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本編
第5話 対艦戦闘
しおりを挟む「左砲雷激戦用意!」
颯華の号令と共に、アサマは全ての主砲を左へと旋回させる。前部に2基、後部に1基、船体下部に1基の計4基8門の20cm連装主砲は、その咆哮が上がるのを今か今かと待ちわびるかのように陽光の光を浴びて鈍く光っている。
再び最大戦速へと速力を上げたアサマは、その鼻先を福連艦艇へと向けた。
「敵艦隊からの火器管制装置の照射を検知!目標本艦!
ッ!?敵艦隊発砲!」
急激に艦首を敵艦隊へと向けたアサマに対して、福連の3隻の飛空艦は問答無用で砲撃してきた。
放たれた砲弾は全て的外れな方向に飛んでいった物の、砲弾の爆発音はそれだけでアサマを振動させる。
「ダウントリム5° 浮遊機関出力40%!」
「ダウントリム5° 浮遊機関出力40%了解!」
颯華の号令に素早く対応する八江。テレグラフを操作して浮遊機関の出力を絞り、舵輪を少し前へと倒す事で、水平時から-5°ほど艦首を下に下げた。
『颯華艦長!航空隊発艦完了!』
艦内電話を通して、颯華はアサマ艦尾にある航空管制室にて航空隊の指揮を取っている優子から航空隊の出撃準備が整ったとの報告を貰った。
「優子、航空隊全機発艦!」
『了解!』
艦首を下げ、最大戦速で高度を下げているアサマは自身の限界を越えた260ノットを叩き出している。
そんな中での発艦作業は大変難しい物だったが、飛行科の作業員も航空機の搭乗員達も全力で発艦作業を行っているのが艦橋にて取り付けられている艦外テレビモニタにて良くわかった。
「3000ftまで降下しろ」
「了解!3000ftまで降下!現在高度9000ft!」
こうしてアサマが目標高度まで降下している時も1機、また1機と水上機が発艦していく。
深緑の機体に我らが佐空のエンブレムを着けた瑞雲4機全てが無事発艦したのは、降下開始から5分後、高度5500ftまで降下した時だった。
「瑞雲航空隊は敵駆逐艦へ爆撃せよ。
爆撃後はサワカゼの護衛に当たれ。」
『了解!』
飛行長の優子はそう返答すると艦内電話のスイッチを切った。少なくとも、対艦戦闘中において彼女の役割はここまで。
後は発艦した瑞雲航空隊の管制に専念することにしたのだ。
「現在高度3500ft!」
「トリム水平!浮遊機関出力50%!」
「了解!トリム水平!浮遊機関出力50%!」
ゆっくりと艦首が浮き上がり水平へと戻っていくアサマ。
しかし、排水量1万トン越えの船体を持つアサマはそう簡単には高度を維持出来ない。慣性の法則にしたがって未だ降下を続け、ようやく水平になったのは最初の号令通り高度3000ftまで降下した時だった。
無論、この間もアサマは敵の巡洋艦や駆逐艦から撃たれ続けた。
未だ命中弾は無かったが、至近で爆発した砲弾の破片が船体や甲板を滅茶苦茶に叩き、爆発の衝撃波が船体を上下左右へと激しく揺さぶった。
「敵艦隊まで、距離3海里!間もなく直下!」
敵艦隊から見て、アサマは左上方を反航体制で飛んできている。
これは実に嫌らしい位置だった。敵艦隊からしたら前部側の主砲しかアサマを狙うのに使えないし、更に上方を反航体制で来られては主砲射撃の為の演算処置が複雑になっているのだ。
相変わらず、敵艦隊からの主砲弾は全て艦尾側へと流れており、敵の演算が間に合っていないのは誰の目に見ても明白だった。
「左傾斜15°!
目標、敵2等飛空巡洋艦!主砲射撃用意!」
「了解!左傾斜15°!」
「目標敵2等飛空巡洋艦!主砲射撃用意!射撃管制装置起動!演算開始!」
「射撃管制装置起動!システム異常無し主砲との連動開始!」
航海長の八江が颯華の命令の下、アサマを左へ傾斜させる。
艦底部に取り付けられている一対のフィンスタビライザーが稼働し、アサマは直ぐに左へと傾いた。
実は、副長のアルマは砲雷長を兼務している。
颯華からの号令を受け、アルマは艦橋上部の射撃管制装置を起動、主砲と連動を行った。
アサマに搭載されている射撃管制装置は、従来の火器管制装置の様なただ武器と連動して目標を追尾するだけ(射撃に必要なデータは手動入力)とは違い、全てが自動化されている(海上自衛隊の火器管制装置に近い代物)。
これにより、敵2等飛空巡洋艦までの距離、風向き、動静等を自動で計測し、射撃に必要なデータを入力してくれる佐空、呉空、舞空、横空にしかない、他の飛空士学校には無い虎の子のシステムだった。
「射撃管制装置主砲との連動良好!射撃用意よし!」
「敵2等飛空巡洋艦直下!」
よし、
「攻撃始め!」
左へ傾斜したことにより、艦底部の24番砲(20cm主砲の4番砲の略)以外にも上部の21~23番砲も射撃出来る様になっており、アサマはその全主砲火力を敵2等飛空巡洋艦へ向ける事が出来た。
「主砲第1斉射!撃ち方始め!」
爆発音に負けない大声で、砲雷長アルマの発した号令と共に、4基8門の20cm連装砲がついに牙を剥いた。
アサマは確かに旧式の飛空商船改装巡洋艦で正規の1等飛空巡洋艦には劣るものの、その火力はたかだか2等飛空巡洋艦が打ち勝てる物ではない。
一直線に翔んでいった8発の砲弾は、射撃管制装置の助力を受けて全弾とはいかなかったものの、3発が初弾から敵2等飛空巡洋艦の船体に突き刺さった。
3発とも敵2等飛空巡洋艦の艦尾付近に命中し、1発は舵に穴を明け、残りの2発は後部の主砲塔2つをひしゃげたスクラップへと変えた。
「初弾命中!
敵2等飛空巡洋艦の後部砲塔を破壊!」
「次弾装填!
第2斉射用意!」
次弾装填と共に、第2斉射を撃たんとするアルマだったが、反航戦だった為に既に敵2等飛空巡洋艦はアサマの後方へと過ぎ去っていた。
「傾斜復元。面舵一杯!敵艦隊と同航戦に移行する?」
「了解!傾斜復元。面舵一杯!」
左へと傾斜していたアサマは素早く水平に戻ったが、直ぐ様面舵を取った為遠心力で再び左へと傾いた。
「反転と共に右砲雷激戦用意!
1番空雷発射管発射準備!」
「まってましたぁ!!」
颯華の号令に嬉しそうに返す夏美。ようやく空雷長として出番が来たからだ。
240ノットで急速に面舵反転するアサマ。
その右舷後部にある防水シャッターが開くと、中から53cm4連装空雷発射管が現れた。
「1番発射管展開完了!
発射諸元入力……1~4番空雷発射準備よし!」
「面舵回頭完了!」
「各部右砲雷激戦用意よし!」
再び敵2等飛空巡洋艦に対して射撃を再開しようとするアサマ。
既に敵艦隊も上昇してきており、アサマとの高度差は殆ど無かった。
「主砲21番22番、撃ち方始め!」
反転を終えた時、アサマは敵2等飛空巡洋艦の左後方5000mを同航体制で進んでいた。
やや離されてしまった為、後部の23番砲と船体下部の24番砲はお互いの位置関係上敵2等飛空巡洋艦に対して射撃を行う事は出来なかった。
アルマは艦前部に配置されている21番砲と22番砲のみ、火力では2分の1と半減してしまうが、その2基で砲撃を行った。
1度に発射する砲弾が減るのは命中率にも関わる事だったが、アサマの砲撃は優秀な射撃管制装置のお陰で1発の命中弾を得ることが出来た。
「敵2等飛空巡洋艦との距離4500m!」
「進路195°空雷の射線を確保しろ。」
「了解!取舵15度。進路195°!」
「夏美、射線に乗り次第、雷撃開始。」
「まかせて!1番空雷発射管旋回!」
ゆっくりとアサマが左へ艦首を向け始め、それと共に第1空雷発射管も旋回を始めた。
「1番空雷発射管、発射雷数4!雷撃準備!
全部ぶちかますよ!いいね!」
「「了解!」」
戦闘時に使う艦内電話は既にアルマが射撃管制装置管制室とのやり取りで使用していた為に、非常用の伝声管(鋼鉄製の糸電話みたいな物)にて空雷方位盤管制室に指示を出していた。
「ヨーソロー195°!」
「夏美。」
「しゃあ!第1空雷発射管、1番から4番斉射!」
夏美の号令の後、鋭いアラームが鳴り響いたかと思うとアサマの艦後方から4条の白煙が舞い上がった。
順次発射された4本の空雷は白煙の尾を引きながら音速に近い速度で飛んでいく。
中央部にあるフィンスタビライザーが空雷内部に搭載されているジャイロと連動して空雷方位盤管制にて初期入力された発射角へと空雷の軌道を曲げ、尾部に設置されたウィングが直線飛行へと移った空雷の飛行を安定させる。
扇状に広がる空雷の姿は航空自衛隊のブルーインパルスのショーの一幕を思わせる美しさがあった。
しかし、敵2等飛空巡洋艦も黙って空雷を受ける訳は無い。
被害の無い機銃群が空雷を撃ち落とさんと弾幕を張り、敵2等飛空巡洋艦自体も面舵をとって右へと回避しようとする。
2本の空雷が弾幕の雨に撃たれ耐えきれず撃ち落とされた。
また残りの2本の空雷のうち、1本は回避されてしまい、結局命中したのは1本に留まった。
しかし、旧式とはいえ空雷の破壊力は絶大である。TNT換算で約400㎏の炸薬を搭載した53cm空雷は、その速度でもって容易く敵2等飛空巡洋艦艦尾付近の軽金装甲をぶち破り、弾頭部の遅発信管によって内側から大爆発を起こした。
……駆逐艦なら真っ二つに出来る程の威力である。たとえ巡洋艦だろうとその被害は甚大だった。
「敵2等飛空巡洋艦速力低下!降下していきます!」
見張りからの報告を受け双眼鏡を覗けば、被雷箇所から猛々しく黒煙を上げる敵2等飛空巡洋艦は、確かにゆっくりと降下していっている。浮遊機関に被害が出たのかは分からなかったが致命傷には変わりなかった。
「目標を駆逐艦に変更。」
「え!?敵2等飛空巡洋艦に追撃しないの!?」
「あれはもう戦えん。目下、サワカゼの脅威足り得るのは駆逐艦だけだ。」
「そっか………
そうだよね!サワカゼを護る為の戦いなんだから!」
始めは颯華の言葉に戸惑った夏美だったが、自分達の最優先すべき事を思い出し納得した。
今、アサマはサワカゼを護る護衛艦なのだ。
射撃管制装置を改めて駆逐艦2隻の内の1隻へと指向させたが、当の駆逐艦達にとってはそれどころ出はなかった。
4機の瑞雲が2機づつ駆逐艦へと搭載した25番爆弾を叩き込もうと急降下を行い、駆逐艦に1発づつ命中させていた。
しかも、その内1隻は運の悪い事に甲板上に設置されている空雷発射管に直撃していた。
誘爆による被害拡大防止の為発射管周りの甲板には装甲が施されていたが、対艦攻撃用の通常爆弾はその装甲ごと甲板を貫通し、誘爆による衝撃波が空いた穴から艦内へと逆流してしまった。
最早戦闘どころではない。機関に被害は無かった為一目散に逃げる駆逐艦を深追いせず、瑞雲航空隊は残りの駆逐艦へ20㎜機銃による機銃掃射を行った。
駆逐艦も搭載している機銃で応戦するも多勢に無勢。装甲によって艦内へのダメージは無い物の、艦橋構造物や煙突、機銃等ありとあらゆる物が穴だらけになってしまった。
幸運だったのは爆弾を受けた際に誘爆を防ぐ為に空雷を全て投棄していた事だろうか。
お陰で機銃掃射による空雷発射管の誘爆は防げたものの、駆逐艦としてアサマに対する最強のカードを失ってしまった。
最後の駆逐艦も数斉射ほどアサマからの砲撃を受けて、先の駆逐艦同様逃げ去って行った。
「各科対艦戦闘止め、合戦準備用具収め。」
護衛艦としての戦いは、始まって見れば、実に呆気ないものだった。
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