上 下
18 / 399
第一章 大東亜戦記

真珠湾海戦

しおりを挟む
 一九四五年七月十六日、トラック諸島。

「瑞鶴! 大丈夫でしたか!? 心配してたんですよ!?」

 久しぶりに顔を合わせる翔鶴と瑞鶴。翔鶴は瑞鶴を見るや真っ先に飛びついて、瑞鶴を握り潰さんばかりの勢いで抱擁する。

「お、お姉ちゃん、苦しいよ」
「もう~、可愛い!」
「あ、あはは……」

 何となく気まずくなる。こうなると大和に手を出したことを後悔するわけだが、それで気が紛れるなら、トラウマを引きずるよりはマシである。

 それは置いておいて、岡本大佐はみすぼらしい作戦説明室で三名の船魄に黒板で説明を始めた。

「さて船魄諸君、戦況を説明しよう。まあ私は軍人ではないが。先日、連合艦隊は未知の敵艦隊に襲撃を受け、大きな損害を被った」
「敵艦隊に戦力が残っていたのかしら……」
「もしかして、この前の奴?」

 瑞鶴の言葉に岡本大佐の表情が引き締まる。図星だったようだ。

「確証はないが、その通りだと思われる。連合艦隊はたった3隻の空母に攻撃され、壊滅的な損害を負った。アメリカ軍にも君達と同じ存在がいると仮定するのが自然だろう」
「3隻? まさか3隻も船魄が……?」

 大和は不安そうに尋ねた。もしそうなら帝国海軍が太平洋に築いた圧倒的な優勢が崩れ去ってしまうだろう。

「その可能性は否定できない。だが現状、その可能性は低いと考えられる」
「何故ですか……?」
「敵艦隊が繰り出してきた艦載機は60機ほど。これは一人の船魄が制御できる限度程度の数だ。船魄が複数あるのを隠す為の演技だと言われれば、否定するのは不可能だが」
「考えられるとしたら、艦載機の予備を他の空母に載せているのではありませんか?」

 翔鶴は鋭い考察を示した。

「なるほど。確かに、自分に艦載機を載せる必要ないもんね」

 身も蓋もない話だが、実は船魄との接続を確保すれば艦載機を自分に搭載する必要はない。他の空母を艦載機輸送艦として使えば、自分の艦載機を消耗し切っても戦い続けられるのだ。

「ああ……そうだな。その可能性は高い。いずれにせよ、帝国海軍はこの艦隊を壊滅する必要がある。そうでなければ、我々が敗北するだけだ。よって帝国海軍は、オーストラリア攻略のSY作戦と並行し、まず西太平洋の偵察を行う。君達には偵察を手伝ってもらいたい」
「偵察、ですか……?」
「ああ、偵察だ。君達は無駄に戦って消耗するべきではない。まあ敵が小規模ならば潰しても構わないが」

 作戦を了承した三名。彼女らは暫く西太平洋を駆け巡ることとなる。

「そうそう、翔鶴、瑞鶴、新しい艦戦を導入しようと思うので、後で使ってみてくれ」
「何それ?」
「零式艦上戦闘機の後継機、烈風だ。開発が遅れに遅れたが、ようやく数を揃えられたのだ」
「へえ。後で見ておくわ」

 零式艦上戦闘機は改良が続いているとは言え5年前の艦戦だ。5年もかけてようやく新型機が完成し、纏まった数を用意できたのである。瑞鶴は零戦より遥かに速く操作性のよい烈風を気に入り、零戦を全て置き換えることにした。

 烈風を使って練習がてら偵察をしていると、まもなく敵艦隊の動静が判明し、船魄達は出撃することになる。

 ○

 一九四五年八月十三日、真珠湾。日本軍のオーストラリア攻略作戦が開始されていたが、アメリカ軍は事実上、オーストラリアを見捨てていた。オーストラリアへの補給路を確保することが不可能になったからである。

「マッカーサー大将、ここに日本軍が迫っているそうだ」
「俺達を嗅ぎ付けたか。なかなか早いな」
「ああ。だから、この馬鹿げた戦争が始まったこの地で決着をつけよう。この合衆国最後の艦隊と共にな」
「戦闘群がたったの2つしかない艦隊など……俺のエンタープライズ艦隊と比べればなぁ」

 ほんの数か月で新たな艦隊を作り上げたアメリカの国力は十分恐ろしいが、やはり艦隊としては非常に見劣りするものだ。レイテ沖海戦の際はおおよそ20個の戦闘群を投入したというのに、今ではアメリカ海軍の総戦力がこの40隻程度の艦隊なのである。しかも主力艦は戦艦3隻と空母4隻だけだ。

「……言うな。自覚はあるんだ」
「ニミッツ提督、お前も懲りただろう。素直にエンタープライズ艦隊の護衛になるといい」
「分かっている。それがこの艦隊の一番マシな使い道だろう」

 今、大東亜戦争の趨勢、東アジアの命運を決める海戦が勃発する。

 ○

 一九四五年八月十六日、ハワイ西部海域。

「帝国海軍はこれより、ハワイ攻略作戦・MA作戦を発動する」
「ついに来たわね」
『緊張しますね、瑞鶴……』
「ああ、決戦の時は来た。瑞鶴、翔鶴、大和。君達にとって最も困難な戦いとなることが予想される。くれぐれも気を抜くな」

 岡本大佐はどうあっても彼女らに死んでは欲しくない。故に軍令部に最大限の配慮を要請し、連合艦隊の主力部隊がありったけ、船魄達の護衛艦隊として随伴することとなった。これらの艦が第一部隊、或いは栗田艦隊を構成する。日本軍と米軍の最高戦力が今まさに、激突しようとしているのだ。

「そうだ、その前に、畏くも天皇陛下から君達に感状が届いているぞ」

 岡本大佐はふと思い出したように言った。

「え、あなた、陛下の勅語を後回しにしてたの?」
「そういうことになるな」
『ええ……』
「不敬罪で突き出そうかしら」

 届けられた見たこともないような立派な手紙には、船魄達への労い、無事を祈る勅語が書き綴られている。岡本大佐は通信機の向こうにいる大和と翔鶴のためにそれを読み上げた。

「――とのことだ。陛下からのご期待にお応えし、必ず生きて帰るように」
「ええ。当たり前じゃない」

 国家が自分達を気遣ってくれている。それだけでも瑞鶴は嬉しかった。

「――おっと、東500キロ、敵艦隊を確認。50隻程度の艦隊よ」
「まだそんなに残っているのか。本当にアメリカの工業力は底なしだな」
『瑞鶴さん、大和が敵を突き崩します。いつもの作戦でいきましょう』
「ええ、頼むわ」

 大和と五航戦を組み合わせたいつも通りの戦術で攻撃する。まずは大和の主砲が届くまで距離を詰めることだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...