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第八章 帝都襲撃

東京へ

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「戦艦が2、軽巡が2で、他にはいないの?」

 瑞鶴は大鷹に問う。

「他に駆逐艦が3隻おりますが、それはまたいつか」
「そうね。帝都から帰ってくる時もここに立ち寄らせてもらうわ」
「帰りの補給について特に命令を受けてはいませんが……」
「ハワイを火の海にされたくなかったら素直に従った方が利口だと思うけど?」
「なかなか強気ですね、瑞鶴さん」
「申し訳ないけど、あんたの戦力で私には勝てないわ。正規戦に向いてないってのは、あんたも言ってたことだし」

 大鷹のことを丸っきり否定はしない。瑞鶴の優しいところである。

「ええ、そのことはわたくし自身が一番よく存じております。もしも帝都から生きて帰って来られたら、またお会いしましょう」
「私を疑ってるの?」
「申し訳ありませんが、合理的に考えれば、一航戦と二航戦を相手に単騎で勝てるとは」
「まだ一航戦とか呼んでるんだ。まあ見てなさい。私は絶対に勝つから」
「妙高さんはそう思ってらっしゃらないようですが」

 妙高が依然として不安に思っているのを、大鷹に見破られてしまった。妙高は色々と顔に出やすいのである。

「大丈夫よ。何とかなるわ。ねえ、妙高」
「は、はい……」

 残念ながら妙高は、今になっても瑞鶴を信用しきれてはいなかった。大鷹の言う通り、全くもって勝てる気がしないのである。

「この話は置いておきましょう。それよりも、単刀直入に聞くけど、あんた達はこのまま帝国海軍に従い続けるつもりなの?」
「もちろんです。帝国が私達を騙していたとしても、それが私達の心を守る為の処置であったと考えていますから」
「ふーん。土佐はどうなの?」
「私は~、別にどっちでもいいですよ~。でも反乱とかは面倒くさいので、やる気はないです~」
「あっそう……。じゃあ、私達と協力するつもりはないのね」
「瑞鶴さん達と手を組む理由がありません。わたくし達に利益がありませんから」
「自由に生きれるってのは十分な利益だと思うけどねえ」
「それは人によります。誰しもが自由に生きたいと思っている訳ではありませんから。特に軍艦である私達は」
「そう。あんた達の考えは分かったわ。話は以上よ」

 補給も済んだし、これ以上話すことはないとして、瑞鶴と妙高は席を立った。ハワイ警備艦隊の面々もまた、各々の部屋に散っていった。

「土佐、君は本当に反乱する気がないのかな?」

 夕張は土佐に何気なく尋ねた。

「反乱なんて、面倒くさいですよ~」
「積極的に否定はしないのだね」
「否定する理由もありませんし~、嘘を吐く理由もありません~」
「その面倒くささが瑞鶴達のお陰で解消されるとしたら、どうするのかな?」
「いずれにせよ、瑞鶴が生きて帰ってきたらの話ですね~」
「ああ、その通りだね。果たしてどうやって生きて帰ってくるつもりなのか、楽しみだよ」

 ハワイ警備艦隊は誰もが、瑞鶴と妙高が無事に帰って来られるのか気がかりだった。

 ○

 一九五五年十月四日、大日本帝国、東京都麹町区、明治宮殿。

「ご報告いたします。瑞鶴及び妙高は帝都の東方およそ3,000km地点を通過しました。無理をすれば帝都を直接攻撃することができる距離です」

 定例の大本営政府連絡会議にて、神軍令部長は大臣や将校達にそう報告した。

「本当に帝都の防空は大丈夫なんだろうな?」

 武藤参謀総長は小馬鹿にしたような口調で問う。

「いくら瑞鶴が手練と言えど4倍の同格の相手に勝てる訳がない」
「第一艦隊に勝たなくとも、一機でも帝都に通したら終わりじゃないか。そこら辺はどう考えているんだね?」
「例え防衛線を突破したとしてとも、第一艦隊の空母達と交戦しながら帝都を攻撃するのは不可能だ」
「撃墜された機体がここに落ちてきたらどうするんだね? それだけで十分脅威ではないか」
「万が一に備えここにいる全員には地下壕に避難して頂く」
「何? そんなことを聞いていないぞ? 明治宮殿を防衛する能力すらないのか、海軍は?」
「静かにしろ、お前達! 陛下は宮殿の一つが燃えたところで構わないと仰せである!」

 阿南内大臣は軍令部長と参謀総長の言い争いを断ち切った。武藤参謀総長もこう言われたら何も言えなくなる。

「へ、陛下がそう仰せならば、陸軍としては何も言うことはない」
「不安ならば陸軍の高射砲で何とかすればいいではないか」
「クソッ。高射砲で船魄の相手ができる訳がないだろ」

 参謀総長は不愉快そうに言った。これだけは陸軍の非力を認めざるを得ないからである。

「海軍の方で帝都の防衛に何隻か用意すればいいんじゃないか?」
「空母の護衛は必要だ」
「だったら第二艦隊でも動員しておけばよかったじゃないか」

 帝国本土を守るもう1つの艦隊である第二艦隊は、青森県の大湊鎮守府が本拠地である。今からではとても間に合わない。

「陸軍は今更になって怖気付いたのか?」 
「そんな訳があるか!」
「貴様ら! いい加減にせんか!」

 再び阿南内大臣が一喝する。彼は陸軍の重鎮という立場になるのだが、今上の帝からの信頼も厚く、海軍の神軍令部長も素直に黙らざるを得なかった。ともかく、帝国の歴史上初めて(いくつかのクーデター未遂を除き)、帝都東京を舞台に戦闘行為が発生しようとしているのである。
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