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第八章 帝都襲撃
帝国政府との交渉Ⅱ
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「要求はそれだけですか?」
「それだけではないけど、向こうからの返事を待たなくていいの?」
「一先ずはあなたの要求を全て聞いておこうと思いまして」
「じゃあ言うわね。二つ目の要求は、私に大和を引き渡すことよ」
「ほう……。大和とは、戦艦大和のことでありますか?」
三笠は興味深げに言った。
「それ以外ないでしょ」
「確かに。愚問でありましたな。あなたが大和と共に戦いそして失ったことは存じております。しかし今更大和を取り戻したところで、何になると言うのですか?」
三笠は瑞鶴が大和の船魄を確保していることを知らないのか、或いは知らないフリをしているのか。いずれにせよ迂闊に情報を与えない方がいい。
「へえ。大和はあるって認めるのね?」
「はい。大和は既に建造され、呉に停泊しています。しかし船魄は何故か何をしても生まれず、今のところはただの人間の艦でしかありません」
「そうなの? 船魄が生まれないなんてことあるの?」
「理由は不明です。しかし事実として、大和だけは何をやっても船魄を生み出すことができないそうであります。本艦は技術屋ではないので、詳しいことは全く分からないのでありますが」
「ふーん。それならそれで好都合ね。私の知らない大和がいたら、それはそれで嫌だし。空っぽの大和の方が欲しいわ」
「そんな使い物にならない大和を欲する理由とは何でありましょう?」
「好きな人の形見を欲しくなるのは悪い?」
「なるほど……。承知しました。これも大本営に伝えましょう。他に要求は?」
「これで終わりよ。いい返事が来ることを期待してるわ」
「それでは、暫しお待ちください」
三笠は改めて瑞鶴の要求を電文にして大本営に送り付け、大本営政府連絡会議の反応を待つことにした。
○
「閣下、三笠からの報告です。瑞鶴の要求はこのようであると」
三笠からの電報はまず石橋首相に手渡された。
「すぐに複写して全員に配ってくれたまえ」
「はっ!」
電文の複写など簡単である。すぐにこの場にいる全員分が用意されて、全員が瑞鶴の要求を知ることとなった。
「第一の要求ですが、これは余りにも抽象的ですな……」
重光外務大臣は言う。
「三笠からも、詳細は特に考えていない様子だと注がついているからね」
「ああ、本当だ。しかし終戦に向けた努力と言われましてもな……」
外務大臣は苦笑い。そんなことができるならとっくにやっているのである。
「軍部としては、何かできないのかね?」
首相は武藤参謀総長と神軍令部総長に問う。最初に答えたのは武藤参謀総長であった。
「陸軍としては、できることは物的な援助を行うことだけです。内地の装備も支援に回してよいというのなら、状況はもう少しマシにはなるでしょうが、アメリカを押し返せるとは思えませんね。幾ら良い装備があっても兵士の質が低くてはどうしようもありません」
「それは一理あるな。海軍はどうかね?」
「海軍としては引き続き海上補給網の破壊を続けますがこれ以上の成果を上げるのは困難かと。戦力の更なる増派があれば別ですが」
「アメリカ海軍なんてほとんど全滅しているそうじゃないか。それでもか?」
「通商破壊をするには常に海上を監視し続けなければなりません。非武装の商船でもこちらの隙間を縫えば突破できるのですから。しかし我が方の警戒線は穴だらけ。戦艦では効率が論外。海路を常時監視できる潜水艦が必要です」
「なるほど。だが潜水艦は派遣できないと」
「その通りです」
潜水艦は補給線を断つのに最適な兵器であるが、船魄化する意味が全くないとして、依然として人間が運用している。普通はそれで特に問題が生じることもないのだが、キューバに対してはあくまで物的支援という名目で艦隊を派遣している以上、軍人が必要な潜水艦は使えないのである。
「困ったな。もう経済制裁はやれるだけやってしまっているし。外務大臣、他に何かやれることは残っていたかね?」
「そうですな……。国際刑事裁判所を動かす、くらいでしょうか」
「京都のあれか」
国際連盟の再編成と同時に誕生した国際刑事裁判所は、国際的な犯罪を起こした個人もしくは組織を裁く常設国際機関である。
「アイゼンハワー首相を逮捕させるのか?」
「精確には逮捕状ですが、瑞鶴も満足するかと」
実のところアイゼンハワー首相などアメリカの閣僚に逮捕状を請求する動きはキューバ戦争の当初からあったのだが、アメリカを過度に追い詰めることを恐れた帝国政府が逆に圧力をかけて、逮捕状を出させていなかったのである。
「しかし大丈夫なのか? そんなことをしたらアイゼンハワーがヤケになるんじゃないのかな?」
「私は彼と何度か会ったことがありますが、彼は賢い男です。国を滅ぼせば自らも逮捕され処刑されることくらい分かっている筈。そんな馬鹿なことはしますまい」
「それじゃあ意味がないじゃないか」
「元より瑞鶴へのポーズという話だったのでは?」
「そうだったそうだった。では第一の要求への返答はこれで済まそう」
こちらは帝国政府にとって大した条件ではない。問題は第二の条件、大和の引渡しの方である。
「それだけではないけど、向こうからの返事を待たなくていいの?」
「一先ずはあなたの要求を全て聞いておこうと思いまして」
「じゃあ言うわね。二つ目の要求は、私に大和を引き渡すことよ」
「ほう……。大和とは、戦艦大和のことでありますか?」
三笠は興味深げに言った。
「それ以外ないでしょ」
「確かに。愚問でありましたな。あなたが大和と共に戦いそして失ったことは存じております。しかし今更大和を取り戻したところで、何になると言うのですか?」
三笠は瑞鶴が大和の船魄を確保していることを知らないのか、或いは知らないフリをしているのか。いずれにせよ迂闊に情報を与えない方がいい。
「へえ。大和はあるって認めるのね?」
「はい。大和は既に建造され、呉に停泊しています。しかし船魄は何故か何をしても生まれず、今のところはただの人間の艦でしかありません」
「そうなの? 船魄が生まれないなんてことあるの?」
「理由は不明です。しかし事実として、大和だけは何をやっても船魄を生み出すことができないそうであります。本艦は技術屋ではないので、詳しいことは全く分からないのでありますが」
「ふーん。それならそれで好都合ね。私の知らない大和がいたら、それはそれで嫌だし。空っぽの大和の方が欲しいわ」
「そんな使い物にならない大和を欲する理由とは何でありましょう?」
「好きな人の形見を欲しくなるのは悪い?」
「なるほど……。承知しました。これも大本営に伝えましょう。他に要求は?」
「これで終わりよ。いい返事が来ることを期待してるわ」
「それでは、暫しお待ちください」
三笠は改めて瑞鶴の要求を電文にして大本営に送り付け、大本営政府連絡会議の反応を待つことにした。
○
「閣下、三笠からの報告です。瑞鶴の要求はこのようであると」
三笠からの電報はまず石橋首相に手渡された。
「すぐに複写して全員に配ってくれたまえ」
「はっ!」
電文の複写など簡単である。すぐにこの場にいる全員分が用意されて、全員が瑞鶴の要求を知ることとなった。
「第一の要求ですが、これは余りにも抽象的ですな……」
重光外務大臣は言う。
「三笠からも、詳細は特に考えていない様子だと注がついているからね」
「ああ、本当だ。しかし終戦に向けた努力と言われましてもな……」
外務大臣は苦笑い。そんなことができるならとっくにやっているのである。
「軍部としては、何かできないのかね?」
首相は武藤参謀総長と神軍令部総長に問う。最初に答えたのは武藤参謀総長であった。
「陸軍としては、できることは物的な援助を行うことだけです。内地の装備も支援に回してよいというのなら、状況はもう少しマシにはなるでしょうが、アメリカを押し返せるとは思えませんね。幾ら良い装備があっても兵士の質が低くてはどうしようもありません」
「それは一理あるな。海軍はどうかね?」
「海軍としては引き続き海上補給網の破壊を続けますがこれ以上の成果を上げるのは困難かと。戦力の更なる増派があれば別ですが」
「アメリカ海軍なんてほとんど全滅しているそうじゃないか。それでもか?」
「通商破壊をするには常に海上を監視し続けなければなりません。非武装の商船でもこちらの隙間を縫えば突破できるのですから。しかし我が方の警戒線は穴だらけ。戦艦では効率が論外。海路を常時監視できる潜水艦が必要です」
「なるほど。だが潜水艦は派遣できないと」
「その通りです」
潜水艦は補給線を断つのに最適な兵器であるが、船魄化する意味が全くないとして、依然として人間が運用している。普通はそれで特に問題が生じることもないのだが、キューバに対してはあくまで物的支援という名目で艦隊を派遣している以上、軍人が必要な潜水艦は使えないのである。
「困ったな。もう経済制裁はやれるだけやってしまっているし。外務大臣、他に何かやれることは残っていたかね?」
「そうですな……。国際刑事裁判所を動かす、くらいでしょうか」
「京都のあれか」
国際連盟の再編成と同時に誕生した国際刑事裁判所は、国際的な犯罪を起こした個人もしくは組織を裁く常設国際機関である。
「アイゼンハワー首相を逮捕させるのか?」
「精確には逮捕状ですが、瑞鶴も満足するかと」
実のところアイゼンハワー首相などアメリカの閣僚に逮捕状を請求する動きはキューバ戦争の当初からあったのだが、アメリカを過度に追い詰めることを恐れた帝国政府が逆に圧力をかけて、逮捕状を出させていなかったのである。
「しかし大丈夫なのか? そんなことをしたらアイゼンハワーがヤケになるんじゃないのかな?」
「私は彼と何度か会ったことがありますが、彼は賢い男です。国を滅ぼせば自らも逮捕され処刑されることくらい分かっている筈。そんな馬鹿なことはしますまい」
「それじゃあ意味がないじゃないか」
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