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28:1ギールの価値は?

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 「まさか人里に着くのに10日も掛かるとは思わなかったわ」

 深森のダンジョン踏破後、ダンジョンで手に入れた不要なアイテムを売り、そのお金で買い物をしたいと灰田さんが言いだしたため、僕らはお店がある人間の町を目指したわけだけど――
 死神の【チェックポイント】で平原に飛び、そこから走って10日、漸く小さな村に辿り着いた。が、ここも目的地では無い。こんなに小さな村では買取出来るのは精々が肉や毛皮だけだろうとの事。ダンジョンのアイテムを買い取ってくれそうな店がある街までは更に4日程掛かるらしい。
 小さな村は素通りする予定だったのだけど、久しぶりに人間と関わりたいという灰田さんの要望で、今日はこの村で宿を取ろうという話になった。ちなみに死神は離れた場所でせっせと食料を調達しながら夜を明かすらしい。流石に彼は村には入れない。今まで換金とかはどうしてたのだろう。

 「すみませーん」

 小さな雑貨屋の様な店に入り、灰田さんが店の奥に声を掛ける。見たところカウンターに人はいない。
 少ししてカウンターの奥から初老の女性が姿を現した。おばちゃんと呼ぼう。

 「はいはい。おや、初めて見る顔だね。こんな他所よその人が来るなんて珍しい」
 「ちょっと旅をしてまして。毛皮とか肉とかって買い取って貰えますか?」
 「買い取りとは、これまた珍しい。物によるよ。見せてごらん」
 「これなんですけど」

 灰田さんは事前に売る分だけ持ってきていた毛皮と肉を麻袋ごとカウンターに置き、一つずつ取り出す。
 肉は森で取れた動物の肉に【状態保存】のスキルを掛けていたもの、余談だが【状態保存】のスキルレベルは2に上がっている。
 毛皮は森の魔物の毛皮を適当に死神に見繕って貰った。

 おばちゃんは先ず肉を手に取り、少し観察して驚いている様子だ。

 「これは何の肉だい?」

 プロって感じだから分かるのかと思ったらそんな事はなかった。

 「それは確か猪のような……」
 「やっぱり。動物の肉なんて何年ぶりかねぁ」
 「え?動物以外の何の肉があるんですか?」
 「は?そんなの魔物の肉に決まってるじゃないか」
 「『え?!』」

 魔物の肉って食べれるのか。
 ……あまり美味しそうじゃないな。

 「この辺りに動物は滅多にいないからね。たまに腕の良い狩人が鳥を仕留める事があるぐらいだよ。それも大体身内で食べちまうから、滅多にお目に掛かれないね」
 「そうなんですね。あの、魔物の肉って例えばどんな魔物を食べるんですか」
 「変な事を聞くね?まるで魔物の肉を食べた事がないみたいだ。大体何でも食べるよ、ゴブリンでもコボルトでも。人気があるのは鳥型や蛇型の魔物だね、まだマシな味がするよ。オークも人気だけど、動物の肉よりは多少手に入りやすいって程度で、あまり見かけないね」
 「……ぅげぇ~」

 漫画だとたまにオークを食べたりしてたのを見たことあるけど、ゴブリンを食べるのは聞いたことないな。
 ほぼ人型の魔物なんて流石に嫌すぎる。……いや、オークも割と人型か?豚っぽいので少しだけ嫌悪感を緩和してくれてるだけかも。豚肉みたいで美味しいって表現されてる事が多いし。
 まぁ、どちらにしろアンデッドになった今の僕は食事なんてしないんだけど。

 「あの、それで……その肉は買い取って貰えるんですか?」
 「う~ん……信じられないくらい状態も良いし、買い取ってあげたいんだけど、この村で売ろうと思うとあまり高くは買って上げられないねぇ……悪いけど全部で1万ギールだね。どうする?街で売る値段の半額以下になっちまうけど、売るかい?」

 正直1万ギールがどれぐらいの価値かわからない。判断は灰田さんに任せよう。

 「1万ギールかぁ……ちなみにゴブリンの肉を同じ量持ってきてらそれは幾らになりますか?」
 「うん?そうさね、大体80ギールぐらいかね」

 安っ!猪の肉の100分の1以下って。

 「それじゃあ1万ギールで良いので。買い取ってください」
 「本当に良いのかい?助かるよ、毎度あり」
 「それで、毛皮の方は?」
 「おっと、そうだったね。どれどれ……」

 おばちゃんはマジマジと毛皮を観察しはじめた。

 「これは猪の毛皮かい?」
 「ええ」
 「そうさね……2千ギールでどうだい?」
 「肉に比べて随分安いんですね」
 「こっちは適正価格だよ。猪の毛皮は確かに珍しいが、魔物の毛皮に比べると需要は少ないからね」
 「魔物の毛皮の方が高く売れるってことですか?」
 「それはどの魔物かによるさ。まぁ、そこらの魔物の毛皮よりは高いよ、希少価値があるからね」
 「へぇ~。それじゃ2千でこれも買い取ってください」
 「毎度あり」

 こうして、肉と毛皮は合わせて1万2千ギールとなったわけだけど。はてさてこれは日本円でいくらぐらいの換算になるのか。そもそも一泊の宿代に足りるのかな。

 「ところで、この村に宿泊したいんだけど、宿とかってありますか?」
 「こんな小さな村に宿何てないよ」

 ダメじゃん。そもそも宿が無かった。

 「そっか、それじゃテントを張れる場所とかっていうのは?」
 「それなら村の外れにあるよ。たまにくる行商が休む用の場所がね」
 「わかりました、ありがとう」

 このあと、宿屋代が掛からないと分かった灰田さんが、この雑貨屋で買い物をするのに付き合った。
 なかなかお気に召すものは無かったらしく、結局は大きな街を目指すのに変更はないようだ。
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