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第八章 帝都襲撃

ハワイ再び

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 一九五五年十月十二日、ハワイ王国、真珠湾警備府。

「まさか本当に生きて帰ってくるとは思いませんでしたよ」
「どう? 世界最強の船魄の力は」

 大鷹はハワイに戻ってきた瑞鶴を出迎えた。相変わらず瑞鶴には当たりが強い。

「わたくしも些か、甘く見ていたようです」
「気付いたならそれでいいのよ」
「はい。それでは補給が済むまでの間、港湾の施設は暫く使っていただいて構いません」

 ハワイ警備艦隊は連合艦隊旗艦和泉より、月虹に補給を行うようにと命令を受けていた。帝国政府とはもう話が着いているので、完全に合法的な命令である。

 ○

 一方その頃。停泊する妙高に、呼んでいないのに夕張がやって来ていた。

「やあ、久しぶりだね」
「そう久しぶりでもないと思いますけど……」
「ああ、確かに、船の基準で言えば2週間なんてすぐか」

 片道1ヶ月などよくあることだ。2週間など船の基準で考えれば大した時間ではない。

「いやいや、長らく外洋に出ていなくてね。時間の感覚がすっかり鈍ってしまっているようだ」
「そうなんですか? ハワイ警部府の活動範囲はかなり広いと思ったんですが」
「戦時になったらそうだろうけど、平時に仕事なんてないよ。民間船への監視は富嶽がやってくれるしね」
「なるほど……。ところで、戻って来たら駆逐艦の方々も紹介してくれる、というお話でしたよね?」

 妙高はそれを結構楽しみにしていた。

「そう言えばそうだったね。少し待っていてくれたまえ。駆逐の皆を呼び集めてくるよ」
「あ、ありがとうございます!」

 いずれ味方になってくれる可能性がある船魄達だ。妙高と瑞鶴は夕張の仲介を受け、ハワイ警備艦隊の駆逐隊と対面した。駆逐艦は3名であるが、何故か全員夕張から距離を取っている。

「あの……夕張さんが距離を置かれている様に見えるのですが……」
「彼女達には実験に協力してもらったんだが、それきり嫌われてしまっていてね」
「何をしたんですか……」
「それは聞かない方がいいよ。それよりも、自己紹介を始めよう。まずは長姉からかな」

 夕張が最初に自己紹介するよう促したのは、灰色の髪と目をしたぼうっとした少女である。と言うか、駆逐艦は全員同じような髪と目をしていた。

「はい……私は白露……。白露型駆逐艦一番艦、です」
「わ、私は妙高と言います。よろしくお願いします」
「はい……」

 反応が余りにも空返事。妙高はちゃんと聞いてくれているのか不安にある。

「大丈夫大丈夫。彼女はいつもこんな感じだから」
「そうなんですか……」
「ここは変な奴が多いわねえ」

 瑞鶴は本人達を前に躊躇もなく。

「まあ、真っ当な艦隊だと、日本がアメリカのようにハワイを奴隷化しようとしていると受け取られかねないからね。このくらいがちょうどいいのだよ」
「あっそう。で次は?」
「次は私なのです」

 続いては白露と似た感じの見た目ながら明るい少女。彼女だけ頭に角が生えており、古参の船魄のようだ。

「私は白露型駆逐艦二番艦、時雨。白露ちゃんのすぐ下の妹なのです」
「あの幸運艦の時雨さんですか……」
「あなたが船魄になる前の時代に、何度か世話になったわね」

 時雨は雪風と並んで大東亜戦争の幸運艦と名高く、その名は世界的に有名である。そして何度が瑞鶴の護衛艦として働いたこともある。

「よろしくお願いします、時雨さん」
「よろしくなのです」
「同じ幸運艦なのに、雪風とはあんまり似てないのね」
「雪風さんは周りの犠牲を勝手に自分のせいだと思い込んでいるだけなのです。私はそんなことはしないのです」
「ああ、そう。よろしく」
「よろしくお願いします。。そして次も白露型の妹の一人なのです」

 次に座っているのは妙高と瑞鶴をやけに警戒した目で見ている少女である。

「わ、私は、白露型九番艦、江風だ」 
「よ、よろしくお願いします、江風さん」

 妙高は手を差し出すが、江風は取ろうとしない。

「な、何か仕込んでるんじゃないだろうな!?」
「えぇ? そ、そんなことしませんよ……」
「元より帝国海軍の裏切り者なんて、信用できるか!」
「そ、そう言われたら、何とも言えないのですけど……」
「白露型三隻ねえ。他と比べたら随分真っ当な戦力じゃない」

 瑞鶴は江風を無視して話を進める。駆逐隊というのは普通同型艦を揃えるものなのだが、今の帝国海軍でそれができている艦隊はハワイ警備艦隊を除きほとんどない。

「まあ彼女達は後から送られてきた援軍だからねえ。ちゃんと揃ってるのも自然なことだよ」

 夕張が答えた。

「ならほどね」
「まあここに来て早々、敵味方識別装置のことを教えてあげたから、もう帰ることはできないのだけどね」
「そうだ! お前のせいで私達はこんなところで一生過ごすことになったんだぞ!」

 江風が夕張に抗議する。が、夕張は何食わぬ顔である。

「まあまあ。満足した愚者より不満足なソクラテスの方がよいと言うじゃないか」
「そういう問題じゃない!」
「そろそろ落ち着くのです、江風ちゃん、夕張」

 時雨の一声で場は静まった。

「まあ、そういう訳だ。また会える日を楽しみにしているよ」
「また……お会い、しましょう……」

 補給を終えた三隻は真珠湾を出港し、パナマ運河を越え、キューバに帰還した。
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