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第 二 章 夏休み前の憂鬱

第八話 夜道の帰り

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 時計を見て貴斗が時間を確認する。現在9時32分
「そろそろ、お開きにしないか?野郎、お前ら二人はトニカク、女の子もいるしな・・・」
「アらっ、貴斗君の優しいこと。その中にはアタシもちゃぁ~~~んと含まれているのかしらねぇ~?」と普段つけない敬称を態と口にする。
 だが、香澄のその問い掛けに貴斗は黙って何も答えなかった。
 何も答えてくれない事を理解した彼女は大きな溜息と呆れた表情を作ってその彼に見せえていた。
「そうだな、そろそろお開きにしような」
 彼女達の事を案じた貴斗の意見に彼もまた賛成した。そう意外とこの男はフェミニストと学校では評価されているのでそこら辺のことは心得ているようだった。
「そうですね、ずっといましたら貴斗君にご迷惑かけてしまいますものね」
 ちょっと寂しげに、不満そうに口に出す。
「しおりン一人だけだったらそんな事ないと思うよ。ネッ、貴斗」
 からかう様に記憶喪失の幼馴染みに彼女はそう言っていた。
 言葉を掛けられた本人は彼女の言った事に顔を赤くしながら下を向いて沈黙する。
「貴斗も意外と純ねぇ~~~」とさらに冷やかしを入れていた。
「もぉ~~~、香澄ぃ、いい加減にしてください」
 それを耳にした彼女の女幼馴染みは照れ隠しをしながら反論。
「香澄ちゃん、藤原君と詩織ちゃんをからかうのはぁ~、そのへんにしてぇ、そろそろ帰りましょう」と香澄を促しの言葉を掛けていた。
「そ~~~ねェ、帰りましょっか。最後に面白いものも見られたしね」
「宏之君も一緒に行きましょうよぉ」となにやら物色中の宏之に呼びかけた。
「うぃ~~~」
 言う変な返事で答えて彼はその場から立ち上がり、
「貴斗、このゲーム、借りて行っていいか?」
 未開封のパッケージのゲームを貴斗に見せた。
「別に構わない。だが程々にしておけ、テストあるし」
「あっ、それは俺が借りようと思っていた奴じゃないか?チャッカリしているな、お前!俺もいくつか借りて良いか?」
「慎治もか?まったく。好きにしろ」
 勝手にしてくれと言わんばかりな言い方で訪ねられた本人は慎治にそう答えていた。
「貴斗、何でお前こんなに未開封のばっか持っているんだ?」
「PSⅡ、DC、二つとも持っていて、しかもかなりソフト量、多いし」
「貰い物だ」
「その割にメジャー物ばかりだぜ」と戻ってきた彼が貴斗に問いただした。
「そろそろ行くぞ」
 だが、しかし、彼は慎治の問いを無視してみんなが玄関に向かうのを促した。

~ 駅の改札口手前 ~

「貴斗、ちゃんとしおりンの事と送っていくんでしょう」
〝当然よね〟という感じで詩織の女幼馴染は彼に聞いていた。
「いいのですよ。貴斗君そこまでしてくださらなくても・・・、電車に乗らないといけませんから、貴斗君にご迷惑掛かるもの」
 少し寂しげに口にする彼女。
「心配するな、ちゃんと家の前まで送って行く」
 二人の女の子の言葉に彼は相変わらず、ブッキラボウに答えていた。
「貴斗、もっと感情をこめて言えないの?まったくアンタは」
「フンッ・・・、・・・、涼崎さんは宏之が付いているからいいとして、慎治!」
「皆まで言うな、分かっている、隼瀬の奴を送っていけって言うんだろ?」
 当然の事のように貴斗に言葉を返していた。
「別にいいのにそんな事、して呉れなくても。どうせ、これが一緒だし」
 彼女がそう口にするとなぜか、貴斗が彼女を睨んでいた。
「にっ、睨むことないじゃない・・・、はいはぁ~~~いっ、わかりましたぁ。慎治とは同じ方向だしそうさせてもらいましょうか?よろしく、慎治」

~ 駅のホーム ~
『2番選に電車が入ります、ご注意してください』
「それじゃ、皆また明日ね!」
「貴斗、送り狼になるなよ!」
「それを心配しなければならないのはお前のほうだ・・・、ふぅん」
「それじゃぁ、春香、オヤスミ!ヒロユキ、途中で変な事しないでちゃんと送っていきなさいよ、いい?」
「春香ちゃん、柏木君、お気をつけてお帰りくださいね」
 みなそれぞれ別の方面の電車に乗る宏之と春香に別れの挨拶を交わしていた。
 電車の扉が閉まり、その二人を乗せ、それは出発した。
 宏之と春香と別れて、別の電車に乗った四人は国塚という駅で降りて、その駅のロータリー近くにいた。
 三戸市国塚町、三戸駅から南に向かって三つ目の駅、所要時間は九分弱。
 市内だが聖稜へ道路を使って通学するには少々遠回りなのでここら辺から通学する生徒は殆どが電車で通学していた。
「隼瀬、お前の家ってココからどの位にあるんだっけ?」
「15分くらいよ」
 人差し指を顎に当て、考えてからそう慎治に答えていた。
 それを口にし終わると、彼女は歩き始めた。
 他の三人もそれに続いていた。皆が同じ方向に進むのを不思議に思った慎治は同じ質問を詩織にも尋ねていた。
「藤宮さんは?」
 彼の問いに詩織が言おうとしたのを遮って香澄が口を挟み、
「あれっ?慎治、私としおりンが、幼馴染みって話した事なかったっけ?」
「知っているけど・・・。貴斗、お前も二人が其れだってことは知ってるだろ?」
「アぁ~~~」と彼は欠伸と一緒に頷いて興味なさそうに返事をしていた。
「何だよ、その気のない返事は?幼馴染みだからってご近所とも限らないし」
「近所も近所、おっ」の次を彼女が言いかけた時、
「香澄と私はお隣さんなのですよ」
 ニコヤカに香澄の言う幼馴染みの女の子が答えていた。
「アぁ~もぉ~、何でそこでしおりンが答えるの?」
「ウフフッ」と悪戯っぽい笑みを彼女は浮かべ、香澄に向けていた。
「アタシとしおりンは、産まれた時からズット一緒!生まれた病院も、通ってきた幼稚園や小学校から今までずっとずっと一緒」
「ですけど・・・、私と香澄って、ズット同じ学校にお通いしているのですけど、同じクラスになりました事、って少ないのですよ」
 淋しげな表情でそう口にしていた。
「何、しおりン寂しげに言ってるのよっ、まったくもぉ~~~・・・、それでもアタシ達チャンと上手くやってきたじゃない、そうでしょう?もちろん、これからだって、そうよねぇっ!」
 そんな幼馴染みの顔を見た香澄はそう口にして明るい笑いを詩織に向けていた。
 慎治は二人の話しをちゃんと聞いていたが、貴斗は興味なさそうに、ただ一緒に歩いていただけだった。
「ちょっと、貴斗、ちゃんと聞いてる?」
 強めの口調で彼女は彼を咎めた。
「聞いている」と彼は感情が篭っていない声で答えを返した。
「アンタにだって」と次の言葉を言いかけた時、
「カ・ス・ミッ!」
 それ以上は言わないでという感じで彼女は幼馴染み、香澄の次に言う言葉を止めた。
「わかったわよッ」と言って拗ねた表情を香澄は作って詩織に見せていた。
「何を話してるんだ、二人して」
 その二人の遣り取りを疑問に思った彼が香澄に尋ねていた。
「慎治には関係ない事」
「つれないねぇ」
 言葉にしながらも、香澄が悲しげな表情で口にしたから、彼はそれ以上、追求しようとはしなかった
 それから、なんやかんや話している内にその女の子、二人の家の前に到着していた。
「とうちゃ~~~くゥ!ここがアタシン家でっ、隣がしおりンの家」
「へ~~~、結構古い家なんだな」
 その古くても外見の立派な造りに感心して彼はそんな風に言葉を漏らしていた。
「フフッ、香澄の家も私の家も、曽祖々父の代からここに在るのですよ」
 彼女は嬉しそうに言葉を綴っていた。
「そりゃマジで凄い事だ。ところで隼瀬と藤宮さんの向かいにあるデカイ家?武家屋敷って言うのかやっぱり」と興味津々に二人にたずね、
「そうよ、ウフフッ」、慎治の驚きようを見て彼女は微笑んだ。
「いったい、どんな奴が住んでるんだろうな?一度でいいから、お邪魔させて貰いたい」
「一体、だぁ~~~れがっ住んでいるんでしょうね?慎治も貴斗も、よぉ~~~く知っている人だけどぉ~~~」
「誰だよ、俺と貴斗が知っているやつって」
 直ぐ教えろと言わんばかりの勢いで彼は香澄に問いただす。
「聖稜の理事長、藤原洸大氏です」
 そして、それに答えたのは香澄ではなく詩織だった。
「どっおぉ~、驚いた、慎治?」
「驚いたって言うよりも、世間は狭いと思った」
 香澄と詩織が言葉にしたことに、しみじみと慎治は答えていた。
「それじゃ、二人とも理事長とは知り合いなのか?」
 フッと思ったことを彼はどちらとなく二人に尋ね、其れに応えるように、
「ええ、そうよ」
「へぇ~~~」と彼は感心しながら貴斗の方を見るが。
「貴斗、お前、これ見てなんとも思わないのか?」と興味なさげの貴斗に聴いていた。
「別に」とそっけなく眠たげな表情を顔にし返すだけだった。
「貴斗に何を言っても無駄よッ」と彼女は慎治に答えた後に、
「あの時だってそうだったんだから・・・」と小さく呟いた。
「なるほど・・・。藤宮さんならともかく、道理で、隼瀬。どうして、お前がこの地域じゃ一番の進学校に入学できたのか。裏口入学だな」
「はぁあっん?言ってくれるわね、慎治っ!アタシだってちゃんと入試受けて合格して入ったのよっ!あの時、どれだけ苦労したか、あんた、わかってんの?」
 慎治が香澄に向けた言葉、それをムッとした表情を示しながら反論する彼女。
 香澄の言葉を耳に入れた詩織はくすくすと握り拳を口元にあて笑っていた。
 だが、そんな三人とは全く異質の雰囲気で身を囲んでいる男が言葉を発した。
「ソロソロ、俺たちも帰るぞ」
 痺れを切らした彼は慎治に促す言葉を口にした。
「貴斗君、八神君、今日はお送りして頂いて有難うございました」
「いえ、いえ、まいど、おおきに」
「気にするな、当然の事だ」
「貴斗、よく恥ずかしげもなくそんな事、言えるなぁ」
「だっ、黙れッ」と言った後、少しばかり彼の頬が紅くなった。
「それじゃ、二人ともまた明日ねぇ。しおりン、オヤスミぃ~~~!」
 そう言うと香澄は詩織よりも早く家に入って行く。そして、詩織も送ってくれた二人に頭を下げると家の中へと入って行った。
「俺達も戻るとしますか」
 彼はそう貴斗に呼びかける。それに答えるように彼は歩き始めた。
 それから、駅まで慎治が話題を持ちかけ貴斗はそれに相槌などを打って答え、必要なときは自分の意見も述べていた。
「貴斗、お前も結構しゃべる奴だな、俺たちの前だけだけど」
「お前と、宏之の前だけだ」と無愛想にに返していた。
「なぁ、貴斗クラスの連中とも仲良くしたらどうなんだ?」
「お前等がいてくれれば俺はそれ以上望まない・・・・・・。望んで其れを失ったとき、もう、俺には耐えられそうにないから」
 彼自身、意味が分からない言葉を慎治に聴こえないくらいの声で呟いていた。
 そして、その最後の言葉を聞き取れなかった慎治は普通に、
「アハハッ・・・、そうか。それじゃ、明日からのテスト、頑張ろうな」
「お前ほどじゃないが努力はする」
「よく言うよ、全く。それじゃな!」
 慎治はちょうど香澄と詩織を送った駅の反対側に住んでいる。
 その彼は皮肉を言った後、もう一度挨拶すると、その場から走り去った。
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