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第一章 動き出した帝国

第六話 お気楽司書官

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 二人が旅立って12日目、一人の騎士はその連れ、セレナが泊まる先々で購入したカツラに助けられてか?約974ガロットの距離をクロウで走り抜け何事も無く無事に最初の目的地となっていたファーティル王国最大の商業都市リベラに到着した。
 リベラは王都に次いで人口の多い都市で昼夜問わずして人々の溢れ返る街のはずだった。
「アル様?リベラって活気があってその・・・、私が思っていた街と全然違います・・・・・・」
「俺が知っていた街とも違う」
 街路地には疎らにしか人が歩いておらず、数で言えば帝国兵の方が多く徘徊していた。
「あ探索探知器け帝国兵が多いと動き辛いな・・・、セレナ、見つかる前に早く移動しよう」
「フフッ、そうですね、アル様がいくらカツラを着けているからって間近で確認されたらばれてしまいますものね」
 街の中を送甲虫で素早く移動し最初に訪れたのはクロウを返す乗り物貸し屋だった。それを返すとアルエディーはセレナを連れ、徒歩で冒険者ギルドへと向かって行く。機会があればそのギルドの詳細について語ることもあるだろう。
「アル様、今からどこへ向かわれるのですか?」
「今がこんな時じゃなかったらこの街の観光案内をしてやりたいところだが・・・、冒険者ギルドに行くところだ」
 帝国兵に気づかれないように二人は会話を交え約※1イコットかけてその場所へ到着する。
 ギルドの中に入って行くと他の者に目もくれず、地下の情報酒場へと降りて行った。セレナは珍しい物でも見るように辺りをキョロキョロしていた。アルエディーはそんな彼女の軽くその頭をつかんでそれを静止させた。
「あのなぁ~、セレナ田舎者みたいな挙動不審はやめてくれ」
「アル様と違いまして、どうせ私、い・な・か・者ですからぁ~」
「不貞腐れないでください、かわいい顔が台無しだ」
「ハッ・・・・・・、アル様、待ってください!」
※1イコット=1・15時間
 言うだけ言って紅くなっているセレナを無視して一人勝手にカウンターに移動し、そこの空いている席に座るアルエディーであった。椅子に座ったその騎士は後ろ向き姿で酒のボトルを整理していた酒場のマスターに声をか、
「フラコンさん、お久しぶりです」
「その声は・・・、いろいろと大変なようですけどアルエディー君だね」
 マスターはその声の主に驚きもせずゆっくりと体を回し、彼の方へ振り返った。
「まぁ~ね、賞金首を賭けられてしまっているし・・・・・・。それより、フラコンさんに直接会うのは随分久しいね」
「確かにそうですね・・・、七年ぶりくらいですか?それで今日はどんな御用で?」
「それは・・・・・・・・・・・・・」
 何かを言葉にしようとしたとき隣に座っていたセレナが彼の袖を引っ張った。
「あっと、ごめんセレナの紹介まだだった」
「フラコンさん、俺の隣にいる彼女は・・・・・・」
 その騎士は酒場のマスターにセレナの自己紹介をし、セレナも自分自身でそれをした。
「そうでしたか・・・、何を思って貴女がアルエディー君にくっ付いてきたのか知りませんが・・・、恋敵は多いようなのでくれぐれも注意してください」
「えっ、あっ・・・、わっ、わたくし、そっ、そそそそ、そんなんじゃないです」
 マスターの言葉に顔を紅くしてそう答えていた。
「フラコンさん、俺にそんな人はいないんだから冗談はそこまでにしてくれ・・・、それより聴きたいことがあるんだけど?」
「ハイなんでしょう?・・・、お嬢さんこれは私からの奢りです。どうぞ」
 マスターはアルの言葉を聞きながら飲み物をセレナの前に置いた。
「誰かこの街で帝国の地理に凄く詳しいやついないか?・・・、帝国兵ってのは駄目だぜ。それとなるべく戦える奴がいい」
「出鼻を挫かれてしまいましたね・・・。腕は立つかどうか知らないですけど、詳しい人なら・・・」
「そいつは今どこに居る?」
 マスターはその人物の名前とどこにいるのかを紙に書いて彼に教えた。
「その人、今の時間ならまだ、その場所にいると思いますので向かってみてはどうですか?」
「フラコンさんありがとう・・・、それじゃもう行きます」
 彼はそういって財布からシルバーコイン1枚を出しテーブルに置こうとしたがマスターに拒否された。
「私達の仲じゃないですかそんな物は不要ですよ。それと・・・、王国市民はみな、帝国の布いた仮条例に虐げられています・・・」
「ああ、わかっている・・・、だから帝国に向かうんだ・・・、それまでは。・・・それじゃ、マスターまたな」
「ふふっ、今度はどんな女の方とここへ来られるか楽しみです」
 酒場の主は笑いながらそう言ってセレナの方を見ていた。
「セレナなんだ、その顔は?」
「何でもありません!次の場所へ移動するのでしょ?」
 彼女はプリプリとしながら先に席を立って歩き始めた。
「あっ、おい待てよ、セレナ!!」
 元王国騎士、千騎長アルエディー二十四歳、いまだ乙女心理解できず・・・。

†   †   †

 二人は小型の魔動艇の中で揺られながら街の中心にあるリベラの中で最も大きい王立図書館へと向かっていた。セレナは初めて乗った魔動艇の窓から外の景色を眺めているようだった。しかし、嬉しいはずなのに彼女の顔は酒場から出た状態と変っていない不機嫌なままだった。その場には現れていないがそんな状態の彼女を見た精霊王が目を瞑っているアルエディーの心の中に直接話しかけ、
〈小僧、お主には女心と言うものがわからんのかぁーーー〉
〈うっせなぁーーー、デュオ爺にそんなこと言われたくない〉
〈お前と連れ添って早、六年も経つというのに、ちぃーーーっともそこだけは成長しておらんのだから〉
〈今の俺にはかんけぇねーよ〉
〈そうかそうか、まあよいわ、だが、くれぐれも女子《おなご》を泣かすようじゃ立派な騎士とは言えんぞ〉
 二人が心の中で会話をしていると不機嫌が直っていたセレナが声をアルエディーに向け、
「アル様、もう少しで図書館へつくようです。降りる準備してください」
「知らせてくれてありがとう」
 下ろしていた瞼を開きセレナに軽く笑い椅子から立ち上がる。そして、停車した魔動艇の扉から頭だけ出して周りに帝国兵が徘徊していないか確認した後、それがいないと分かると完全に体を外へと出した。それから目の前の図書館の階段をゆっくりとセレナと共に登って行く。中に入るとアルエディーは一回だけ館内を見渡すと案内と書かれた札が付いている机の椅子に座っている男に声をかけた。
「ここで働いている司書官、レザード・シュティールさんと言う方を探しているのだが・・・、心当たりは無いか?」
「レザード・シュティールですか?・・・はぁ~~~、そんな人、居ましたかな?・・・、ははっ、いけない、いけない、私の事でした・・・。それで貴方がたは?」
 その男はお気楽そうな表情で一人ボケと突っ込みをしていた。セレナはそんな目の前の司書官に少しだけ笑う。そして、アルエディーはカツラをとって挨拶をしようとすると向うの方から静かな声で言葉をかけてきた。
「ほおぉ~~~、貴方はアルエディー・ラウェーズ千騎長殿」
「なぜ俺のことを・・・?」
「私とお会いしたときも言ったと思いますけど、この国で貴方を知らない人のほうが少ないと思います」
 間抜け面をしている隣の騎士に彼女はそう突っ込みをいれた。
「そうですよ、そちらのお嬢さんの言う通りです。ですから、貴方の自己紹介は要りません。そんな時勢の有名人で、お尋ね者の貴方が私に一体なに用ですか?」
 アルエディーはその司書官の口にした〝お尋ね者〝と言う言葉に独り苦笑していた。
「レザードさん、帝国の地理に詳しいって言うのを酒場のマスターに聞いて・・・」
 目の前の冷静そうに椅子に座っている彼にどうして会いに来たのか理由を告げ始める。
「ほぉ~~~、それはなかなか面白いことですね。それと私のことはレザード、〝さん〝とか敬称無しで呼んでください」
「面白いって・・・、遊びや観光に行くんじゃないんだが」
「分かりますよ、貴方が言っている事。戦えない者は邪魔って事でしょう?」
 レザードは見透かすような目でそう言うと何の魔法詠唱も無しに左手に小さな炎、右に小さな氷の塊を同時に出現させた。
「いかがですか?私はこう見えても魔導の研究をしているのです。それなりの戦力になると思いますが?」
「凄い、詠唱無しにしかも同時に対称属性の物を出せる何って」
「・・・、私も始めてみました」
「驚いてくれたようですね。それよりどうするんですか私を連れて行ってくれるのですか?くれないのですか?」
「よろしく願いたいところだが・・・、ここの仕事はいいのか?」
「私の代わりなど幾らでもいます。私一人サボっ・・・、いやお暇を頂いたところで何の支障もないでしょう」
 嬉しそうな顔でレザードは旅に誘ってくれる騎士にそう答えていた。
「ありがとうレザード、それじゃ辛い旅になると思うけどよろしく頼む」
「レザードさん、私もよろしくお願いいたしますね」
「お二方、こちらこそ宜しくさせてください。・・・、ところでいつ出発されるのですか旅の準備とかしなければなりませんので」
「できれば直ぐにでも・・・、いや明日出発したいけど・・・」
「心配は要りません、今から帰って準備すれば明日の明朝にでもすぐに出発できますよ」
 アルエディーは新たに加わる旅の仲間に出発時間と場所を教え図書館を後にした。それからはセレナにせがまれて名ばかりの観光を2イコット位してからレザードとの待ち合わせに近い宿を探しそこに宿泊する事になった。

†   †   †

 宿でセレナが作った夕食を食べているアルエディーを彼女は眺めていた。
「アル様・・・、一つ聞いてもいいですか?」
「えっ、なにを?」
 彼は口に運ぼうとしていたスプーンを止め、セレナの方を向いた。
「アル様の旅には戦えないものは・・・、その邪魔なのでしょうか?」
「セレナ、自分の事を言っているのか?あんまりこういう事言うの好きじゃないけど・・・、ほら人には向き不向きってのがあるだろ?俺に出来てできない事、セレナに出来て出来ない事。独りで辛い旅をするよりは・・・、アハハッ、そのなんだ、そんなわけで・・・、それにセレナは誰もが簡単に持ち得ない力、癒しの力を持っているじゃないか。まだ、旅を始めてそんなに経たないけどセレナのその力。助けになっているんだぜ」
 淋しげな瞳で話し始めたセレナに対して明るい声でアルエディーはそう答えていた。
「それじゃ、これからも一緒に旅をしても良いのですか?」
 不安げな顔で食事の手を止めているアルに向かってそう言葉にした。
「セレナ、こちらからお願いする。俺の旅に付き合ってくれ」
 頭を軽く下げて彼はセレナにそう返答した。
「アル様、頭なんか下げないでください。本当は迷惑だと思われても着いて行く積りでしたから、アハハッ」
 そう言って彼女は最後に笑顔を見せた。そしてアルエディーは苦笑しながら彼女のその返答を耳に入れていた。
「俺から一つだけお願いがある。セレナ、しっかり聞いてくれ」
「ハイ、何でしょうか?」
 真剣な表情でアルエディーがそう彼女に告げると笑っていたセレナの顔が平静に戻った。
「俺と一緒に旅をするのは構わない。だが帝国との戦いが始まったら・・・、おとなしく帰郷して欲しい。君のような子には戦場の様な生臭い物は見せたくない」
「・・・・・・・・・、わかりました」
 セレナは口ではそう言っているものの内心ではそう思っていなかった。しかし、そんな思いも目の前の騎士には分かるはずも無く夕食が終わり、彼女は自室へと戻って行く。

†   †   †

 翌日、日の出とほぼ同じ時刻に二人はレザードと約束した場所へと向かっていた。その場所に到着するとレザードの隣にもう一人の姿があった。歳にして十二から十四歳くらいの少女。二人がレザードの前に立つと陽気な声で彼が挨拶を口にした。
「ヤァー、ヤァー、二人ともおはようございます」
「あぁ、おはよう・・・、ところでお前の後ろに隠れているその女の子は?」
「いやぁ~、アハハハッ、それがですねぇ。昨日旅支度をしているときに妹に見つかってしまって・・・」
 悪びれも無く笑いながらその男は連れてきた妹について語り始め、
「はぁ~~~い、只今、ご紹介に預かりました駄目、駄目お兄ちゃんの妹のアルティアです。ティアって呼んでくださいね」
「誰が駄目駄目ですか?」
「お兄ちゃんの事です。炊事洗濯何にも出来ないじゃない。それに・・・・・・」
「それにじゃ無くて、あのなぁ~~~、これ遊びの旅じゃないんだけど?」
 アルエディーはアルティアの言葉を遮り、彼女とレザードを見てそう言葉にした。
「いやねぇ、私の妹、こう見えて結構役に立つし、いいかなと思いまして」
「私、レザードお兄ちゃん程じゃないけどちゃんと魔法も使えるよ」
「いや、ティアちゃん、そうじゃ無くて・・・」
 アルエディーが何かを言いかけたときセレナが口を挟んでアルテアに自己紹介を始めてしまった。
「ティアちゃん、始めましてセレナと言います。宜しくしてくださいね」
「ティアこそセレナお姉ちゃん宜しくお願いします」
「ああぁこらっ、そこ勝手に話しを進めるな!」
「まぁ~~~、いいじゃないですか一人増えようが二人増えようがたいした差は無いですよ、ハッハッハッ」
 レザードは自分の落ち度などどこかに忘れ無邪気に笑っていた。
「笑ってんじゃねぇ~~~よっ、アルティアちゃんの学校とかどうするんだ?」
「それなら問題ありません。妹は王立大学、魔導学をすでに卒業していますから」
「ハイッ、卒業してしまいましたから問題ございません」
「わぁ~~~、ティアちゃんその歳で凄いですね。私は田舎でしたので高等教育学校どまりです」
「アルエディー、妹の事もありますがこれで勘弁してください」
 レザードは呆気にとられているアルエディーを見て建物の陰に隠れていた大型のモウスト二匹を連れ出してきた。それはトルーチェと言う無鳥翼科の乗り物だった。それはクロウより速度は遅いが乗り心地は快適で気配を消して移動する事が出来る特技を持っている。そしてその絶対数はさほど多くない貴重な乗り物だった。
「確かに俺達の行動には便利かもしれない・・・、分かったよ。俺の負け」
「アルティアちゃん、アルエディー・ラウェーズだ。今は不甲斐ないお尋ね者騎士だけど宜しく」
「ハイ、アルエディー様の事は存じております。それと私の事、ティアって呼んでくっださいぁ~っ」
 彼女は急に畏まった口調で目の前の年上の騎士に爽やかな顔でそう挨拶してきた。こうして、お気楽そうで飄々とした感じのレザード。そして彼の妹、年齢の割には確りとしていそうで優秀な頭脳を持つアルティアを加えた一行は帝国へと向かって旅立って行くのであった。
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