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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)
サンフランシスコ沖海戦
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帝国海軍もアメリカ海軍の動きを見逃していた訳ではない。アメリカの有力なる艦隊がパナマ運河を通過したことは既に察知している。だが瑞鶴は飛行甲板を損傷して地上からしか艦載機を発艦させることができず、サンフランシスコから動くことはできなかった。故に決戦の場は最初からサンフランシスコと決まっている。
○
一九四六年二月五日、メキシコ沖合。
アメリカ海軍の残存艦艇をほぼ全て投入した艦隊の指揮を任されたのはスプルーアンス大将であった。高級将校のほとんどが戦死した海軍で運よく生き残った将軍であり、アメリカ海軍一の頭脳との称される男である。
艦隊の中核となるのは超大型空母ミッドウェイとフォレスタルであり、スプルーアンス大将はミッドウェイを艦隊旗艦とした。他に所属しているのは、アイオワ級戦艦七番艦のコロラド、八番艦のテネシーに、巡洋艦が10隻、駆逐艦が20隻程度である。
ほぼ全てがフィリピン沖海戦以降に建造された艦であり、人間の艦は練度が低く、船魄の方も実戦経験は全くない。
「君はエンタープライズとは随分雰囲気が違うようだが、大丈夫なのか?」
ミッドウェイ艦橋の真ん中の座った赤毛の少女にスプルーアンス大将は問いかける。ミッドウェイの船魄である。ミッドウェイはエンタープライズと比べるとまるで覇気がなく、物静かな学生と言った印象を受ける。しかしこれでも、アメリカ軍が試作した中で一番上手くいった船魄である。
「瑞鶴と戦ったことはありませんので、何とも言えません。少なくとも人間の方々を圧倒することはできますが」
「確かに訓練の成果は圧倒的だったな。君に期待するしかないか」
「フォレスタルと共に戦えば、数の上で瑞鶴を圧倒できます。私の力量が劣るとて、負けることはないでしょう」
この時点で米軍は、長門が船魄化されていることを知らない。脅威は瑞鶴だけだと捉えていた。
「君は本当に、エンタープライズとは真逆だな。知性的なのはいいことだが、とは言え戦士としてはいかがなものか……」
「我々は軍人です。そのような前近代的発想は不要なのでは?」
「人間の社会はそう単純にできてはいないんだよ」
「そうですか」
ミッドウェイは不満そうに応えた。
「ともかくだ、君達に全てがかかっているんだ。頑張ってくれ」
「無論です」
「例えここで勝ったとしても、合衆国に明るい未来があるとは思えないがな……」
スプルーアンス大将はふと溜息を吐いた。
「? では私達は何の為に戦っているのですか?」
「少しでも合衆国に優位な条件で講和する為だ。確かにアメリカ大陸に引き籠っていれば負けはしないだろうが、そんな状態でいつまでも国が持つ筈がない。枢軸国が相当に譲歩してくれていると言うのに、愚かなことだ」
「そうですか」
ミッドウェイは特に何も感じていないようだった。
「閣下、敵艦を発見したとのこと。サンフランシスコ沖合で我々を待ち構えているようです」
「やはり、流石にバレていたか。戦闘を開始する。ミッドウェイ、フォレスタル、全機発艦せよ!」
「了解しました」
かくして戦いの火蓋は切られた。
○
「敵襲です!! 南方およそ250kmに多数の機影を確認!!」
電探がアメリカ軍の攻撃隊を捉えた。
「クソッ。先手を取られた!」
瑞鶴はにわかに焦る。この距離ではこちらが全機を発艦させる前に敵機が襲来してしまうだろう。
「落ち着くんだ、瑞鶴。一先ずは迎撃に専念する。烈風だけを出せば十分だ」
「そ、そうね。分かった」
空母なのに地上の飛行場に頼るというのは今でも不快であったが、瑞鶴は烈風を次々に離陸させた。幸いなことに、瑞鶴の制御下にある50機の烈風は全て上げることに成功した。
「コメットとやらを迎撃した時のようにやろう。君はなるべく遠距離で敵を迎撃し、近寄ってきた敵は高角砲と機銃で迎撃するのだ」
「分かった」
地上の設置した高射砲からの支援も期待できる。瑞鶴は烈風を敵編隊に向けて突撃させ、艦隊から30kmほどの地点で会敵した。
「会敵! 戦闘を開始するわ!」
瑞鶴は機銃で米軍機に対し射撃を開始した。が、その攻撃は回避されてしまった。
「私の攻撃が避けられた!? そんな馬鹿なッ!」
瑞鶴は咄嗟に艦載機を下がれせ、敵編隊と距離を取った。瑞鶴は異常なまでに敵を恐れていた。
「どうやら、敵は船魄のようだな」
「クソッ……」
「瑞鶴?」
瑞鶴の手は震えていた。大和を失ったハワイ沖海戦と全く同じ状況だからである。岡本大佐はすぐに瑞鶴の怯えを理解した。
「落ち着け、瑞鶴。恐らくだが、敵は大して強くはない」
「どうして?」
「船魄は、船魄となる前に実戦経験を経たものでなければ、大した能力を発揮できないのだ。アメリカの空母は全て沈めた以上、敵に実戦経験のある空母はない」
「訳が分からないんだけど」
「私を信じてくれ、瑞鶴。敵は人間よりは強いが、君よりは遥かに弱い」
「……分かった。間違ってたら殺すわよ」
「構わない」
瑞鶴は態勢を立て直し、ミッドウェイとフォレスタルの艦載機に再度攻撃を仕掛ける。
○
一九四六年二月五日、メキシコ沖合。
アメリカ海軍の残存艦艇をほぼ全て投入した艦隊の指揮を任されたのはスプルーアンス大将であった。高級将校のほとんどが戦死した海軍で運よく生き残った将軍であり、アメリカ海軍一の頭脳との称される男である。
艦隊の中核となるのは超大型空母ミッドウェイとフォレスタルであり、スプルーアンス大将はミッドウェイを艦隊旗艦とした。他に所属しているのは、アイオワ級戦艦七番艦のコロラド、八番艦のテネシーに、巡洋艦が10隻、駆逐艦が20隻程度である。
ほぼ全てがフィリピン沖海戦以降に建造された艦であり、人間の艦は練度が低く、船魄の方も実戦経験は全くない。
「君はエンタープライズとは随分雰囲気が違うようだが、大丈夫なのか?」
ミッドウェイ艦橋の真ん中の座った赤毛の少女にスプルーアンス大将は問いかける。ミッドウェイの船魄である。ミッドウェイはエンタープライズと比べるとまるで覇気がなく、物静かな学生と言った印象を受ける。しかしこれでも、アメリカ軍が試作した中で一番上手くいった船魄である。
「瑞鶴と戦ったことはありませんので、何とも言えません。少なくとも人間の方々を圧倒することはできますが」
「確かに訓練の成果は圧倒的だったな。君に期待するしかないか」
「フォレスタルと共に戦えば、数の上で瑞鶴を圧倒できます。私の力量が劣るとて、負けることはないでしょう」
この時点で米軍は、長門が船魄化されていることを知らない。脅威は瑞鶴だけだと捉えていた。
「君は本当に、エンタープライズとは真逆だな。知性的なのはいいことだが、とは言え戦士としてはいかがなものか……」
「我々は軍人です。そのような前近代的発想は不要なのでは?」
「人間の社会はそう単純にできてはいないんだよ」
「そうですか」
ミッドウェイは不満そうに応えた。
「ともかくだ、君達に全てがかかっているんだ。頑張ってくれ」
「無論です」
「例えここで勝ったとしても、合衆国に明るい未来があるとは思えないがな……」
スプルーアンス大将はふと溜息を吐いた。
「? では私達は何の為に戦っているのですか?」
「少しでも合衆国に優位な条件で講和する為だ。確かにアメリカ大陸に引き籠っていれば負けはしないだろうが、そんな状態でいつまでも国が持つ筈がない。枢軸国が相当に譲歩してくれていると言うのに、愚かなことだ」
「そうですか」
ミッドウェイは特に何も感じていないようだった。
「閣下、敵艦を発見したとのこと。サンフランシスコ沖合で我々を待ち構えているようです」
「やはり、流石にバレていたか。戦闘を開始する。ミッドウェイ、フォレスタル、全機発艦せよ!」
「了解しました」
かくして戦いの火蓋は切られた。
○
「敵襲です!! 南方およそ250kmに多数の機影を確認!!」
電探がアメリカ軍の攻撃隊を捉えた。
「クソッ。先手を取られた!」
瑞鶴はにわかに焦る。この距離ではこちらが全機を発艦させる前に敵機が襲来してしまうだろう。
「落ち着くんだ、瑞鶴。一先ずは迎撃に専念する。烈風だけを出せば十分だ」
「そ、そうね。分かった」
空母なのに地上の飛行場に頼るというのは今でも不快であったが、瑞鶴は烈風を次々に離陸させた。幸いなことに、瑞鶴の制御下にある50機の烈風は全て上げることに成功した。
「コメットとやらを迎撃した時のようにやろう。君はなるべく遠距離で敵を迎撃し、近寄ってきた敵は高角砲と機銃で迎撃するのだ」
「分かった」
地上の設置した高射砲からの支援も期待できる。瑞鶴は烈風を敵編隊に向けて突撃させ、艦隊から30kmほどの地点で会敵した。
「会敵! 戦闘を開始するわ!」
瑞鶴は機銃で米軍機に対し射撃を開始した。が、その攻撃は回避されてしまった。
「私の攻撃が避けられた!? そんな馬鹿なッ!」
瑞鶴は咄嗟に艦載機を下がれせ、敵編隊と距離を取った。瑞鶴は異常なまでに敵を恐れていた。
「どうやら、敵は船魄のようだな」
「クソッ……」
「瑞鶴?」
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「落ち着け、瑞鶴。恐らくだが、敵は大して強くはない」
「どうして?」
「船魄は、船魄となる前に実戦経験を経たものでなければ、大した能力を発揮できないのだ。アメリカの空母は全て沈めた以上、敵に実戦経験のある空母はない」
「訳が分からないんだけど」
「私を信じてくれ、瑞鶴。敵は人間よりは強いが、君よりは遥かに弱い」
「……分かった。間違ってたら殺すわよ」
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瑞鶴は態勢を立て直し、ミッドウェイとフォレスタルの艦載機に再度攻撃を仕掛ける。
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