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第三章 戦いの布告

赤い援軍

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 その頃、プエルト・リモン鎮守府に一隻の戦艦が訪れていた。

「久しぶりね、長門。元気だったかしら」

 長門と同じ一本の角と尻尾を持ち、似たような派手な軍服を纏った少女。但しその色だけは、長門と正反対の純白である。彼女はふらふら辺りを見回しながら、長門の執務室を訪れた。

「陸奥……これはどういう了見だ?」

 長門型戦艦二番艦、陸奥。艦としては柱島で沈没した彼女は、戦後に引き上げられた後に船魄として改装された為に、第二世代の船魄に分類される。しかし岡本中将の『姉妹なんだから見た目が似ていた方がいいじゃないか』という主張により、長門や瑞鶴と同様の禍々しい見た目に造られていた。

「長らくご無沙汰だったからね。たまにはあなたとイイコト、したいのよ?」

 陸奥は長門の背後に回り込んで首や肩を撫で回す。

「じょ、冗談はよせ……。ここは執務室だぞ」
「半分本気なんだけどなぁ」
「ほ、本気か……?」

 ただの冗談にすっかり動揺してしまう長門。姉の扱いには自信がある陸奥である。

「ま、流石の私でもそのためだけにこんな熱帯にまで来たりはしないわ。夏は帝都の冷房の効いた部屋で寝転がっているのが一番だからね」
「そ、そうか。で、軍令部直属のお前がどうしてコスタリカに?」
「あなたに紹介したい船魄がいるの。この辺りで活動するから、一応顔見世くらいはしておこうと思って」
「それはどういう連中だ?」
「同盟国からの援軍って聞いているわ」
「同盟国……ソ連か」

 日本の同盟国でマトモに船魄を運用できる国はソビエト連邦しか存在しない。

「じゃあ早速、紹介するわ。入って、みんな」
「失礼する、同志(タヴァーリシ)」

 ソ連風の厚手のコートのような軍服を纏い、共産党らしい星の飾りがついた帽子を被った礼儀正しい少女が、まず執務室に入って来た。そしてその後ろに、同じような恰好をした少女が二人続く。旧連合国軍、つまりソ連とアメリカの船魄は艦と船魄を物理的に接続する方式を採っているために、角や尻尾はない。

 しかしソ連の船魄製造技術は日本と比べて非常に遅れており、帝国が既に第四世代型船魄の姿を模索している中、未だに彼女ら第一世代型が主力である。

「同志長門、私はソビエト連邦海軍太平洋艦隊、第一親衛戦隊所属、ソビエツキー・ソユーズ級戦艦の一番艦、ソビエツキー・ソユーズ。貴国の依頼を受け、カリブ海に跋扈する海賊の討伐に派遣されてきた船魄だ」

 1945年にソ連で初めての超弩級戦艦として建造されたソビエツキー・ソユーズ級戦艦。その名は『ソビエト連邦』そのものを意味する。

 40.6センチ三連装主砲を三基搭載し長門とほぼ同じ攻撃力を持った戦艦である。そしてスターリン書記長が建造を主導したことから『スターリンの遺児』という別名も持っている。

「なるほど。ソ連は今のところ中立だから自由に動けるという訳か」
「その通りだ。我々はこの海で、自由に行動することができる。その立場を活かし、賊を殲滅、もしくは鹵獲することが任務だ」

 海賊は法的に全人類の敵ということになっている。海賊の撃滅という名目であれば、領海侵犯でもしない限り割と何でもできるのだ。

「そしてこっちが――」

 ソユーズは隣にいる、落ち着きなく目をギラギラと光らせた少女を指さしす。

「はいはーい! 私、ソビエツカヤ・ウクライナ! ソユーズちゃんの妹だよ! 海賊? とかいう奴、殺していいんでしょ? 楽しみ!!」

 その名はソビエトのウクライナ――ウクライナ・ソビエト社会主義共和国を意味する。

「う、うむ……」
「同志ウクライナは戦闘狂なのだ。許してくれ」
「ええ~? ソユーズちゃん、私達は戦うために生まれて来たんだよ? 殺し合いを楽しまなくちゃ損じゃない?」
「それは考え方次第だな」
「何それ~」
「続いて、その隣にいるのが――」

 ソユーズはウクライナの隣にいる、つまらなそうな眼をして少し小柄な、落ち着いた少女を指した。

「はい。私はソビエツカヤ・ベラルーシ。ウクライナの妹です。姉達がご迷惑をおかけするかと思いますが、どうぞご容赦ください」

 こちらは白ロシア・ソビエト社会主義共和国の名を冠する。

「やっとマトモなのが来たか……」

 この三名がソビエツキー・ソユーズ級戦艦三姉妹である。やはり陸軍に重点が置かれ、列強としては小規模な海軍しか保有しないソ連にとって主力の船魄達だ。フルシチョフ第一書記としてはこの任務をそれなりに重んじているらしい。

「ふむ。それで、陸奥、私が何かしておくべきことはあるのか?」
「いいえ、特には。一応彼女達と出くわすかもしれないってことだけよ」
「敵と間違えられては困るのでな。もしも再び出会うことがあれば、その時は共に戦おう。同志長門よ、我々は同盟軍だ」
「うむ。そうだな。共に戦えることを楽しみにしている」
「ねえねえソユーズちゃん、もしも間違えてこっちを撃ってきたら、こいつ殺していい?」
「ダメだ。外交問題になる」
「チッ……馬鹿な姉ども」
「んん……?」

 ベラルーシからとんでもなく暗い声が聞こえた気がしたが、長門は聞かなかったことにした。

「それでは、再び相まみえんことを。同志長門」

 お騒がせの三名は執務室を去った。部屋には長門と陸奥だけが残された。
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