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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)
アメリカの終焉
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一九四六年三月十五日、アメリカ合衆国大統領官邸ホワイトハウス。
アメリカ軍は陸海共に日本軍に抵抗する能力をほぼ失っていた。ロッキー山脈より西は内戦状態が依然として続いており、海軍の船魄はフォレスタルが残るのみである。そんな中、アメリカにとって最も恐れるべき報せが入った。
「大統領閣下! 一大事です! ソ連が、ソ連が我が国に、最後通告を叩きつけてきました!!」
「ほう。やっと来たか。遅かったじゃないか。で、内容は?」
「我が国が枢軸国に無条件降伏することが、ソ連の要求です。さもなくば、12時間後にソ連軍は行動を開始するとのこと」
「思った通りだ。つまらない通告だな」
「大統領閣下、正気ですか? あんたはソ連と戦争する気なんですか?」
トルーマンは問う。
「当たり前じゃないか」
「今の我が軍で、ソ連に勝てるとでも?」
「確かに、今の我が軍では勝てないだろう。だが、それなら勝てる方法を考えるのが政治家というものではないかね?」
「それはそうですが……そんな手段があるなら苦労しないんですよ」
「簡単なことじゃないか。根こそぎ動員だ! これよりアメリカの全国民は兵士となるのだ!」
ルーズベルトは笑いながら言う。トルーマンはついに堪忍袋の緒が切れた。
「……馬鹿を言え! 全国民に行き渡らせられるだけの武器などないんだぞ!」
「アメリカ人なら皆家庭に銃を持っているじゃないか」
「護身用の銃程度でソ連軍と戦えるとでも!?」
「では手榴弾でも配ればよかろう。手榴弾が足りなければ鉄パイプでも配りたまえ。鉄パイプも足りなければ近くの木を切り倒して槍でも作りたまえ。武器はどこにでもある。アメリカ人の闘争本能さえあれば、戦争はどこでもできるのだよ」
「ふ、ふざけているのか、貴様は……?」
「私はいつだって真面目に戦争をしているよ」
「これの、これのどこが指導者だッ!! 貴様はもう、この国の指導者ではないッ!!」
トルーマンは服の中に忍ばせていた拳銃を取り出し、ルーズベルトに向けた。そんな計画ではなかったのだが、ここでやらねばならぬと決意したのだ。
「おやおや。乱心かね」
「乱心はどちらだッ!! 貴様がアメリカを裏切ったのだッ!! 貴様こそ――」
その時、銃声が響き、トルーマンの声が途絶えた。その後ろには拳銃を構えたルメイ中将が立っていた。
「おお、ルメイ君、いいところに来てくれたね」
「はい。このような裏切り者がまだいたとは驚きです。間に合ってよかった」
「君の忠誠には感謝するよ」
「はっ。選挙によって選ばれた大統領閣下こそ、この国で唯一絶対の指導者です。そして閣下に銃を向ける者は全て民主主義の敵です。民主主義の敵は殲滅されなければなりません」
「そうかそうか。軍にも君のような賢明な将軍が残っていてよかったよ。さて、次の相手はソ連だ。我が国始まって以来の大戦争が待っているぞ」
「はっ。必ずや民主主義を守り抜きましょう」
ソ連軍はまもなく、侵攻を開始した。
○
ソ連軍は3月15日にアラスカへの進軍を開始した。そこにはドイツ軍の姿もあった。これはソ連が一方的に利益を得ないよう掣肘する為であり、ソ連の補給を事実上握っている日本がドイツに依頼したものだ。
とは言え、現場レベルでの関係は悪くない。ドイツ軍アメリカ遠征軍の指揮官エルヴィン・ロンメル大将とソ連赤軍極東軍管区司令官ゲオルギー・ジューコフ大将はお互いの手腕を賞賛し合った。赤軍とドイツ軍が手を組めば、最早向かうところに敵はなかった。
3月19日、アラスカ陥落が確実視される中、アメリカ軍はカナダに進駐し、事実上占領した。アメリカ本土への防波堤とする為である。
3月22日、アメリカ軍アラスカ守備隊は玉砕し、現地指揮官のリッジウェイ中将は自決した。
3月26日、カナダ戦線は崩壊し、ロッキー山脈の東、モンタナ州に赤軍が侵入した。ルーズベルトは改めて全国民の動員を宣言し、軍は老若男女を問わず国民を戦争に駆り出した。それからは酷い有様であった。
国境近くの街で兵士達は家々を回り、そこに住んでいる者の数を聞くと、同じ数の手榴弾を手渡し、銃口を突き付けて赤軍に突撃させた。もちろん生還などできる訳がない。赤軍に撃ち殺されるか手榴弾で自爆するかのみである。
赤軍に降伏しようとする者はアメリカ軍の手で射殺され、死体は街路に投げ捨てられて障害物代わりとされた。手榴弾も尽きてくると、ルーズベルトの命令通り国民に鉄パイプを削った槍が手渡され、全く無意味な自殺を強いられた。
4月3日、ルーズベルトの暴虐に耐え兼ねたモンタナ州、アイダホ州、ワイオミング州は合衆国からの離脱し、ソ連に降伏を申し出た。
「ほう。南北戦争をもう一度しようとするつもりかな?」
「大統領閣下、もうそんなことをしている余裕もありませんよ」
マッカーサー大将は言った。
「何を言っているんだね、ダグラス。本土決戦用の予備師団があるじゃないか」
「まさか、最後の機甲戦力を内乱の鎮圧に使うつもりで?」
「その為に最強の戦力を残しておいたんじゃないか。さあダグラス、合衆国を裏切った不届き者を討伐してきてくれ。民主主義への背信者の運命を、世界に見せしめてやるのだ」
「はいはい、分かりましたよ」
マッカーサー大将はそんな命令に従うつもりなど毛頭なく、適当に出撃しているフリをしてルーズベルトの目を誤魔化した。
4月5日、離反した12の州はアメリカ正統政府を自称し、赤軍の支援の下、アメリカ合衆国に宣戦を布告した。また同日、メキシコが離反しアメリカに攻め込んだ。
そして、運命の日は訪れた。4月7日のことである。
「何だ? 暴動かね?」
「いいえ、大統領閣下。これは革命です」
マッカーサー大将はクーデターを起こし首都を掌握。革命政権の樹立を宣言し、枢軸国に講和を申し込むと同時に、独立した諸州に革命政権への合流を要求した。
アメリカ合衆国の降伏式典は、ワシントンに寄港した戦艦長門の艦上で厳かに行われた。
アメリカ軍は陸海共に日本軍に抵抗する能力をほぼ失っていた。ロッキー山脈より西は内戦状態が依然として続いており、海軍の船魄はフォレスタルが残るのみである。そんな中、アメリカにとって最も恐れるべき報せが入った。
「大統領閣下! 一大事です! ソ連が、ソ連が我が国に、最後通告を叩きつけてきました!!」
「ほう。やっと来たか。遅かったじゃないか。で、内容は?」
「我が国が枢軸国に無条件降伏することが、ソ連の要求です。さもなくば、12時間後にソ連軍は行動を開始するとのこと」
「思った通りだ。つまらない通告だな」
「大統領閣下、正気ですか? あんたはソ連と戦争する気なんですか?」
トルーマンは問う。
「当たり前じゃないか」
「今の我が軍で、ソ連に勝てるとでも?」
「確かに、今の我が軍では勝てないだろう。だが、それなら勝てる方法を考えるのが政治家というものではないかね?」
「それはそうですが……そんな手段があるなら苦労しないんですよ」
「簡単なことじゃないか。根こそぎ動員だ! これよりアメリカの全国民は兵士となるのだ!」
ルーズベルトは笑いながら言う。トルーマンはついに堪忍袋の緒が切れた。
「……馬鹿を言え! 全国民に行き渡らせられるだけの武器などないんだぞ!」
「アメリカ人なら皆家庭に銃を持っているじゃないか」
「護身用の銃程度でソ連軍と戦えるとでも!?」
「では手榴弾でも配ればよかろう。手榴弾が足りなければ鉄パイプでも配りたまえ。鉄パイプも足りなければ近くの木を切り倒して槍でも作りたまえ。武器はどこにでもある。アメリカ人の闘争本能さえあれば、戦争はどこでもできるのだよ」
「ふ、ふざけているのか、貴様は……?」
「私はいつだって真面目に戦争をしているよ」
「これの、これのどこが指導者だッ!! 貴様はもう、この国の指導者ではないッ!!」
トルーマンは服の中に忍ばせていた拳銃を取り出し、ルーズベルトに向けた。そんな計画ではなかったのだが、ここでやらねばならぬと決意したのだ。
「おやおや。乱心かね」
「乱心はどちらだッ!! 貴様がアメリカを裏切ったのだッ!! 貴様こそ――」
その時、銃声が響き、トルーマンの声が途絶えた。その後ろには拳銃を構えたルメイ中将が立っていた。
「おお、ルメイ君、いいところに来てくれたね」
「はい。このような裏切り者がまだいたとは驚きです。間に合ってよかった」
「君の忠誠には感謝するよ」
「はっ。選挙によって選ばれた大統領閣下こそ、この国で唯一絶対の指導者です。そして閣下に銃を向ける者は全て民主主義の敵です。民主主義の敵は殲滅されなければなりません」
「そうかそうか。軍にも君のような賢明な将軍が残っていてよかったよ。さて、次の相手はソ連だ。我が国始まって以来の大戦争が待っているぞ」
「はっ。必ずや民主主義を守り抜きましょう」
ソ連軍はまもなく、侵攻を開始した。
○
ソ連軍は3月15日にアラスカへの進軍を開始した。そこにはドイツ軍の姿もあった。これはソ連が一方的に利益を得ないよう掣肘する為であり、ソ連の補給を事実上握っている日本がドイツに依頼したものだ。
とは言え、現場レベルでの関係は悪くない。ドイツ軍アメリカ遠征軍の指揮官エルヴィン・ロンメル大将とソ連赤軍極東軍管区司令官ゲオルギー・ジューコフ大将はお互いの手腕を賞賛し合った。赤軍とドイツ軍が手を組めば、最早向かうところに敵はなかった。
3月19日、アラスカ陥落が確実視される中、アメリカ軍はカナダに進駐し、事実上占領した。アメリカ本土への防波堤とする為である。
3月22日、アメリカ軍アラスカ守備隊は玉砕し、現地指揮官のリッジウェイ中将は自決した。
3月26日、カナダ戦線は崩壊し、ロッキー山脈の東、モンタナ州に赤軍が侵入した。ルーズベルトは改めて全国民の動員を宣言し、軍は老若男女を問わず国民を戦争に駆り出した。それからは酷い有様であった。
国境近くの街で兵士達は家々を回り、そこに住んでいる者の数を聞くと、同じ数の手榴弾を手渡し、銃口を突き付けて赤軍に突撃させた。もちろん生還などできる訳がない。赤軍に撃ち殺されるか手榴弾で自爆するかのみである。
赤軍に降伏しようとする者はアメリカ軍の手で射殺され、死体は街路に投げ捨てられて障害物代わりとされた。手榴弾も尽きてくると、ルーズベルトの命令通り国民に鉄パイプを削った槍が手渡され、全く無意味な自殺を強いられた。
4月3日、ルーズベルトの暴虐に耐え兼ねたモンタナ州、アイダホ州、ワイオミング州は合衆国からの離脱し、ソ連に降伏を申し出た。
「ほう。南北戦争をもう一度しようとするつもりかな?」
「大統領閣下、もうそんなことをしている余裕もありませんよ」
マッカーサー大将は言った。
「何を言っているんだね、ダグラス。本土決戦用の予備師団があるじゃないか」
「まさか、最後の機甲戦力を内乱の鎮圧に使うつもりで?」
「その為に最強の戦力を残しておいたんじゃないか。さあダグラス、合衆国を裏切った不届き者を討伐してきてくれ。民主主義への背信者の運命を、世界に見せしめてやるのだ」
「はいはい、分かりましたよ」
マッカーサー大将はそんな命令に従うつもりなど毛頭なく、適当に出撃しているフリをしてルーズベルトの目を誤魔化した。
4月5日、離反した12の州はアメリカ正統政府を自称し、赤軍の支援の下、アメリカ合衆国に宣戦を布告した。また同日、メキシコが離反しアメリカに攻め込んだ。
そして、運命の日は訪れた。4月7日のことである。
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「いいえ、大統領閣下。これは革命です」
マッカーサー大将はクーデターを起こし首都を掌握。革命政権の樹立を宣言し、枢軸国に講和を申し込むと同時に、独立した諸州に革命政権への合流を要求した。
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