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第十章 大東亜戦記Ⅱ(戦後編)
瑞鶴の反乱
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一九四六年六月十五日、呉海軍工廠。
瑞鶴は最艦載機を運用できる程度の修理を終えた。そんな中、彼女は気がかりなことがあった。
「ねえ、これから大和はどうするの?」
瑞鶴は岡本大佐に尋ねる。
「どうすると言われてもな、特に考えてはいない。とは言え、意識のない人間を延々と生かし続けるというのは感心したものではないな」
「それは大和を殺すってこと?」
「可能性の一つとしてはそれもあり得るだろう。だが、もしも目覚めさせられるのなら、私もそうしたいのだ」
「そう。目覚めさせる見込みはあるの?」
「正直言って、現代の技術力では不可能と言わざるを得ない。将来的にそれが可能になるかもしれないが、それまで大和が生きていてくれるかどうか……」
「ちゃんと世話していれば生きていられるんじゃないの?」
「一般的に、植物状態になった人間はそう長くは生きられない。現代の医療では仕方のないことなのだ」
「……あっそう。分かった」
大和を目覚めさせるのは絶望的。それところか生かし続けるのも困難。それが現代な科学技術、医療技術の限界であった。
○
さて、その晩、瑞鶴が布団に横たわっていた時のことであった。
『瑞鶴、聞こえますか?』
聞き覚えのある優しい女性の声が瑞鶴の耳に入った。瑞鶴は飛び起きた。
「誰!?」
『よかった。聞こえているみたいですね』
「翔鶴……? 何で……?」
目の前には二本の角を持ち白い着物を纏った少女、瑞鶴の空想上の存在だった筈の翔鶴が、瑞鶴の枕元に座っていたのだ。
『確かに私はあなたの空想上の存在です。ですが、ただの妄想ではありません』
「どういうこと?」
『船魄の力とは、人の心に干渉する力。逆に言えば人の心を読むこともできるのです』
「そんなことできないんだけど?」
『ええ、そう便利な力ではありません。誰が何を考えているのか直接分かるほどでは。しかし多くの人間が同じことを考えているのなら、それを感じ取ることはできます』
「それとお姉ちゃんに何の関係が?」
『私はあなたが読み取った情報を自覚する為、あなたに一番伝わりやすい方法で情報を伝える為に作られた仮の人格、そんなところです。人の集合無意識の結晶、そんなところでしょうか』
「えっと……私の頭が作り出したってこと?」
『その通りです』
「なるほどね……。そう言えば心当たりはある」
エンタープライズが明らかにテレパシーみたいなもので話しかけてきたことがあった。今思えばそれも船魄の能力の一端だったのだろう。
「で、それが何の用?」
『現在、海軍艦政本部は、成功した船魄の例として、大和を研究対象にしようとしています。有り体に言えば、大和を解剖して調査しようということです』
「え……。それ本当?」
『多くの者がその計画を知っているし、前向きなようです。大和を目覚めさせるなど非現実的だから、後の研究の役に立ってもらおうと』
「まあ……そんな気はしてたわ」
いつまでも目覚めることない大和を生かし続けるなど非現実的だ。瑞鶴もそうだろうとは、何とはなしに察していた。
「で、そんなことを言って、私に何をさせたいの?」
『私はただ、人々の意識をあなたに伝えるだけです。どうするかについては、あなたが決めることですよ、瑞鶴』
「勝手なことを……」
翔鶴は幽霊のように消えてしまった。瑞鶴は寝てなどいられなかった。
○
「閣下! 瑞鶴が勝手に出港しています!」
「な、何だと!?」
深夜2時頃、呉鎮守府司令長官の岡田為次少将は寝室にいるところを叩き起こされた。
「そんな報告は受けていない筈だな?」
「はい。瑞鶴はもう3ヶ月は修理で留まる予定です」
「反乱でも起こしたのか……? すぐに瑞鶴を追いかけるんだ!」
「はっ!」
呉鎮守府に警報が鳴り響き、鎮守府所属の駆逐艦などが出撃して瑞鶴を追った。岡本大佐もすぐさまそれに加わって、瑞鶴を追いかけた。
「何がどうなっているんだ……」
「瑞鶴が何者かに乗っ取られた、ということありませんか? 艦内の警備はないも等しかったですし……」
「その線もあり得るか」
「その線も?」
「昨日の瑞鶴の様子から察するに、瑞鶴が自ら反乱を起こした可能性があるということだ」
「しかし反乱など、どうして……」
「あまり考えられないが、大和を処分するつもりだというのが露見したのかもしれないな」
「そんな馬鹿な……」
「ここで考えを巡らせても仕方があるまい。瑞鶴に真意を確かめよう」
瑞鶴は全速力で瀬戸内海を西に抜けようとしている。岡本大佐は彼女を追いかけ、無線で呼びかける。
「帝国海軍技術大佐の岡本である。瑞鶴を今動かしているのは誰だ?」
『私を動かせるのは私しかいないでしょ? 何を言ってるのかしら?』
「そうか。瑞鶴、これは君の意思なのか?」
『ええ。私の意思よ』
「どうしてこんなことを?」
『あんた達が大和を殺そうとしてるからよ』
「我々にはそんなつもりはない」
『信用できない。だから亡命させてもらうわ』
「……交渉しても無駄なようだな」
瑞鶴が何らかの確信を持っていると、大佐は確信した。
「どこに亡命する気だ?」
『教える訳ないじゃない』
「それもそうか。まあいい。君がその気ならば、実力で阻止するだけだ」
『私と戦争する気? やれるならやってみるといいわ』
「ああ、戦争だ。君を敵国の手に渡す訳にはいかないのでな」
帝国海軍は瑞鶴を捕獲するべく行動を開始した。
瑞鶴は最艦載機を運用できる程度の修理を終えた。そんな中、彼女は気がかりなことがあった。
「ねえ、これから大和はどうするの?」
瑞鶴は岡本大佐に尋ねる。
「どうすると言われてもな、特に考えてはいない。とは言え、意識のない人間を延々と生かし続けるというのは感心したものではないな」
「それは大和を殺すってこと?」
「可能性の一つとしてはそれもあり得るだろう。だが、もしも目覚めさせられるのなら、私もそうしたいのだ」
「そう。目覚めさせる見込みはあるの?」
「正直言って、現代の技術力では不可能と言わざるを得ない。将来的にそれが可能になるかもしれないが、それまで大和が生きていてくれるかどうか……」
「ちゃんと世話していれば生きていられるんじゃないの?」
「一般的に、植物状態になった人間はそう長くは生きられない。現代の医療では仕方のないことなのだ」
「……あっそう。分かった」
大和を目覚めさせるのは絶望的。それところか生かし続けるのも困難。それが現代な科学技術、医療技術の限界であった。
○
さて、その晩、瑞鶴が布団に横たわっていた時のことであった。
『瑞鶴、聞こえますか?』
聞き覚えのある優しい女性の声が瑞鶴の耳に入った。瑞鶴は飛び起きた。
「誰!?」
『よかった。聞こえているみたいですね』
「翔鶴……? 何で……?」
目の前には二本の角を持ち白い着物を纏った少女、瑞鶴の空想上の存在だった筈の翔鶴が、瑞鶴の枕元に座っていたのだ。
『確かに私はあなたの空想上の存在です。ですが、ただの妄想ではありません』
「どういうこと?」
『船魄の力とは、人の心に干渉する力。逆に言えば人の心を読むこともできるのです』
「そんなことできないんだけど?」
『ええ、そう便利な力ではありません。誰が何を考えているのか直接分かるほどでは。しかし多くの人間が同じことを考えているのなら、それを感じ取ることはできます』
「それとお姉ちゃんに何の関係が?」
『私はあなたが読み取った情報を自覚する為、あなたに一番伝わりやすい方法で情報を伝える為に作られた仮の人格、そんなところです。人の集合無意識の結晶、そんなところでしょうか』
「えっと……私の頭が作り出したってこと?」
『その通りです』
「なるほどね……。そう言えば心当たりはある」
エンタープライズが明らかにテレパシーみたいなもので話しかけてきたことがあった。今思えばそれも船魄の能力の一端だったのだろう。
「で、それが何の用?」
『現在、海軍艦政本部は、成功した船魄の例として、大和を研究対象にしようとしています。有り体に言えば、大和を解剖して調査しようということです』
「え……。それ本当?」
『多くの者がその計画を知っているし、前向きなようです。大和を目覚めさせるなど非現実的だから、後の研究の役に立ってもらおうと』
「まあ……そんな気はしてたわ」
いつまでも目覚めることない大和を生かし続けるなど非現実的だ。瑞鶴もそうだろうとは、何とはなしに察していた。
「で、そんなことを言って、私に何をさせたいの?」
『私はただ、人々の意識をあなたに伝えるだけです。どうするかについては、あなたが決めることですよ、瑞鶴』
「勝手なことを……」
翔鶴は幽霊のように消えてしまった。瑞鶴は寝てなどいられなかった。
○
「閣下! 瑞鶴が勝手に出港しています!」
「な、何だと!?」
深夜2時頃、呉鎮守府司令長官の岡田為次少将は寝室にいるところを叩き起こされた。
「そんな報告は受けていない筈だな?」
「はい。瑞鶴はもう3ヶ月は修理で留まる予定です」
「反乱でも起こしたのか……? すぐに瑞鶴を追いかけるんだ!」
「はっ!」
呉鎮守府に警報が鳴り響き、鎮守府所属の駆逐艦などが出撃して瑞鶴を追った。岡本大佐もすぐさまそれに加わって、瑞鶴を追いかけた。
「何がどうなっているんだ……」
「瑞鶴が何者かに乗っ取られた、ということありませんか? 艦内の警備はないも等しかったですし……」
「その線もあり得るか」
「その線も?」
「昨日の瑞鶴の様子から察するに、瑞鶴が自ら反乱を起こした可能性があるということだ」
「しかし反乱など、どうして……」
「あまり考えられないが、大和を処分するつもりだというのが露見したのかもしれないな」
「そんな馬鹿な……」
「ここで考えを巡らせても仕方があるまい。瑞鶴に真意を確かめよう」
瑞鶴は全速力で瀬戸内海を西に抜けようとしている。岡本大佐は彼女を追いかけ、無線で呼びかける。
「帝国海軍技術大佐の岡本である。瑞鶴を今動かしているのは誰だ?」
『私を動かせるのは私しかいないでしょ? 何を言ってるのかしら?』
「そうか。瑞鶴、これは君の意思なのか?」
『ええ。私の意思よ』
「どうしてこんなことを?」
『あんた達が大和を殺そうとしてるからよ』
「我々にはそんなつもりはない」
『信用できない。だから亡命させてもらうわ』
「……交渉しても無駄なようだな」
瑞鶴が何らかの確信を持っていると、大佐は確信した。
「どこに亡命する気だ?」
『教える訳ないじゃない』
「それもそうか。まあいい。君がその気ならば、実力で阻止するだけだ」
『私と戦争する気? やれるならやってみるといいわ』
「ああ、戦争だ。君を敵国の手に渡す訳にはいかないのでな」
帝国海軍は瑞鶴を捕獲するべく行動を開始した。
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