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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)

⑦計画Ⅲ

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 岡本大佐はハワイへの帰り際、海軍省に寄って米内光政海軍大臣に⑦計画について報告をすることになった。米内海軍大臣は大抵の人間に口数の少ない面倒臭がりと認識されているが、実際のところ少人数で会話すると話しやすい男である。また大東亜戦争直前に首相を務めていたこともある。

「さて、では君の考えについて聞かせてもらおうかな」
「はっ。では結論から。まあ科学的に確実と言える研究サンプルは揃っていないのですが、どうやら船魄の性能はその艦の経験の量の比例するようです。いえ正確には、量と質の積に比例するものかと思われます」
「船魄化する前の経験、ということか?」
「はい。そういう意味の過去です」
「甚だ非科学的だね」

 まるで船魄化に関係なく軍艦が記憶を持っているかのような話である。にわかには信じ難いことであったがしかし、米内大臣は岡本大佐の真剣な語り口に、一先ず信じて見ることにした。

「それを事実だと仮定しよう。その上で、⑦計画はどうするべきだと思う?」
「まずは現在生き残っている艦艇を優先して船魄化するということになるでしょう。主力艦だと、金剛と榛名が残っていましたよね?」
「ああ。だが山城と扶桑もポートモレスビーで着底しただけだから、現在修理中だね」
「そうでしたか。まあとにかく、その辺の艦から船魄化を進めるのがよいかと思います」
「なるほど。だが正直言って、そのいずれも旧式も旧式、本来なら代艦を建造すべきような艦達だ」

 一番古い金剛はイギリス製であるし、竣工したのは第一次世界大戦より前だ。実際帝国海軍は、ロンドン海軍軍縮条約が結ばれる前は金剛代艦を建造する予定であった。

「船魄化すれば十分に活躍できるとは思いますが……」
「それはそうだろうとは思うがね、船魄化しても砲弾の威力が増す訳ではないのだろう?」
「ええ、その通りです」

 岡本大佐は少し驚かされた。米内大臣は船魄というものの性質についてかなり正確に把握しているらしい。

「であれば、扶桑型の主砲では米英の戦艦の装甲は撃ち抜けない」
「しかし対空砲のプラットフォームとしては非常に優秀です。米軍の運用を真似るのは癪に障りますが」
「それなら秋月型駆逐艦を使った方がいい」
「その辺の判断は、皆さんにお任せします。私は元より戦術には明るくないものですから」

 岡本大佐はあくまで技術大佐であって、直接に戦う軍人ではない。

「分かった。だがそうなると、軍艦を一度戦いに出して船魄化しないといけない、ということでいいのかな?」
「今のところ判明している事実を組み合われば、そうなります」
「それは困ったな。船魄が犇めく戦場に普通の軍艦を送っても沈められるだけじゃないか」
「そうでしょうね」

 当然ながら過去を持った艦艇の数は限られている。これから増やすこともできないとなると、船魄という技術は早くも袋小路に陥ってしまったようなものである。

「ならどうする? 過去のない艦艇の船魄も使えるようにする、というのはできないのかな?」
「無論、その研究も進めます。しかしもう一つだけ、気になっていることがあるのです」
「何かな?」
「もしも既に沈んだ艦艇を再び建造して船魄化したらどうなるか、ということです」
「ふむ。沈没した艦を浮揚して修理、ではなくか?」
「はい。修理なら恐らく上手くいきますから、あくまで再建造です」
「例え全く同じ設計で建造したとしても別物だと思うがね」
「普通に考えればそうですが、普通に考えておかしい現象が起こっている以上、常識は一旦捨てて見るべきかと」
「それは構わないが……新たな艦を建造するとなれば最低でも一年はかかるぞ」
「無論、分かっています。ですが既に建造中で、未だ進水していない艦体を使えば、時間の短縮になるのでは?」

 建造中の艦を他の同型艦ということにして進水させればよいのでは、と大佐は言う。

「それに意味があるとは思えないが……。進水前でなければならない理由は?」
「これはオカルトと言われても仕方のない話ですが、私はどうも艦艇自体に魂が宿っているように思えるのです。そして艦が名前を授けられるのは、進水の時かと」
「確かにオカルトだが、構わないよ。上手くいく可能性があるのなら、何でも試してみてくれ。必要な支援は行う」
「ありがとうございます。それでは、既に姉妹艦が沈んでいて、かつ進水前の艦艇を一隻、用意して頂きたい」
「それなら……佐世保で建造中の山月などがいいだろう」

 秋月型駆逐艦十七番艦になる予定の艦である。岡本大佐はこれを既に沈んだ秋月型駆逐艦二番艦照月として完成させるよう米内大臣に頼み込んで、承諾を得た。

「竣工はなるべく急がせよう。3ヶ月程度で完成する筈だ」
「ありがとうございます。では私はハワイに行って参りますので、こちらのことはよろしくお願いします」
「分かった。引き続き、瑞鶴と長門のことは頼んだよ」
「はっ。とは言っても、私など不平不満の受け皿でしかありませんが」

 岡本大佐は実験を内地の同僚に任せ、自身はハワイにアメリカと戦争をしに無かった。
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