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第 四 章 弥 生
終 話 二人の兄妹が立つ場所
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1 将臣
まだ、大学に入ったばかりなのに、一週間ほど休学の手続きを翠達三人して取った。
二〇一一年の十一月四日、金曜日、俺達四人は日本を立ちアメリカへと向かった。こんなところでもエレクトラに教わった英語が役立つとは、彼女に感謝しないとな。それとその接点となったみのりにも・・・。
現地に着くとそこには慎治さんの親友が出迎えてくれて、初めて長い車、リムジンって物に乗るという体験ができた。初日から行動すると思っていたんだけど、その慎治さんの友人、クライフさんの提案と女の子二人の意見で、ディズニー・ランドへ向かった。初め、俺も乗り気じゃなかったんだけど、明るくふるまう二人を見ていたら俺も楽しまなくちゃって考え直した。それに、慎治さんはやはり独りで抱えている風で、そういうのも吹き飛ばしてやりたくて・・・、貴斗さんに親友って呼ばれていたんだから、もっとしっかりしてもらいたくて。だから、俺は翠達へ莫迦を演じて見せた。何度か苦笑いをしていた慎治さんも最後の方は俺達に合わせて、楽しんでくれている様だった。
一日が終わり、豪勢な夕食をクライフさんから御馳走してもらい満足な思いでホテルへ入っていた。それから、俺達・・・、翠と弥生と俺の三人に割り当てられた部屋に移動する。翠が気にするかなって心配したけど、そうでもなかった。それから部屋に入り、
「お兄ちゃん、弥生達がシャワー浴びている処、覗かないでくださいね」
「ばぁ~~~ろっ、誰が貧弱体系のお前なんぞの裸なんか見たいと思うかよ、翠は別だけどな・・・。まっ、馬鹿なこと言ってないでさっさと済ませてきてくれ。今日は慎治さんを元気づけたかったから、騒いでいたけど、明日はちゃんと慎治さんの目的を手伝わなきゃならないんだから夜更かしは出来ないぜ」
「何笑ってんだ、翠」
翠が何に対して俺を笑ったのか判らない。でも、その笑みに悪い意味はなさそうだな。
部屋には備え付けのベッド二つと後から用意された簡易ベッドが置かれていた。で、俺は簡易ベッドへ身を投げると天井を向いて、明日からどんな事が判るんだろうって思いながらそのまま寝着いてしまっていたんだ。
翌日、俺達はサン・ディエゴって街に来ていた。その場所には貴斗さんのお父さんが勤めていた研究所があり、弥生と俺が十歳の誕生日を迎えた夏に、俺達二人を日本へ残して将嗣父さんが向かった先でもあった。親父と貴斗さんのお父さんは親友だったって言う。だから、もう亡くなっている貴斗さんのお父さん、確か、龍貴さんだったかな。その龍貴さんの事を口にする時の親父の顔・・・、凄く、悲しそうだった。親友を亡くすってそんな気持ちなのかな・・・、帰ったらもう一度、洋介に電話入れてみよう。それでも駄目なら、俺の方から会いに行ってみるか。
研究所に辿り着いて、見た光景は映画とかにもありそうな、崩れた建物、干上がった道路と荒廃した風景が、放置されてからの時の流れをしっかりと俺に教えてくれた。一番大きな建物へ向かい。その中で、手分けして探す事になったんだけど、三、一、一って微妙なバランスの配分で中を探索する事になった。その時、翠が言うけど、そこは俺が目的を忘れるなって思いを言葉に乗せて彼女へ告げた。
「翠、文句言ってないでいくぞ。少しでも、慎治さんの役に立ちたいって思うんなら、不平を言っている場合じゃないだろう?」
「そうですよ、みぃ~~~ちゃん」と俺に合わせてくれる妹。
初めは闇雲に動き回っていた俺達。
「研究室なんか覗くよりも、研究している人が書類とかを書く部屋、なんていうのかな、そういう処を探した方がいいじゃないんですか?」
「ほぉ、翠にしては頭使ったな。居室だな、このフロアーにはそれらしき所はなかったから、別の階にでも移動してみようぜ」
「それだったら、玄関前に建物の案内表見たいのがありましたよ。すれていたからはっきりと確認できるか見てみないと分からないと思うけど」
そんな会話を交えながら場所を移動した。それから建物の三階に辿り着き、行く先が三つに分かれた処で、
「それじゃ、手分けして探すの、お兄ちゃん」と俺よりも早く、そいう言う弥生へ、
「そうした方がよさそうね」と翠が答え、
「誰かの襲撃に遭わない事は俺が保証するけど、瓦礫なんかに足を取られて転ぶなよ」と取り敢えずの心配をしてやった。
「私も、弥生もどんくさくないんだから、心配しなくても大丈夫。それと崩れそうなところには近づくなでしょ?将臣」
「うっし、わかってんなら、ちゃきちゃきいこうぜ」
俺は進んだ先にある部屋をちゃんと一部屋、一部屋しっかり確認しながら進んだ。通路の長さを見る分だと片側六で両側にあるから全部で十二って処か・・・。
「はあっ~、ちっ、やっと半分。でも、慎治さんが言っていたように簡単に見つかるもんじゃねぇよな」と言いつつ、ドアが無くなっている六部屋目に足を踏み入れていた。
割れた床。割れているけど開けっぱなしの窓。襤褸切れ同然のカーテンが外から流れてくる緩やかなう風に僅かに揺れていた。
部屋の中を一望する。ファイル・キャビネットから崩れ落ちたままの土埃まみれバインダー。その中に開いている物もあって、やっぱり流れてくる風に小さな音を立て、ページが行ったり来たりしていた。俺はそれを拾い上げ、内容を見る。何の資料か知らない。内容だって判らない。だから、アダムって言葉や将嗣父さんの名前、龍貴さんの名前、父さんから聞かせてもらった単語に該当物だけを注意深く探る。
「これもはずれか・・・」
俺にとって役に立たないそのファイルを無造作に投げ、スチール・デスクに腰を下ろし、入口の方を見ていた。視線をあっちだ、こっちだって向けても、何もめぼしい物は見つからない・・・、・・・、・・・、そういえば、入口の案内だと地下があるみたいだった。あいつ等には悪いけど、なんか怪しそうだ。行ってみる価値あるかも。
二人に気がつかれない様に通路に戻り、エレベーターの処へたった。駄目もとで、下へ降りるボタンを押しと・・・、めちゃ・ラッキー。稼働していた。この研究所も親父が設計したものらしかった。その耐久性に驚き、親父に感謝した。地下三階までは行けるみたいだ。迷わずそのボタンをす。
鈍い動きでその箱が揺れ、降下する時の浮遊感があった。頭上のランプがB3を示し、扉が開く・・・、それは俺の体半分くらい下に行きすぎて、よじ登る要領でその部屋へ侵入した。まさしく研究所風の機材がわんさかの部屋。見ているだけで楽しくなってくる・・・、目的を忘れるなよ、俺。念の為に持っていたLEDライトで辺りを照らし、めぼしい物がないか見て回った。
小さなブリーフケースから散らばる様に広がるA4サイズ書面。近づき、拾い上げ、
「ふぅ~~~ん、こんな処にあったからまだこんなに字が鮮明なんかな?」
内容はシッカリとみていないけど、それを掻き集めて、落ちていたブリーフケースに入れると、自分の持ってきたバックパックへしまい込んだ。
「あとは何もなさそうだな・・・、戻るか」
どうせ、動かないだろう、機械のボタンを適当に押しながら、エレベーターの方へ歩き、翠達と落ち合う為にF3のボタンをした。
「くそっ、うごけ、うごけ・・・、うごけってぇのっ!無理っぽいな。しゃぁねっ」
言って、またその箱から出て、半分ずれているからそれを引っ張るロープが見える。それを這って上に行こうと思った。
「汚れるけどしょうがないな。何か言われても適当にごまかせばいいや・・・、やっぱやめよう」
人が乗る箱を引っ張るそのロープはかなりささくれ立っていて、怪我をする事必須。階段や非常口を探して、そっちから、出よう。
難なくそれは見つかり、崩れていたけど、登れない事はない。駆け足で上に登り、建物の裏手に出ると正面に戻り、三階を目指した。
「こらっ、!お兄ちゃんどこ行ってたのよっ!」
めっちゃ、怒った顔の弥生に、
「なんだよ、大がしたくなったから、レストルーム探してたんだよ。怒るこっちゃねぇだろうが?」
「ふぅ~~~ん、将臣お兄ちゃん・・・、それは嘘です」
「そう思うんだったら、勝手にそう思っていろ。で、翠は?弥生、お前なんか収穫あったのか?」
俺の言葉に顔を横に振る弥生だけど、俺が嘘を吐いている様に妹もそうである事が筒抜けだった。
「将臣お兄ちゃんが、そんな態度とるなら弥生だって秘密です」
「なら、いいんじゃねぇ、それでよ。後は翠を待つだけか・・・」
腕時計を見た時に走ってくる翠が見えた。
「時間、時間、早く、慎治さん処へ、もどろっ!」
翠は走って来た勢いを緩めないでそのまま階段を下りていた。俺も弥生も慌てず歩いて彼女を追う。さっきのあれは独りになった時にでも確認しよう。使える物かどうか知らないけどさ。
本格的に行動したのはその日だけだった。次の日はラス・ベガスでマジック・ショーとカジノを満喫して、最後の日に海が見える丘の誰かの墓標の前に立っていた。
俺は慎治さんと彼女等の会話を聞いて、慎治さんが口にした名前を耳にして、以前聞いた人の事を思い出した。貴斗さんの彼女だった人、シフォニー・レオパルディさん。名前がなんとなく、詩織さんに似ている人。
その人に黙祷し終わった後、徐に慎治さんは一枚の写真を取りだし、俺達へ見せてくれた。目を点にしてその中に写る二人を見ていた。誤認して当然だった。俺は詩織さんかと思った。でも、慎治さんがそれを否定する。
「やっぱり、勘違いしたな、お前ら。これが今俺たちの下で眠っている人。シフォニー・レオパルディさんだよ。詳しい事は、飛行機に乗ったときにでもゆっくり話してやるさ」
慎治さんは俺達が間違えることを予想していたかのような口調でいい、翠が奪おうとしたその写真を懐へ戻そうとした。
「おっと、残念。こいつは俺の手から離れたがらないんだな。だから、店じまい」
「ずるいですぅ~~~、もっと、見せてくださいっ」
「そうっすよ、独り占めだなんて、貴斗さんにもそのシフォニーさんにも失礼っす」
ありえない、ありえない。本当に俺の知る詩織さんと写真の中のシフォニーさんの違いがはっきりと認識できなかった。冷静に考えれば髪や瞳の色で判るはずなのに、それを意識させないほど似ていたんだ。
「慎治さん、大人げないです。ここは年上の貫録を見せてください」
「なんと言われようとも、聴けん話だな。これは条件付きでの借りものですからよ」
慎治さんは勝ち誇った様に胸を張って、本当にそれ以上見せてくれなかった。親父に聞いたら判るだろうかシフォニーさんの事、って、そもそも親父がシフォニーさんを知っていても詩織さんを知っている訳がないじゃないか・・・、ああ、でも写真くらいあるかもね・・・、それもない、将嗣父さん、写真を撮る様な人じゃないし。
日本に帰ってから、直ぐに休学を解除して大学の勉強を再開した。翠達がサークル活動に向かった頃、大学図書館へ俺は足を運び、仕切りのある机の処へ来ていた。
そこで、アメリカで手に入れた何かの書面のページ順をそろえて読もうとしていた。
「よっし、これで順番になったな。それと適当に拾ってきたから、全部あるとは思ってなかったけど・・・、さてと???」
03/19/01改行TAKATO FUJIWARA・・・、なんで、貴斗さんの名前が?次の改行で太文字大きく、『On Future Resource Problems and Solution for Neo Energy Theory Generator Development Outline』
もしかして、これ論文とかって奴?アメリカの日付の表し方が月日年だから二〇〇一年の三月一九日という事だから・・・、俺がまだ一四歳の中学生の時・・・、貴斗さんとおれって四歳差だよな?十八歳。あっ、でも、三月だろう?その月で十八なら、詩織さん達と学年一緒にならないよな?ってことは・・・、・・・、・・・、十七歳?ええぇ、そんな歳で論文?まずそのタイトルの意味するのが何なのか、直訳してみた。『将来の資源の問題と新しいエナジー理論ジェネレーター開発のアウトライン?』
なんかしっくりこないな・・・、『新動力理論発電の開発概要』か・・・。まじで?一体どんな内容が、書かれているのかUMPCのオンライン辞書を開いて、判らない単語が出たら、直ぐに調べられる様にしながら、読み始める。
内容をちゃんと理解するために何度も、文脈を行き来し、話しの流れを追った。もともと、英語論文しかも、研究論文を読めるほど英語を知ってはいなかった。だから、全文を解読した頃は、日が暮れ、翠達との待ち合わせも忘れてしまっていた。翠からの携帯メールでの呼び出しに、仕舞ったって思いながら、彼女達を迎えに行った。
俺は移動しながら読んでいた物の内容を整理した。十年も前から、貴斗さんは今くらいにどんな感じで世界がエネルギーの使い道の方向を決めるのかを的確に予想していたんだ。そして、これから、更に二十年、三十年先はどうなるかを、今のやり方では資源の枯渇やそれによる人々の影響を示したものだった。そうならない為の新しいエネルギー源の着手について、何点か書かれていた。そして、その実用理論が示され、ている。まあ、外国の論文は先にその結果が来るから実用理論が先だった。だから、初め何が書いてあるのか、もう、頭の中で単語と単語の意味を繋ぎ合わせるのに苦労したよ。
で、その論文の内容を簡潔にしますと次の様になる。
まずは、二〇〇〇年から三十年くらいまでのエネルギー問題をまとめていた。
1. バイオ燃料の研究が盛んになり、初期は人間が食べる物や家畜に与える飼料をその燃料に使用するようになって一時期、食糧関係の物価が高騰する事。それに代わる植物で研究しようとするが、世間が関心を示さず、その為に用意した土地が無駄になるだろうと指摘。
2. 燃料電池による補助発電機構やハイブリッド・エンジン。燃料電池の改良研究とその応用で必要となるレアメタルの採掘不足で世界規模での化石燃料から移行の困難さ、一度商品にしてしまった物からレアメタル回収の非徹底さでのレアメタルのさらなる希少価値高騰の指摘。
3. 太陽光発電の弱点、運用年数とその設備投資などから来る採算の不合理や製造までの無駄の多さと環境汚染は本当にないのかという真偽。
4. 環境発電と呼ばれる音響、潮力、風力、地熱、太陽熱発電、自然界放射線利用などの非効率性とその危険度の指摘。
5. 化石燃料の燃費向上の為の研究の限界と排出有害ガス環境問題。
6. 5までの研究で煩雑化してしまう技術体系と生産される物の互換性のなさがより多くのゴミを地球に排出してしまう事の指摘。
そんな問題から、幾つかの実現可能な対策と貴斗さん本人の突飛な理論での解決策が次の様な感じに書いてあって電力関係の事と車みたいな物の動力に分かれていた。
1. 現段階で可能な発電である原子力発電の多くの利点と本来どれだけ安全なのかという明確な提示とそれでも人々が納得しない場合、宇宙空間での建設とその送電方法。
2. 重力下で実現できる各元素での小規模核融合発電と無重力下で可能な大規模核融合発電と回避すべき問題点と経済性やその送電方法。
3. 水素エンジン高効率化とNOx低減化。
4. 液化気体エンジン理論。
5. 火力や原子力などのタービンを回転させてえる発電機を回す間接電力ではなく直接電力を生む為のフォトン・ジェネレーター。
と続き、貴斗さんが本当に実現させたい理論、新しい粒子の発見とその応用で最後だった。単語でDirectronって書いてあるけど、造語っぽく、辞書には載ってないから日本語には訳せない。多分、読みはディレクトロンだと思う。その説明が記されているけど内容が理解できないから説明は不可能だ。後もう一つPsychotron。サイクロ、ちがう、サイコトロン?そんな意味不明な単語がどんなものなのか、どう利用できるのかが記述されていた。
本当にこれを十七歳の時の貴斗さんが書いたものなら、天才と言わずして、何と云うのだろうか?まあ、慎治さんの話ではアメリカの大学卒業間近だったそうだけど・・・。詩織さんも凄く才気あふれる人だった。やっぱり、そんな人と一緒になれるのは同じ様な形の人なんだな・・・。まるで、雲の上の人達に俺や翠達は面倒を見てもらっていたんだ。それはとても光栄なことなのに・・・、その人達はもう、この現実に居ない・・・。
「なによ、将臣、遅れてきたくせに、そんな顔して」
待ち合わせの場所に到着した時、俺は難しい顔か何かをしていたんだろう。翠はそれを勘違いしたようで、不満を漏らした。弥生はそれに触れず、
「弥生達待たせた借りは大きいですよ、将臣お兄ちゃん。後できっちり返してもらいますからね。さぁ、帰りましょぉ~~~」
家に帰って家族三人で夕食を取った後、弥生が風呂へ行ってから、親父に貴斗さんの論文を見せていた。それを呼んでいる最中に貴斗さんの事やアメリカでの貴斗さんの彼女だったシフォニーさんの事を尋ねていた。将嗣父さんはその論文を読みながら、
「ゲオルグの一人娘の事か・・・、仕事の都合上、母親とは一緒にいる事が出来ず父親のゲオルグと生活していてな、あいつはよく仕事で無茶な事をして怪我をするから、その事が心配で医者になる事を目指していたとても親思いの娘だった事を覚えているよ・・・」
それから、また親父は論文を熱心に読み直し、暫らくは俺の言葉に相槌を打ってくれるだけだった。
「確かに、将臣の言うとおり、貴斗君とシフォニークンは恋仲だった。だが、それも居た仕方あるまい。龍貴も美鈴君も仕事の事ばかりで一緒に連れて行った彼の世話をしていたのが彼女であるのだから・・・。ただ、龍貴も、ゲオルグも二人の仲を認めてはいたが、美鈴君と龍一君も、理由は知らぬが、納得していなかった様だな」
「どうして?」
「私の云った事ちゃんと聞いていたのか?理由は判らないと言っただろうが・・・、まったく」
親父はそんな風に受け答えしながら、読み終わった論文を返してくれた。
「で、どんな内容?貴斗さんの理論って?」
「流石は龍貴と美鈴君の息子、十四歳ですでに世界にその名前が知られていた龍一君が自慢するのも納得がいく・・・」
「さっきも、リュウイチって言っていたけど、だれ?」
「ああ、話した事がなかったな。龍貴と美鈴君の長男だ。貴斗君の七歳上」
「へぇ、貴斗さんに兄貴もいたんだ。どんな人?」
「堅物の龍貴とは正反対だったな。大らかな美鈴君似というところだろう。文学的な才能を持ち合わせており、多岐にわたるひいでた知識を持っていながら、就いた職業が何かの捜査官だったというご子息だ」
「親父だって、十分堅いだろうよ、他人の事言えるのか?で、論文の内容」
俺の返答に小さく笑う親父はその事を自覚しているようだ。将嗣父さんは顔を横に振りながら、
「これは非常に有意義な内容だ。知りたかったら、己で理解できる知識を身につけて読め、そうすればお前の将来の道も決まるかもしれんからな・・・」
親父は小さな笑みでそう答えながら、煙草の箱を手にとって立つと軒先へ行ってしまった。・・・、・・・、・・・、ふぅ~~~ん、俺の将来の道か・・・。
論文をブリーフケースに仕舞うと自室へ向かい。弥生に探られない様な所へそれを隠した。
二〇一一年の十一月二十三日の休日に俺は東京中野に住んでいるはずの洋介の家へ向かった。慎治さん達とアメリカから帰ってきて、何度も電話を掛けても繋がらなかったから、俺の方から出向いたんだ。親友は和田堀公園の近くにあるアパートの三階住んでいる。
今の人達って玄関ドアに表札を入れていない事が多い。でも、霧生洋介の部屋三〇三号室にはちゃんと親友の名前が貼ってあった。目の前の場所で間違いない。玄関の呼鈴を押して洋介を呼んだ。だが、親友が出てくる気配がない。再び二、三回押しても彼奴は出てこなかった。
電力計の円盤は中に人がいる時の様な勢いで回転している。居留守?それとも、
「おいっ、洋介っ!親友の将臣が来てやったってのに何居留守使ってんだよ」
それでも、親友の反応はなかった。
「どうしたってんだよ・・・、・・・、・・・」と言いつつ、俺はドアのノブに手を掛け、それを回してみた。???えぇ、居留守使ってんなら鍵かけてないのは変だ。扉を引いて中に入るとリヴィングに倒れている洋介がいた。凄く苦しそうな顔で呻っていた。親友に駆け寄り、しゃがみこむと洋介の頬を軽くたたいて意識があるか確かめ、
「おいっ、洋介っ!大丈夫か?俺だ、将臣だっ、洋介っ」
どう見たって大丈夫そうじゃない。混乱して、どうしていいのか判らないけど、携帯電話で119を掛けようとした時に洋介が苦しそうな顔で俺の腕を掴み、横に顔を振る。
「なんで、掛けちゃだめなんだよ。お前、どう見たって大丈夫じゃねぇだろうがっ!」
それでも、尚、洋介は俺の腕を掴む力を上げ、顔を横に振る。
「じゃぁっ、どうすりゃいいってんだよっ!洋介っ」
その瞬間、俺の腕を掴んでいた洋介の手から力が抜け、滑り落ちた。
「よっ、よぉ、よぉーすけぇぇえええっ!」
俺はやっぱり119に掛け、救急車を呼ぶと、親友を病院へ運んでもらった。運ばれた先の病院で精密検査を受けるが事故でも、持病でもなくて、原因が判らず、担当した医者は苦渋の顔を俺に見せた。意識不明なままの親友。回復の兆しはない。心の中で『この、藪医者が』って罵るけど、それは八つ当たりでしかない。だって、医者が万能だったら人は死なないからさ・・・。でも、世の中には名医って呼んでいい人はいるんだ。俺はそれを思い出す。調川愁先生なら・・・、愁先生は翠や弥生の回復にずっと力を注いでくれて、本当に二人を目覚めさせてくれたすごい人。愁先生ならもしかすると洋介の事を・・・。
病院の外へ向かい携帯電話を取り出し、翠達が世話になった済世会病院へ掛けると愁先生に取り次いでもらった。
「非番?どうにかして、先生に連絡とれないですか?」
「それは、むりです。ご了承ください」と言って切られてしまった・・・。
『くそっ・・・、そっ、そうだ。慎治さんなら先生の電話番号知っているかも・・・』
俺は直ぐ様、慎治さんへ掛け直し、愁先生に連絡を入れたい理由を告げると快く、承諾してくれた。そして、俺は運も良かった。なんと、慎治さんのお姉さんの佐京先生と東京に居るらしく、俺の処へ来てくれるように伝えてくれると言ってくれたんだ。それから、十五分後。
「調川愁です。結城将臣君の携帯電話で間違いないですね?」
「えっ、はい。今中野へ向かっていますが、病院名を教えていただけないでしょうか?」
本当に愁先生から電話がかかってきて場所を聞かれた。それに答えると、
「急いで、そちらに参りますがあと三十分くらいかかりそうです。それまで我慢してください」
「有難う御座います・・・」
それから、先生が来るのを外でずっと待っていた。
見た事のある赤い背の低い車、HONDAのNSYが俺の方に向かってきた。俺の前に着けると、その運転席側の窓が降りて、
「お待たせしました、将臣君。佐京、私は車を停めてきますので先に降りてください」
「うむ・・・、久しぶりだな、将臣君。彼女達は元気か?」
凛々しい姿で助手席から佐京先生が出てきて、そう言葉を呉れると、俺は頷き返事をした。
「で、霧生君の様子はここの医者では何も分からないというのだな?」
「はい。でも、翠達を目覚めさせてくれた佐京先生たちならと思って・・・、俺の大事な親友なんです、洋介は、だから、だから、救ってください」
「みなまで言うな。親友の尊さは身をもって知っている。だが、診てからでないと何も判断は出来ぬぞ」
「そうですよ、将臣君は。まずは洋介君の容態を確認してからです」
車を駐車場へ停めてこっちに向かってきながら、愁先生が俺達へ言葉を呉れた。
病院内へ入ると二人は身分を示して、洋介を見てくれる事になった。先生達が親友の診察を始めてから、二時間近く経過する。俺はその間ずっと親友の安否を気にしながら耐え続けた。廊下の向こうから足音が近づく。俺は顔を上げ、そちらを向くと、冷静な表情の愁先生と深刻な佐京先生がいた。
「先生っ、洋介はっ!!」
「お静かに」
「そんな顔をされては黙ってなんていられないさ」
「ふぅ、佐京。貴女はもう少し、表情の勉強を皇女お義母様から学ぶべきですよ」
「無理だ・・・」
愁先生の言葉をそう否定する佐京先生に少し笑ってしまった。
「何とかなりそうです。ただ、怪我や病気とは違うので彼の症状へ名称を付けて呼ぶのは不可能です」
「たすかるんですか?」
「ええ、ひと月くらいは時間がかかりそうですが、回復するでしょう・・・」
「霧生君を我らの病院へ搬送してもらう手続きを取った。だから、後は我々に任せて将臣君は安心して帰宅するがよい」
「本当に大丈夫なんですね?先生達の事、信じてますからね」
俺がそういうと、愁先生が俺の肩に手を乗せ、力強く頷いてくれた。
「それじゃ、洋介をよろしくお願いしますっ!」
言葉と一緒に愁先生と佐京先生に頭を下げ、それを戻すと病院玄関へ歩き出した。そこを離れた。
月は年の終わりに近づく十二月の中旬。俺にとっては運命的な何かを感じる喫茶店ドレスデン。翠達のサークル活動が終わった帰りにそこへ寄ると、思いもよらぬ組み合わせの御一行が、店奥の席で会話をしていた。何かを企てているような匂いがぷんぷんする。
「しぃ~~~んじっさん、何を企んでいるんですかぁ~~~」
「親父、何やってんだよ、こんな処で。皇女先生。それとしょうこせぇ・・・、うんくぅゃぁ、翔子さんこんばんは」
「皇女先生、翔子お姉様、こんばんわです」
「お前等の嗅覚は犬以上だな、まったく」
「褒めても、何も出ませんよぉ、慎治さん、どんな密談をしていたんですか?正直に吐き出して下さい」
「ちょっくらシンガポールまで行ってくるための段取りさ」
何時もなら、教えてくれなさそうなのに、今日は直ぐに答えが返って来た。どうして、即答だったのか慎治さんの考えが計り知れない。
「もしかしてぇ、慎治さんがシンガポールに行く理由はこの人に関係あるのかなぁ、源太陽さんだったかな?」
俺の知らない事を翠の奴はさも当たり前の様に口に出すと慎治さんは鼻で笑い、直ぐに冷静な顔へ帰ると、ちょっと強い口調で、
「余計な事に首を突っ込まないでくれってお願いしたじゃないかっ!いつ何時、どこに危険が転がっているか分からないだ」
「一緒させてくれないと、私達もっと危険に足を突っ込んじゃいますよ。それを止められるのは慎治さん判断にかかっているんですけどねぇ」
おい、おい、それは勘弁してくれよ。今、洋介の事でかなり傷心してんのによ、翠、お前にそんなことされちゃ、生きた心地、しねぇぞこらっ!
「翠ちゃんなぁ、俺を脅す気か?」
「はい、シンちゃんの負けです。将嗣ちゃん、いいですわよね、将臣ちゃんと、弥生ちゃん達をお連れしても」
「・・・、仕方があるまい。行って何になるとは思えぬが」
「翠ちゃん、弥生ちゃん、それと将臣君も遊びに行くのではない事をしっかりと認識して下さいまし」
「そりゃぁ、引率の翔子先生がちゃんと監督しなきゃならない事っすよ」
つい口が滑って翔子先生に睨まれてしまいました。なんで、そんなに嫌なんだろう?俺達の元担任だったって事実は変わらないのにさ。
俺達はシンガポールへ向かい。凄い物を目の当たりにした。それから、日本に帰国すると物語は急展開を見せ、終焉へと向かうんだぜ。一体、それがどんな結末なのか・・・、・・・、・・・。
俺はこの先の未来ドンナ場所へ立っているのだろうか・・・。俺が望む将来は・・・。
2 弥生
弥生と将臣お兄ちゃんは八神慎治さんから託されたお願いを解決するために毎日の様にお兄ちゃんと将嗣お父さんへアダムの事を聞かせてもらおうと必死に話しかけていました。
始めのうちは否定的だったお父さん。でも、数日後にはお父さんがどんなお仕事をしていたのかお話してくれるようになりました。でも、やっぱりアダムの核心からは遠く離れてしまっているお話ばかり。それからまた日は過ぎ、将臣お兄ちゃんがお風呂に入っている頃、弥生とお父さんはリヴィングに居ました。
弥生と二人だけでいる時の将嗣お父さんは直してくれているようですけど、まだよそよそしい態度で弥生に接していました。
「お父さん、お茶のお代わりいります?」
「うん、あぁ、すまんな、弥生・・・」
お父さんは弥生の事をチャンと女の子だと認識してくれて、弥生にどう接していいか困惑してくれているのでしょう。でも、弥生達は親子なんですから、そういう気遣いしてくれなくていいのに・・・。将嗣お父さんの本当の気持ちを理解してあげられない弥生はそう思ってしまうのでした。
お茶を飲んでいるお父さんを頬杖つきながら弥生は眺めていました。たまに視線が合うとお父さんは私から目を逸らし明後日の方向へ目を移動させていた。そんな仕草をするお父さんを小さく笑う。
「おとうさん、それよりも。もう、アダムの事をちゃんと聞かせてくれてもいい頃だと弥生は思うのですが、どうなんですか?」
「弥生、いいか、我が強すぎると言う事は時には己を不幸にする事になるのだぞ。それが理解できるのなら言葉を慎みなさい・・・」
「それは神奈お母さんの事を言っているの?ホント、お母さんお父さんの事で苦労していたのが目に見えて判ってしまいます」
弥生の言葉に苦い笑みを見せてくれてから、僅かだけ悲しそうな顔になってしまった。弥生の失言である事は間違いないけど、将嗣お父さんがアダムの事を教えてくれなかった所為で出てしまった言葉。だから、弥生は反省しません。
「アダムの事は気にせず、学業に励みなさい・・・。将臣には翠君が居ると言うのに、弥生お前にはまだの様だ。弥生の連れてくる男だったらどんな男でも構わん。だから、彼氏でも連れてきて、私を安心させてくれ・・・」
「なら、そうしたら、弥生にアダムの事を教えてくれるのですか?」
「それはない・・・」
口を尖らせ不満を口調に乗せながら弥生がそうお父さんへ言うと、鼻で笑われ、煙草と湯のみを持ったまま席を立ってしまった。
2011年10月30日、日曜日
翠ちゃんと弥生はマルチ・スポーツ・プレイヤーズっていうサークルに所属していました。八神先輩の先輩、何度かお会いしている神無月先輩がOBのサークルです。今日は女子対男子の硬式野球戦です。なんと、弥生がピッチャーで翠ちゃんがキャッチャーをやらせてもらっていました。公式戦じゃないので投げ方もソフト・ボールの様に上から回転させる様な投球をしても大丈夫でした。実は親友と私は水泳以外に小学生から中学生の間ソフト・ボールをやっていたんですよ。
「ストライクッ・バタァア~アウトォ」
七回表、一塁、三類に出られてしまいましたが何とか弥生はまた無失点に抑え、翠ちゃんの処へ駆け寄っていました。同じ様に他の守備のお友達も寄ってきます。
「ほんとっ、ミッチーもヤヨイッチも、凄いよっ!見てよ、男子のあの悔しそうな顔」
「へへぇん、弥生と私に掛かれば、どうってことない、ない。なんてったって、スポーツなら出来ない事の方がすくないもんねぇ、弥生」
「もぉ、みぃ~ちゃんたら、言う事が大きいんだから」
「はぁ、でも、この回、私達の攻撃で終わっちゃうんだよね。一点でいいから、勝って終わらせたいなぁ・・・」
お互い点数を取っていない状態でも七回までというルールだった試合も残す処、弥生達の攻撃で終わり、弥生達が一点も上げなかったように男子もそうさせてくれませんでした。ただ、向こうはこの回まで無失類で弥生達女子バットにボールを当てる事は出来ても誰も、一塁ベースすら踏ませてもらっていません。
「だいじょうぶ、今度こそ、私涼崎翠がおっきのお見舞いしちゃうから、なんとか私まで回してよ・・・」
打順は一番から、一人でも類に出れば、翠ちゃんまで回せます。男子のピッチャーとキャッチャーはとても冷静なバッテリー。もう、彼らに点数を入れる余地がないのなら、攻めて弥生達を勝たせないようにと鋭く際どい投球で二人、抑えられてしまいました。打順三番の弥生はバッター・ボックスへ立ちバットを構え、一球目を待ちました。
とても速い球が弥生のお臍よりも少し高い位置で走り、キャッチャーミットへ吸い込まれました。うぅ~~~ん、軟式やソフト・ボール経験者じゃこの投球は怖いのかも、でも、二度目にここに立つ弥生なら、もう目が慣れていました。大きくは無理でも・・・、
「えいっ」と小さな掛け声で、二球目バントを試みたんです。ボールがバットに当たる感触がしました。その瞬間、それを手から放し、全力で走りだしました。無論そうしたのには短距離に自信があったからですよ。キャッチャーとピッチャーのほぼ中間まで転がったそのボールをピッチャーとキャッチャーが同時に取りに向かっていました。ボールを握ったのはキャッチャーで直ぐサイド・スロー一塁側へ送球してきました。弥生は諦めず疾走してスライディングを試みました。頭からのそれだったのがよかったのかな?男子は弥生がそんな事をするだろうなんて思っていなかったみたいで投球を受け取っていたのにもかかわらず、弥生から一歩引いてしまっていました。弥生の両手はシッカリとベースの四隅を握っていて、セーフです。
立ち上がり、ユニ・フォームに着いた土埃を払うと、一塁を守っていた男子へにっこりとほほ笑んでいました。
「ささないで、有難うございます」なんて言うと苦い笑いをされてしまう。親友が打席に立ち、バットを構えると弥生へウィンクを送ってきました。それに頷き、ピッチャーが投げた瞬間、二塁に向かって走り出す。ピッチャーは弥生の盗塁を意識せず、二球目も投げ、翠ちゃんをツー・アウト。親友を押さえれば、弥生の盗塁なんて問題ないという事なんでしょうね。次の一球、初めて男子はボールを投げてしまいました。お陰で、弥生は三類に居ます。また、翠ちゃんが私へウィンクを送るんです。・・・、スクイズの合図かな・・・、なんて思っていたら、親友は・・・。
「やったぁ~~~、すごいよみぃ~~~ちゃんっ!」
ダイヤモンドを一周して、ホーム・ベースを踏んで帰って来た親友に先にそれを踏んで待っていた弥生はハイ・タッチの後、飛びつき喜びの顔を合わせていました。他のメンバーも回りに集まってくると、遊びの試合だというのに親友を抱きあげ、優勝気分の胴上げをしちゃっていました。グラウンドに跪く男子諸君とピッチャーだったサークルのリーダーは帽子を深くかぶり顔を隠していました。
試合の後は道具を片づけ、解散。汗を流すため施設のシャワーを使い今はそれも終わって、お友達とサヨナラして、翠ちゃんと将臣お兄ちゃんが待っている喫茶店へ向かいました。
「ほんと、さいごみぃ~~~ちゃん、きめてくれちゃって、格好良かったですよ」
「あれはね、先輩の手が緩んでくれたおかげっていうのか、弥生が盗塁してくれたおかげで先輩、相当動揺していたんだよ。だから、最後、私の眼でも何とか追えるボールだったって訳。本当は弥生の足だからスクイズでも十分かなって思ったけど、てへへぇ、私がいいところもらちゃいましたとさぁ」
「いいの、弥生はそんな事を気にしないから。みぃ~~~ちゃんと楽しく出来れば、それでいいんです」
「ところでさぁ」
「うぅん、なに、みぃ~~~ちゃん?」
「そろそろ、その呼び方やめてほしいなぁ、私は弥生ちゃんの事をいまでは敬称なしで呼んであげ居るんだから、公平じゃないじゃん」
「えぇ、好いじゃない、愛称・・・、・・・、・・・、もうしばらく、もうしばらく、そう呼ばせてよ。ちゃんと直すから」
「まっ、弥生ちゃんだからしょうがないかなぁ、なんて。そういえば・・・、ねぇ、弥生はまだ、将嗣パパさんからお話し聞き出せていないの?」
「もう、うちは全然だめです。将嗣お父さん、私達には関係のない、理解できないお父さんの仕事だって・・・。アダム計画?医療研究のお仕事をしていた、それは否定しないのですけど、内容については口を割ってくれないんですよ。完全黙秘。お仕事の職種によっては口外出来ない内容が存在する事は分るんですけど・・・、」
翠ちゃんは既に両親からアダムとの関係を聞かせてもらっていた事は知っています。でも、その内容を弥生達兄妹には教えてくれていません。教えてくれた事は若し、翠ちゃんの両親がそれに関係していなかったら翠ちゃんと弥生は今みたいな親友になれなかっただろうし、貴斗さんや藤宮大先輩たちとも巡り会いできなかったって真剣な顔で教えてくれました。
「まあ、将嗣パパさんの事は弥生に任せるとして、早く将臣の処へ行きましょう。多少遅れた処で、あいつが腹を立てる事はないでしょうけど、待たせちゃうのは可哀そうだし」
喫茶店ドレスデンの入口へ立つと、弥生は自動で扉が開く為のボタンを押して、先に親友が入る事を促した。それが開くのと一緒に聞きなれた、カウ・ベルがなる。中に入ってお兄ちゃんを探すと、お兄ちゃんは八神さんと一緒に居るのを発見しました。弥生達の先輩の八神さんの前で横柄な態度でコーヒーを啜る将臣お兄ちゃん。もぉ、本当に誰にでもあんた態度なんですから、先輩に失礼ですよと思いながら翠ちゃんと一緒に近づきました。
「慎治さん、こんちわですぅ~~~、ついでに将臣もぉ」
「こんにちは八神さん。ウチのお兄ちゃん、八神さんになんか失礼な事、しませんでしたか?」
「やっ、やぁ~~~、二人とも元気そうだねぇ」
何時も大らかな表情を絶やさない先輩なのに弥生達が来ると、親しげな声とは裏腹に先輩の顔は苦笑いを作っていました。何か、弥生達に聞かれたくない事を会話していたのかなと思ってしまいます。
「おい、お前等、何で俺じゃなくて慎治さんの味方するんだ?マジで大事な話で、俺達にも関係する事だって言うのに」
絶対、失礼なことしていたに違いない将臣お兄ちゃんなのですから、お兄ちゃんの味方をする訳がないですよ、まったく。
その後、親友とお兄ちゃんがじゃれあう処を眺め、お兄ちゃんに促されて遅くなってしまった昼食を頼む事にしました。
運ばれてきたお昼とそのあとのデザートを食べて、紅茶を啜り始めた頃、将臣お兄ちゃんが脱線していた八神先輩との会話を戻したようで・・・、その内容とは先輩が単身アメリカにわたって何か情報が手に入らないか探ってくるという物でした。
弥生達三人、どうにかして御同行させてもらう様に先輩を説得。貴斗さんと一緒で面倒見がよく、更に責任感が強い先輩は中々許可を呉れません。でも、最後は先輩の心の広さが弥生達を受け入れてくれます。
話しの方向性が見えると将臣お兄ちゃんは先輩と一緒にお手洗いに行ってしまいました。
「でも、いいですよねぇ、みぃ~~~ちゃんのお父さん、秋人小父さまはちゃんとみぃ~~~ちゃんへお話してくれて。弥生のお父さんなんか、全然、弥生の気持ちも理解してくれないで、何時も弥生によそよそしいし」
「私の処だって似たようなもんよ。春香お姉ちゃんが事故に遭ってから、急によそよそしくなっちゃってさぁ。お姉ちゃんが逝っちゃってからなんて、酷いもんだったよねぇ、もぉ。アダム計画の事だって泣き落としで聞き出したんだから」
「うぅ、弥生のお父さんは泣いたって教えてくれないよぉ」
「泣かない、泣かない。私がパパから聞いた事よりももっと秘密にしなきゃならない事なんでしょっ。だから、教えてくれないインだよ、将嗣パパさんは」
「本当に、みぃ~~~ちゃん」
「たぶんねぇ~~~」
「そこは断定して、弥生を勇気づけてよぉ、みぃ~~~ちゃんのいけずぅ」
「それは私の呼び方が変わったらそうして上げてもいいよぉ」
そんな風に返してくる親友に不満な顔を作る。それから、戻って来た先輩とお兄ちゃんとでアメリカ行きの具体案をまとめ解散しました。
十一月四日、金曜日。弥生達は今、飛び立つ前の飛行機の中に居ました。金曜、と来週の月から木曜日までの五日間休学届を提出。聖稜大学は生徒の将来の為の勉学を理念としていて、それに関する優遇が多く揃っています。その所為なのか、簡単な理由では休学届受理は簡単じゃないようでした。でも、弥生達はすんなりと許可が出てしまっていました。将臣お兄ちゃんは八神先輩が事前に対策してくれたんだろうと言っています。
弥生達はプラチナ・エコノミーってクラスに居ました。離陸前、親友が八神先輩を気遣う様な声をかける。
「慎治さん、怖くないんですか?」
「うん?ああ、飛行機事故にあったから、心配してくれているんだな、翠ちゃん?大丈夫さ、普段はすっとぼけているが、家の母さんはどうやら、本当に精神科医として、名医みたいだ。ご覧の通り、その母親の治療で、なんともないよ」
「怖くなったら、いつでも私の事抱きしめていいですよ」
「馬鹿言え、年下に慰めてもらうほど駄目っちゃいねぇよ、俺はな」
翠ちゃんは誰とでもこんな風に接するから将臣お兄ちゃんも大変でしょうね・・・、ってもう耳にイヤー・フォンをして、小説を読み始めていました。翠ちゃんと八神先輩のやり取りで微笑んでいたのに弥生の顔は呆れた顔を作って、小さな溜息を零す。
離陸後、お兄ちゃんが買ってくれた小型映像再生機で映画を見始めて、二つ目の映画の中盤を迎えた頃に八神先輩の顔色が崩れ始めていました。苦しそうな表情に変ってしまう先輩。弥生は直ぐに、
「みぃ~~~ちゃん、私、乗務員さん探して来るから、頑張って、八神さんをおこして」と言って、立ち上がるとアテンダントの方を呼びに向かいました。その方は直ぐに見つかり、八神さんの容態を伝え、ペットボトルのお水と暖かいタオルを二枚頂き、八神先輩の処へと戻りました。すれ違っていないのに先輩は席に座っておらず、
「みぃ~ちゃん、先輩は?」
「弥生と反対通路からお化粧室へいったよ」
「みぃ~~~ちゃん、これちょっと持っていてください」
「りょぉ~~~かいっ!」
弥生は着席するとシートの下に置いた小さな旅行鞄を持ち出し、中から旅行中に必要になるかなと思ったお薬を取り出し、
「最近は市販のお薬も持ち込みが厳しいみたいですけど、こうしちゃえば、案外なんとかなってしまうみたいですねぇ」と独り言のように呟きました。
準備が終わった頃、ぐったりした先輩が崩れる様にシートへ体を預け、親友に持っていてもらった物を受け取ると、
「八神先輩、気休めかもしれませんが、これをなめてください」
弥生の声に反応してくれた先輩がこちらを見てくれて、差し出した物を受け取ってくれました。その時、先輩が弥生に向けた表情、苦しそうな顔を見て、弥生の心が疼いてしまう・・・、・・・、・・・、・・・、もっ、もしかして、もしかして、もしかして、弥生って年上の人が好きなの?八神さんが今見せてくれた表情にどうも、弥生はときめきを感じてしまったようです・・・。勘違いなのかもしれませんが・・・。
トローチを舐め、水を口に数回含んだ後、八神先輩はロール状だったタオルを長方形に折り目の上に乗せながら、
「ありがとう弥生ちゃん、大分楽になったよ・・・」
「はっ、はい・・・」
上擦りながら答える弥生へ、翠ちゃんは悪戯な笑みを浮かべ、
「どうしちゃったのかなぁ、弥生ちゃぁ~~~ん」
「なっ、なんでもありませんっ!弥生も、時差ぼけしない様に少し眠ります」
そう、逃げる様に翠ちゃんへ答えるとシートを軽く倒し、前髪で目元を隠してしまいました。
アメリカに到着した時に弥生達を迎え入れてくれたのは八神先輩の友人で弥生達の大学OBにもなる方でした。クライフ・フォードさんって方、弥生へ凄く好意的なのですけど、とっても紳士で真摯な対応をしてくれるのに弥生は少しばかり冷めた対応で、失礼な態度を取ってしまいました。それでもクライフさんは気にせず、笑顔でいました。
一日目は観光で二日目に十年くらい前まで貴斗さんのお父さんが指揮を取っていた研究上へ足を運んでいました。その頃、将嗣お父さんも一緒に居た事はお父さんから聞いています。
そこでアダムに関する手掛かりがないのかを手分けして探す事になって、途中まで翠ちゃんとお兄ちゃんと三人で調査していましたけど、建物の三階が分岐していたので、そこでばらばらに行動する事になって、別れた後の三部屋目を捜している処です。
弥生はアダムについて殆ど何も教えてもらっていません。だから、弥生一人で何も得られないと思うけど、将嗣お父さんや知っている人の名前が出てくるような物を見つける様に、あちら、こちらを見ては手を伸ばし、見て取れる様なファイルなどは実際中身を確認していました。
鍵はかかっているのに仕切りの窓が割れてしまっていて中の物を取り出せるファイル・キャビネット。その中に手を伸ばして、赤墨色カバーでA5の大きさの冊子を取り出して、それを開いてみました。書かれている文字が英語ではなくて、日本語だった事にちょっと戸惑いましたけど、直ぐにその内容を読み始めました。
どなたかの日記の様で、日付からここの事ではない様な気がします。内容は日誌の書き手が職場で好きになってしまった相手の事と、その事で起こってしまう心の苦しみや仕事の内容が記されていました・・・、話しを読み進めているうちに、驚かずにはいられない名前が何人も登場し始めたのです。貴斗さんのご両親、弥生の両親、将嗣お父さんと神奈お母さん。春香お姉さんの恋人だった人と同じ、苗字の人。八神先生、皇女先生の事や藤宮大先輩のお母様の名前までも。ありました。それに藤宮詩乃さんという方は尊敬する大先輩の叔母さまに当たる様でした。
そして、その日記の中で一番驚いた物は・・・、弥生達の、翠ちゃん達の出生の秘密みたいなものです。弥生達はアダムという医療技術で生まれた子供達。
そんな共通性があったなんて、将嗣お父さんが隠したかった理由を理解してしまいました。でも、それだけじゃ、貴斗さん達が事故ではなくて、アダムに関わったのが原因で命を奪われたという関連性は何処にも見えませんでした。
弥生は更に日記を読み続けると、書き手がアダムの研究者達への憤りを表わす記述が多くなって行く。最後まで読み進めると日付は一九九〇年の六月に変って二日目で終わっていました。もしかして・・・、これを書いた人が。そんな風に思った時、腕時計が鳴り始めました。翠ちゃん達との待ち合わせ、一五分前。八神先輩達のそれと五分前。
大きな収穫があったと思った弥生は別れた場所まで移動します。その場に立って周囲を見ても弥生以外誰も居ませんでした。廊下の割れた窓の方へ近づき、二人が戻って来るまでこの研究所から見下ろせる海を眺めました。
先に戻って来たのは将臣お兄ちゃんの方。でも、ここと二階を繋ぐ非常階段からです。
「こらっ、!お兄ちゃんどこ行ってたのよっ!」
あからさまに、怪しい場所から出てきたお兄ちゃんを咎める様な表情になっていたようで、口もそのような感じでした。
「なんだよ、大がしたくなったから、レストルーム探してたんだよ。怒るこっちゃねぇだろうが?」
「ふぅ~~~ん、将臣お兄ちゃん・・・、それは嘘です」
将臣お兄ちゃんの態度とか、仕草とかで判るのではない。知覚的に理解できてしまう奇妙な感覚。それはお兄ちゃんも似たようなものなのですが。
「そう思うんだったら、勝手にそう思っていろ。で、翠は?弥生、お前なんか収穫あったのか?」
「将臣お兄ちゃんが、そんな態度とるなら弥生だって秘密です」
「なら、いいんじゃねぇ、それでよ。後は翠を待つだけか・・・」
弥生からの話しを逸らしたかった将臣お兄ちゃんは翠ちゃんが捜しに方向へ体を回転させた時にそちらから、勢いよく走って来る親友が見えました。
翠ちゃんはその動きを止めないで弥生達へ戻ろうって叫ぶと、先に行ってしまう。
弥生もお兄ちゃんもそんな翠ちゃんの行動を見ながらお互い呆れた顔を見せあい、ゆっくりと階段を下りて八神先輩の待つ一階へと向かったのでした。
調査はその日一日限りで、翌日はカジノの都で夢を満喫し、最後の日には八神先輩の知る誰かのお墓参りに来ていたのです。
墓標には名前が刻まれていて、SYPHONY LEOPARDIという綴りでした。何と読むのでしょうか?
「慎治さん、いったい誰のお墓参りなんですか?」
「みぃ~~~ちゃん、名前ならちゃんと刻まれていますよ・・・、えぇっと」
「シンフォニー・レパード?」
弥生が思った読み方と同じ事を将臣お兄ちゃんが口にするけど、
「惜しいな・・・、シフォニー・レオパルディ・・・、・・・、・・・、貴斗の最初の彼女さ・・・、ADAMによる怨恨の最初の犠牲者かもしれなかった女の子だ」と先輩が訂正しました・・・?え?最初の犠牲者かもしれなかった人?貴斗さんの恋人だった人?それを耳に入れた瞬間嫉妬で暴走しそうになりますが、それと同時に八神先輩が見せてくれた写真で頭の中が混沌として、目を瞑ってしまう。だって、今写っていたのって藤宮大先輩じゃないですか・・・、頭の中で写真と、もっと前の記憶がフラッシュ・バックして重なり、弥生が眠っている間に見た事を思い出した。貴斗さんに酷い事をした唾棄すべき人達、その写真の中の人の命を奪った残虐なレイシストの事を思い出してしまったのです。私の中が憤懣で真っ黒くなり、殺意が渦巻いてしまう。でも、弥生の表情は至って穏やかなのはなぜでしょう。涼しい顔をしている弥生へ、
「どうかしたのかな、弥生ちゃん?」
「だって、貴斗さんとシフォニーさんって方の貴重なお写真を見せていただいたのですもの、嬉しくて・・・」と淀みなく答えていたのでした。
四泊六日の旅も終り、無事に帰国した弥生達。帰って来たばかりで、だれているお兄ちゃんや翠ちゃん、そっちのけで、弥生は直ぐに行動していました。
クライフさんへ連絡を入れて、貴斗さんのあの事件の真相に迫ってもらう事。
アメリカから持ち帰って来た日記の持ち主、源太陽という人物を捜す事。
もし、貴斗さんとシフォニーさんの事件が本当なら、藤宮大先輩に酷い事をした人々も事実いるのではと仮定して、その人を捜す事。
見つけてどうするのか?そのような事決まっています。もし、平然と毎日を過ごしているのなら大事な先輩方が受けた苦痛を何倍にしても返す事です。それで弥生の手が汚れても、弥生は平気。気がかりがあるとすれば、堕ちてしまう弥生はもう、翠ちゃんとお友達でいられなくなる事。でも、それでも、全てが終わるのなら、親友やお兄ちゃんに危険がなくなるのなら・・・、それでいい。
帰国してから、一週間。クライフさんから、電話で連絡があり、お願いしていた結果を知らせてくれました。もっと詳しい内容はEメールで送ってくれるといい、最後、情報を提供したのですから、約束を忘れないでくださいね、と念を押されました。約束とはクライフさんが日本へ来た時にデートしてくださいと言う事。でも、クライフさんがこちらへ来た頃、この世界に弥生がいるかどうか判らないですよ。
電話を切ってから自室のラップトップを開き、クライフさんが既に送ってくれていると言いましたメールが来ているかどうか確認します。
「これですね・・・」
内容を読みそれを理解し頭の中でまとめました。事実起こった事件。事件を起こした首謀者も協力者も全員亡くなっている事。事件が起きた時に既に誰かによって裁きが下されているようでした。これに関して弥生が出来る事はもうなくなっていたんです。でも、これが事実だったから、次の行動を取ることもできました。
十一月いっぱい藤宮大先輩の夢にあった事を必死に調べ、せっかく情報を手に入れたのにそれもまた弥生の出る幕もなく、関係者が全て、裁かれ弥生の手の届く処へはいませんでした。
唯一人、追い詰める事が出来たのは欲にくらんで藤宮大先輩に酷い事をした挙句、大先輩を犯罪者にしようとした男、三津ノ杜というお医者さん。でも、そんな人がお医者さんをしているなんて調川先生達に対する冒涜です。
弥生は凶器とかを持っている訳でもないのにその男は弥生を怖がるように逃げようとしていました。歩行者赤信号と道路を走る大きな車。それから出る答えは一つ。私はその人の最後を見届け、その場を去りました。その場には多くの人がいたから私が救急車を呼ばなかったからって罪にはなりません。私はその人に何も言っていませんし、近づいたりもしていません。ただ、顔を合わせただけですもの。何もしていない私が警察のご厄介や法廷に出向かなければならない事態になる事はない。だって、私の関係しない処で起きた唯の事故ですから・・・。
最後は源太陽という人を捜す事で全てが完結へと向かう様な気がして、その人を捜そうと思った十二月。サークルの帰りに当たり前の様に通う事なった喫茶店ドレスデン。そこに弥生のお父さんと八神先輩が、皇女先生が、それと翔子先生まで、何時もの八神先輩とは違う顔ぶれが集まっていました。
何をお話していたのか理由を聞くと、何時もの八神さんとは打って変わり、直ぐに解答を教えてくれたんです。我儘な弥生達の返答は毎度同じで、同行させてくださいとお願いしました。
きっぱりと断る八神先輩と苦渋の顔を見せる将嗣お父さん。でも、皇女先生がにこやかな表情で二人を説得し、弥生達の動向を許された。
弥生達が今度行く場所とはシンガポールです。連れて行ってくださいと願っただけで、どうして、八神先輩達がそこへ向かわなければならないのか、その理由は・・・。
夢心地でシンガポールから帰ってきてから、八神先輩が真剣な表情で、もうすべてが解決するから、弥生達はおとなしく事件の解決を待ってほしいと強くお願いされた。でも、弥生は・・・。
八神先輩を着けていれば、源太陽、今は大河内太陽と名乗っている人物に辿り着けるそう考え、先輩の行動を大学へのレポートなどの提出物全部片付け、講師の方々に無理を言って誰よりも先に期末試験を受けさせてもらって、ちょっとだけ早めの冬休み気分を貰いました。
将臣お兄ちゃんと親友の翠ちゃんが二人だけで仲良く過ごす予定の二〇一一年十二月二十四日。八神先輩が動き出しました。気がつくのが遅れてしまった弥生ですが、先輩を追う。そして、弥生が思う事は・・・、弥生の未来は・・・。
まだ、大学に入ったばかりなのに、一週間ほど休学の手続きを翠達三人して取った。
二〇一一年の十一月四日、金曜日、俺達四人は日本を立ちアメリカへと向かった。こんなところでもエレクトラに教わった英語が役立つとは、彼女に感謝しないとな。それとその接点となったみのりにも・・・。
現地に着くとそこには慎治さんの親友が出迎えてくれて、初めて長い車、リムジンって物に乗るという体験ができた。初日から行動すると思っていたんだけど、その慎治さんの友人、クライフさんの提案と女の子二人の意見で、ディズニー・ランドへ向かった。初め、俺も乗り気じゃなかったんだけど、明るくふるまう二人を見ていたら俺も楽しまなくちゃって考え直した。それに、慎治さんはやはり独りで抱えている風で、そういうのも吹き飛ばしてやりたくて・・・、貴斗さんに親友って呼ばれていたんだから、もっとしっかりしてもらいたくて。だから、俺は翠達へ莫迦を演じて見せた。何度か苦笑いをしていた慎治さんも最後の方は俺達に合わせて、楽しんでくれている様だった。
一日が終わり、豪勢な夕食をクライフさんから御馳走してもらい満足な思いでホテルへ入っていた。それから、俺達・・・、翠と弥生と俺の三人に割り当てられた部屋に移動する。翠が気にするかなって心配したけど、そうでもなかった。それから部屋に入り、
「お兄ちゃん、弥生達がシャワー浴びている処、覗かないでくださいね」
「ばぁ~~~ろっ、誰が貧弱体系のお前なんぞの裸なんか見たいと思うかよ、翠は別だけどな・・・。まっ、馬鹿なこと言ってないでさっさと済ませてきてくれ。今日は慎治さんを元気づけたかったから、騒いでいたけど、明日はちゃんと慎治さんの目的を手伝わなきゃならないんだから夜更かしは出来ないぜ」
「何笑ってんだ、翠」
翠が何に対して俺を笑ったのか判らない。でも、その笑みに悪い意味はなさそうだな。
部屋には備え付けのベッド二つと後から用意された簡易ベッドが置かれていた。で、俺は簡易ベッドへ身を投げると天井を向いて、明日からどんな事が判るんだろうって思いながらそのまま寝着いてしまっていたんだ。
翌日、俺達はサン・ディエゴって街に来ていた。その場所には貴斗さんのお父さんが勤めていた研究所があり、弥生と俺が十歳の誕生日を迎えた夏に、俺達二人を日本へ残して将嗣父さんが向かった先でもあった。親父と貴斗さんのお父さんは親友だったって言う。だから、もう亡くなっている貴斗さんのお父さん、確か、龍貴さんだったかな。その龍貴さんの事を口にする時の親父の顔・・・、凄く、悲しそうだった。親友を亡くすってそんな気持ちなのかな・・・、帰ったらもう一度、洋介に電話入れてみよう。それでも駄目なら、俺の方から会いに行ってみるか。
研究所に辿り着いて、見た光景は映画とかにもありそうな、崩れた建物、干上がった道路と荒廃した風景が、放置されてからの時の流れをしっかりと俺に教えてくれた。一番大きな建物へ向かい。その中で、手分けして探す事になったんだけど、三、一、一って微妙なバランスの配分で中を探索する事になった。その時、翠が言うけど、そこは俺が目的を忘れるなって思いを言葉に乗せて彼女へ告げた。
「翠、文句言ってないでいくぞ。少しでも、慎治さんの役に立ちたいって思うんなら、不平を言っている場合じゃないだろう?」
「そうですよ、みぃ~~~ちゃん」と俺に合わせてくれる妹。
初めは闇雲に動き回っていた俺達。
「研究室なんか覗くよりも、研究している人が書類とかを書く部屋、なんていうのかな、そういう処を探した方がいいじゃないんですか?」
「ほぉ、翠にしては頭使ったな。居室だな、このフロアーにはそれらしき所はなかったから、別の階にでも移動してみようぜ」
「それだったら、玄関前に建物の案内表見たいのがありましたよ。すれていたからはっきりと確認できるか見てみないと分からないと思うけど」
そんな会話を交えながら場所を移動した。それから建物の三階に辿り着き、行く先が三つに分かれた処で、
「それじゃ、手分けして探すの、お兄ちゃん」と俺よりも早く、そいう言う弥生へ、
「そうした方がよさそうね」と翠が答え、
「誰かの襲撃に遭わない事は俺が保証するけど、瓦礫なんかに足を取られて転ぶなよ」と取り敢えずの心配をしてやった。
「私も、弥生もどんくさくないんだから、心配しなくても大丈夫。それと崩れそうなところには近づくなでしょ?将臣」
「うっし、わかってんなら、ちゃきちゃきいこうぜ」
俺は進んだ先にある部屋をちゃんと一部屋、一部屋しっかり確認しながら進んだ。通路の長さを見る分だと片側六で両側にあるから全部で十二って処か・・・。
「はあっ~、ちっ、やっと半分。でも、慎治さんが言っていたように簡単に見つかるもんじゃねぇよな」と言いつつ、ドアが無くなっている六部屋目に足を踏み入れていた。
割れた床。割れているけど開けっぱなしの窓。襤褸切れ同然のカーテンが外から流れてくる緩やかなう風に僅かに揺れていた。
部屋の中を一望する。ファイル・キャビネットから崩れ落ちたままの土埃まみれバインダー。その中に開いている物もあって、やっぱり流れてくる風に小さな音を立て、ページが行ったり来たりしていた。俺はそれを拾い上げ、内容を見る。何の資料か知らない。内容だって判らない。だから、アダムって言葉や将嗣父さんの名前、龍貴さんの名前、父さんから聞かせてもらった単語に該当物だけを注意深く探る。
「これもはずれか・・・」
俺にとって役に立たないそのファイルを無造作に投げ、スチール・デスクに腰を下ろし、入口の方を見ていた。視線をあっちだ、こっちだって向けても、何もめぼしい物は見つからない・・・、・・・、・・・、そういえば、入口の案内だと地下があるみたいだった。あいつ等には悪いけど、なんか怪しそうだ。行ってみる価値あるかも。
二人に気がつかれない様に通路に戻り、エレベーターの処へたった。駄目もとで、下へ降りるボタンを押しと・・・、めちゃ・ラッキー。稼働していた。この研究所も親父が設計したものらしかった。その耐久性に驚き、親父に感謝した。地下三階までは行けるみたいだ。迷わずそのボタンをす。
鈍い動きでその箱が揺れ、降下する時の浮遊感があった。頭上のランプがB3を示し、扉が開く・・・、それは俺の体半分くらい下に行きすぎて、よじ登る要領でその部屋へ侵入した。まさしく研究所風の機材がわんさかの部屋。見ているだけで楽しくなってくる・・・、目的を忘れるなよ、俺。念の為に持っていたLEDライトで辺りを照らし、めぼしい物がないか見て回った。
小さなブリーフケースから散らばる様に広がるA4サイズ書面。近づき、拾い上げ、
「ふぅ~~~ん、こんな処にあったからまだこんなに字が鮮明なんかな?」
内容はシッカリとみていないけど、それを掻き集めて、落ちていたブリーフケースに入れると、自分の持ってきたバックパックへしまい込んだ。
「あとは何もなさそうだな・・・、戻るか」
どうせ、動かないだろう、機械のボタンを適当に押しながら、エレベーターの方へ歩き、翠達と落ち合う為にF3のボタンをした。
「くそっ、うごけ、うごけ・・・、うごけってぇのっ!無理っぽいな。しゃぁねっ」
言って、またその箱から出て、半分ずれているからそれを引っ張るロープが見える。それを這って上に行こうと思った。
「汚れるけどしょうがないな。何か言われても適当にごまかせばいいや・・・、やっぱやめよう」
人が乗る箱を引っ張るそのロープはかなりささくれ立っていて、怪我をする事必須。階段や非常口を探して、そっちから、出よう。
難なくそれは見つかり、崩れていたけど、登れない事はない。駆け足で上に登り、建物の裏手に出ると正面に戻り、三階を目指した。
「こらっ、!お兄ちゃんどこ行ってたのよっ!」
めっちゃ、怒った顔の弥生に、
「なんだよ、大がしたくなったから、レストルーム探してたんだよ。怒るこっちゃねぇだろうが?」
「ふぅ~~~ん、将臣お兄ちゃん・・・、それは嘘です」
「そう思うんだったら、勝手にそう思っていろ。で、翠は?弥生、お前なんか収穫あったのか?」
俺の言葉に顔を横に振る弥生だけど、俺が嘘を吐いている様に妹もそうである事が筒抜けだった。
「将臣お兄ちゃんが、そんな態度とるなら弥生だって秘密です」
「なら、いいんじゃねぇ、それでよ。後は翠を待つだけか・・・」
腕時計を見た時に走ってくる翠が見えた。
「時間、時間、早く、慎治さん処へ、もどろっ!」
翠は走って来た勢いを緩めないでそのまま階段を下りていた。俺も弥生も慌てず歩いて彼女を追う。さっきのあれは独りになった時にでも確認しよう。使える物かどうか知らないけどさ。
本格的に行動したのはその日だけだった。次の日はラス・ベガスでマジック・ショーとカジノを満喫して、最後の日に海が見える丘の誰かの墓標の前に立っていた。
俺は慎治さんと彼女等の会話を聞いて、慎治さんが口にした名前を耳にして、以前聞いた人の事を思い出した。貴斗さんの彼女だった人、シフォニー・レオパルディさん。名前がなんとなく、詩織さんに似ている人。
その人に黙祷し終わった後、徐に慎治さんは一枚の写真を取りだし、俺達へ見せてくれた。目を点にしてその中に写る二人を見ていた。誤認して当然だった。俺は詩織さんかと思った。でも、慎治さんがそれを否定する。
「やっぱり、勘違いしたな、お前ら。これが今俺たちの下で眠っている人。シフォニー・レオパルディさんだよ。詳しい事は、飛行機に乗ったときにでもゆっくり話してやるさ」
慎治さんは俺達が間違えることを予想していたかのような口調でいい、翠が奪おうとしたその写真を懐へ戻そうとした。
「おっと、残念。こいつは俺の手から離れたがらないんだな。だから、店じまい」
「ずるいですぅ~~~、もっと、見せてくださいっ」
「そうっすよ、独り占めだなんて、貴斗さんにもそのシフォニーさんにも失礼っす」
ありえない、ありえない。本当に俺の知る詩織さんと写真の中のシフォニーさんの違いがはっきりと認識できなかった。冷静に考えれば髪や瞳の色で判るはずなのに、それを意識させないほど似ていたんだ。
「慎治さん、大人げないです。ここは年上の貫録を見せてください」
「なんと言われようとも、聴けん話だな。これは条件付きでの借りものですからよ」
慎治さんは勝ち誇った様に胸を張って、本当にそれ以上見せてくれなかった。親父に聞いたら判るだろうかシフォニーさんの事、って、そもそも親父がシフォニーさんを知っていても詩織さんを知っている訳がないじゃないか・・・、ああ、でも写真くらいあるかもね・・・、それもない、将嗣父さん、写真を撮る様な人じゃないし。
日本に帰ってから、直ぐに休学を解除して大学の勉強を再開した。翠達がサークル活動に向かった頃、大学図書館へ俺は足を運び、仕切りのある机の処へ来ていた。
そこで、アメリカで手に入れた何かの書面のページ順をそろえて読もうとしていた。
「よっし、これで順番になったな。それと適当に拾ってきたから、全部あるとは思ってなかったけど・・・、さてと???」
03/19/01改行TAKATO FUJIWARA・・・、なんで、貴斗さんの名前が?次の改行で太文字大きく、『On Future Resource Problems and Solution for Neo Energy Theory Generator Development Outline』
もしかして、これ論文とかって奴?アメリカの日付の表し方が月日年だから二〇〇一年の三月一九日という事だから・・・、俺がまだ一四歳の中学生の時・・・、貴斗さんとおれって四歳差だよな?十八歳。あっ、でも、三月だろう?その月で十八なら、詩織さん達と学年一緒にならないよな?ってことは・・・、・・・、・・・、十七歳?ええぇ、そんな歳で論文?まずそのタイトルの意味するのが何なのか、直訳してみた。『将来の資源の問題と新しいエナジー理論ジェネレーター開発のアウトライン?』
なんかしっくりこないな・・・、『新動力理論発電の開発概要』か・・・。まじで?一体どんな内容が、書かれているのかUMPCのオンライン辞書を開いて、判らない単語が出たら、直ぐに調べられる様にしながら、読み始める。
内容をちゃんと理解するために何度も、文脈を行き来し、話しの流れを追った。もともと、英語論文しかも、研究論文を読めるほど英語を知ってはいなかった。だから、全文を解読した頃は、日が暮れ、翠達との待ち合わせも忘れてしまっていた。翠からの携帯メールでの呼び出しに、仕舞ったって思いながら、彼女達を迎えに行った。
俺は移動しながら読んでいた物の内容を整理した。十年も前から、貴斗さんは今くらいにどんな感じで世界がエネルギーの使い道の方向を決めるのかを的確に予想していたんだ。そして、これから、更に二十年、三十年先はどうなるかを、今のやり方では資源の枯渇やそれによる人々の影響を示したものだった。そうならない為の新しいエネルギー源の着手について、何点か書かれていた。そして、その実用理論が示され、ている。まあ、外国の論文は先にその結果が来るから実用理論が先だった。だから、初め何が書いてあるのか、もう、頭の中で単語と単語の意味を繋ぎ合わせるのに苦労したよ。
で、その論文の内容を簡潔にしますと次の様になる。
まずは、二〇〇〇年から三十年くらいまでのエネルギー問題をまとめていた。
1. バイオ燃料の研究が盛んになり、初期は人間が食べる物や家畜に与える飼料をその燃料に使用するようになって一時期、食糧関係の物価が高騰する事。それに代わる植物で研究しようとするが、世間が関心を示さず、その為に用意した土地が無駄になるだろうと指摘。
2. 燃料電池による補助発電機構やハイブリッド・エンジン。燃料電池の改良研究とその応用で必要となるレアメタルの採掘不足で世界規模での化石燃料から移行の困難さ、一度商品にしてしまった物からレアメタル回収の非徹底さでのレアメタルのさらなる希少価値高騰の指摘。
3. 太陽光発電の弱点、運用年数とその設備投資などから来る採算の不合理や製造までの無駄の多さと環境汚染は本当にないのかという真偽。
4. 環境発電と呼ばれる音響、潮力、風力、地熱、太陽熱発電、自然界放射線利用などの非効率性とその危険度の指摘。
5. 化石燃料の燃費向上の為の研究の限界と排出有害ガス環境問題。
6. 5までの研究で煩雑化してしまう技術体系と生産される物の互換性のなさがより多くのゴミを地球に排出してしまう事の指摘。
そんな問題から、幾つかの実現可能な対策と貴斗さん本人の突飛な理論での解決策が次の様な感じに書いてあって電力関係の事と車みたいな物の動力に分かれていた。
1. 現段階で可能な発電である原子力発電の多くの利点と本来どれだけ安全なのかという明確な提示とそれでも人々が納得しない場合、宇宙空間での建設とその送電方法。
2. 重力下で実現できる各元素での小規模核融合発電と無重力下で可能な大規模核融合発電と回避すべき問題点と経済性やその送電方法。
3. 水素エンジン高効率化とNOx低減化。
4. 液化気体エンジン理論。
5. 火力や原子力などのタービンを回転させてえる発電機を回す間接電力ではなく直接電力を生む為のフォトン・ジェネレーター。
と続き、貴斗さんが本当に実現させたい理論、新しい粒子の発見とその応用で最後だった。単語でDirectronって書いてあるけど、造語っぽく、辞書には載ってないから日本語には訳せない。多分、読みはディレクトロンだと思う。その説明が記されているけど内容が理解できないから説明は不可能だ。後もう一つPsychotron。サイクロ、ちがう、サイコトロン?そんな意味不明な単語がどんなものなのか、どう利用できるのかが記述されていた。
本当にこれを十七歳の時の貴斗さんが書いたものなら、天才と言わずして、何と云うのだろうか?まあ、慎治さんの話ではアメリカの大学卒業間近だったそうだけど・・・。詩織さんも凄く才気あふれる人だった。やっぱり、そんな人と一緒になれるのは同じ様な形の人なんだな・・・。まるで、雲の上の人達に俺や翠達は面倒を見てもらっていたんだ。それはとても光栄なことなのに・・・、その人達はもう、この現実に居ない・・・。
「なによ、将臣、遅れてきたくせに、そんな顔して」
待ち合わせの場所に到着した時、俺は難しい顔か何かをしていたんだろう。翠はそれを勘違いしたようで、不満を漏らした。弥生はそれに触れず、
「弥生達待たせた借りは大きいですよ、将臣お兄ちゃん。後できっちり返してもらいますからね。さぁ、帰りましょぉ~~~」
家に帰って家族三人で夕食を取った後、弥生が風呂へ行ってから、親父に貴斗さんの論文を見せていた。それを呼んでいる最中に貴斗さんの事やアメリカでの貴斗さんの彼女だったシフォニーさんの事を尋ねていた。将嗣父さんはその論文を読みながら、
「ゲオルグの一人娘の事か・・・、仕事の都合上、母親とは一緒にいる事が出来ず父親のゲオルグと生活していてな、あいつはよく仕事で無茶な事をして怪我をするから、その事が心配で医者になる事を目指していたとても親思いの娘だった事を覚えているよ・・・」
それから、また親父は論文を熱心に読み直し、暫らくは俺の言葉に相槌を打ってくれるだけだった。
「確かに、将臣の言うとおり、貴斗君とシフォニークンは恋仲だった。だが、それも居た仕方あるまい。龍貴も美鈴君も仕事の事ばかりで一緒に連れて行った彼の世話をしていたのが彼女であるのだから・・・。ただ、龍貴も、ゲオルグも二人の仲を認めてはいたが、美鈴君と龍一君も、理由は知らぬが、納得していなかった様だな」
「どうして?」
「私の云った事ちゃんと聞いていたのか?理由は判らないと言っただろうが・・・、まったく」
親父はそんな風に受け答えしながら、読み終わった論文を返してくれた。
「で、どんな内容?貴斗さんの理論って?」
「流石は龍貴と美鈴君の息子、十四歳ですでに世界にその名前が知られていた龍一君が自慢するのも納得がいく・・・」
「さっきも、リュウイチって言っていたけど、だれ?」
「ああ、話した事がなかったな。龍貴と美鈴君の長男だ。貴斗君の七歳上」
「へぇ、貴斗さんに兄貴もいたんだ。どんな人?」
「堅物の龍貴とは正反対だったな。大らかな美鈴君似というところだろう。文学的な才能を持ち合わせており、多岐にわたるひいでた知識を持っていながら、就いた職業が何かの捜査官だったというご子息だ」
「親父だって、十分堅いだろうよ、他人の事言えるのか?で、論文の内容」
俺の返答に小さく笑う親父はその事を自覚しているようだ。将嗣父さんは顔を横に振りながら、
「これは非常に有意義な内容だ。知りたかったら、己で理解できる知識を身につけて読め、そうすればお前の将来の道も決まるかもしれんからな・・・」
親父は小さな笑みでそう答えながら、煙草の箱を手にとって立つと軒先へ行ってしまった。・・・、・・・、・・・、ふぅ~~~ん、俺の将来の道か・・・。
論文をブリーフケースに仕舞うと自室へ向かい。弥生に探られない様な所へそれを隠した。
二〇一一年の十一月二十三日の休日に俺は東京中野に住んでいるはずの洋介の家へ向かった。慎治さん達とアメリカから帰ってきて、何度も電話を掛けても繋がらなかったから、俺の方から出向いたんだ。親友は和田堀公園の近くにあるアパートの三階住んでいる。
今の人達って玄関ドアに表札を入れていない事が多い。でも、霧生洋介の部屋三〇三号室にはちゃんと親友の名前が貼ってあった。目の前の場所で間違いない。玄関の呼鈴を押して洋介を呼んだ。だが、親友が出てくる気配がない。再び二、三回押しても彼奴は出てこなかった。
電力計の円盤は中に人がいる時の様な勢いで回転している。居留守?それとも、
「おいっ、洋介っ!親友の将臣が来てやったってのに何居留守使ってんだよ」
それでも、親友の反応はなかった。
「どうしたってんだよ・・・、・・・、・・・」と言いつつ、俺はドアのノブに手を掛け、それを回してみた。???えぇ、居留守使ってんなら鍵かけてないのは変だ。扉を引いて中に入るとリヴィングに倒れている洋介がいた。凄く苦しそうな顔で呻っていた。親友に駆け寄り、しゃがみこむと洋介の頬を軽くたたいて意識があるか確かめ、
「おいっ、洋介っ!大丈夫か?俺だ、将臣だっ、洋介っ」
どう見たって大丈夫そうじゃない。混乱して、どうしていいのか判らないけど、携帯電話で119を掛けようとした時に洋介が苦しそうな顔で俺の腕を掴み、横に顔を振る。
「なんで、掛けちゃだめなんだよ。お前、どう見たって大丈夫じゃねぇだろうがっ!」
それでも、尚、洋介は俺の腕を掴む力を上げ、顔を横に振る。
「じゃぁっ、どうすりゃいいってんだよっ!洋介っ」
その瞬間、俺の腕を掴んでいた洋介の手から力が抜け、滑り落ちた。
「よっ、よぉ、よぉーすけぇぇえええっ!」
俺はやっぱり119に掛け、救急車を呼ぶと、親友を病院へ運んでもらった。運ばれた先の病院で精密検査を受けるが事故でも、持病でもなくて、原因が判らず、担当した医者は苦渋の顔を俺に見せた。意識不明なままの親友。回復の兆しはない。心の中で『この、藪医者が』って罵るけど、それは八つ当たりでしかない。だって、医者が万能だったら人は死なないからさ・・・。でも、世の中には名医って呼んでいい人はいるんだ。俺はそれを思い出す。調川愁先生なら・・・、愁先生は翠や弥生の回復にずっと力を注いでくれて、本当に二人を目覚めさせてくれたすごい人。愁先生ならもしかすると洋介の事を・・・。
病院の外へ向かい携帯電話を取り出し、翠達が世話になった済世会病院へ掛けると愁先生に取り次いでもらった。
「非番?どうにかして、先生に連絡とれないですか?」
「それは、むりです。ご了承ください」と言って切られてしまった・・・。
『くそっ・・・、そっ、そうだ。慎治さんなら先生の電話番号知っているかも・・・』
俺は直ぐ様、慎治さんへ掛け直し、愁先生に連絡を入れたい理由を告げると快く、承諾してくれた。そして、俺は運も良かった。なんと、慎治さんのお姉さんの佐京先生と東京に居るらしく、俺の処へ来てくれるように伝えてくれると言ってくれたんだ。それから、十五分後。
「調川愁です。結城将臣君の携帯電話で間違いないですね?」
「えっ、はい。今中野へ向かっていますが、病院名を教えていただけないでしょうか?」
本当に愁先生から電話がかかってきて場所を聞かれた。それに答えると、
「急いで、そちらに参りますがあと三十分くらいかかりそうです。それまで我慢してください」
「有難う御座います・・・」
それから、先生が来るのを外でずっと待っていた。
見た事のある赤い背の低い車、HONDAのNSYが俺の方に向かってきた。俺の前に着けると、その運転席側の窓が降りて、
「お待たせしました、将臣君。佐京、私は車を停めてきますので先に降りてください」
「うむ・・・、久しぶりだな、将臣君。彼女達は元気か?」
凛々しい姿で助手席から佐京先生が出てきて、そう言葉を呉れると、俺は頷き返事をした。
「で、霧生君の様子はここの医者では何も分からないというのだな?」
「はい。でも、翠達を目覚めさせてくれた佐京先生たちならと思って・・・、俺の大事な親友なんです、洋介は、だから、だから、救ってください」
「みなまで言うな。親友の尊さは身をもって知っている。だが、診てからでないと何も判断は出来ぬぞ」
「そうですよ、将臣君は。まずは洋介君の容態を確認してからです」
車を駐車場へ停めてこっちに向かってきながら、愁先生が俺達へ言葉を呉れた。
病院内へ入ると二人は身分を示して、洋介を見てくれる事になった。先生達が親友の診察を始めてから、二時間近く経過する。俺はその間ずっと親友の安否を気にしながら耐え続けた。廊下の向こうから足音が近づく。俺は顔を上げ、そちらを向くと、冷静な表情の愁先生と深刻な佐京先生がいた。
「先生っ、洋介はっ!!」
「お静かに」
「そんな顔をされては黙ってなんていられないさ」
「ふぅ、佐京。貴女はもう少し、表情の勉強を皇女お義母様から学ぶべきですよ」
「無理だ・・・」
愁先生の言葉をそう否定する佐京先生に少し笑ってしまった。
「何とかなりそうです。ただ、怪我や病気とは違うので彼の症状へ名称を付けて呼ぶのは不可能です」
「たすかるんですか?」
「ええ、ひと月くらいは時間がかかりそうですが、回復するでしょう・・・」
「霧生君を我らの病院へ搬送してもらう手続きを取った。だから、後は我々に任せて将臣君は安心して帰宅するがよい」
「本当に大丈夫なんですね?先生達の事、信じてますからね」
俺がそういうと、愁先生が俺の肩に手を乗せ、力強く頷いてくれた。
「それじゃ、洋介をよろしくお願いしますっ!」
言葉と一緒に愁先生と佐京先生に頭を下げ、それを戻すと病院玄関へ歩き出した。そこを離れた。
月は年の終わりに近づく十二月の中旬。俺にとっては運命的な何かを感じる喫茶店ドレスデン。翠達のサークル活動が終わった帰りにそこへ寄ると、思いもよらぬ組み合わせの御一行が、店奥の席で会話をしていた。何かを企てているような匂いがぷんぷんする。
「しぃ~~~んじっさん、何を企んでいるんですかぁ~~~」
「親父、何やってんだよ、こんな処で。皇女先生。それとしょうこせぇ・・・、うんくぅゃぁ、翔子さんこんばんは」
「皇女先生、翔子お姉様、こんばんわです」
「お前等の嗅覚は犬以上だな、まったく」
「褒めても、何も出ませんよぉ、慎治さん、どんな密談をしていたんですか?正直に吐き出して下さい」
「ちょっくらシンガポールまで行ってくるための段取りさ」
何時もなら、教えてくれなさそうなのに、今日は直ぐに答えが返って来た。どうして、即答だったのか慎治さんの考えが計り知れない。
「もしかしてぇ、慎治さんがシンガポールに行く理由はこの人に関係あるのかなぁ、源太陽さんだったかな?」
俺の知らない事を翠の奴はさも当たり前の様に口に出すと慎治さんは鼻で笑い、直ぐに冷静な顔へ帰ると、ちょっと強い口調で、
「余計な事に首を突っ込まないでくれってお願いしたじゃないかっ!いつ何時、どこに危険が転がっているか分からないだ」
「一緒させてくれないと、私達もっと危険に足を突っ込んじゃいますよ。それを止められるのは慎治さん判断にかかっているんですけどねぇ」
おい、おい、それは勘弁してくれよ。今、洋介の事でかなり傷心してんのによ、翠、お前にそんなことされちゃ、生きた心地、しねぇぞこらっ!
「翠ちゃんなぁ、俺を脅す気か?」
「はい、シンちゃんの負けです。将嗣ちゃん、いいですわよね、将臣ちゃんと、弥生ちゃん達をお連れしても」
「・・・、仕方があるまい。行って何になるとは思えぬが」
「翠ちゃん、弥生ちゃん、それと将臣君も遊びに行くのではない事をしっかりと認識して下さいまし」
「そりゃぁ、引率の翔子先生がちゃんと監督しなきゃならない事っすよ」
つい口が滑って翔子先生に睨まれてしまいました。なんで、そんなに嫌なんだろう?俺達の元担任だったって事実は変わらないのにさ。
俺達はシンガポールへ向かい。凄い物を目の当たりにした。それから、日本に帰国すると物語は急展開を見せ、終焉へと向かうんだぜ。一体、それがどんな結末なのか・・・、・・・、・・・。
俺はこの先の未来ドンナ場所へ立っているのだろうか・・・。俺が望む将来は・・・。
2 弥生
弥生と将臣お兄ちゃんは八神慎治さんから託されたお願いを解決するために毎日の様にお兄ちゃんと将嗣お父さんへアダムの事を聞かせてもらおうと必死に話しかけていました。
始めのうちは否定的だったお父さん。でも、数日後にはお父さんがどんなお仕事をしていたのかお話してくれるようになりました。でも、やっぱりアダムの核心からは遠く離れてしまっているお話ばかり。それからまた日は過ぎ、将臣お兄ちゃんがお風呂に入っている頃、弥生とお父さんはリヴィングに居ました。
弥生と二人だけでいる時の将嗣お父さんは直してくれているようですけど、まだよそよそしい態度で弥生に接していました。
「お父さん、お茶のお代わりいります?」
「うん、あぁ、すまんな、弥生・・・」
お父さんは弥生の事をチャンと女の子だと認識してくれて、弥生にどう接していいか困惑してくれているのでしょう。でも、弥生達は親子なんですから、そういう気遣いしてくれなくていいのに・・・。将嗣お父さんの本当の気持ちを理解してあげられない弥生はそう思ってしまうのでした。
お茶を飲んでいるお父さんを頬杖つきながら弥生は眺めていました。たまに視線が合うとお父さんは私から目を逸らし明後日の方向へ目を移動させていた。そんな仕草をするお父さんを小さく笑う。
「おとうさん、それよりも。もう、アダムの事をちゃんと聞かせてくれてもいい頃だと弥生は思うのですが、どうなんですか?」
「弥生、いいか、我が強すぎると言う事は時には己を不幸にする事になるのだぞ。それが理解できるのなら言葉を慎みなさい・・・」
「それは神奈お母さんの事を言っているの?ホント、お母さんお父さんの事で苦労していたのが目に見えて判ってしまいます」
弥生の言葉に苦い笑みを見せてくれてから、僅かだけ悲しそうな顔になってしまった。弥生の失言である事は間違いないけど、将嗣お父さんがアダムの事を教えてくれなかった所為で出てしまった言葉。だから、弥生は反省しません。
「アダムの事は気にせず、学業に励みなさい・・・。将臣には翠君が居ると言うのに、弥生お前にはまだの様だ。弥生の連れてくる男だったらどんな男でも構わん。だから、彼氏でも連れてきて、私を安心させてくれ・・・」
「なら、そうしたら、弥生にアダムの事を教えてくれるのですか?」
「それはない・・・」
口を尖らせ不満を口調に乗せながら弥生がそうお父さんへ言うと、鼻で笑われ、煙草と湯のみを持ったまま席を立ってしまった。
2011年10月30日、日曜日
翠ちゃんと弥生はマルチ・スポーツ・プレイヤーズっていうサークルに所属していました。八神先輩の先輩、何度かお会いしている神無月先輩がOBのサークルです。今日は女子対男子の硬式野球戦です。なんと、弥生がピッチャーで翠ちゃんがキャッチャーをやらせてもらっていました。公式戦じゃないので投げ方もソフト・ボールの様に上から回転させる様な投球をしても大丈夫でした。実は親友と私は水泳以外に小学生から中学生の間ソフト・ボールをやっていたんですよ。
「ストライクッ・バタァア~アウトォ」
七回表、一塁、三類に出られてしまいましたが何とか弥生はまた無失点に抑え、翠ちゃんの処へ駆け寄っていました。同じ様に他の守備のお友達も寄ってきます。
「ほんとっ、ミッチーもヤヨイッチも、凄いよっ!見てよ、男子のあの悔しそうな顔」
「へへぇん、弥生と私に掛かれば、どうってことない、ない。なんてったって、スポーツなら出来ない事の方がすくないもんねぇ、弥生」
「もぉ、みぃ~ちゃんたら、言う事が大きいんだから」
「はぁ、でも、この回、私達の攻撃で終わっちゃうんだよね。一点でいいから、勝って終わらせたいなぁ・・・」
お互い点数を取っていない状態でも七回までというルールだった試合も残す処、弥生達の攻撃で終わり、弥生達が一点も上げなかったように男子もそうさせてくれませんでした。ただ、向こうはこの回まで無失類で弥生達女子バットにボールを当てる事は出来ても誰も、一塁ベースすら踏ませてもらっていません。
「だいじょうぶ、今度こそ、私涼崎翠がおっきのお見舞いしちゃうから、なんとか私まで回してよ・・・」
打順は一番から、一人でも類に出れば、翠ちゃんまで回せます。男子のピッチャーとキャッチャーはとても冷静なバッテリー。もう、彼らに点数を入れる余地がないのなら、攻めて弥生達を勝たせないようにと鋭く際どい投球で二人、抑えられてしまいました。打順三番の弥生はバッター・ボックスへ立ちバットを構え、一球目を待ちました。
とても速い球が弥生のお臍よりも少し高い位置で走り、キャッチャーミットへ吸い込まれました。うぅ~~~ん、軟式やソフト・ボール経験者じゃこの投球は怖いのかも、でも、二度目にここに立つ弥生なら、もう目が慣れていました。大きくは無理でも・・・、
「えいっ」と小さな掛け声で、二球目バントを試みたんです。ボールがバットに当たる感触がしました。その瞬間、それを手から放し、全力で走りだしました。無論そうしたのには短距離に自信があったからですよ。キャッチャーとピッチャーのほぼ中間まで転がったそのボールをピッチャーとキャッチャーが同時に取りに向かっていました。ボールを握ったのはキャッチャーで直ぐサイド・スロー一塁側へ送球してきました。弥生は諦めず疾走してスライディングを試みました。頭からのそれだったのがよかったのかな?男子は弥生がそんな事をするだろうなんて思っていなかったみたいで投球を受け取っていたのにもかかわらず、弥生から一歩引いてしまっていました。弥生の両手はシッカリとベースの四隅を握っていて、セーフです。
立ち上がり、ユニ・フォームに着いた土埃を払うと、一塁を守っていた男子へにっこりとほほ笑んでいました。
「ささないで、有難うございます」なんて言うと苦い笑いをされてしまう。親友が打席に立ち、バットを構えると弥生へウィンクを送ってきました。それに頷き、ピッチャーが投げた瞬間、二塁に向かって走り出す。ピッチャーは弥生の盗塁を意識せず、二球目も投げ、翠ちゃんをツー・アウト。親友を押さえれば、弥生の盗塁なんて問題ないという事なんでしょうね。次の一球、初めて男子はボールを投げてしまいました。お陰で、弥生は三類に居ます。また、翠ちゃんが私へウィンクを送るんです。・・・、スクイズの合図かな・・・、なんて思っていたら、親友は・・・。
「やったぁ~~~、すごいよみぃ~~~ちゃんっ!」
ダイヤモンドを一周して、ホーム・ベースを踏んで帰って来た親友に先にそれを踏んで待っていた弥生はハイ・タッチの後、飛びつき喜びの顔を合わせていました。他のメンバーも回りに集まってくると、遊びの試合だというのに親友を抱きあげ、優勝気分の胴上げをしちゃっていました。グラウンドに跪く男子諸君とピッチャーだったサークルのリーダーは帽子を深くかぶり顔を隠していました。
試合の後は道具を片づけ、解散。汗を流すため施設のシャワーを使い今はそれも終わって、お友達とサヨナラして、翠ちゃんと将臣お兄ちゃんが待っている喫茶店へ向かいました。
「ほんと、さいごみぃ~~~ちゃん、きめてくれちゃって、格好良かったですよ」
「あれはね、先輩の手が緩んでくれたおかげっていうのか、弥生が盗塁してくれたおかげで先輩、相当動揺していたんだよ。だから、最後、私の眼でも何とか追えるボールだったって訳。本当は弥生の足だからスクイズでも十分かなって思ったけど、てへへぇ、私がいいところもらちゃいましたとさぁ」
「いいの、弥生はそんな事を気にしないから。みぃ~~~ちゃんと楽しく出来れば、それでいいんです」
「ところでさぁ」
「うぅん、なに、みぃ~~~ちゃん?」
「そろそろ、その呼び方やめてほしいなぁ、私は弥生ちゃんの事をいまでは敬称なしで呼んであげ居るんだから、公平じゃないじゃん」
「えぇ、好いじゃない、愛称・・・、・・・、・・・、もうしばらく、もうしばらく、そう呼ばせてよ。ちゃんと直すから」
「まっ、弥生ちゃんだからしょうがないかなぁ、なんて。そういえば・・・、ねぇ、弥生はまだ、将嗣パパさんからお話し聞き出せていないの?」
「もう、うちは全然だめです。将嗣お父さん、私達には関係のない、理解できないお父さんの仕事だって・・・。アダム計画?医療研究のお仕事をしていた、それは否定しないのですけど、内容については口を割ってくれないんですよ。完全黙秘。お仕事の職種によっては口外出来ない内容が存在する事は分るんですけど・・・、」
翠ちゃんは既に両親からアダムとの関係を聞かせてもらっていた事は知っています。でも、その内容を弥生達兄妹には教えてくれていません。教えてくれた事は若し、翠ちゃんの両親がそれに関係していなかったら翠ちゃんと弥生は今みたいな親友になれなかっただろうし、貴斗さんや藤宮大先輩たちとも巡り会いできなかったって真剣な顔で教えてくれました。
「まあ、将嗣パパさんの事は弥生に任せるとして、早く将臣の処へ行きましょう。多少遅れた処で、あいつが腹を立てる事はないでしょうけど、待たせちゃうのは可哀そうだし」
喫茶店ドレスデンの入口へ立つと、弥生は自動で扉が開く為のボタンを押して、先に親友が入る事を促した。それが開くのと一緒に聞きなれた、カウ・ベルがなる。中に入ってお兄ちゃんを探すと、お兄ちゃんは八神さんと一緒に居るのを発見しました。弥生達の先輩の八神さんの前で横柄な態度でコーヒーを啜る将臣お兄ちゃん。もぉ、本当に誰にでもあんた態度なんですから、先輩に失礼ですよと思いながら翠ちゃんと一緒に近づきました。
「慎治さん、こんちわですぅ~~~、ついでに将臣もぉ」
「こんにちは八神さん。ウチのお兄ちゃん、八神さんになんか失礼な事、しませんでしたか?」
「やっ、やぁ~~~、二人とも元気そうだねぇ」
何時も大らかな表情を絶やさない先輩なのに弥生達が来ると、親しげな声とは裏腹に先輩の顔は苦笑いを作っていました。何か、弥生達に聞かれたくない事を会話していたのかなと思ってしまいます。
「おい、お前等、何で俺じゃなくて慎治さんの味方するんだ?マジで大事な話で、俺達にも関係する事だって言うのに」
絶対、失礼なことしていたに違いない将臣お兄ちゃんなのですから、お兄ちゃんの味方をする訳がないですよ、まったく。
その後、親友とお兄ちゃんがじゃれあう処を眺め、お兄ちゃんに促されて遅くなってしまった昼食を頼む事にしました。
運ばれてきたお昼とそのあとのデザートを食べて、紅茶を啜り始めた頃、将臣お兄ちゃんが脱線していた八神先輩との会話を戻したようで・・・、その内容とは先輩が単身アメリカにわたって何か情報が手に入らないか探ってくるという物でした。
弥生達三人、どうにかして御同行させてもらう様に先輩を説得。貴斗さんと一緒で面倒見がよく、更に責任感が強い先輩は中々許可を呉れません。でも、最後は先輩の心の広さが弥生達を受け入れてくれます。
話しの方向性が見えると将臣お兄ちゃんは先輩と一緒にお手洗いに行ってしまいました。
「でも、いいですよねぇ、みぃ~~~ちゃんのお父さん、秋人小父さまはちゃんとみぃ~~~ちゃんへお話してくれて。弥生のお父さんなんか、全然、弥生の気持ちも理解してくれないで、何時も弥生によそよそしいし」
「私の処だって似たようなもんよ。春香お姉ちゃんが事故に遭ってから、急によそよそしくなっちゃってさぁ。お姉ちゃんが逝っちゃってからなんて、酷いもんだったよねぇ、もぉ。アダム計画の事だって泣き落としで聞き出したんだから」
「うぅ、弥生のお父さんは泣いたって教えてくれないよぉ」
「泣かない、泣かない。私がパパから聞いた事よりももっと秘密にしなきゃならない事なんでしょっ。だから、教えてくれないインだよ、将嗣パパさんは」
「本当に、みぃ~~~ちゃん」
「たぶんねぇ~~~」
「そこは断定して、弥生を勇気づけてよぉ、みぃ~~~ちゃんのいけずぅ」
「それは私の呼び方が変わったらそうして上げてもいいよぉ」
そんな風に返してくる親友に不満な顔を作る。それから、戻って来た先輩とお兄ちゃんとでアメリカ行きの具体案をまとめ解散しました。
十一月四日、金曜日。弥生達は今、飛び立つ前の飛行機の中に居ました。金曜、と来週の月から木曜日までの五日間休学届を提出。聖稜大学は生徒の将来の為の勉学を理念としていて、それに関する優遇が多く揃っています。その所為なのか、簡単な理由では休学届受理は簡単じゃないようでした。でも、弥生達はすんなりと許可が出てしまっていました。将臣お兄ちゃんは八神先輩が事前に対策してくれたんだろうと言っています。
弥生達はプラチナ・エコノミーってクラスに居ました。離陸前、親友が八神先輩を気遣う様な声をかける。
「慎治さん、怖くないんですか?」
「うん?ああ、飛行機事故にあったから、心配してくれているんだな、翠ちゃん?大丈夫さ、普段はすっとぼけているが、家の母さんはどうやら、本当に精神科医として、名医みたいだ。ご覧の通り、その母親の治療で、なんともないよ」
「怖くなったら、いつでも私の事抱きしめていいですよ」
「馬鹿言え、年下に慰めてもらうほど駄目っちゃいねぇよ、俺はな」
翠ちゃんは誰とでもこんな風に接するから将臣お兄ちゃんも大変でしょうね・・・、ってもう耳にイヤー・フォンをして、小説を読み始めていました。翠ちゃんと八神先輩のやり取りで微笑んでいたのに弥生の顔は呆れた顔を作って、小さな溜息を零す。
離陸後、お兄ちゃんが買ってくれた小型映像再生機で映画を見始めて、二つ目の映画の中盤を迎えた頃に八神先輩の顔色が崩れ始めていました。苦しそうな表情に変ってしまう先輩。弥生は直ぐに、
「みぃ~~~ちゃん、私、乗務員さん探して来るから、頑張って、八神さんをおこして」と言って、立ち上がるとアテンダントの方を呼びに向かいました。その方は直ぐに見つかり、八神さんの容態を伝え、ペットボトルのお水と暖かいタオルを二枚頂き、八神先輩の処へと戻りました。すれ違っていないのに先輩は席に座っておらず、
「みぃ~ちゃん、先輩は?」
「弥生と反対通路からお化粧室へいったよ」
「みぃ~~~ちゃん、これちょっと持っていてください」
「りょぉ~~~かいっ!」
弥生は着席するとシートの下に置いた小さな旅行鞄を持ち出し、中から旅行中に必要になるかなと思ったお薬を取り出し、
「最近は市販のお薬も持ち込みが厳しいみたいですけど、こうしちゃえば、案外なんとかなってしまうみたいですねぇ」と独り言のように呟きました。
準備が終わった頃、ぐったりした先輩が崩れる様にシートへ体を預け、親友に持っていてもらった物を受け取ると、
「八神先輩、気休めかもしれませんが、これをなめてください」
弥生の声に反応してくれた先輩がこちらを見てくれて、差し出した物を受け取ってくれました。その時、先輩が弥生に向けた表情、苦しそうな顔を見て、弥生の心が疼いてしまう・・・、・・・、・・・、・・・、もっ、もしかして、もしかして、もしかして、弥生って年上の人が好きなの?八神さんが今見せてくれた表情にどうも、弥生はときめきを感じてしまったようです・・・。勘違いなのかもしれませんが・・・。
トローチを舐め、水を口に数回含んだ後、八神先輩はロール状だったタオルを長方形に折り目の上に乗せながら、
「ありがとう弥生ちゃん、大分楽になったよ・・・」
「はっ、はい・・・」
上擦りながら答える弥生へ、翠ちゃんは悪戯な笑みを浮かべ、
「どうしちゃったのかなぁ、弥生ちゃぁ~~~ん」
「なっ、なんでもありませんっ!弥生も、時差ぼけしない様に少し眠ります」
そう、逃げる様に翠ちゃんへ答えるとシートを軽く倒し、前髪で目元を隠してしまいました。
アメリカに到着した時に弥生達を迎え入れてくれたのは八神先輩の友人で弥生達の大学OBにもなる方でした。クライフ・フォードさんって方、弥生へ凄く好意的なのですけど、とっても紳士で真摯な対応をしてくれるのに弥生は少しばかり冷めた対応で、失礼な態度を取ってしまいました。それでもクライフさんは気にせず、笑顔でいました。
一日目は観光で二日目に十年くらい前まで貴斗さんのお父さんが指揮を取っていた研究上へ足を運んでいました。その頃、将嗣お父さんも一緒に居た事はお父さんから聞いています。
そこでアダムに関する手掛かりがないのかを手分けして探す事になって、途中まで翠ちゃんとお兄ちゃんと三人で調査していましたけど、建物の三階が分岐していたので、そこでばらばらに行動する事になって、別れた後の三部屋目を捜している処です。
弥生はアダムについて殆ど何も教えてもらっていません。だから、弥生一人で何も得られないと思うけど、将嗣お父さんや知っている人の名前が出てくるような物を見つける様に、あちら、こちらを見ては手を伸ばし、見て取れる様なファイルなどは実際中身を確認していました。
鍵はかかっているのに仕切りの窓が割れてしまっていて中の物を取り出せるファイル・キャビネット。その中に手を伸ばして、赤墨色カバーでA5の大きさの冊子を取り出して、それを開いてみました。書かれている文字が英語ではなくて、日本語だった事にちょっと戸惑いましたけど、直ぐにその内容を読み始めました。
どなたかの日記の様で、日付からここの事ではない様な気がします。内容は日誌の書き手が職場で好きになってしまった相手の事と、その事で起こってしまう心の苦しみや仕事の内容が記されていました・・・、話しを読み進めているうちに、驚かずにはいられない名前が何人も登場し始めたのです。貴斗さんのご両親、弥生の両親、将嗣お父さんと神奈お母さん。春香お姉さんの恋人だった人と同じ、苗字の人。八神先生、皇女先生の事や藤宮大先輩のお母様の名前までも。ありました。それに藤宮詩乃さんという方は尊敬する大先輩の叔母さまに当たる様でした。
そして、その日記の中で一番驚いた物は・・・、弥生達の、翠ちゃん達の出生の秘密みたいなものです。弥生達はアダムという医療技術で生まれた子供達。
そんな共通性があったなんて、将嗣お父さんが隠したかった理由を理解してしまいました。でも、それだけじゃ、貴斗さん達が事故ではなくて、アダムに関わったのが原因で命を奪われたという関連性は何処にも見えませんでした。
弥生は更に日記を読み続けると、書き手がアダムの研究者達への憤りを表わす記述が多くなって行く。最後まで読み進めると日付は一九九〇年の六月に変って二日目で終わっていました。もしかして・・・、これを書いた人が。そんな風に思った時、腕時計が鳴り始めました。翠ちゃん達との待ち合わせ、一五分前。八神先輩達のそれと五分前。
大きな収穫があったと思った弥生は別れた場所まで移動します。その場に立って周囲を見ても弥生以外誰も居ませんでした。廊下の割れた窓の方へ近づき、二人が戻って来るまでこの研究所から見下ろせる海を眺めました。
先に戻って来たのは将臣お兄ちゃんの方。でも、ここと二階を繋ぐ非常階段からです。
「こらっ、!お兄ちゃんどこ行ってたのよっ!」
あからさまに、怪しい場所から出てきたお兄ちゃんを咎める様な表情になっていたようで、口もそのような感じでした。
「なんだよ、大がしたくなったから、レストルーム探してたんだよ。怒るこっちゃねぇだろうが?」
「ふぅ~~~ん、将臣お兄ちゃん・・・、それは嘘です」
将臣お兄ちゃんの態度とか、仕草とかで判るのではない。知覚的に理解できてしまう奇妙な感覚。それはお兄ちゃんも似たようなものなのですが。
「そう思うんだったら、勝手にそう思っていろ。で、翠は?弥生、お前なんか収穫あったのか?」
「将臣お兄ちゃんが、そんな態度とるなら弥生だって秘密です」
「なら、いいんじゃねぇ、それでよ。後は翠を待つだけか・・・」
弥生からの話しを逸らしたかった将臣お兄ちゃんは翠ちゃんが捜しに方向へ体を回転させた時にそちらから、勢いよく走って来る親友が見えました。
翠ちゃんはその動きを止めないで弥生達へ戻ろうって叫ぶと、先に行ってしまう。
弥生もお兄ちゃんもそんな翠ちゃんの行動を見ながらお互い呆れた顔を見せあい、ゆっくりと階段を下りて八神先輩の待つ一階へと向かったのでした。
調査はその日一日限りで、翌日はカジノの都で夢を満喫し、最後の日には八神先輩の知る誰かのお墓参りに来ていたのです。
墓標には名前が刻まれていて、SYPHONY LEOPARDIという綴りでした。何と読むのでしょうか?
「慎治さん、いったい誰のお墓参りなんですか?」
「みぃ~~~ちゃん、名前ならちゃんと刻まれていますよ・・・、えぇっと」
「シンフォニー・レパード?」
弥生が思った読み方と同じ事を将臣お兄ちゃんが口にするけど、
「惜しいな・・・、シフォニー・レオパルディ・・・、・・・、・・・、貴斗の最初の彼女さ・・・、ADAMによる怨恨の最初の犠牲者かもしれなかった女の子だ」と先輩が訂正しました・・・?え?最初の犠牲者かもしれなかった人?貴斗さんの恋人だった人?それを耳に入れた瞬間嫉妬で暴走しそうになりますが、それと同時に八神先輩が見せてくれた写真で頭の中が混沌として、目を瞑ってしまう。だって、今写っていたのって藤宮大先輩じゃないですか・・・、頭の中で写真と、もっと前の記憶がフラッシュ・バックして重なり、弥生が眠っている間に見た事を思い出した。貴斗さんに酷い事をした唾棄すべき人達、その写真の中の人の命を奪った残虐なレイシストの事を思い出してしまったのです。私の中が憤懣で真っ黒くなり、殺意が渦巻いてしまう。でも、弥生の表情は至って穏やかなのはなぜでしょう。涼しい顔をしている弥生へ、
「どうかしたのかな、弥生ちゃん?」
「だって、貴斗さんとシフォニーさんって方の貴重なお写真を見せていただいたのですもの、嬉しくて・・・」と淀みなく答えていたのでした。
四泊六日の旅も終り、無事に帰国した弥生達。帰って来たばかりで、だれているお兄ちゃんや翠ちゃん、そっちのけで、弥生は直ぐに行動していました。
クライフさんへ連絡を入れて、貴斗さんのあの事件の真相に迫ってもらう事。
アメリカから持ち帰って来た日記の持ち主、源太陽という人物を捜す事。
もし、貴斗さんとシフォニーさんの事件が本当なら、藤宮大先輩に酷い事をした人々も事実いるのではと仮定して、その人を捜す事。
見つけてどうするのか?そのような事決まっています。もし、平然と毎日を過ごしているのなら大事な先輩方が受けた苦痛を何倍にしても返す事です。それで弥生の手が汚れても、弥生は平気。気がかりがあるとすれば、堕ちてしまう弥生はもう、翠ちゃんとお友達でいられなくなる事。でも、それでも、全てが終わるのなら、親友やお兄ちゃんに危険がなくなるのなら・・・、それでいい。
帰国してから、一週間。クライフさんから、電話で連絡があり、お願いしていた結果を知らせてくれました。もっと詳しい内容はEメールで送ってくれるといい、最後、情報を提供したのですから、約束を忘れないでくださいね、と念を押されました。約束とはクライフさんが日本へ来た時にデートしてくださいと言う事。でも、クライフさんがこちらへ来た頃、この世界に弥生がいるかどうか判らないですよ。
電話を切ってから自室のラップトップを開き、クライフさんが既に送ってくれていると言いましたメールが来ているかどうか確認します。
「これですね・・・」
内容を読みそれを理解し頭の中でまとめました。事実起こった事件。事件を起こした首謀者も協力者も全員亡くなっている事。事件が起きた時に既に誰かによって裁きが下されているようでした。これに関して弥生が出来る事はもうなくなっていたんです。でも、これが事実だったから、次の行動を取ることもできました。
十一月いっぱい藤宮大先輩の夢にあった事を必死に調べ、せっかく情報を手に入れたのにそれもまた弥生の出る幕もなく、関係者が全て、裁かれ弥生の手の届く処へはいませんでした。
唯一人、追い詰める事が出来たのは欲にくらんで藤宮大先輩に酷い事をした挙句、大先輩を犯罪者にしようとした男、三津ノ杜というお医者さん。でも、そんな人がお医者さんをしているなんて調川先生達に対する冒涜です。
弥生は凶器とかを持っている訳でもないのにその男は弥生を怖がるように逃げようとしていました。歩行者赤信号と道路を走る大きな車。それから出る答えは一つ。私はその人の最後を見届け、その場を去りました。その場には多くの人がいたから私が救急車を呼ばなかったからって罪にはなりません。私はその人に何も言っていませんし、近づいたりもしていません。ただ、顔を合わせただけですもの。何もしていない私が警察のご厄介や法廷に出向かなければならない事態になる事はない。だって、私の関係しない処で起きた唯の事故ですから・・・。
最後は源太陽という人を捜す事で全てが完結へと向かう様な気がして、その人を捜そうと思った十二月。サークルの帰りに当たり前の様に通う事なった喫茶店ドレスデン。そこに弥生のお父さんと八神先輩が、皇女先生が、それと翔子先生まで、何時もの八神先輩とは違う顔ぶれが集まっていました。
何をお話していたのか理由を聞くと、何時もの八神さんとは打って変わり、直ぐに解答を教えてくれたんです。我儘な弥生達の返答は毎度同じで、同行させてくださいとお願いしました。
きっぱりと断る八神先輩と苦渋の顔を見せる将嗣お父さん。でも、皇女先生がにこやかな表情で二人を説得し、弥生達の動向を許された。
弥生達が今度行く場所とはシンガポールです。連れて行ってくださいと願っただけで、どうして、八神先輩達がそこへ向かわなければならないのか、その理由は・・・。
夢心地でシンガポールから帰ってきてから、八神先輩が真剣な表情で、もうすべてが解決するから、弥生達はおとなしく事件の解決を待ってほしいと強くお願いされた。でも、弥生は・・・。
八神先輩を着けていれば、源太陽、今は大河内太陽と名乗っている人物に辿り着けるそう考え、先輩の行動を大学へのレポートなどの提出物全部片付け、講師の方々に無理を言って誰よりも先に期末試験を受けさせてもらって、ちょっとだけ早めの冬休み気分を貰いました。
将臣お兄ちゃんと親友の翠ちゃんが二人だけで仲良く過ごす予定の二〇一一年十二月二十四日。八神先輩が動き出しました。気がつくのが遅れてしまった弥生ですが、先輩を追う。そして、弥生が思う事は・・・、弥生の未来は・・・。
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