上 下
195 / 376
第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)

アメリカ軍の終焉

しおりを挟む
「何があった……」
「敵は特攻して来たようです! 艦尾が大きな損傷しています!」
「貴重なジェット機で特攻とは……。ミッドウェイ、大丈夫か?」
「非常に……痛いですが……何とか……」
「そんなところすまないが、動けそうか?」
「ダメ、ですね。スクリューに、動力を伝達、できません。とても、現場の修理では、どうにもならない、でしょう」
「そうか……。これでは逃げ切れない。お終いだな」
「閣下は、とっとと逃げれば、いいのでは?」
「ああ。だが、その前にやることがある。これ以上の戦闘は無益だ。日本軍と交渉する」
「そんなこと、できるん、ですか?」
「君のような子を死なせる訳にはいかない。日本軍に交渉を呼び掛けるんだ」
「しかし、どうすれば……」
「信号灯でも手旗でも何でもあるだろ。急げ!」

 スプルーアンス大将は日本軍に一時的な停戦を呼び掛けた。日本軍はこれに応じる意志を示し、両軍の間の砲火が途絶え、海は静寂に包まれた。

 ○

 両軍の交渉は瑞鶴の艦内で行われることとなった。交渉を申し入れたスプルーアンス大将が瑞鶴を訪れる格好である。帝国海軍はスプルーアンス大将らを丁寧に迎え入れ、連合艦隊司令長官の豊田副武大将がスプルーアンス大将と面会した。

「スプルーアンス大将閣下、我々としても無用な血が流れるのは避けたい。停戦の交渉は歓迎します」
「無茶な要望を受け入れて下さりありがとうございます、豊田閣下。あまり長くお話するつもりもありません。こちらから要求を伝えさせてもらいます」
「聞きましょう」
「我々の要求は二つ。一つは航行不能のミッドウェイを除いた艦艇を見逃してもらうこと。もう一つは……誰が船魄に詳しい者にお話したいのですが、ここにおりますか?」
「船魄ですか。それなら、岡本平八大佐が」

 豊田大将は岡本大佐を呼び出した。

「どうも、スプルーアンス大将閣下。私は岡本平八大佐。船魄技術を生み出した者です」
「そうか、あなたが……。あなたに頼みがあります。ミッドウェイの船魄を無力化して、取り外してもらいたいのです」
「取り外す? それはまた、どういうことですか?」
「ミッドウェイはもう動きません。自沈させることになるでしょう。しかしそれでは、船魄も殺してしまいます」
「なるほど。そういうことなら。豊田閣下、構いませんよね?」
「ああ。それは勝手にしてくれて構わない」

 帝国海軍にとって損も得もないことだ。あえて拒否する理由はない。

「それで閣下、それだけの要求をされるのですから、それなりの見返りは求めさせてもらいますよ」
「当然ですね。とは言っても、我々から出せる条件はほとんどありませんが。この戦いを続けずに済む、ということの他に約束できることと言えば、パナマ運河を使用不能にすることです」
「パナマ運河を?」
「はい。そうすれば合衆国は、西海岸に手を出せなくなるようなものです」
「あなた方がパナマ運河を破壊すると?」
「流石にそれはできかねますが、その手引きをすることはできます」
「なるほど。それなら、一個艦隊を取り逃がす対価としては十分です」

 かくして両軍は密約を結んだ。パナマ運河を破壊する代わりに今ここにいる艦隊を逃がすという密約である。

 ○

 さて、岡本大佐は船魄切り離しの為、ミッドウェイに乗り込んだ。

「君がミッドウェイか」
「誰ですか、あなた?」

 大佐はささっと自己紹介を済ませた。

「――私達の生みの親、ですか」
「ああ。だが今から、君には船魄を辞めてもらうことになりそうだ」
「? それはどういう……」
「すまないが、暫く眠っていてもらうよ」

 ミッドウェイを眠らせ、岡本大佐は早速彼女の検分を始めた。申し訳程度のマニュアルなどを頼りに、アメリカ式の船魄の構造を把握するのだ。

「どうです? できそうですか?」
「ええ。船魄の設計は概ね理解しました。我が国では体内に収めている器官を艦の側に納めて物理的に接続しています。確かに無理やり引き剥がせば死んでしまうでしょうか、適切な処置を施せば、艦から取り外すことができるでしょう」
「よかった……。必要なものがあれば何でも言ってください」
「ありがとうございます。では早速、作業に取り掛かります」

 アメリカの技術は所詮、日本の技術の模倣に過ぎない。見た目は違えど本質はほとんど同じである。岡本大佐にとって大した作業ではなかった。

「……ふう。これで船魄を取り出せます。もうこの艦とは縁もゆかりもありません」
「そうか……よかった。それと、もう一つ頼んでもいいでしょうか?」
「何です?」
「この子をこれからどう扱えばいいか、我々には分かりません。そちらで預かっていただけますか?」
「相当な軍事機密の流出だと思いますがね」
「所詮は日本の模倣に過ぎないのでしょう? あなたが簡単に理解してしまったのがその証拠です」
「確かに、その通りですね。分かりました。この子はこちらで預かりましょう」
「ありがとう、大佐」

 ミッドウェイは自沈処理とされ、艦隊は撤退を開始した。艦隊旗艦はフォレスタルに移され、スプルーアンス大将も乗り移った。

「そう。姉さん、死んだんだ」

 フォレスタルは興味なさそうに呟いた。

「すまない。君の大切な姉妹を失ってしまった」
「別に、本当の姉妹って訳じゃない。どうでもいいことだよ」
「そうか……」

 艦隊は撤退する道中、日本軍をパナマ運河に案内し、瑞鶴がこれを爆撃して破壊した。約定は果たされ、アメリカ最後の艦隊は西海岸を放棄して撤退した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

月は夜をかき抱く ―Alkaid―

深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。 アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[不定期更新中] ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

処理中です...