軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第三章 戦いの布告

攻勢

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「お、落ちた……? 落ちた!」
『うむ。我らを脅かす敵は全て落ちた。やるではないか』
『そう、ね。よくやってくれたわ、妙高。ありがとう』
「ど、どういたしまして……」

 共同作業ではあるが、妙高は信濃の艦載機を撃墜することに成功したのであった。

『さーて、信濃も大層な賭けに出たものだけど、もう余力がないだろうね』

 瑞鶴が舌なめずりをしているのが、通信機越しでも分かった。自爆的な攻撃で艦載機をすり減らした第五艦隊に、瑞鶴とツェッペリンの艦載機が迫る。

 ⑦

『長門……すまぬ、敵を、押さえ切れなかった』
『仕方あるまい。敵はただでさえ2倍いるのだ』
『し、しかし、このままでは……』
『案ずるな、信濃! 私と陸奥がいる! 敵機などことごとく撃ち落としてくれよう!』
『あらー、頼りにしてくれるじゃない。ちょっと嬉しいわ』
『私達も忘れるなよ』

 峯風は言った。艦戦がなくとも第五艦隊には対空戦闘をやり遂げる自信がある。

『さあ、来るぞ! 全艦、撃ち方始め!』

 まずは長門と陸奥の主砲から放たれる通常弾が空を炎で埋め尽くす。同時に全ての艦が対空砲火を開始した。しかし、空を覆いつくした炎からは、最初とほとんど数が変わらない数の航空機が飛び出して来た。

「な、長門の対空砲火をいとも簡単に……」

 高雄は戦慄する。これまで、長門が主砲を動かせば、生き残る敵機はほんの少数だった。だが、今回の敵は一味も二味も違う。長門の対空砲火はまるで意に介さないようだ。やがて敵機は艦隊の上空に入った。

 すぐに一機の艦攻――八年式艦上爆撃機『星雲』が高雄の直上に入り、そのまま急降下爆撃を仕掛けてきた。

「う、撃ち落とさないと!」

 機関砲も総動員して迎撃するが、敵機は弾幕をすり抜けて高雄の直上に迫る。

『高雄、撃ち漏らしているぞ!』
「峯風、す、すみません。ですが……」

 高雄は撃たれなかった。急降下爆撃を仕掛けてきたと思ったのに、敵の爆撃機は高雄の艦橋のすぐ上で反転し、上空に飛び去ってしまったのだ。

「一体、敵は何を考えているのでしょうか……」
『見て分からないか、高雄。奴らの狙いは長門と陸奥だ。私達の周りで飛び回っているのは、ただ私達をここに拘束する為だろうな』
「そうは言いますが、長門も陸奥も撃たれていませんよ?」
『いや、違う。長門も陸奥も、敵を一切寄せ付けない対空砲火を展開している。だが、私達を相手にするのとは違って、あの攻撃機には敵意を感じられる』
「……私達は相手にすらされていないということですか?」
『極めて不愉快だが、そのようだ』

 高雄も峯風も涼風も、艦載機を大きく失った信濃も、敵の眼中にはなかった。

 ――所詮私は重巡洋艦、ということですか……

 結局、高雄が傷付けられることはなかった。それは屈辱であるし、悔しかった。

 ○

『チッ……。流石は連合艦隊旗艦様ね。アメリカの艦とは対空砲火の格が違うわ』
『そのようだな。気を抜くとすぐ落とされる。調子に乗りおって』

 瑞鶴もツェッペリンも数機の艦載機を落とされている。熾烈な攻防が続いていた。

『ここだっ! 雷撃!』

 瑞鶴はほんの僅かな隙を見出し、すかさず魚雷を投下した。魚雷は海面に落下し、水中で僅かに進んだ後、長門の喫水線下に命中して、大きな水飛沫を上げた。

「あ、当たりました!」
『ええ。でも、効いていないようね』

 長門は爆発の衝撃でほんの少しだけ艦体を揺らしたが、それだけであった。長門の装甲は近代的な複合装甲に改装されており、船魄のダメージコントロール能力もあって、大した障害にはなっていないようだった。

「さ、流石は長門様」
『何を感心してるのよ。しっかし面倒ね。長門一人なら相手になったけど』
『二隻になれば一気に強くなる、か』
『そういうこと。互いに死角を補い合ってるからね』

 長門と陸奥。その連携は、流石は姉妹艦と言ったものだった。その戦力は長門や陸奥単艦の二倍どころではない。

『最低でも長門と陸奥は無力化しないとあなたが近寄れもしないから、ちょっと手荒になるのは覚悟してね。もちろん沈めはしないけど』
「……分かりました。それでも構いません」

 妙高にはその戦況を見守ることしかできなかった。だが、その時だった。

「ん? ず、瑞鶴さん!! 大変です!」
『何? どうしたの?』
「新たな艦影を3つ、9時の方向に確認しました。大きさからして戦艦かと!」

 妙高の電探だけは瑞鶴やツェッペリンのそれを大きく上回る性能を持っている。だから真っ先に迫りくる艦を探知することができた。

『ほう。戦艦が3隻来ていると?』
「はい、ツェッペリンさん。間違い、ありませんかと……」
『この状況で私達の味方ってことはなさそうね』

 瑞鶴の予想通り、それは敵だった。
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