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34:魔道具店

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 塀を飛び越えた先に有ったのは立派な豪邸だった。
 死神の話ではここは魔道具を扱う店だという事だったけど、店と言うより屋敷といった感じだ。
 塀から降りた先は庭らしく、生垣には綺麗な花が咲き誇っている。
 隅々まで手入れが行き届いている庭は見ていて飽きない。

 「うわぁ、凄いわね。お金持ちのお屋敷って感じ。入るところ間違えてない?」
 『……そんな訳なかろう……ほら……店主の奴がきおったぞ……』

 死神の視線の方を見ると、屋敷からぞろぞろと人が出て来て、こちらに駆け寄って来ている。ざっと30人はいそうだ。
 皆、必死の形相で、全力疾走と言った感じだ。

 「お出迎え――って感じじゃないわね。何か怖いんだけど?貴方、何をやったのよ?」
 『……こやつらの出迎えはいつも大体こんな感じだが?……』

 「ようこそお越しくださいました!!デス様!!」
 「「「「「ようこそお越しくださいました!!」」」」」

 「ひっ!!」

 先頭の中年男性が飛び込むように土下座の姿勢をとる。おそらく彼が店主だろう。後ろの人たちもそれに続く。いや、土下座というより五体投地に近いかもしれない。
 あまりの迫力に灰田さんが一歩仰け反る。
 店主は小太りだが身なりがかなり良い。そんな彼は、着ている高そうな衣装が土で汚れることなど一切気にしていないようだ。

 それにしても、死神は名前があったのか。デス、如何にもな名前だ。

 『……ふむ、久しいな……今日は買い取りと……【収納の腕輪】があれば買わせて貰いたい……』
 「ははっ!……【収納の腕輪】は現在。最大で50kgの物しか在庫が御座いませんが、宜しいでしょうか?」
 『……50か……小さいな……それ1つか?……』
 「次いで容量が大きのが30kg、こちらは2つ在庫が御座います」
 『……では50が1つと……30が1つだ……』
 「かしこまりました!!」

 会話をする間も、店主は五体投地の姿勢のまま顔を上げずにいる。当然後ろの人たちもだ。

 『……買い取って貰いたいのはダンジョン産のドロップ品だ……ここで出しても構わんか?……』
 「出来ましたならば、店の方で出して頂けると幸いです」
 『……ふむ、良かろう……さっさと案内しろ……』
 「ははっ!!」

 店主は五体投地の姿勢から一気に立ち上がり、ビシリと姿勢を正す。後ろの人々はまだ体制を変えない。

 「こちらで御座います。お連れの方々もどうぞご一緒に」

 店主がくるりと踵を返し歩き始める。
 僕らは頭を地面に擦り付けたままの人たちの間を縫うように進んだ。

 「貴方、凄い人だったの?まるで王様でも接待してるような勢いなんだけど?」

 灰田さんはそう言うが、普通の王様にあんな接待はしないと思う。暴君相手ならするかもだけど。

 『……普通に買い物をしているだけだが?……それと、我は人ではない……』
 「まぁ、アンデッドらしいけど。ってか名前あるんじゃない。デスっていうのね」
 『……それは種族名だ……正確にはロード・オブ・デスという種族……らしい……長いのでデスと呼ばせていた……』
 「なんだ、名前じゃないのね。それにしても魔物の種族名にロード・オブ・デスって、あまりに物騒ね」
 『……まぁ、種族名と言っても……同族は見たことは無いがな……』
 「ふ~ん」

 会話をしながら、案内されるままに屋敷の中に入る。
 まるで正門の様な煌びやかで精巧な作りの両扉を潜ると、内装も凄かった。
 柱の一本一本に細やかな細工が施され、廊下には一定間隔で壺や像などの調度品が飾られている。
 床には赤い絨毯が敷かれており、埃一つ許さないと言わんばかりに掃除が行き届いている。

 「凄っ。あの壺とか、いくら位するのかしらね?」

 そんな事を言いながら廊下を進む。
 幾つか扉を抜けた先に漸く店らしい場所に出た。
 幾つもの商品が展示された場所だが客は一人もいない。それはそうか、よく考えれば死神の姿を人に見せる訳にはいかないし。

 「では、買い取りをご希望のアイテムはコチラの台の上にお出しください」
 『……ああ……』

 死神が指定された台の上に腕輪から次々とアイテムを取り出して置いて行く。
 僕の見た事のないアイテムも多い。どうやら深森のダンジョン以外のドロップ品もまとめて売ってしまう様だ。

 『……今回はこれだけだ……いくらになる?……』

 山積みになったアイテムを前にしても店主は顔色を変えずに答える。

 「おそらくは2億ギールにはなるかと。ただ、量が御座いますので、査定に少々をお時間を頂きたく……」

 2億!?正直1ギールが日本円に換算するといくら位なのか、まだピンとこないけど、前の村にあった雑貨屋の値段から換算すると大体1ギール10円から30円ぐらいな気がする。
 もしそうだとすると2億ギールは、日本円で20~60億!!
 ……いや、いくらんでもそれはないな。僕の換算ミスだろう。
 とはいえ大金なのは間違いない。もしかしなくても死神は大金持ちなのだろう。

 『……時間か……どのぐらい掛かる……』
 「2、い、いえ――1時間ほど頂ければ、と」
 『……ふむ、1時間か……』
 「3,30分で終わらせます!!」
 『……ふむ、そうしろ……』
 「ははっ!!」

 店主が頭を下げて即答するが、それに待ったを掛けたのが灰田さんだった。

 「いやいや、査定はしっかりして貰いなさいよ。それと、そんなに脅さない。可哀そうでしょ」
 『……別に脅してなどいないが?……』
 「お、お嬢さん!わ、私のことなど構いませんので、どうぞデス様の望み通りに!」

 今度はあわてて店主が灰田さんを止めようとする。

 「そもそも私たち別に急いでないでしょ?査定している間、店の中をいろいろと見せて貰いましょうよ。もしかしたら腕輪の他にも掘り出し物が見つかるかもよ?」
 『そうだね。こんなに広い店だとかなり時間も潰せるだろうし。あ、でも一般のお客さんがいるところには死神さんは行けないか』
 『……まぁ良かろう……店主よ……店の中を見て回りたい……案内を付けろ……』
 「はは!!」

 おっちゃんは再び即答し、深く頭を下げた。
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