狡くて甘い偽装婚約

本郷アキ

文字の大きさ
上 下
18 / 25
番外編・新婚生活に恋のエッセンスは必要か

しおりを挟む


「じゃあ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
 玄関にある鏡の前でネクタイのチェックをする晃史さんに、鞄を手渡した。
 入籍して一ヶ月。
 彼のマンションで暮らし始めてからは、三ヶ月が過ぎていた。
 けれど、「行ってきます」「行ってらっしゃい」のやり取りは未だに面映く、朝から晩まで彼がそばにいることが幸せ過ぎて慣れない。
 それに──。
「忘れ物」
「え、なに……っ」
 玄関のドアを開けたまま口づけられて、私は手をばたつかせた。
 誰かが通るかもしれないのにと、恨みがましく視線を送るが彼はまったく気にも留めない。
「んっ……ん」
 触れるだけですぐに離れていくと思っていたのに、晃史さんはますます口づけを深めていった。
 舌が入れられて、唾液が送られる。互いの唇が濡れるのもお構いなしに、執拗に口腔内への愛撫は繰り返された。
「ふっ、あ……遅れ、ちゃ……っ」
「もうちょっと」
 トンと胸を叩いた手ごと壁に身体が押しつけられて、エプロンが捲り上げられた。
 シャツの隙間から入り込んできた手にブラジャーのホックを外されて、冷たい風が外から流れ込んでくるのも構わずに、尖った赤い実が外気に晒された。
「さ、む……っよ」
「すぐ、暑くなる」
 指の腹で転がされて硬くしこった実は、ますます腫れていく。胸元から熱が身体中に広がり、私の身体を疼かせた。
 シャツは完全に捲られて晃史さんの唇が下へと移動した。首筋を辿りながら、ときおり痛いほどに強く吸われてしまう。
 ブラジャーからはみ出した柔らかな肌にいくつもの赤い花びらが散った。
 ふるりと揺れる実を口に含まれて、私の身体は快感に戦慄いた。
「ん、あっ……ダメ、だって、ば」
「エプロン姿、唆られるんだよ。仕方ないでしょ」
 晃史さんの口の中は熱く、舌での愛撫は私の身体を簡単に昂ぶらせた。もう引き返せない。触れられてもいないのに下肢が疼き、淫らな蜜がとろりと溢れ下着を濡らした。
 もうダメだと縋りつくと、開け放たれていた玄関のドアがいささか乱暴に閉められた。
「今日はちょっと早めに行こうって思ってたのに……可愛すぎて無理だ」
「そんなの、知らなっ」
「だってみのり、もう濡れてるだろ? 俺に……足開いてソコ見せてよ」
 ツッと内腿を撫でられただけで、無意識に足が開いてしまう。
 そうやって数え切れないほど彼に抱かれ、女としての悦びを教え込まれた。
「や、だっ……恥ずかし、からっ」
「早くしないと、遅刻しちゃうよ? みのりも、俺も。責任感の強いみのりは、遅刻とか無断欠勤とか絶対に無理だよね?」
 私がそう言われたら逆らえないのをわかっててやっている。
 恋人として付き合うようになって、すぐに同棲して、そのあと数ヶ月で結婚した私たちは、まだ出会ってから一年も経っていない。
 同棲してからの毎日は驚きの連続だ。
 一途で愛情深いところは変わらなかったけれど、彼はかなり意地悪だし、粘着質な性格だった。
 身体を重ねていると、もう無理だと白旗を上げてもなかなか離してはもらえない。指で、口で、執拗に愛撫を繰り返されて何度も昇りつめてしまう。
 嫌なわけではない。たとえ、どれだけのことをされようと、嫌いになどなれないから困っている。
 今だって、逆らう気なんてさらさらない自分が、どれだけ彼に溺れているのかと考えると怖いほどだ。
 私は震える手でスカートを捲り上げると、立ったままおずおずと足を開いた。厚手のストッキングを履いていたし、そこまで恥ずかしくはない。
「ストッキング、脱ごうね」
 晃史さんは羞恥心が足りないとばかりに、私のストッキングと下着に手をかけて、膝上まで下ろした。
 玄関先にしゃがみ込んだ晃史さんの顔が近づいた。淡い茂みは見なくとも濡れて湿り気を帯びているのがわかる。マジマジと見つめられて、私の中はますます疼いた。
 晃史さんの長い舌が私の茂みの奥をかき分け、陰核を探しあてた。
「ひぁっ……そ、れ、ダメっ」
「ほら、やっぱり……ここ、もうとろとろだ」
 晃史さんの喉が上下に動き、いじられるたびに溢れでる蜜を飲み込まれた。プツリと硬さを増した花芯ばかりを、執拗に責められる。
「あっ、はぁ、ん、ん、そこばっか、や」
「気持ちいいくせに」
 だからイヤなのに。
 気持ちよすぎて何も考えられなくなるほど、晃史さんを求めてしまうから。
 くちゅくちゅと淫靡な音を立てながら舐められて、私は無意識に晃史さんの舌に合わせて腰を揺らしていた。硬く尖った陰核を舌に擦りつけるような動きになってしまう。
 快感に慣らされた身体はどうすれば受け入れやすいかを本能的に理解し、より深い快感を得ようとしている。
「後ろ向いて、壁に手をついて」
 私は言われるがまま、壁に手をついた。
 背後からベルトのバックルを外す音が聞こえる。挿れられるのだと期待した身体は、一気に蜜が溢れ太ももへと垂れていく。
「ん、あっ……はぁ」
「濡れてぬるぬるだ、ここ」
 晃史さんの陰茎が後ろから太ももの間に差し込まれて、抜き差しを繰り返した。そのたびに陰部から溢れた愛液が、晃史さんの性器を濡らしぬちぬちと淫らな音を立てる。
「はっ……いいね、これ。擦るだけで、溢れてくる……」
 血管の浮き出た赤黒い性器が、私の敏感な花芽を擦るたびに、次から次へと愉悦の波がやってきた。
「あっ、あっ、激しっ、気持ちい……っ」
「っ、俺も」
 今にもはちきれそうなほど、足の間でどくどくと怒張が脈打っている。背後から聞こえる彼の声が切羽詰まったものへと変わっていく。
 腰を打ちつけるスピードが速くなり、擦られ続けた陰部は形を変えて誘うようにヒクついていた。
「晃史さっ、も……イッちゃうからっ、やっ」
「……っ、挿れてもいないのに? みのりは、随分エッチな身体になったよね」
 そう告げる晃史さんにも余裕はなさそうだった。
 私の足の間で硬く反り返った陰茎は、時折ビクンビクンと震えている。その度に、快感を散らすように晃史さんは深く息をつき動きを止めていた。
「や、なの」
「いや?」
「奥、ジンジンするから……」
 腰を揺らし膣口を亀頭に擦りつける。すると、私の身体を押さえる手に力がこもる。
 ヒクついた陰唇を拡げるように、性器の先端が浅い場所を抜き差しする。
 私はあまりのもどかしさに、もっと奥へと誘うような動きで彼を誘ってしまう。
「俺のが欲しくて、こんな風になってるの? 入り口がパクパクして、擦ってるだけで乗り込まれそうだ」
「ああっ……や、そこ……」
 ちゅぽっと先端が挿れられるだけで、高みに昇ってしまいそうだった。
 けれど、ジンジンと奥深くが収縮を繰り返していて、疼きは一向に収まらない。どうすればいいかなど、わかりきっている。
「どうして欲しい?」
「もっ、おねが……挿れて」
「よくできました。ご褒美だよ」
「欲しっ、の……あぁぁっ」
 そそり勃った欲望が一気に奥まで突き入れられる。あまりの充足感に、私は呆気なく達してしまった。
「ひ、あっ──!」
「中、ビクビクしてる。もしかして、挿れただけでイッちゃった?」
 痙攣し蠢く中を無意識に締めつけると、晃史さんの性器が一段と大きく膨れ上がった。
 根元まで埋められた性器が一気に引き抜かれ、彼自身の快感を追うように遠慮なく腰が打ちつけられる。
「あっ、あっ、あぁっ、ダメ、それっ……また、イッちゃう」
 ジュッと結合部から愛液が飛び散った。ここが玄関だということも忘れて、私は甲高い声で啼き続けた。
「……っ、俺も……いきそ」
 後ろで息を詰めたような気配があり、とろりと粘り気のある精液が中に注がれた。
 ずるりと陰茎が引き抜かれると同時に、秘部からは溢れた精液が太ももを伝いタイツを濡らした。
 時間がないはずなのに、互いに荒い息を吐き出しながら、それでも名残惜しむような口づけが繰り返される。
「全然足りない。帰ったら、抱くよ」
 乱れた衣服を直されて、何事もなかったかのように晃史さんは出勤していった。残された私は、身体の中心に未だに残る熱をどうすることもできずに、誰もいない玄関のドアを睨んだ。
「もう、ばか……」
 私が、まだ全然足りてない。
 時計を見れば、出勤時間に近い。乱れてしまった髪を整えて、慌ててタイツを履き替える。家から駅までの道を走っていると、ようやく仕事へとスイッチが切り替えられた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。 王命での婚約。 クルト・メイナード公爵子息が。 最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。 一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。 それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。 なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。 これは自分にも当てはまる? 王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。 そもそも、王女の結婚も王命だったのでは? それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。 水面下で動く貴族達。 王家の影も動いているし・・・。 さてどうするべきか。 悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。

ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆
BL
迫田直純(14歳)は自分の母親が誘拐という重大な犯罪を犯し警察に捕まえられていくのを目の当たりにする。 そのことで日本での仕事が難しくなった父は中東で単身赴任という道を選んだ。 ひとりで日本に取り残されることになった僕は、その場に居合わせた磯山という弁護士さんの家にしばらくお世話になることになった。 そこでの生活は僕が今まで過ごしてきた毎日とは全く別物で、最初は戸惑いつつも次第にこれが幸せなのかと感じるようになった。 そんな時、磯山先生の甥っ子さんが一緒に暮らすようになって……。 母親に洗脳され抑圧的な生活をしてきた直純と、直純に好意を持つ高校生の昇との可愛らしい恋のお話です。 こちらは『歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています』の中の脇カップルだったのですが、最近ものすごくこの2人の出番が増えてきて主人公カップルの話が進まないので、直純が磯山先生宅にお世話になるところから話を独立させることにしました。 とりあえずあちらの話を移動させて少しずつ繋がりを綺麗にしようと思っています。 年齢の都合もありR18までは少しかかりますが、その場面には※つけます。

BL短編集②

田舎
BL
タイトル通り。Xくんで呟いたショートストーリーを加筆&修正して短編にしたやつの置き場。 こちらは♡描写ありか倫理観のない作品となります。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~

ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された 「理由はどういったことなのでしょうか?」 「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」 悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。 腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。