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第七章 アメリカ本土空襲
ドイツの承諾
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「それで、要件は何?」
シャルンホルストはとっとと全て話せと言わんばかりにぶっきらぼうに言った。
「我らはこれより、ワシントンとニューヨークに空襲を行うつもりである。それをお前達に通告してやろうと思っただけだ」
「通告って。私達に許可を得ず勝手なことをしたら、どうなるか分かっていて?」
オイゲンは挑発的な口調で言う。
「ふん、お前達に何ができると言うのだ」
「ツェッペリンさん、話を脱線させないでください」
「……分かっておる」
「ふふふ、まるで親子みたいね。もちろん妙高が親だけど」
「オイゲン貴様っ……。それで、シャルンホルスト、どうなのだ?」
「どう、と言われても、話が漠然とし過ぎている」
「すまんが、我らとしてもこれ以上細かい情報は出せぬのだ。ただワシントンを灰にしていいか否か、お前達に問いたい」
「灰にするのは、ダメに決まっている」
「……比喩だ、比喩。やるにしても、まあ精々デカい建物を数個壊すくらいのつもりだ」
「それくらいなら、問題ないと思う。しかし私の一存では決められない。暫く待ってもらいたい」
「ああ、そうだろうな。我らの為に部屋でも用意しろ」
「……オイゲン、任せた」
「はいはい。そう言うと思ってたわよ」
余計な話はしたくないシャルンホルストはシュトラッサーと共にさっさとその場を去り、オイゲンが二人の案内役を押し付けられた。オイゲンはこうなることを既に想定しており、二人分の部屋を用意していた。
「さあ、どっちをどう使ってくれても構わないわよ。もちろん二人で一緒の夜を過ごしてもね」
「やかましいわ」
「ふふ。いずれにせよ、ドイツ海軍の誇りにかけて、快適なご宿泊を約束するわ」
「たまには役に立つではないか」
「あなたのような何の役にも立たない奴と比べたらねえ」
「…………妙高、どちらの部屋にする?」
「で、では、妙高はこちらに」
「では我はこっちだ」
妙高とツェッペリンは別々の部屋で休むことにした。軍事施設だと言うのにオイゲンの用意した部屋は高級ホテル並みの設備が整っており、彼女の言葉に嘘はなかった。
○
「はあ、また暇潰しを持って来忘れた」
30分後、ツェッペリンは溜息を吐いた。艦の蔵書を適当に持ってくればよかったと。だがその時だった。扉を叩く者が一人。
「誰だ?」
「プリンツ・オイゲンよ。開けてもらえるかしら?」
「貴様か。まあ暇つぶしになるからよいか」
ツェッペリンはオイゲンを招き入れた。元よりツェッペリンに貸している部屋とは言え、オイゲンは無遠慮にベッドの隅に座った。
「……何の用だ? と言うかやめろ。我のベッドに血が付くであろうが」
「翼の血は完全に乾いてるから大丈夫よ。それよりも、あなたとちょっと個人的な話をしたくてね」
「個人的な話? 我は交渉以外無駄なことをするつもりはないが」
「まあまあ。あの子の話よ。妙高のね」
「妙高がどうしたと言うのだ」
「私、あの子を気に入っちゃった。手篭めにしたいんだけど大丈夫?」
「なっ、何だと貴様!?」
ツェッペリンは壁を突き抜けてしまいそうな大声を張り上げた。
「あらあら、そんなに驚くの?」
「い、いや、驚かぬ奴の方が少ないだろう」
「それはそうだけど。ふふ、あなたは妙高に相当思い入れがあるみたいね。でないとあんな反応はしないわ」
「いや、その、妙高は月虹の貴重な戦力だ。我らは4隻しかないのだぞ? 1隻欠けるだけで大問題だ」
「本当にそれだけ?」
オイゲンはからかうように言った。
「ああ。それだけだが?」
ツェッペリンはムキになって答えた。
「そう。それなら私が寝取っても大丈夫そうね」
「や、やめろ貴様! 冗談にも程があるぞ!」
「あなた駆け引きってものが下手ねえ。まあ面白いのが見れたし、もういいわ」
「こんな下らないことの為に来たのか、貴様は」
「ええ。私だって暇なの。じゃあゆっくりして行きなさい、ツェッペリン」
「さっさと帰れ」
オイゲンを締め出し、ツェッペリンはとっとと寝ることにした。
○
翌日。優雅な朝食をドイツ海軍に用意させた後、ツェッペリンと妙高は再びシャルンホルストと会見した。
「たった一日で、結果が出たのか?」
「出た。ゲッベルス大統領はお前達の行動を承諾するとのことだ」
「それはよかった。では用事は以上だ。帰るぞ妙高」
ツェッペリンはさっさと帰ろうとして、シャルンホルストもとっとと戻ろうとするが、ツェッペリンを呼び止める者が一人。
「待て、ツェッペリン」
「何だ、我が妹」
「ゲッベルス大統領からお前に言伝がある」
「ゲッベルスから? どうせロクでもない話であろう」
とは言いつつ、ツェッペリンは一応聞いてやることにした。
「ゲッベルス大統領はただ一言、貴様に『あの時のことはすまない』と伝えて欲しいそうだ。意味は分かるか?」
「……ああ。分かるが、今やどうでもよいことだ。今更謝られたところでドイツには戻らん」
「ツェッペリンさん、どういうことですか?」
「どうでもいいと言ったであろう。さあ帰るぞ」
かくしてツェッペリンと妙高はドイツのお墨付きを得て帰還した。政治的な問題は全て突破されたのである。
シャルンホルストはとっとと全て話せと言わんばかりにぶっきらぼうに言った。
「我らはこれより、ワシントンとニューヨークに空襲を行うつもりである。それをお前達に通告してやろうと思っただけだ」
「通告って。私達に許可を得ず勝手なことをしたら、どうなるか分かっていて?」
オイゲンは挑発的な口調で言う。
「ふん、お前達に何ができると言うのだ」
「ツェッペリンさん、話を脱線させないでください」
「……分かっておる」
「ふふふ、まるで親子みたいね。もちろん妙高が親だけど」
「オイゲン貴様っ……。それで、シャルンホルスト、どうなのだ?」
「どう、と言われても、話が漠然とし過ぎている」
「すまんが、我らとしてもこれ以上細かい情報は出せぬのだ。ただワシントンを灰にしていいか否か、お前達に問いたい」
「灰にするのは、ダメに決まっている」
「……比喩だ、比喩。やるにしても、まあ精々デカい建物を数個壊すくらいのつもりだ」
「それくらいなら、問題ないと思う。しかし私の一存では決められない。暫く待ってもらいたい」
「ああ、そうだろうな。我らの為に部屋でも用意しろ」
「……オイゲン、任せた」
「はいはい。そう言うと思ってたわよ」
余計な話はしたくないシャルンホルストはシュトラッサーと共にさっさとその場を去り、オイゲンが二人の案内役を押し付けられた。オイゲンはこうなることを既に想定しており、二人分の部屋を用意していた。
「さあ、どっちをどう使ってくれても構わないわよ。もちろん二人で一緒の夜を過ごしてもね」
「やかましいわ」
「ふふ。いずれにせよ、ドイツ海軍の誇りにかけて、快適なご宿泊を約束するわ」
「たまには役に立つではないか」
「あなたのような何の役にも立たない奴と比べたらねえ」
「…………妙高、どちらの部屋にする?」
「で、では、妙高はこちらに」
「では我はこっちだ」
妙高とツェッペリンは別々の部屋で休むことにした。軍事施設だと言うのにオイゲンの用意した部屋は高級ホテル並みの設備が整っており、彼女の言葉に嘘はなかった。
○
「はあ、また暇潰しを持って来忘れた」
30分後、ツェッペリンは溜息を吐いた。艦の蔵書を適当に持ってくればよかったと。だがその時だった。扉を叩く者が一人。
「誰だ?」
「プリンツ・オイゲンよ。開けてもらえるかしら?」
「貴様か。まあ暇つぶしになるからよいか」
ツェッペリンはオイゲンを招き入れた。元よりツェッペリンに貸している部屋とは言え、オイゲンは無遠慮にベッドの隅に座った。
「……何の用だ? と言うかやめろ。我のベッドに血が付くであろうが」
「翼の血は完全に乾いてるから大丈夫よ。それよりも、あなたとちょっと個人的な話をしたくてね」
「個人的な話? 我は交渉以外無駄なことをするつもりはないが」
「まあまあ。あの子の話よ。妙高のね」
「妙高がどうしたと言うのだ」
「私、あの子を気に入っちゃった。手篭めにしたいんだけど大丈夫?」
「なっ、何だと貴様!?」
ツェッペリンは壁を突き抜けてしまいそうな大声を張り上げた。
「あらあら、そんなに驚くの?」
「い、いや、驚かぬ奴の方が少ないだろう」
「それはそうだけど。ふふ、あなたは妙高に相当思い入れがあるみたいね。でないとあんな反応はしないわ」
「いや、その、妙高は月虹の貴重な戦力だ。我らは4隻しかないのだぞ? 1隻欠けるだけで大問題だ」
「本当にそれだけ?」
オイゲンはからかうように言った。
「ああ。それだけだが?」
ツェッペリンはムキになって答えた。
「そう。それなら私が寝取っても大丈夫そうね」
「や、やめろ貴様! 冗談にも程があるぞ!」
「あなた駆け引きってものが下手ねえ。まあ面白いのが見れたし、もういいわ」
「こんな下らないことの為に来たのか、貴様は」
「ええ。私だって暇なの。じゃあゆっくりして行きなさい、ツェッペリン」
「さっさと帰れ」
オイゲンを締め出し、ツェッペリンはとっとと寝ることにした。
○
翌日。優雅な朝食をドイツ海軍に用意させた後、ツェッペリンと妙高は再びシャルンホルストと会見した。
「たった一日で、結果が出たのか?」
「出た。ゲッベルス大統領はお前達の行動を承諾するとのことだ」
「それはよかった。では用事は以上だ。帰るぞ妙高」
ツェッペリンはさっさと帰ろうとして、シャルンホルストもとっとと戻ろうとするが、ツェッペリンを呼び止める者が一人。
「待て、ツェッペリン」
「何だ、我が妹」
「ゲッベルス大統領からお前に言伝がある」
「ゲッベルスから? どうせロクでもない話であろう」
とは言いつつ、ツェッペリンは一応聞いてやることにした。
「ゲッベルス大統領はただ一言、貴様に『あの時のことはすまない』と伝えて欲しいそうだ。意味は分かるか?」
「……ああ。分かるが、今やどうでもよいことだ。今更謝られたところでドイツには戻らん」
「ツェッペリンさん、どういうことですか?」
「どうでもいいと言ったであろう。さあ帰るぞ」
かくしてツェッペリンと妙高はドイツのお墨付きを得て帰還した。政治的な問題は全て突破されたのである。
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