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第一章 大東亜戦記
最後の突撃
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「第一部隊は残り20隻を残すばかり、か」
「クッソ……また敵が来る……」
『ず、瑞鶴さん……』
「敵の数は?」
「……百を超えているわ」
敵は彼女らで遊んでいるのだろう。少しずつ編隊を増やして絶望感を味合わせてくる。
「撤退しよう、瑞鶴。このままでは我々は無駄死にするだけだ」
岡本大佐が平静を装っていたが、その提案はとても冷静なものとは言えない。ここで逃げ帰るなど論外だ。
「いいえ。艦載機の速度と艦の速度なんて比べ物にならない。逃げたところで沈められるだけよ」
ここに来てしまった時点でもう逃げ場はない。艦隊に残された道はただ、戦うことだけだ。戦って敵を全て打ち倒す以外に、生きて帰る術はない。その時、岡本大佐に電話が入る。
「――何ですと? ……了解」
「どうしたの?」
「栗田中将からご命令だ。これより連合艦隊全部隊は敵機動部隊を叩くべく前進する。例えどんな犠牲を払おうとも、だ」
「それは……正しい選択ね」
このまま敵に一撃も加えられずに連合艦隊が消滅するくらいなら、海上特攻に訴えるまで。栗田中将の判断は、限られた戦力を最大限に活用する手段としては最適だった。
『瑞鶴さん、瑞鶴さんと第一部隊は大和が守ります。行きましょう』
「大和、あなたは……」
『大和はフィリピン沖で妹の武蔵を亡くしました。もう悲しい想いはしたくないのです』
「そう、そうだったわね……。分かったわ。行きましょう」
『お姉ちゃんもついているわ!』
「ありがと、お姉ちゃん。さて……瑞鶴、これよりアメリカ人を殲滅する!」
第一部隊は全速前進を開始した。他の部隊が囮になって敵の戦力を分散させる。船魄のない部隊ではこの敵を相手にすることなど自殺でしかなかったが、第一部隊に一気に敵が来ないだけでも対処はしやすくなる。
合計して三百程度の敵機を落とし、多くの傷を負いながら、大和の46cm砲が敵を捉えるまで前進、艦隊が消えてなくなっても前進である。
○
「うふふ、しつこいですね。でも殺し甲斐があっていいです……」
エンタープライズは全身から汗を噴き出し頬を赤く染めながら、嬉しそうに呟いた。マッカーサー大将も流石に彼女を心配する声をかける。
「エンタープライズ、お前はもう四百機以上は艦載機を失ったんだ。精神へのダメージは相当だと思うんだが」
「前にも言ったじゃないですか、マッカーサー大将。死は幸福、死は喜びです。私は、もっと死にたいし殺したいんです!!」
「……まったく、ルーズベルトに造られた君もまた狂人ということか」
「ルーズベルト大統領閣下ですか? 彼は殺戮を楽しんでいるだけです。狂人などではありませんよ?」
ルーズベルト大統領が民衆を騙してアメリカを戦争に叩き込んだ狂人であるのは、軍人なら誰でも知っていることだ。
「世間一般ではそれを狂人と呼ぶんだ」
「理解できませんね。人を殺すのは楽しいのに」
「狂人に道理を説いても無駄か」
「閣下、我が艦隊が大和の射程に入ったとのことです!」
日本艦隊は水平線のすぐ向こうにまで接近していた。
「何? ニミッツの馬鹿はどうして下がらないんだ?」
「提督閣下は日本艦隊との砲撃戦を命じています」
「馬鹿がッ。勝てる訳がない」
「そ、そのようにお伝えしておきましょうか?」
「ああ。だが、あいつのことだ。聞き入れはしないだろうさ。勝手に死ねばいい」
マッカーサー大将は死に場所を求めている人間を無理に引き止めるような野暮な人間ではないのである。
○
『敵艦隊を射程に収めました。大和、砲撃を行います』
「頼んだ。敵護衛艦隊を殲滅してくれ」
『はいっ!』
大和は黒煙を巻き上げながら旋回し、砲撃の用意をする。栗田艦隊で動ける戦艦――長門と日向も一列に並び、その後ろには瑞鶴を含むたった6隻の艦だけが残っていた。他の艦は全て沈み、残ったのはこれだけだ。
「ちょっと待って! 敵艦隊も前進してきているわ!」
『大和と撃ち合おうという気ですか……大和は退きません!』
「大和、下がって。お願い」
『そうです。あなたの主砲なら、敵を一方的に撃つことができるんですよ!』
大和が敵艦隊と適切な距離を取れば、世界最大の射程を活かして一方的に敵を攻撃することができる。だが大和は安全策よりも敵を確実に殲滅することを選んだ。
『瑞鶴さん……ありがとうございます。ですが大和は、ここでケリをつけます!」
「待って! お願い!」
『いいえ。待ちません。瑞鶴さんには勝って、生き残ってもらいます』
「大和!」
「瑞鶴、彼女の好きにさせてやれ」
岡本大佐は瑞鶴の肩に手を置き制止する
「…………」
『大和、撃ちます!』
主砲9門を一斉射撃。すっかりボロボロになった艦体は、死を厭わない戦士のようであった。初弾から全弾が命中。敵空母と駆逐艦2隻を撃沈した。長門と日向も砲撃を行い、大和ほどではないが次々に敵艦を行動不能に追い込んだ。だが大和が次弾を装填している最中、大和の甲板で爆発が起こった。
「大和!!!」
『だ、大丈夫、です。たかがアメリカの戦艦の攻撃、です……!』
「お願い、下がって!」
『次弾、発射します!』
自身を攻撃した相手を判別した大和は即座に反撃に転ずる。9発の九一式徹甲弾をモロに喰らい、彼女を攻撃した戦艦イリノイはあっという間に爆発炎上して戦闘能力を喪失した。しかし米軍は戦艦や巡洋艦を次々に突撃させ、自殺まがいの攻撃を繰り返す。
大和と長門と日向は近づいて来た米艦を順々に撃沈していくが、彼らが死に物狂いで放った砲弾は少しずつ命中し、どの砲も大和に致命傷を与えることは不可能であったものの、少しずつ大和の艦体を蝕んでいった。
「クッソ……また敵が来る……」
『ず、瑞鶴さん……』
「敵の数は?」
「……百を超えているわ」
敵は彼女らで遊んでいるのだろう。少しずつ編隊を増やして絶望感を味合わせてくる。
「撤退しよう、瑞鶴。このままでは我々は無駄死にするだけだ」
岡本大佐が平静を装っていたが、その提案はとても冷静なものとは言えない。ここで逃げ帰るなど論外だ。
「いいえ。艦載機の速度と艦の速度なんて比べ物にならない。逃げたところで沈められるだけよ」
ここに来てしまった時点でもう逃げ場はない。艦隊に残された道はただ、戦うことだけだ。戦って敵を全て打ち倒す以外に、生きて帰る術はない。その時、岡本大佐に電話が入る。
「――何ですと? ……了解」
「どうしたの?」
「栗田中将からご命令だ。これより連合艦隊全部隊は敵機動部隊を叩くべく前進する。例えどんな犠牲を払おうとも、だ」
「それは……正しい選択ね」
このまま敵に一撃も加えられずに連合艦隊が消滅するくらいなら、海上特攻に訴えるまで。栗田中将の判断は、限られた戦力を最大限に活用する手段としては最適だった。
『瑞鶴さん、瑞鶴さんと第一部隊は大和が守ります。行きましょう』
「大和、あなたは……」
『大和はフィリピン沖で妹の武蔵を亡くしました。もう悲しい想いはしたくないのです』
「そう、そうだったわね……。分かったわ。行きましょう」
『お姉ちゃんもついているわ!』
「ありがと、お姉ちゃん。さて……瑞鶴、これよりアメリカ人を殲滅する!」
第一部隊は全速前進を開始した。他の部隊が囮になって敵の戦力を分散させる。船魄のない部隊ではこの敵を相手にすることなど自殺でしかなかったが、第一部隊に一気に敵が来ないだけでも対処はしやすくなる。
合計して三百程度の敵機を落とし、多くの傷を負いながら、大和の46cm砲が敵を捉えるまで前進、艦隊が消えてなくなっても前進である。
○
「うふふ、しつこいですね。でも殺し甲斐があっていいです……」
エンタープライズは全身から汗を噴き出し頬を赤く染めながら、嬉しそうに呟いた。マッカーサー大将も流石に彼女を心配する声をかける。
「エンタープライズ、お前はもう四百機以上は艦載機を失ったんだ。精神へのダメージは相当だと思うんだが」
「前にも言ったじゃないですか、マッカーサー大将。死は幸福、死は喜びです。私は、もっと死にたいし殺したいんです!!」
「……まったく、ルーズベルトに造られた君もまた狂人ということか」
「ルーズベルト大統領閣下ですか? 彼は殺戮を楽しんでいるだけです。狂人などではありませんよ?」
ルーズベルト大統領が民衆を騙してアメリカを戦争に叩き込んだ狂人であるのは、軍人なら誰でも知っていることだ。
「世間一般ではそれを狂人と呼ぶんだ」
「理解できませんね。人を殺すのは楽しいのに」
「狂人に道理を説いても無駄か」
「閣下、我が艦隊が大和の射程に入ったとのことです!」
日本艦隊は水平線のすぐ向こうにまで接近していた。
「何? ニミッツの馬鹿はどうして下がらないんだ?」
「提督閣下は日本艦隊との砲撃戦を命じています」
「馬鹿がッ。勝てる訳がない」
「そ、そのようにお伝えしておきましょうか?」
「ああ。だが、あいつのことだ。聞き入れはしないだろうさ。勝手に死ねばいい」
マッカーサー大将は死に場所を求めている人間を無理に引き止めるような野暮な人間ではないのである。
○
『敵艦隊を射程に収めました。大和、砲撃を行います』
「頼んだ。敵護衛艦隊を殲滅してくれ」
『はいっ!』
大和は黒煙を巻き上げながら旋回し、砲撃の用意をする。栗田艦隊で動ける戦艦――長門と日向も一列に並び、その後ろには瑞鶴を含むたった6隻の艦だけが残っていた。他の艦は全て沈み、残ったのはこれだけだ。
「ちょっと待って! 敵艦隊も前進してきているわ!」
『大和と撃ち合おうという気ですか……大和は退きません!』
「大和、下がって。お願い」
『そうです。あなたの主砲なら、敵を一方的に撃つことができるんですよ!』
大和が敵艦隊と適切な距離を取れば、世界最大の射程を活かして一方的に敵を攻撃することができる。だが大和は安全策よりも敵を確実に殲滅することを選んだ。
『瑞鶴さん……ありがとうございます。ですが大和は、ここでケリをつけます!」
「待って! お願い!」
『いいえ。待ちません。瑞鶴さんには勝って、生き残ってもらいます』
「大和!」
「瑞鶴、彼女の好きにさせてやれ」
岡本大佐は瑞鶴の肩に手を置き制止する
「…………」
『大和、撃ちます!』
主砲9門を一斉射撃。すっかりボロボロになった艦体は、死を厭わない戦士のようであった。初弾から全弾が命中。敵空母と駆逐艦2隻を撃沈した。長門と日向も砲撃を行い、大和ほどではないが次々に敵艦を行動不能に追い込んだ。だが大和が次弾を装填している最中、大和の甲板で爆発が起こった。
「大和!!!」
『だ、大丈夫、です。たかがアメリカの戦艦の攻撃、です……!』
「お願い、下がって!」
『次弾、発射します!』
自身を攻撃した相手を判別した大和は即座に反撃に転ずる。9発の九一式徹甲弾をモロに喰らい、彼女を攻撃した戦艦イリノイはあっという間に爆発炎上して戦闘能力を喪失した。しかし米軍は戦艦や巡洋艦を次々に突撃させ、自殺まがいの攻撃を繰り返す。
大和と長門と日向は近づいて来た米艦を順々に撃沈していくが、彼らが死に物狂いで放った砲弾は少しずつ命中し、どの砲も大和に致命傷を与えることは不可能であったものの、少しずつ大和の艦体を蝕んでいった。
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