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第八章 帝都襲撃
ハワイ
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一九五五年九月二十七日、ハワイ王国、真珠湾沖。
かつてアメリカの一方的な侵略を受け完全に併合される寸前であったハワイ王国は日本の手によって解放された。ハワイは今や完全に独立を回復し、自由と平和を謳歌している。
一方で軍事的には日本への依存が大きく、アメリカが再び侵略に踏み切ることを恐れ、ハワイには常に一個艦隊が配備されている。帝国はあくまで同盟関係ということを強調する為、真珠湾にある海軍基地をハワイ警備府と呼んでいるが、実質的な機能は鎮守府とほとんど変わらない。
「真珠湾ねえ……。ここで大和は殺された訳だけど」
『そ、それは……』
「気にしないで。ただの感傷よ」
『そ、そうですか』
「おっと、誘導かしら」
瑞鶴と妙高に近付く艦影が一つ。大きさからして明らかに戦艦である。敵対してくることはないと踏んでいるとは言え、瑞鶴はいつでも攻撃機を出せるよう飛行甲板に待機させている。
すぐに向こうから通信の呼び掛けがあった。聞こえてきたのはやる気がなさそうな声であった。
『こちらは、ハワイ警備艦隊旗艦、土佐です~。誘導と挨拶に、やって参りました~』
「へえ、土佐ねえ。こちらは瑞鶴。よろしく」
『はい~。私についてきてください~』
土佐と言えば加賀型戦艦の二番艦である。あの加賀の妹だ。紆余曲折を省略すると、加賀が空母に改装された一方で、土佐は完成することすら許されず標的艦として豊後水道南方で沈められた。そんな艦でも帝国海軍は再建造したらしい。
しかし加賀型と言えば長門型の発展型であり、大和型には遠く及ばないが、41cm砲10門を搭載する強力な戦艦である。
『今回は、真珠湾のドックをお貸しします~。補給はこちらでしますので、静かに待っていてください~』
「ありがとう。よろしくね」
瑞鶴と妙高は真珠湾警備府の持つ船渠に入り、事前に用意されていた兵士達が速やかに燃料補給を始めた。すぐそこの港には土佐などが停泊しており、妙高は心做しかこちらに主砲が向いている気がした。
『しかし瑞鶴さん、和泉様が補給してくれなかったら、燃料はどうするつもりだったのですか?』
妙高は近代化改修と船魄化で大きく航続距離を伸ばしており、何とか往復してバハマに戻れるが、瑞鶴は絶対に無理である。
「え、ハワイを襲って燃料奪うつもりだったけど?」
『ま、まあ、そうなりますよね……』
瑞鶴は最初からハワイで燃料を補給して帝都に向かうつもりだったのである。
「さて、暫く暇だし、のんびりしてましょう」
『そ、そうですね……』
敵地のど真ん中だと言うのに、瑞鶴は昼寝をしていた。妙高はそんな気にはなれず、常に周囲を警戒し続けていた。と、その時である。妙高に妙高だけを相手にした通信が掛かってきた。
「え、こ、これは……」
妙高は戸惑うが、取り敢えず応じてみることにした。
「あ、あの、どなたでしょうか……?」
応えたのは非常に理知的な少女の声。
『こんにちは。私は夕張。軽巡洋艦の夕張だ』
「夕張……。あの実験巡洋艦の夕張ですか?」
『その通り。君の原型の原型くらいになった夕張だよ、妙高』
夕張は極限まで軽量の船体に大量の武装を搭載することをコンセプトにした実験艦であり、実際3,000トン未満の船体に5,500トン級軽巡洋艦と同等の武装を積んでいる。
夕張自体は余りに武装が過大で実用性が乏しかったが、その後の帝国海軍の軽巡・重巡の大方針、つまり諸外国と比べて非常な重武装を施す設計の原型になり、その系譜は妙高や高雄に繋がっている。因みに妙高を設計した平賀譲造船官は、夕張を設計したことで一躍その名を轟かせた。
「それについては、感謝しています。その夕張さんが、何のご用でしょうか……」
『君と話をしたくてね。こんな通信機越しでは意思疎通がしにくい。君の中に入っていいかい?』
「ま、まあ、お一人でしたら、構いませんよ」
妙高はキューバ軍から護衛の兵士を50人ほど借り受けている。万が一夕張が妙高に敵意を持っていても、彼らがいれば問題はないだろう。
夕張は普通に歩いて妙高に乗り込んできた。妙高は兵士達に護衛されつつ、緊張して夕張を出迎えた。
「あ、あなたが、夕張さん、ですか……」
「ああ、私が夕張だ。驚いたかな?」
セーラー服のような薄い服、白い髪に緑の目、妙高と同じような狐耳。それが夕張の船魄であった。
しかし、その左目は潰れており、耳は表面が剥ぎ取られて中身の機械部分が露出している。おぞましい姿に妙高は無意識に後ずさっていた。
「そう怯えないでくれたまえ。私は悪い人間ではないよ」
「で、では、どうしてそんな目や耳になっているのか、教えてください」
「この目は少々危ない薬を顔に掛けてしまったせいさ。この耳は、自分で表皮を剥ぎ取ったものだよ」
「な、何で、そんなことを……?」
妙高はその様子を想像するだけで鳥肌が立った。
「船魄が人間と明らかに違うのは、この耳と尻尾だ。ここに船魄の秘密が詰まっていることは間違いない。だから解剖してみようと思ったんだよ。私は人に迷惑を掛けるような人間ではないから、自分の体をね」
「そ、そんなことを……」
嘘ではないようだ。しかしそんなことをする船魄がマトモではないのも明らかである。
かつてアメリカの一方的な侵略を受け完全に併合される寸前であったハワイ王国は日本の手によって解放された。ハワイは今や完全に独立を回復し、自由と平和を謳歌している。
一方で軍事的には日本への依存が大きく、アメリカが再び侵略に踏み切ることを恐れ、ハワイには常に一個艦隊が配備されている。帝国はあくまで同盟関係ということを強調する為、真珠湾にある海軍基地をハワイ警備府と呼んでいるが、実質的な機能は鎮守府とほとんど変わらない。
「真珠湾ねえ……。ここで大和は殺された訳だけど」
『そ、それは……』
「気にしないで。ただの感傷よ」
『そ、そうですか』
「おっと、誘導かしら」
瑞鶴と妙高に近付く艦影が一つ。大きさからして明らかに戦艦である。敵対してくることはないと踏んでいるとは言え、瑞鶴はいつでも攻撃機を出せるよう飛行甲板に待機させている。
すぐに向こうから通信の呼び掛けがあった。聞こえてきたのはやる気がなさそうな声であった。
『こちらは、ハワイ警備艦隊旗艦、土佐です~。誘導と挨拶に、やって参りました~』
「へえ、土佐ねえ。こちらは瑞鶴。よろしく」
『はい~。私についてきてください~』
土佐と言えば加賀型戦艦の二番艦である。あの加賀の妹だ。紆余曲折を省略すると、加賀が空母に改装された一方で、土佐は完成することすら許されず標的艦として豊後水道南方で沈められた。そんな艦でも帝国海軍は再建造したらしい。
しかし加賀型と言えば長門型の発展型であり、大和型には遠く及ばないが、41cm砲10門を搭載する強力な戦艦である。
『今回は、真珠湾のドックをお貸しします~。補給はこちらでしますので、静かに待っていてください~』
「ありがとう。よろしくね」
瑞鶴と妙高は真珠湾警備府の持つ船渠に入り、事前に用意されていた兵士達が速やかに燃料補給を始めた。すぐそこの港には土佐などが停泊しており、妙高は心做しかこちらに主砲が向いている気がした。
『しかし瑞鶴さん、和泉様が補給してくれなかったら、燃料はどうするつもりだったのですか?』
妙高は近代化改修と船魄化で大きく航続距離を伸ばしており、何とか往復してバハマに戻れるが、瑞鶴は絶対に無理である。
「え、ハワイを襲って燃料奪うつもりだったけど?」
『ま、まあ、そうなりますよね……』
瑞鶴は最初からハワイで燃料を補給して帝都に向かうつもりだったのである。
「さて、暫く暇だし、のんびりしてましょう」
『そ、そうですね……』
敵地のど真ん中だと言うのに、瑞鶴は昼寝をしていた。妙高はそんな気にはなれず、常に周囲を警戒し続けていた。と、その時である。妙高に妙高だけを相手にした通信が掛かってきた。
「え、こ、これは……」
妙高は戸惑うが、取り敢えず応じてみることにした。
「あ、あの、どなたでしょうか……?」
応えたのは非常に理知的な少女の声。
『こんにちは。私は夕張。軽巡洋艦の夕張だ』
「夕張……。あの実験巡洋艦の夕張ですか?」
『その通り。君の原型の原型くらいになった夕張だよ、妙高』
夕張は極限まで軽量の船体に大量の武装を搭載することをコンセプトにした実験艦であり、実際3,000トン未満の船体に5,500トン級軽巡洋艦と同等の武装を積んでいる。
夕張自体は余りに武装が過大で実用性が乏しかったが、その後の帝国海軍の軽巡・重巡の大方針、つまり諸外国と比べて非常な重武装を施す設計の原型になり、その系譜は妙高や高雄に繋がっている。因みに妙高を設計した平賀譲造船官は、夕張を設計したことで一躍その名を轟かせた。
「それについては、感謝しています。その夕張さんが、何のご用でしょうか……」
『君と話をしたくてね。こんな通信機越しでは意思疎通がしにくい。君の中に入っていいかい?』
「ま、まあ、お一人でしたら、構いませんよ」
妙高はキューバ軍から護衛の兵士を50人ほど借り受けている。万が一夕張が妙高に敵意を持っていても、彼らがいれば問題はないだろう。
夕張は普通に歩いて妙高に乗り込んできた。妙高は兵士達に護衛されつつ、緊張して夕張を出迎えた。
「あ、あなたが、夕張さん、ですか……」
「ああ、私が夕張だ。驚いたかな?」
セーラー服のような薄い服、白い髪に緑の目、妙高と同じような狐耳。それが夕張の船魄であった。
しかし、その左目は潰れており、耳は表面が剥ぎ取られて中身の機械部分が露出している。おぞましい姿に妙高は無意識に後ずさっていた。
「そう怯えないでくれたまえ。私は悪い人間ではないよ」
「で、では、どうしてそんな目や耳になっているのか、教えてください」
「この目は少々危ない薬を顔に掛けてしまったせいさ。この耳は、自分で表皮を剥ぎ取ったものだよ」
「な、何で、そんなことを……?」
妙高はその様子を想像するだけで鳥肌が立った。
「船魄が人間と明らかに違うのは、この耳と尻尾だ。ここに船魄の秘密が詰まっていることは間違いない。だから解剖してみようと思ったんだよ。私は人に迷惑を掛けるような人間ではないから、自分の体をね」
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