなる予感はあった……。だが私が知りたいのは失った機体の数ではない。何人のパイロットが戻って来た?」
「34人です。残りは死亡するか、キューバの捕虜となったようです」
「そうか……。随分な痛手だな」
飛行機など幾らでも製造すればいい。だがパイロットは一朝一夕に湧いてくるものではない。大東亜戦争で経験豊富なパイロットがほとんど死滅したことでパイロットの教育は滞っており、可能な限り失わずに済ませたいのである。
と、その時であった。クラーク大将の執務室に一人の男がやって来た。見るからに悪人面を浮かべた男は、カーチス・ルメイ空軍大将である。
「失礼しますよ、陸軍大将閣下」
「空軍がどうしたんですか?」
「話は聞いたぞ。陸軍の航空隊はまるで歯が立たなかったそうじゃないか」
「空軍ならどうにかできるんですか?」
アメリカ軍は空軍があるにも拘わらず、陸海軍が独自に航空隊を保有している。これは革命後の混乱から軍の再編が完了する前にキューバ戦争が始まってしまった弊害である。
「できるとも。瑞鶴の手の届かない遥か上空から大和を爆撃してやるんだ」
「またB29を使うつもりですか?」
「我々にはB36があるじゃないか」
B29より更に巨大な戦略爆撃機である。
「はあ。まあどうぞ、好きになさってください。戦略爆撃機は私の管轄外です」
戦略爆撃機はフロリダなどアメリカ本土から飛ばすので、クラーク大将は事前に作戦を通告される以上の役割を持っていない。
「そうか……。それだけ離れていれば大和の主砲では到底届かないが、航空機にはあっという間の距離だな」
50海里、つまり90kmというのは、大和の電探の探知距離より遥かに手前である。アメリカ軍はどうやら、シエンフエーゴスに近い飛行場から一気に航空機を飛ばして大和に奇襲を仕掛けようとしているらしい。
「なるほど。私が護衛を出す前に大和を叩こうってつもりみたいね」
「瑞鶴、何とかなるか?」
「ええ、もちろん。これを想定してない筈がないわ」
瑞鶴は大東亜戦争で何度かやったように、陸上の飛行場に艦載機を待機させていた。飛行甲板上のものと合わせ、所有する艦上戦闘機颶風を一度に襲撃させられるのである。当然だが攻撃機や爆撃機を出す必要はない。あっという間に40機の颶風を離陸させ、敵襲に備えた。
「颶風《ぐふう》か……。本当にそれで大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。今までずっと飄風《ひょうふう》相手に戦ってきたんだし」
プロペラ機とジェット機の性能差など歴然の筈なのだが、瑞鶴は全く気にしていなかった。
「確かに赤城や加賀と正面切って戦っていたようだが」
「ジェット機ってのは速いだけで小回り効かないから大したことないわ」
「そう言い切れるのは、敵の動きを完璧に見切れる目があってこそだな」
「分かってるじゃない。じゃ、敵を消すわ。見てなさい」
「頼んだ」
米軍機は全部で合わせて150機ほど。陸上機かつジェット機なので、颶風と比べれば遥かに高い性能を持っていることだろう。だが人間の機体だ。瑞鶴の敵ではない。それは戦いと呼べるようなものではなく、一方的な狩りであった。
「これは凄いな……。本当に一方的じゃないか」
「さっきからそう言ってるじゃない。それに、あんたは別に初めて見るって訳じゃないでしょ」
「それはそうだが、格上の機体相手にもこれほど圧倒的に優勢とは思わなかったのでね」
「多少の性能差で人間が船魄に勝てる訳ないのよ」
瑞鶴の活躍によってアメリカの航空戦隊はたちまち壊滅した。だが、その時であった。
「閣下! こっちに突っ込んで来る奴がいます!」
「そのようだな」
「クソッ! 抜けられたッ!」
自爆覚悟で大和に突っ込む攻撃機が一機。瑞鶴もすぐに追うが、やはり速度差が大きく追い付けない。
「そっちで何とかしてッ!!」
「案ずるな。左舷の機関砲は全部使え! あれを撃ち落とせ!」
大和の舷側にずらりと並んだ25mm機関砲が一斉に火を噴いた。片弦だけで軽く100門はあるだろう。流石にこれを前にしては、どんな航空機も持たない。あっという間に火を吹いて空中で大爆発したのであった。
「何か聞いたことない音が混じってたんだけど?」
「そんなことにまで気付けるのか。君は凄いな」
瑞鶴は機関砲の射撃音が九六式二十五粍機銃のそれではないことに気が付いた。それより低い音だった。
「それは五式四十粍機関砲の音だな」
「40mmねえ。大和に勝手なもの付けないでよ」
「機関砲くらいいいじゃないか。本当は高角砲も九八式に変えたいところだが、機関砲の他は何も変えていない」
「あっそう。まあそれくらいなら許してあげるわ」
「助かるよ」
機関砲など甲板の上に乗っけてあるだけだ。瑞鶴はそう割り切ることにした。かくしてクラーク大将の作戦は失敗し、大和には傷の一つも付かなかったのである。
○
作戦が完膚なきまでに叩きのめされたという報は、すぐさまハバナに届けられた。
「閣下、作戦は失敗です。作戦に参加した航空機で戻って来たのは僅かに12機だけでした……」
「そうなる予感はあった……。だが私が知りたいのは失った機体の数ではない。何人のパイロットが戻って来た?」
「34人です。残りは死亡するか、キューバの捕虜となったようです」
「そうか……。随分な痛手だな」
飛行機など幾らでも製造すればいい。だがパイロットは一朝一夕に湧いてくるものではない。大東亜戦争で経験豊富なパイロットがほとんど死滅したことでパイロットの教育は滞っており、可能な限り失わずに済ませたいのである。
と、その時であった。クラーク大将の執務室に一人の男がやって来た。見るからに悪人面を浮かべた男は、カーチス・ルメイ空軍大将である。
「失礼しますよ、陸軍大将閣下」
「空軍がどうしたんですか?」
「話は聞いたぞ。陸軍の航空隊はまるで歯が立たなかったそうじゃないか」
「空軍ならどうにかできるんですか?」
アメリカ軍は空軍があるにも拘わらず、陸海軍が独自に航空隊を保有している。これは革命後の混乱から軍の再編が完了する前にキューバ戦争が始まってしまった弊害である。
「できるとも。瑞鶴の手の届かない遥か上空から大和を爆撃してやるんだ」
「またB29を使うつもりですか?」
「我々にはB36があるじゃないか」
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「はあ。まあどうぞ、好きになさってください。戦略爆撃機は私の管轄外です」
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