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第四章 月虹
尋問
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「さて、では長門、まずは当時の状況を今一度説明して頂けますか?」
「分かった。我が艦隊は初めソ連海軍と共に敵艦隊と戦い優勢を保っていたが、突如として120機程度の強力な敵航空艦隊の襲撃を受け、ソ連海軍は撤退し、我々も敵の攻撃を防ぐだけで精一杯となった。そして敵の重巡洋艦級が一隻、第五艦隊に突っ込んで来て、高雄と衝突した。自爆のような戦術だ。高雄は戦闘不能状態に陥り、我々は高雄をその場に残して撤退せざるを得なくなったのだ」
なかなか無理のある説明であるが、陸奥のせいで長門が動けなかったことや勅命が下ったことについて話す訳にはいかなかった。
「なるほどなるほど。しかし変ですね。どうして長門ともあろうお方が、重巡洋艦程度を食い止めることもできなかったのですか?」
「言っただろう。空からの攻撃に対処するのに忙しく、敵重巡に対処できなかったのだ。そもそも、戦艦から見ても、重巡はそう簡単に沈められるものではない」
「確かに戦艦の気持ちは私には分かりませんが、攻撃を受けるほどに敵機の接近を許していたのなら、主砲は暇だったはずですよね?」
確かに主砲による対空砲火は敵機がかなり遠くにいないと使えない。主砲の仰角は50度程度が限界であり、 敵が真上にいると狙いを付けることも不可能なのである。
「確かにそれはそうだが、私は万能ではない。高角砲と機銃を制御しながら更に動く敵艦を砲撃するなど手に余る」
「そうなんですか? 帝国最古参の船魄にしては意外ですね」
加賀は純粋な興味から尋ねた。本来の目的とは特に関係のない問いだ。
「ああ。私は元より、大した実戦を経験している訳ではないのだ。戦闘能力をそう期待されても困る」
「そうなんですね~。ですが、仮に主砲に気が回らなくても、艦隊に入り込まれるまで近づかれたら、流石に当てることもできるのではありませんか?」
「そんなことをしたら高雄も巻き込んでしまうだろう。一切の妨害がなかったとしても、隣り合った艦の片側だけを上手に撃ち抜くような真似は、少なくとも私には無理だ」
「高雄に取り付かれるちょっと前くらいに撃てばよかったのでは?」
「陣形の内側に向けて発砲するなど危険過ぎる。万一にも僚艦を傷付ける訳にはいかんだろう」
もちろん真実は陸奥がいきなり裏切ってきたからなのだが、あの混乱状態で味方のすぐ近くの敵を撃つというのは、一般的にも確かに推奨されない。
「なるほどなるほど~。それを気にして重巡一隻を失うのは、本末転倒としか言いようがありませんがね~」
「それについては、私が判断を誤った。今思えば、多少の危険を顧みず、敵の接近を食い止めるべきだったな」
「そう、ですか。では私からあなたへの事情聴取はこれで終わりです」
「私への? 他にもする気なのか?」
「ええ、もちろんです。証言はできるだけ色々な人から集めた方がいいですよね?」
「まあ、それはそうだな」
陸奥と信濃は共謀している側なので心配はないだろうが、峯風と涼月には怪しまれているだろう。赤城と加賀が彼女達に接触すると面倒なことになるかもしれない。
「では早速、陸奥にお話を聞いてみることにしましょう。ほら赤城ちゃん、出番ですよ~」
「え……」
加賀はずっと後ろのソファに座って話を聞いていた陸奥に、全力で嫌そうな赤城をけしかけた。赤城は立ったまま陸奥に質問する。
「……聞きたいことは、いくつかある」
「構わないけど、別に言うことないわよ?」
「質問に、答えて」
「ええ、何なりと」
赤城とは正反対に陸奥はゆったりし切った様子である。
「まず、長門の言葉に、訂正するべきところは、ある?」
「特にないと思うわ。ちゃんと聞いてなかったけど」
「……なら、もう一つ。どうして、あなたも、接近してきた敵艦を、撃たなかった?」
「長門と同じよ。私も防空で忙しかったし、友軍に被害が出るのは御免だったからね。そんなことしたら責任問題になるから」
「そう。それは、あなたが独自に判断した?」
陸奥は一瞬だけ言葉に詰まった。完全に嘘の物語を語っているので無理はない。
「ええ、そうよ。長門と私は気が合うからね」
「……そう。質問はこれで、終わり」
「あらそう。随分と短かったわね」
「長門から、大方のことは、聞いているから」
赤城は同様にして信濃にも質問をしたが、信濃も陸奥と同じようなでっちあげの回答をしただけであった。
「長門、陸奥、信濃、ご協力ありがとうございました~」
加賀は仕事を一つ片付けたたからか、少し表情が柔らかくなった。
「協力に、感謝する」
「ところで長門、私達の部屋は準備してくれているのですか?」
「ああ。空き部屋なら幾つでもある。2部屋くらいどこにでも用意でき――」
「1部屋で結構です」
加賀は一切の淀みなく言い切った。
「そ、そうか。ならば陸奥、適当な部屋に案内してくれ」
「え、何で私が」
「お前は今のところ第五艦隊の一員だろう。これも職務のうちだ。お前のことは信用しているぞ」
実際のところはあんまり陸奥と一緒にいると信濃が怒るからである。最後の一言が余計だったが。
「ふーん。別にいいけど。ほら、赤城、加賀、ついてきて」
「ありがとうございます~。あ、あと、駆逐艦の子達の部屋も用意してくれますか? 2部屋あれば十分です」
「はいはい。問題ないわよ」
初日の面倒事はこれで終わりのようだ。
「分かった。我が艦隊は初めソ連海軍と共に敵艦隊と戦い優勢を保っていたが、突如として120機程度の強力な敵航空艦隊の襲撃を受け、ソ連海軍は撤退し、我々も敵の攻撃を防ぐだけで精一杯となった。そして敵の重巡洋艦級が一隻、第五艦隊に突っ込んで来て、高雄と衝突した。自爆のような戦術だ。高雄は戦闘不能状態に陥り、我々は高雄をその場に残して撤退せざるを得なくなったのだ」
なかなか無理のある説明であるが、陸奥のせいで長門が動けなかったことや勅命が下ったことについて話す訳にはいかなかった。
「なるほどなるほど。しかし変ですね。どうして長門ともあろうお方が、重巡洋艦程度を食い止めることもできなかったのですか?」
「言っただろう。空からの攻撃に対処するのに忙しく、敵重巡に対処できなかったのだ。そもそも、戦艦から見ても、重巡はそう簡単に沈められるものではない」
「確かに戦艦の気持ちは私には分かりませんが、攻撃を受けるほどに敵機の接近を許していたのなら、主砲は暇だったはずですよね?」
確かに主砲による対空砲火は敵機がかなり遠くにいないと使えない。主砲の仰角は50度程度が限界であり、 敵が真上にいると狙いを付けることも不可能なのである。
「確かにそれはそうだが、私は万能ではない。高角砲と機銃を制御しながら更に動く敵艦を砲撃するなど手に余る」
「そうなんですか? 帝国最古参の船魄にしては意外ですね」
加賀は純粋な興味から尋ねた。本来の目的とは特に関係のない問いだ。
「ああ。私は元より、大した実戦を経験している訳ではないのだ。戦闘能力をそう期待されても困る」
「そうなんですね~。ですが、仮に主砲に気が回らなくても、艦隊に入り込まれるまで近づかれたら、流石に当てることもできるのではありませんか?」
「そんなことをしたら高雄も巻き込んでしまうだろう。一切の妨害がなかったとしても、隣り合った艦の片側だけを上手に撃ち抜くような真似は、少なくとも私には無理だ」
「高雄に取り付かれるちょっと前くらいに撃てばよかったのでは?」
「陣形の内側に向けて発砲するなど危険過ぎる。万一にも僚艦を傷付ける訳にはいかんだろう」
もちろん真実は陸奥がいきなり裏切ってきたからなのだが、あの混乱状態で味方のすぐ近くの敵を撃つというのは、一般的にも確かに推奨されない。
「なるほどなるほど~。それを気にして重巡一隻を失うのは、本末転倒としか言いようがありませんがね~」
「それについては、私が判断を誤った。今思えば、多少の危険を顧みず、敵の接近を食い止めるべきだったな」
「そう、ですか。では私からあなたへの事情聴取はこれで終わりです」
「私への? 他にもする気なのか?」
「ええ、もちろんです。証言はできるだけ色々な人から集めた方がいいですよね?」
「まあ、それはそうだな」
陸奥と信濃は共謀している側なので心配はないだろうが、峯風と涼月には怪しまれているだろう。赤城と加賀が彼女達に接触すると面倒なことになるかもしれない。
「では早速、陸奥にお話を聞いてみることにしましょう。ほら赤城ちゃん、出番ですよ~」
「え……」
加賀はずっと後ろのソファに座って話を聞いていた陸奥に、全力で嫌そうな赤城をけしかけた。赤城は立ったまま陸奥に質問する。
「……聞きたいことは、いくつかある」
「構わないけど、別に言うことないわよ?」
「質問に、答えて」
「ええ、何なりと」
赤城とは正反対に陸奥はゆったりし切った様子である。
「まず、長門の言葉に、訂正するべきところは、ある?」
「特にないと思うわ。ちゃんと聞いてなかったけど」
「……なら、もう一つ。どうして、あなたも、接近してきた敵艦を、撃たなかった?」
「長門と同じよ。私も防空で忙しかったし、友軍に被害が出るのは御免だったからね。そんなことしたら責任問題になるから」
「そう。それは、あなたが独自に判断した?」
陸奥は一瞬だけ言葉に詰まった。完全に嘘の物語を語っているので無理はない。
「ええ、そうよ。長門と私は気が合うからね」
「……そう。質問はこれで、終わり」
「あらそう。随分と短かったわね」
「長門から、大方のことは、聞いているから」
赤城は同様にして信濃にも質問をしたが、信濃も陸奥と同じようなでっちあげの回答をしただけであった。
「長門、陸奥、信濃、ご協力ありがとうございました~」
加賀は仕事を一つ片付けたたからか、少し表情が柔らかくなった。
「協力に、感謝する」
「ところで長門、私達の部屋は準備してくれているのですか?」
「ああ。空き部屋なら幾つでもある。2部屋くらいどこにでも用意でき――」
「1部屋で結構です」
加賀は一切の淀みなく言い切った。
「そ、そうか。ならば陸奥、適当な部屋に案内してくれ」
「え、何で私が」
「お前は今のところ第五艦隊の一員だろう。これも職務のうちだ。お前のことは信用しているぞ」
実際のところはあんまり陸奥と一緒にいると信濃が怒るからである。最後の一言が余計だったが。
「ふーん。別にいいけど。ほら、赤城、加賀、ついてきて」
「ありがとうございます~。あ、あと、駆逐艦の子達の部屋も用意してくれますか? 2部屋あれば十分です」
「はいはい。問題ないわよ」
初日の面倒事はこれで終わりのようだ。
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