狡くて甘い偽装婚約

本郷アキ

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番外編・新婚旅行にハプニングはつきものです

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 街路樹に植えられたピンクや白の椿の花が、満開に咲き乱れている。
 長谷川総合病院のエントランス付近にも植えられていたことを思い出し、私はちょうど出会った頃のことを思い出していた。
 まさか一年後にこんな未来が待っているなんて、あの頃の私は思いもしなかった。
 窓を開けると生温かい風が伸びた髪を揺らした。私は全開に開けていたパワーウィンドウを閉めて、乱れた髪を手櫛で整えた。
「何笑ってるの?」
 運転席から不思議そうに私を見つめるのは、大好きな旦那様──長谷川晃史さん。去年の秋に入籍したばかりの新婚夫婦だ。
 最大十日間のゴールデンウィークだと騒がれている中、仕事が多忙な晃史さんは三連休。私もカレンダー通りの出勤で同じく三連休だ。
 新婚旅行だといえば、有給を取れないこともなかったけれど、それを言えば忙しい彼が気にするような気がしてやめた。
 長期連休の取れない私たちは、今回の休みを利用して国内ではあるが新婚旅行に行くことにした。
 過去に思いを馳せながらも、うきうきと心が踊るのも当たり前で。
「楽しいなって」
「そうだね。俺は三連休すら滅多に取れないから、いつもごめんね」
 申し訳なさそうに言われて、私は首を横に振った。
「そんな風に思ってないよ。だってその代わり毎日早く帰ってきてくれるし。たまに長い休みを取れるより、晃史さんの顔、毎日見られる方が嬉しい」
 代わりに土曜日や下手したら日曜日まで出勤することもあるが、それでも晃史さんは、時間を調整して日を跨いで帰るような激務にならないようにしている。
「でも、家事とか負担じゃない? もう少し俺ができればいいんだけど。みのりだって働いてるんだし。やっぱりハウスクリーニングぐらい頼まない?」
 結婚してから家のことはほとんど私が引き受けてきた。もちろん、平日は手を抜いてリビングと寝室だけ掃除機をかける程度だ。
 朝食は彼が作ってくれて、私はその間に洗濯物を片付ける。帰ったら洗濯物を取り込んで夕食の支度。
 けれど、疲れているときや、面倒なときは二人で外食。だから、私が無理をしているということは絶対にない。
 それに、土日、晃史さんが仕事でいない時、ぽっかり空いた時間を使うには家事はちょうどよかったりもする。寂しいと思わないで済むから。
 仕事から疲れて帰ってきて、温かいご飯があって、部屋が綺麗に片付けられていたら嬉しい。結婚前、お母さんは「早く彼氏ぐらい作りなさい」と言いながらも、毎日そうしてくれていた。
 私にとっては当たり前の毎日だったけれど、今となればお母さんに感謝しかない。
「負担になったら頼もうかな。晃史さんが、使ってない部屋が汚れてるの嫌っていうなら、何日かに一回とかで来てもらってもいいけど。普段はリビングと寝室しか掃除してないし」
「使ってない部屋だって、いつも綺麗だよ。土日に掃除してくれてるんでしょ? ありがとう」
 クシャッと髪をかき回されて、結婚しても触れる程度のスキンシップに胸をときめかせる私は、いつまで経ってもこの人に恋をしている。
「無理はしてないから。それに私の方が遅い時は、晃史さんがご飯作ってくれたりするじゃない?」
「滅多にないけどね。みのりが十時過ぎても帰ってこなかった時は心配でどうしようかと思った」
「銀行って一円でも誤差があると帰れないってアレ、都市伝説でもなんでもなく、本当のことだからね」
「それ冗談だと思ってたんだよ」
「一度で御名《ごめい》が確認できないと、朝イチの取引から入金伝票とジャーナルひっくり返して、数字追っていくの。入力に間違いがないかって。三時過ぎてからが本番って感じ」
「ごめい?」
「うん、ぴったり勘定があったときに〝御名です〟って出納係が知らせるんだよね。そうしたらあとは定時まで雑務になるんだけど、御名がでないと窓口から庶務から総出でチェックに入るんだ。新人さんの入る四月とかね、やっぱりミスが多くて」
「ああ、だから最近ちょっと遅いんだ? みのり結構仕事好きだよね?」
 晃史さんが意外そうに言った。
 たしかに以前の私は生きるために仕方なく仕事をしていた。給料をもらっている以上やることはきっちりやるが、できることなら家にいたかった。
 けれど、今はすることは変わっていないのに、仕事が楽しくなった。それを突き詰めて考えると、晃史さんのおかげでもあるのだが、本人にあまり自覚はないらしい。
「仕事がっていうか、同僚と話せるから」
 友達のいなかった私に、久しぶりにできた友人たち。
 三人とも穏やかでおもしろい。晃史さんとのことも知っているから、変に遠慮しなくても付き合える。
 仕事の話をするにしても気の置けない間柄だと、以前のような張り詰めた空気はなく気が楽だ。
「ああ、相田さんたちか」
「そういえば、晃史さんの友達の話って聞いたことなかったよね?」
 私は仕事から帰った晃史さんに、今日あった出来事を話すのが日課だ。
 土日にたまに相田さんたちと出かけることもある。けれど、晃史さんは実家と仕事以外で出かけることは滅多にない。多分、結婚してから一度も。
「友達……? うん、まぁね」
 歯切れ悪く告げられて、胸に引っかかりを感じた。
 一つだけ思いつくことがある。
 しかも、一番正解に近いのではないかと思うこと。
「ねぇ、友達って言われて思いつくのって、男? それとも女?」
「それは……両方じゃない?」
 あ、これはごまかしたな。と一年の付き合いの中でそれくらいのことはわかるようになった。
 彼が煮え切らない態度を取る時は、大抵、以前の女性関係の話だったりする。適当に嘘をついておけばいいのに、そうしないのは私への愛情からだとわかっていても、モヤモヤしてしまう。
「別に言ってもいいのに。私と付き合う前、水商売風のお姉さんとばっかり付き合ってたってもう知ってるんだから」
 つまりは〝オトモダチ〟イコール身体の付き合いのあった女性たちだ。
 もちろん気分のいい話ではない。晃史さんに触れられた女の人がたくさんいるのだと考えたら、嫉妬でおかしくなりそうだ。
 やっぱり、私にするみたいに朝までコースだったのかな、などと考えてしまうと、気持ちは下へ下へと沈んでいく。
「いや、正直名前も顔もあまり思い出せないんだよね。高校や大学の友人は結婚したりで疎遠になったし……っていうか、ほんとにこれ言うのやなんだけどさ。笑わないでくれる?」
「うん?」
「若い頃ってグループで遊んだりするでしょ? 昔は俺もそうしてたわけ。けど、男友達の彼女から告白されちゃって。こっちは奪おうなんて微塵も考えてないのに、友人関係にヒビは入るわ。女の子たち怖いわで」
「女の子たちって……」
 いつかのカフェでの出来事が思い起こされる。女性の多くが晃史さんを見ていたし、まるで親の仇を見るような目で私を見ていた。誰も話しかけてこなかったのは、あからさまに〝結婚〟〝ウエディングドレス〟という単語が出てきたからだろう。
 彼は周りが自分をどう見ているか瞬時に気づく。今思えばだが〝結婚〟という単語を出し、私を可愛いと言うことで周りを牽制していたのかもしれない。
 昔の話はわからないが、もしその時晃史さんがフリーだったのなら、どういう状況になったのか簡単に想像できた。
「ほぼ全員だよ。その頃俺も若かったから上手くまとめるとかできなくて。そんなことがあったからか、男友達なんて誰も俺のこと結婚式に呼んでくれなかったんだよ」
「モテるって大変……」
 しみじみと呟くと、晃史さんも疲れたようにため息をついた。
彼がモテるのは今に始まったことではないし、それなりに苦労もあったのだろう。
「自分でモテるって言ってるみたいだから、絶対言いたくなかったんだけどね……」
「あははっ、たしかに」
 結局、女性の〝オトモダチ〟に関してはうまく誤魔化されてしまった。
 しかし、男友達の彼女が晃史さんを取り合うとは、なかなかカオスな状態だ。私はずっと友達がいなかったけれど、晃史さんも似たようなものなのかもしれない。
 ならば、高校時代の友人由乃さんは、彼にとって唯一無二の友人だとも言えるだろう。絶対に心変わりしない、自分を好きにならない友人だ。
 そう考えると、やはり由乃さんのことが羨ましくもある。けれど、さすがに過去に戻ることはできないし、戻ったところで大層モテる彼に近づけたかどうかもわからない。
 あの時、あの出会いをしたから今の私たちがある。
 景色が変わって山道へと入った。
 連休中ということもあって高速道路は混んでいたが、国道から道が逸れて別荘地へ入ると、車はほとんど走っていない。
「そろそろ着くよ」
 晃史さんが指差した先に、三角屋根の建物が見えた。
「一年ぶりなのに、もう懐かしい感じがする」
 私たちは去年交わした約束を果たすために、長谷川家の別荘へと来ていた。あの時はバーベキューだけをして日帰りだったが、今回は三日間をここで過ごす。
 管理人さんがシェフの手配をしてくれたので、その日の夕方に夕食と次の日の朝食、昼食を持ってきてくれることになっていた。
 前回に続き、至れり尽くせりの状況だが、新婚旅行なのだからと甘えることにした。きっと、たまには毎日の家事から解放してあげたいという晃史さんの気持ちもあるだろうから。
「そうだね。あ、ここ温泉引いててさ。露天風呂もあるよ。森林浴みたいで気持ちいいから、あとで一緒に入ろう」
「露天?」
 露天風呂があるとは思ってもみなかった。正面玄関からはとても想像がつかないが、裏側にあるのだろうか。
 しかしさすがに水着の用意はしていない。
「ついたて……とかある?」
 建物の周りには高い外壁などはなく、山間の広大な敷地に大きな建物が建っている。日本邸宅というよりアメリカンハウスと言った方がいいだろう。門柱は白、壁紙は淡いピンクで円形の出窓が可愛らしい。
 つまりは、誰かに見られそうだということで。
「ついたて? ないね。でも、脇道に入ってうちの別荘まで一本だったでしょ? ここうちだけしかないから、誰も来ないし見られる心配もないよ」
 晃史さんは実際に見に行こうと、荷物をリビングに置くと離れになっている露天風呂のある裏口へと歩いて行く。
「そっか……」
「っていうか、俺がみのりの裸、誰かに見せると思う? ほら、ここだよ」
 鍵を開けて中へと入ると、そこは立派な温泉施設並みの脱衣所があった。
 家の中なのにどうして自動販売機まで置いてあるのか気になるが、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳と定番の飲み物が並んでいる。お金を入れなくとも、ボタンを押せば出てくるようで雰囲気作りだと思われた。
 それに、女性と男性で暖簾がかけられきちんと更衣室が分かれている。
 遊び心が満載で楽しい。
「もう入っちゃおうか。水着あるし」
「水着あるのっ?」
「脱衣所に用意してあるよ」
「もう、先に言ってよ。そういうとこめちゃくちゃ準備いいんだから。水着持ってきてないって焦っちゃった」
 いくら人が来ないとわかっていても、木々に囲まれた中で裸でいるのは落ち着かない。
「いつも恥ずかしがって一緒に風呂入ってくれないからね」
「いやっ、だって……いっつもエッチなことばっかりするでしょ!」
「そう? まぁ、好きな子が裸で目の前にいたら、襲いたくなるのが男だよね」
 そんなものなのだろうか。
 求められるのは嬉しいが、お風呂ではさすがに恥ずかしい。
 家のお風呂では隠すものが何もなく、身体を洗ってる時も見られている。「俺が洗ってあげる」などと言っては、色々といたずらを仕掛けてくるのだ。
 私が恥ずかしがるのも含めて、きっと彼の計画なのだろうと思っている。
 思い出してしまうと、もう居ても立っても居られない。
「じゃ、じゃあ着替えてくるね」
 私は逃げるように脱衣所へと入った。
 晃史さんのせいで、お風呂に入るたびに、あれやこれやと考えてしまいそうだ。
 用意されていたのは、黒と白のドットで大人っぽいレースアップのビキニだった。可愛いがほとんど下着に近い水着は、体型をまったく誤魔化せない作りになっている。
「布が少ない……」
 それしか置いてないのだから仕方がない。
 私は着替えて内風呂で軽くシャワーを浴びた。内風呂から外へと通じる扉を開けると、石畳で作られた露天風呂があった。
 周りを広葉樹に囲まれ、開放感あふれる作りになっている。
 人工的に作られたはずなのに、パーテーションの代わりに木々があり、自然と一体化していて言葉にならないほど美しい情景だ。
 内風呂近くに置かれたベンチからは、遠くの山々までもが一面パノラマのように見渡せる。
「あ、すごい……」
「景色いいでしょ?」
 先に入っていたのか、岩風呂の端に腰かけた晃史さんが言った。
「うん、綺麗」
「おいで。そんなに熱くないから」
 足先をお湯につけて温度を確かめると、たしかにそう熱くはない。むしろぬるいぐらいだった。
 これぐらいの温度ならば長く入っていられそうだ。
「お邪魔します」
 露天風呂は段差が作られていて、腰掛けるのにちょうどいい。
「気持ちいい~」
 私は岩肌に頭を乗せると、あまりの心地よさに目を瞑っていた。眠るつもりはないのだが、お風呂に入ると目を瞑りたくなるのは何故だろう。
 ゆっくりと身体の疲れを癒していると、突然腰回りを撫でられて私は飛び上がりそうなほど驚いた。
「うひゃぁっ」
「くすぐったかった?」
「く、くすぐったいとか、そういうことじゃ……っ」
 無防備に身体を休めていたところに触れられたら、誰だって驚くと思う。いきなり触らないでと睨めば、本人は平然と私のお尻に触れてくる。
 水着の上から双丘を撫でられ、空いた手が胸元のビキニをずらす。
「晃史さんっ……最初から、こういうつもりだった?」
 どうして気がつかなかったのだろう。
 彼は〝裸で目の前にいたら、襲いたくなるのが男だよね〟とまで言っていたのに。
 しかもまだ午前十時を過ぎたあたり。空を仰ぐと雲ひとつない青空が広がっている。夜になってくれたら、という私の願いが叶うはずもない。
「いや?」
「いや、とかじゃないけど……っ」
 彼と触れ合うのは好きだけれど、こんな場所で公然と睦み合うなどできるはずがない。
 誰も見ていなくとも、鳥たちの鳴き声は聞こえてくるし、広葉樹のパーテーションではとても落ち着かない。せめて内風呂、いや部屋に戻ってからにしてほしい。
「な、中……入ろ?」
「イヤだよ。ここでみのりとイチャイチャしたい」
 きっとこれは彼の計画通りなのだろう。私を離すつもりはないらしい。
 露わになった乳房を掴み、すでに立ち上がった実を抓まれる。緊張で鋭敏になった身体は、ほんの少しの刺激で昂ぶっていく。
 背筋を仰け反らせてふるりと乳房が震えると、艶かしい声が出てしまう。
「ん、あぁっ」
 乳首を指に挟まれコリコリと刺激が与えられると、湯に浸かった下肢に甘い疼きが広がる。触れられるたびに、赤い実は徐々に硬さを増していく。
「みのりのココ、いっぱい触ってるけど。いまだにピンクでめちゃくちゃエロいし、可愛い」
 言いながら口に含まれて、チュパチュパと美味しそうに吸われる。
「ふぅっ……ん、ん」
 思わず、口元を手で覆った。誰も通らないとわかっていても、絶対とは言い切れない。迷った誰かが来るかもしれない。そう考えるとより深く感じ入ってしまう。
「んんっ……ダメ、舐めちゃ、やっ」
 ジュッと乳頭ごと吸われて、熱い疼きが下腹部からせり上がってくる。中はもうドロドロに溶けて、いやらしく蜜を溢れさせていることだろう。
 もうこうなってしまったら、私に抗う術はない。はなから、彼に抱かれるのを望む私が、本気で抵抗できるはずもないのだ。
 もうダメと力の入らなくなった身体を彼に預ける。晃史さんの指は止まることなく、私を責め立てた。
「あっ、はっ、あぁ……いい、それ……気持ちい」
 指で捏ねられながら、熱い舌が絡む。無意識に腰をくねらせる。
 晃史さんの口元から赤い舌が覗き、痛いほどに赤く腫れた実を舐《ねぶ》られた。
 子宮がキュンと切なくなって、膣口が誘うように開いていく。つい彼の欲望で擦られている感覚を思い出してしまい、柔襞がいやらしく蠢いた。ジュワッと淫らな愛蜜が溢れ湯の中に溶けていく。
 私の腰が揺れる動きに合わせてチャプチャプとお湯が跳ねた。
「身体、ビクビクしてる。もう胸だけでイキそう?」
「ん、あっ、だって、つよ、いからぁっ」
 捏ねられるたびに、勃ちあがった先端から強い快感が全身に広がっていく。太い指で弄ってほしい。中をめちゃくちゃに濡らしてかき回してほしい。
 脳芯まで痺れるほどの喜悦がジリジリと身体を支配していく。
「もっ、ダメ、おねがっ……ダメぇっ!」
 下りてきた手にツッと腰を撫でられて、臀部を揉まれる。胸への刺激も相まって、私はビクビクと腰を震わせて、頭上を仰いだ。軽い絶頂が何度も何度もやってくる。
「あっ、あっ、あぁっ……!」
 あまりに長い快感に頭がついていかず、喘ぐことしかできない。身体に力が入らず彼にもたれかかると、跳ねた湯で濡れた髪がかき上げられた。
「ん、っ、あ、はっ……」
「ちゃんとイケたね、いい子」
 首の後ろで結んだビキニの紐が解かれ、晃史さんは岩の上に腰かけた。私の眼前に彼の屹立があり、水着の中で窮屈そうに頭をもたげていた。
 水着を下にずらし、彼は陰茎を握った。唇に押し当てられて、彼の望みを知る。湯とは違う滑りを帯びた彼の屹立を口に含むと、頭上からくぐもった声が聞こえた。
「……っ、平気?」
「ん……」
 私は口の中で脈打つ陰茎を舌で舐めながら、小さく頷いた。亀頭をすべて口腔内に収めると、裏筋を舌で辿る。彼の性器がドクンと膨れ上がった。
 何度こうして彼のものを愛しただろう。
 笠の開いた先端を舐められるのが好きで、裏筋を舌で上下に舐めると達しやすい。舐めてる時の、私の顔を見るのが好き。彼が私の気持ちいい場所を知るのと同じくらい、私も彼のことを知った。
 切羽詰まったように、彼が息を詰めて私の髪をくしゃりと撫でた。
 上目遣いに見上げれば、目を細め荒く息を吐きだす彼の姿がある。もっと、余裕のない晃史さんの顔を見たくて、私は口を窄めて亀頭を舐めながら強く吸った。
「……っ、ん、みのり……それ、気持ちい」
 口の中で粘り気のある苦味が広がった。ますます私の興奮も高まり、触れられてもいないのに、蜜口がヒクついてしまう。早く彼の屹立を受け止めたくて堪らない。
 頭を強く押さえつけられ、息苦しさが増す。
 私の口に腰を押しつけ頭ごと揺さぶられる。唾液と精液が混ざりあい、ぬちゅぬちゅと淫猥な音が頭の中に響いた。
 顎に力が入らず、口の端から唾液がトロトロと流れ落ちる。
「んんんっ……むっ、う、ん」
「はっ……あ、ごめ……っ出そう」
 離してと欲望が引き抜かれそうになるが、私は彼の欲望を口いっぱいまで飲み込んだ。脈動した性器から熱い飛沫が喉奥めがけて放たれる。
 口の中いっぱいに粘り気のある精液が溢れて吐きだしそうになってしまったが、口元を押さえた私は何度かにわけて飲み込んだ。
 飲み込みきれなかった吐精が顎を伝い流れ落ちた。
「……っ、ごめん。吐いていいよ」
 普段は意地悪なくせに、こういう時ばかりは心底申し訳なさそうに謝る。いつも私ばかり気持ちよくされているのだから、私も同じようにしたいのだと何度も告げているのに。
 顎を手で拭った晃史さんの指を私は口に含んだ。手についた精液をすべて舐めとる。彼の性器を口に含んでいる時のように、指一本ずつを丁寧に舐めていくと、息を呑んだ晃史さんの目がふたたび劣情を孕んでいくのがわかった。
「ん……っ」
 終わらないで。私も可愛がってと強請るように、赤い舌を見せつけて彼を誘った。
「ほんとみのりって……可愛い過ぎて困る。好きになった方が負けってみのりは言ったけど、今は完全に俺の方が負けてるな」
 口を離すと、近くに置いてあったバスタオルが床に敷かれる。ここが外で遮るものがないとか、動物の声が聞こえて落ち着かないだとか考える余裕はなかった。早く、満たされたくて仕方がなかった。
 下半身は湯に浸かったままで、身体をうつ伏せにされた。
 すぐにでも挿れられるのかと思っていると、水着の上から柔らかな臀部を両方の手で揺さぶられる。ふるふると柔らかな尻が弾むように揺れていて、言いようのない羞恥心が沸き起こる。
「や……っ」
 もう何もしなくていいのに。
 そのまま挿れて欲しいのに。
 太ももから尻の一番高い場所までを持ち上げるように撫でられる。親指が足の間に入れられて鼠蹊部まで辿り着くと、谷間を指の腹で擦られ、水着の中でジュッと蜜が溢れでるのがわかった。
「あっ、ん、も……これ、脱ぎたい」
「だーめ」
 晃史さんはいつもの楽しげな様子で、水着の上から私の臀部を弄り続ける。布一枚隔てているせいか、いつもより感覚が鈍くもどかしい。
 私はモジモジと腰をくねらせながら、晃史さんの手を奥へ奥へと誘う。
「ここ、さっきイッたからか、もうぬるぬるしてる」
 ぐりぐりと陰唇を拡げるように撫でられて、晃史さんの手が湯とは違った蜜で濡れていく。
 指で谷間をなぞられて、時折水着の上からでもわかる尖った陰核に触れられると、気持ちがいい。
 水着が邪魔でもどかしくてならないが、より深い陶酔を求めて、自分からぷっつりと尖った粒を晃史さんの指に押しつけてしまう。
「んっ、ん、あっ、ダメ」
「ダメじゃないでしょ。俺の手で一人エッチしてるみたい」
 尻の間に視線が突き刺さる。見られているとわかっていても、腰の動きを止めることはできなかった。
「一人でイッちゃだめだよ」
「やだぁ……っ」
 呆気なく手が離されて、水着が左側にずらされる。太ももまでも濡らしヒクついた蜜壺が露わになった。ぬちゅっと淫らな音を立てながら、ゆっくりと陰唇が拡げられて二本の親指が柔襞を擦る。
「あぁぁっ」
 指の腹で弱い場所をゴリゴリと擦られて、抽送が繰り返される。指の動きが速まって、背中から愉悦の波がせり上がってくる。
「あぁっ、ん、あっ、はぁ……」
 頭の芯まで蕩けてしまいそうなほど気持ちがいいのに、ジンジンと陰道の奥深くが疼いて仕方がない。指では届かない場所が一層深い快感を待っている。
 もっと欲しいと言わんばかりに、指をきゅうきゅうと締めつけてしまう。
 二本に増やされた指で中をぐるりとかき回される。くぱくぱと陰道を拡げるような動きに変わると、愛液をまとわりつかせた指が引き抜かれた。
「挿れたい」
 後ろからのしかかられて、熱い息が耳元で吐かれた。
 その声は興奮で掠れ、ひどく艶めいていた。
「も……私も、欲し……っ」
 水着の隙間から熱く滾った欲望が押し当てられた。岩に上半身を預け、臀部を高く持ち上げた体勢を取らされる。顔を床につけて、バスタオルを強く掴んだ。
「やぁっ……な、で……っ?」
 腰が支えられてしとどに濡れた秘部に、ぬるぬると屹立が擦りつけられた。やっと彼のことを受け入れることができるのだと渇求していた身体は、もうおかしくなってしまいそうだ。
「やなのっ……おねがっ……もうっ」
「俺のこと欲しくて、ここヒクヒクしてるの。めちゃくちゃ可愛い」
 亀頭の硬くなった尖りが、滑りよく陰唇の谷間を行き来する。擦られるたびに淫らに溢れた愛液が屹立を濡らしてしまう。
 前に回った指に襞を捲られ、赤く腫れ上がった陰核が抓まれた。愛蜜を塗りこむように、性器の先端で擦りながら刺激が与えられる。
「ひゃぁっ、あっ、そこ、やっ……も、ダメぇっ」
 痛いほどに指で擦られて、全神経が下肢に集中してしまう。逼迫した声ばかりが上がり止められない。指と指でコロコロと転がすように弄られて、頭の中で何かが弾けた。
「──っ!」
 強過ぎる快感に声も上げられず、身体が硬直する。
 つま先がピンと張り、足先から頭の先まで電気が走る。ビクンビクンと腰を揺らすと、待ってましたとばかりに彼の太い陰茎が遠慮なしに根元まで突き入れられた。
「やぁぁっ! 待って、今、やっ……イッてるっ、イッてるのぉ……っ」
「たくさん乱れて、感じて過ぎて訳わかんなくなって俺のこと求めるみのり、可愛いんだよ」
 律動に合わせて短く息を吐きながら告げられた。身体を満たす圧迫感に、もう悲鳴じみた声しかあげられない。
「ひっ、んっ、んっ、あぁっ」
 達した直後の敏感な内壁は、それでも晃史さんを離すまいと蠢き絡みつく。抜き差しされ、あまりにみだりがましい声ばかりが出てしまう。
 奥を穿たれると中に留まりきれなかった愛液が結合部から飛び散った。内壁を丸みのある先端で擦られぬちゅぬちゅとかき混ぜられた。
「あぁっ、もう、だめ、だめっ、あぁぁっ……んんっ」
 グッと奥を激しく突かれ、繋がった場所が燃え上がりそうなほど熱い。
 もう快感を追うことしか頭になかった。ただ、甘く喘ぎ啼き続ける。自分のものとは思えない、動物の鳴き声のような甲高い声ばかりが継いで出た。
「あぁん、ひゃあん、あぁっ……もういやっ、ダメなの……イクからぁっ」
 さらに激しく腰が揺さぶられて、愉悦の波がもうすぐそこまで来ていた。脳芯が痺れて力が入らず、四肢が蕩けてしまいそうだ。
 膣を擦る屹立が一段と膨れ上がって、内壁を締めつけると狂おしいほどの速さで律動が繰り返された。一つになった場所からグチュグチュと愛液が弾ける音がする。
「はぁん、もっ、何かでちゃ……っ、やぁっ、もうっ……変になる……ぅっ」
 淫らに喘ぎ続ける口元は開きっぱなしで、こぼれ落ちた唾液がバスタオルに流れ落ちた。
 晃史さんの指が口元に入り、舌を絡めとる。指をしゃぶりながら私は絶頂の坂を駆け上がり、声にならない声を上げた。
「ん────っ!」
 真っ白な閃光が頭の中で弾けて、深い海の底に落ちていってしまう。ピュッピュッと繋がったままの結合部から蜜が弾け飛び湯の中へと散った。
 背後から興奮した目を向けられているのも知らずに、淫らに腰を揺らして達した余韻に浸る。脱力した身体をバスタオルへ預けると、息をつく間もなく腰を強く押さえられた。
「あぁんっ、はっ、ん、待って……っ、待ってぇっ」
 蜜襞が収縮を繰り返し晃史さんの性器を締めつけると、待ったなしに腰が打ちつけられた。
「はっ、はぁっ、はっ、ん……もっ、無理」
 自分では身体を支えられずに膝がガクガクと震えた。腰を支えられても、意識を失いそうなほど激しい抽送に頭の中が真っ白になっていく。
 ズンと強く奥を抉るように突かれると、無意識に内壁がきゅうきゅうと蠢く。彼のものが陰道の中で一層大きく膨れ上がった。
 愛しい重みを身体に感じると、熱い欲望が弾け中に熱が拡がっていった。
「みのり、好きだよ──」
 汗ばんだ背中に優しいキスが送られる。
 何度も何度も慈しむように、唇が背中へと触れた。
「こ、うしさ……」
 私もと言いたかったのに、頭がグラグラして目が開けられなかった。
 まだ幾ばくかは涼しいとはいえ、五月の強い日差しに当てられたのだろう。
 意識を失った後、内風呂で身体が綺麗に洗われていたのは言うまでもない。
 一緒にお風呂に入るのも恥ずかしいのに、隅から隅まで見られたことはもう思い出さないようにしよう。

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