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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)
西海岸襲撃
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一九四五年十二月十三日、アメリカ合衆国カリフォルニア州、サンフランシスコ。
『全てのサンフランシスコ市民に次ぐ。私は大日本帝国海軍連合艦隊司令長官、豊田副武である。これより3日後、帝国海軍は、サンフランシスコに対し爆撃及び砲撃を開始する。生き延びたくばサンフランシスコから脱出せよ』
サンフランシスコに日本からこのような呼び掛けがあった。だが西海岸を実質的に牛耳るルメイ中将は、この通告を無視し、市民の誰にも伝えなかった。
「中将閣下、よろしいのですか? 念の為にでも市民を退避させておいた方が……」
「馬鹿者! サンフランシスコから逃げるのは民主主義の敗北も同じである! 民主主義は決して負けてはならない! 誰一人としてサンフランシスコから出すなッ!!」
「は、はい……」
狂信的な民主主義者であるルメイ中将は、アメリカ本土に日本人を踏み入らせるのが許せなかったのである。
○
そして期日がやって来た。日本艦隊は悠々とサンフランシスコの沿岸に陣取り、攻撃の命令を待っている。瑞鶴と長門も当然ながら参加している。
「予告なんてする必要ないのに。アメリカ人なんて全員焼き殺せばいいのよ」
瑞鶴は言う。岡本大佐は苦笑いする。
「明らかに民用の場所に無警告で攻撃するのは国際法違反だ。帝国海軍が犯罪に手を染める訳にはいかないだろう」
「白人共が勝手に決めたルールなんだし、守る必要ないじゃない」
「確かにその通りだが、帝国はその上で条約を批准しているのだ。気に食わないからと言ってルールを破っていては、アメリカと同じだ」
「わ、わざわざ言わなくても分かってるわよ」
今か今かと命令を待っていると、瑞鶴にサンフランシスコ偵察の命令が来た。
「偵察? 警告したんだからとっとと爆撃すればいいのに」
「まあまあ、ここは従ってくれ」
「はいはい」
瑞鶴は偵察機彩雲を飛ばした。本土だと言うのにアメリカ軍の妨害はなく、瑞鶴は遊覧飛行を楽しんだだけであった。
「どうだ?」
「うーん、とても人が避難しているようには見えないわね。車が山ほど走ってるし、道端に死ぬほど人がいるわ」
「ふむ、サンフランシスコで玉砕するとでも言いたいのか」
「さあね。取り敢えず連合艦隊司令部にでも報告すれば?」
「ああ、そうだな」
瑞鶴の見たままに報告を行う。連合艦隊司令部は思いの外すぐに攻撃開始を命じた。
「――あ、そう。殺していいんだ」
「ここに残っているのは死にたい連中だけということだ。構うまい。長門も、準備はいいな?」
『無論だ。いつでも砲撃を開始できる』
「よろしい。では瑞鶴、長門、サンフランシスコを火の海にするのだ」
「ええ、喜んで」
『任された!』
まず火を噴いたのは長門の主砲である。8門の41cm砲の砲撃は、もう25年前のものとは言え、現在でも圧倒的な威力を誇る。地下壕でもなければこの砲撃に耐え得るものは地上には存在しえない。
『ゴールデンゲートブリッジを破壊した。次いで周辺の橋も破壊する』
「ちょっと、抜け駆けしないでよ!」
『作戦は迅速に実行されるべきだ』
瑞鶴が爆撃機を発艦させている間に、長門は30回以上の斉射を行い、サンフランシスコの名だたる建築物を次々と破壊した。デ・アシス・ミッション協会、ハリディ・ビル、パレスホテルなどなどである。これでサンフランシスコの観光業は完全に壊滅したであろう。
瑞鶴が攻撃の準備を整えた時には、事前に策定されていた目標は大方破壊されてしまっていた。
「クソッ。人の活躍を奪って……」
瑞鶴は恨めしそうに言う。
『仕方があるまい。第一、自分自身の武功に拘るのは軍人のあるべき姿ではない』
「それはそうだけど……まあいいわ」
瑞鶴は20機ばかりの爆撃機を出撃させ、高層ビルの立ち並ぶサンフランシスコ中心部を爆撃した。ビルは次々と倒壊し、恐らく何万という人間が巻き込まれて死んだ。
「ふん。今更になって逃げ回るなんて、馬鹿な連中ね」
何十万という人々が家を投げ出し逃げ回るのを見つつ、瑞鶴は攻撃の手を緩めることはなかった。敢えて人間に機銃掃射するようなことはしないが、爆弾の巻き添えで人間が死ぬことは気にしない。
かくして攻撃開始からおよそ1時間で、サンフランシスコは随分と見晴らしのいい焼け野原になった。
「爆弾を使い切ったわ。帰投する」
「ああ。よくやってくれた。だが、まだ不十分だ。第二次攻撃隊の準備も進めておけ」
「まだやるの? もう十分ぶっ壊したと思うけど」
「こういう表現はあまりしたくないが、これは見せしめなのだ。帝国海軍の力を見せつけ、アメリカに降伏を促す為のな」
瑞鶴が補給を行っている間にも長門は砲撃を続行し、サンフランシスコから建物という建物がなくなりそうな勢いである。
が、その時であった。
「ん? 敵ね。敵の局地戦闘機が来たわ」
「ここに来てようやく出てくるか。迎撃してくれ」
人間の乗る戦闘機やら攻撃機やらが姿を現した。その数は実に300ほど。なかなか数は多いが、瑞鶴の敵ではない。
『全てのサンフランシスコ市民に次ぐ。私は大日本帝国海軍連合艦隊司令長官、豊田副武である。これより3日後、帝国海軍は、サンフランシスコに対し爆撃及び砲撃を開始する。生き延びたくばサンフランシスコから脱出せよ』
サンフランシスコに日本からこのような呼び掛けがあった。だが西海岸を実質的に牛耳るルメイ中将は、この通告を無視し、市民の誰にも伝えなかった。
「中将閣下、よろしいのですか? 念の為にでも市民を退避させておいた方が……」
「馬鹿者! サンフランシスコから逃げるのは民主主義の敗北も同じである! 民主主義は決して負けてはならない! 誰一人としてサンフランシスコから出すなッ!!」
「は、はい……」
狂信的な民主主義者であるルメイ中将は、アメリカ本土に日本人を踏み入らせるのが許せなかったのである。
○
そして期日がやって来た。日本艦隊は悠々とサンフランシスコの沿岸に陣取り、攻撃の命令を待っている。瑞鶴と長門も当然ながら参加している。
「予告なんてする必要ないのに。アメリカ人なんて全員焼き殺せばいいのよ」
瑞鶴は言う。岡本大佐は苦笑いする。
「明らかに民用の場所に無警告で攻撃するのは国際法違反だ。帝国海軍が犯罪に手を染める訳にはいかないだろう」
「白人共が勝手に決めたルールなんだし、守る必要ないじゃない」
「確かにその通りだが、帝国はその上で条約を批准しているのだ。気に食わないからと言ってルールを破っていては、アメリカと同じだ」
「わ、わざわざ言わなくても分かってるわよ」
今か今かと命令を待っていると、瑞鶴にサンフランシスコ偵察の命令が来た。
「偵察? 警告したんだからとっとと爆撃すればいいのに」
「まあまあ、ここは従ってくれ」
「はいはい」
瑞鶴は偵察機彩雲を飛ばした。本土だと言うのにアメリカ軍の妨害はなく、瑞鶴は遊覧飛行を楽しんだだけであった。
「どうだ?」
「うーん、とても人が避難しているようには見えないわね。車が山ほど走ってるし、道端に死ぬほど人がいるわ」
「ふむ、サンフランシスコで玉砕するとでも言いたいのか」
「さあね。取り敢えず連合艦隊司令部にでも報告すれば?」
「ああ、そうだな」
瑞鶴の見たままに報告を行う。連合艦隊司令部は思いの外すぐに攻撃開始を命じた。
「――あ、そう。殺していいんだ」
「ここに残っているのは死にたい連中だけということだ。構うまい。長門も、準備はいいな?」
『無論だ。いつでも砲撃を開始できる』
「よろしい。では瑞鶴、長門、サンフランシスコを火の海にするのだ」
「ええ、喜んで」
『任された!』
まず火を噴いたのは長門の主砲である。8門の41cm砲の砲撃は、もう25年前のものとは言え、現在でも圧倒的な威力を誇る。地下壕でもなければこの砲撃に耐え得るものは地上には存在しえない。
『ゴールデンゲートブリッジを破壊した。次いで周辺の橋も破壊する』
「ちょっと、抜け駆けしないでよ!」
『作戦は迅速に実行されるべきだ』
瑞鶴が爆撃機を発艦させている間に、長門は30回以上の斉射を行い、サンフランシスコの名だたる建築物を次々と破壊した。デ・アシス・ミッション協会、ハリディ・ビル、パレスホテルなどなどである。これでサンフランシスコの観光業は完全に壊滅したであろう。
瑞鶴が攻撃の準備を整えた時には、事前に策定されていた目標は大方破壊されてしまっていた。
「クソッ。人の活躍を奪って……」
瑞鶴は恨めしそうに言う。
『仕方があるまい。第一、自分自身の武功に拘るのは軍人のあるべき姿ではない』
「それはそうだけど……まあいいわ」
瑞鶴は20機ばかりの爆撃機を出撃させ、高層ビルの立ち並ぶサンフランシスコ中心部を爆撃した。ビルは次々と倒壊し、恐らく何万という人間が巻き込まれて死んだ。
「ふん。今更になって逃げ回るなんて、馬鹿な連中ね」
何十万という人々が家を投げ出し逃げ回るのを見つつ、瑞鶴は攻撃の手を緩めることはなかった。敢えて人間に機銃掃射するようなことはしないが、爆弾の巻き添えで人間が死ぬことは気にしない。
かくして攻撃開始からおよそ1時間で、サンフランシスコは随分と見晴らしのいい焼け野原になった。
「爆弾を使い切ったわ。帰投する」
「ああ。よくやってくれた。だが、まだ不十分だ。第二次攻撃隊の準備も進めておけ」
「まだやるの? もう十分ぶっ壊したと思うけど」
「こういう表現はあまりしたくないが、これは見せしめなのだ。帝国海軍の力を見せつけ、アメリカに降伏を促す為のな」
瑞鶴が補給を行っている間にも長門は砲撃を続行し、サンフランシスコから建物という建物がなくなりそうな勢いである。
が、その時であった。
「ん? 敵ね。敵の局地戦闘機が来たわ」
「ここに来てようやく出てくるか。迎撃してくれ」
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