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-溶けた女と喉噛む男-2
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「きつそうだし、とりあえず一回ぬこっかーっつってもおれ、男相手にすんの初めてだから、痛かったりしたらごめんねぇ? あ、タイラさんベルトしてないの? 準備がいいねー」
別に準備してたわけじゃない。久しぶりの外出準備にテンパりすぎて忘れてただけだ。
俺がうっかりしていたせいでベルトという防具をすっ飛ばし、ナガルはさっさとジーンズのジッパーに手をかける。
俺の両手は頭の上でナガルの左手に拘束されているのに、右手は器用にそこに届いた。腕も足も長い奴で嫌だ。ほんと嫌だ。手際もよくて嫌すぎる。
「ナガル……、やめ……っ」
「やめると思う? 思ってないよね? じゃあその言葉、無意味だから意味ないよ? わーパンツ地味。すごいタイラさんっぽい。うーん大きさは……おれ友達いないし男の股間に興味ないからよくわっかんないなぁ。これってふつう?」
「しらねーよ! どけ!」
「どかないってば。いいじゃん、さっきの除霊のお礼だよ? あれ、ほんとうはお金とってやる仕事だよ? おれが勝手にやったとはいえさ、タイラさん、すんげー怖かったんでしょ? ベッド買おうか迷うくらい毎晩毎晩這いずってのぞき込んでくる黒いヤツに怯えてたんでしょ? ちょっとおれに触らせてくれるくらいよくない? 怪我させるつもりも、痛くするつもりも一切ないんだしさー。おれね、タイラさんに嫌いになってほしいけど、別に物理的にぶっ叩こうとか痛い事しようとか微塵も思ってないし」
「……そりゃ、感謝は、してる、けどさ。他にもっとなんかやり方……っ、ひぁ!? ま、ちょ……ぁ、やだ……っ、……!」
「…………わー。あったかーい」
初めて子犬を抱き上げたみたいな声出すんじゃねーよひとのチンコ触って! と突っ込めたら気持ちよかっただろうに俺の声帯はビビりすぎていて掠れた声しか出さない。
するっと下着から取り出された俺のアレは、最高に恥ずかしいことに若干もう濡れていた。恥ずかしい。むり。ほんとむり。泣く。三十一歳だけどこれは泣いていいと思う。
ただでさえ無理なのに、妙に感動しているナガルは容赦なく俺を掴む。ばか擦んな、馬鹿ぐりぐりすんな! って言いたいのにひゅっと息と一緒にひっこんだ言葉は、喘ぎ声にしかならない。
「へーなんか、自分の触ってもほら、感覚ってよくわかんないけど。なんかあったかいゴムみたいだねぇー。わりといけるなぁ。うん。ていうかタイラさんかわいいね? 真っ赤だね? ちょっと泣いてるね? うっそ、かわ……えー。これもっとぐちゃぐちゃしたらもっと泣いてくれる?」
「おま、やめ……っ、ぁ、だめ、だめだめだめだっつって……っ、ひ、ぁ……っ!?」
俺の先走りを指に絡めて、まんべんなく竿にまとわせるように塗りたくって擦る。それだけで結構もう無理だったのに、どこかなぁーここかなぁーなんてにこにこしながら丁寧に丁寧に擦りあげていくものだから、本当に涙が滲んできた。
生理的な涙なのか、屈辱の涙なのか、自分でもわからない。
俺の目じりを嬉しそうに舐めるナガルの唾液の冷たさだけをリアルに感じていたのは、お得意の現実逃避かもしれない。
なんで俺、こんなとこで知らない男にチンコ握られてんの?
なんて疑問を考えると死にそうになるし、やっぱり罰だとか思っちゃうし、そうすると今までの罪とかそういうの考え始めてまた意識が飛びそうになるから、いっそ俺は快楽を追った方がいいんじゃ……? と思い始める。
こう言っちゃなんだが、子供ができるわけじゃない。女の子はそのリスクがある。どうしてもある。でもおれは、いざこいつの精子がうっかり体内に入ったところで、ちょっと腹を下すかもしれないだけだ。
そもそもゴム常備してないからアナルセックスはできないし。残念ながら肛門ってやつはいきなり棒を入れるようには作られていない。
相手がバイブならこっちが負けるかもしれんけど、いざ尋常にレイプされそうになったところで、しばらくご無沙汰だった俺のソコには、がんばっても指くらいしか入らないだろう。たぶん。
ゲイでもバイでもないこいつがそこまで頑張ってレイプするとも思えない。いきなりその辺から適当な棒を持ってくる可能性は否定できないのが、なんかこう、アレだけど……。
うん。これは現実逃避だ。やっぱり俺は、現実逃避が大好きなくそやろうだ。
ママとか、母さんとか、同居人とか、別れた恋人とか。そういうものを考えるのに疲れた。半分くらいは自業自得なんだけど、本気で疲れた。
頭がぼんやりしてくる。意識が、段々理性から本能にシフトする。
ぬるぬるの先っぽに緩やかに爪を立てられ、思わず腰を浮かしてしまう。もうすっかり濡れたチンコはがっつり勃っていて、恥ずかしさなんかカンストしてもうわけがわからなくなっていた。
「タイラさん、やっぱちょっと痛いっていうか強めの方が好きだねー。先っぽ、ぐーってするの、好きでしょ? これ、イイ?」
「っあ、ぁ……ふ、……っ、それ、だめ、だから……ぁっ」
「嘘つき」
俺の目の前でかぱ、と口を開けて笑ったナガルが、すっと頭を下げる。そして俺の喉に齧りつく。
「…………っ、ひ、ぅ……!」
ゾク、とした快楽が腰に走る。喉ダメ喉ダメ喉ダメなんだってば、って伝える術がない。俺の口はだらしなく喘ぎ声を吐き出すだけの駄目な器官でしかない。
歯を立てられ、べろりと舐められ、肌を吸うように啄まれてそのあまりの気持ちよさに眩暈がして、頭が真っ白になった。
ああ、うん。俺はこの感覚を知っているし、たぶん大体の成人男子は知っている筈だ。……あー……、むり……しにたい……いやしにたくはないけど、しにたくはないんだけど、できればいますぐ逃げ出して押し入れの中とかで膝をかかえて蹲りたい。
「わー……タイラさん、もしかして、喉噛まれてイッちゃった? え? ……チンコじゃなくて? 喉? うそ、はは、ちょうえっちじゃーん」
うるせーだまれ、と言いたかった。
言いたかったのに言えなかったのは、けらけら笑うナガルがけらけら笑いながらも俺のアレをぐちゃぐちゃにするお作業を一切やめる気配がなかったからだ。
管から白い粘着質な液体がすべて出た後も、ぬめぬめぐちゃぐちゃする手を一切休めない。
いやいやいやいや! まて! まてナガル待ってほんと待ってください無理だって……!
「待っ……なが……っ、い、イッた、イッた、から、ダメ、ダメ、も、やめ……っ、扱かな……っ!」
「ん? なんで? タイラさんすごーく気持ちよさそうだよ? 駄目じゃないし嫌じゃないよね? 嘘よくないよ? うわぁすっごい出たねぇ……おれも脱いどきゃよかったかなぁ? 次終わったら脱ぐね? タイラさんも脱いじゃおっかぁ」
「つ、次って、何……、ぁ、や……そこばっか、駄目だって、言っ……っ、ん、ぁ、」
「くびれのとこ、好きだね? 覚えたよ? あは、すげーね。すげーかわいい。タイラさん今度鏡あるとこでしようよ。すんごいどろどろの顔してんの、見たらきっともっと恥ずかしくてきもちいーよ。……いま想像した? わーえっち。びくびくしたね。かわいいね?」
「ぁ、あ、みみ、だめ……ぁ、ふ……」
「噛まれんの、好き?」
「…………す、」
すき。と、うっかり本音が出そうになった時、急に俺の左側――ナガルが囁いているのは右側だ――に、何かが落ちて来た。
何か、ボールみたいなもの。白くてでかいスイカくらいの大きさのもの。
何? って思った。普通に。ごく普通に思ってしまった。そして俺は……理性をぶっ飛ばしたままの俺はごく普通に反射的に左側を見てしまった。見てしまったから、認識してしまった。
腰を折り異常な体勢で顔を床につけ、俺の方を凝視している顔面が溶けた女を。
「――――――……ッ」
いつもだったらもっと用心する。用心して無視する。
それなのにこの時は理性なんてものぶっ飛ばしたままで、すっかり忘れていた。
ここは、ママの家だということを。
目がない。うっすらここか? という名残はあるが、鼻もないし口もなんていうか……どろどろに溶けていて唇の痕跡すらない。ただぼっかりと穴が開いているように見える。
あー。あー。あー。あー。と、金属のような声がする。左側から、一気に全身に鳥肌が立つ。
思わず本気で身体を起こそうとして、伸し掛かる男に力任せに阻止された。精液まみれであることなんか一瞬で忘れてもがく。でも、ナガルは放してくれない。
「なが……っ、ひ、ひだり、そこ、すぐ……っ」
「ん。知ってる知ってる。いるなぁ、って思ってたもん。おれ、タイラさん程じゃないけどわりと見えてるからねー。これ、タイラさん初見? いままでいた?」
「は、はじめて……みる、奴、」
「そかー。じゃあ除霊むずいかー。話は長けりゃ長い程効くって感じだからねーいきなり現れた奴にはおれ、基本無力なのよねー。ってことで、はいこっち見て」
「え。え?」
「どうしようもないから無視一択だねーどうせ逃げらんないでしょ、この家の中からは。大丈夫大丈夫、霊障なんてね、大体は木の持ちようだからさ。ごはんちゃんと食べてちゃんと寝てれば大概平気だよー」
こいつ何言ってんだ。
こいつマジで言ってんのか。
俺の横の奴が見えてんのか本当に見えてんのか? 聞こえてんのか? あーあーあーあーあーあーあーあーって、ほら。ほら、言ってんじゃん。唸ってんじゃん。どろどろの女が顔をべったり俺に近づけてんじゃん。すぐそこにいるじゃん。
そう訴えたいのに口はパクパク動くだけで、パニックになった俺からは涙しかでない。
それでもどうにか言葉を探す。どうにか、おまえに言わなきゃいけない言葉を探す。
「ナガル、助けて……!」
一瞬、なんでかナガルから表情が消えた。
ずーっとあたりまえのようにそこにあった壊れたオモチャみたいな笑顔が消える。けれどすぐに、心底嬉しそうに眼を細めて、まるで人間みたいにナガルは笑った。
「うん。助けるよ。おれがタイラさんを助ける。だからだいじょーぶだってば。安心して、ね? せーよくって幽霊より強いとかよく聞くでしょ? 聞かない? そう? おれはたまにきくよ? えっちなこと考えてたらユーレイ撃退しちゃいましたーとか。……だいじょぶ、おれがいるよ? だからタイラさんは怖がらないでさ、そんなやつ気にしないでさ、おれだけ見てよ」
ゆっくりと近づく顔の意味がわからないのに、本能で『あ、これキスだ』と目を閉じる。
隣で溶けた女が唸っている。キスなんかしている場合じゃない。場合じゃないのに、俺は啄む唇の甘さに一瞬で現実逃避した。
拘束されていた両手を開放され、迷わずにナガルの背中に手をまわして抱きしめた。
ナガルの濡れた手が俺の頬を掴む。覚えのある精液のにおいがする。でも不快よりも快感が勝る。
「……ん……、ふ………………タイラさん、キスうまいねー。……ちょっと、はまりそうー……」
「ぁ……ふ………………、……っ」
柔らかい舌が絡む。くちをあけろ、と言われるまでもなく当たり前のように舌を差し出した俺に、ナガルは余計なことは言わずに食いついてきてくれた。
キスに味なんかない。ないのに、甘ったるい雰囲気が充満する。
飴を転がすみたいにお互いの舌を舐め合って、十分満足して少し離れたのに、やっぱもうちょっとと思ってねだってしまう。
たりない。と言えば、ナガルは笑う。笑ってキスをしてくれる。
たっぷりキスを堪能したのに――左の奴は消えないんだけどどういうことだ勿部ナガル……。
そう思いじろりを睨むと、聡い男はけろっと笑う。
「おれ別にー、ちゅーしたらそいつ消えるよーとか言ってないよー? 気にしないで無視しよ! って言っただけー」
「む、無視って言われても、う、ひ、ぎゃ!? おま、何!?」
「おっぱいないねーそうだよねー男の人だもんねー、でもまあこれはこれでぐっとくる……これ乳首?」
「お、おま、おまえ、何やっ、」
「えー? えっちなこと再開。だってユーレイとか、気にしても仕方ないし。いるもんはどうしようもないし。そんなことよりタイラさーん、おれともっとエッチしよ?」
「しねーよ馬鹿そこ退け、ぅあ、ちょ……っ、だ、だめだめだめ喉、ひ、ぃ、あ」
「……ウィークポイントはっけーん」
喉をべろりと舐められ、濡れた場所を指先でなぞられただけでもうだめだ。全く腰に力が入らない。
左からは相変わらずあーあーあーあーあーあーあーと金属みたいな唸り声が聞こえてくる。怖くて見れないけど、顔の溶けた女は普通にそこにいるんだろう。
「せ、せめて、ば、ばしょ、……場所、変えて……っ」
「ん? そう? 別にここでよくない? あ、おふとんの上がイイ的なこと?」
「いい! 布団がいい! 布団好き!」
「そっかーじゃあお布団……えーでもおふとんってタイラさんの部屋じゃない? ……そこ通っていくの?」
そこ。
と指し示された居間の入り口を見る。
そんですぐに、見なきゃよかったと後悔する。
立ちふさがるようにそこにいるのは、いままで見たことないような形相のこの家の主だったから。
「………………座布団の上で、いいです」
「ん。おれもそう思うー」
けらけら笑う男に抱き起され、はいばんざーいと服を脱がされ、ずり、ずり、と床を這うような音で移動する溶けた女を背後に感じながら、服をぬぐ綺麗な男のどこをみたらいいのかわからなくて、今こそ現実逃避がしたいと心底思った。
結局この日は座布団の上で一夜を明かしてしまったんだけど。
溶けた女も、ママも、いつの間にか居なくなっていて、俺に残ったのは若干放り出せなかった羞恥心と綺麗な男の予想外に優しいキスの記憶だけだった。
別に準備してたわけじゃない。久しぶりの外出準備にテンパりすぎて忘れてただけだ。
俺がうっかりしていたせいでベルトという防具をすっ飛ばし、ナガルはさっさとジーンズのジッパーに手をかける。
俺の両手は頭の上でナガルの左手に拘束されているのに、右手は器用にそこに届いた。腕も足も長い奴で嫌だ。ほんと嫌だ。手際もよくて嫌すぎる。
「ナガル……、やめ……っ」
「やめると思う? 思ってないよね? じゃあその言葉、無意味だから意味ないよ? わーパンツ地味。すごいタイラさんっぽい。うーん大きさは……おれ友達いないし男の股間に興味ないからよくわっかんないなぁ。これってふつう?」
「しらねーよ! どけ!」
「どかないってば。いいじゃん、さっきの除霊のお礼だよ? あれ、ほんとうはお金とってやる仕事だよ? おれが勝手にやったとはいえさ、タイラさん、すんげー怖かったんでしょ? ベッド買おうか迷うくらい毎晩毎晩這いずってのぞき込んでくる黒いヤツに怯えてたんでしょ? ちょっとおれに触らせてくれるくらいよくない? 怪我させるつもりも、痛くするつもりも一切ないんだしさー。おれね、タイラさんに嫌いになってほしいけど、別に物理的にぶっ叩こうとか痛い事しようとか微塵も思ってないし」
「……そりゃ、感謝は、してる、けどさ。他にもっとなんかやり方……っ、ひぁ!? ま、ちょ……ぁ、やだ……っ、……!」
「…………わー。あったかーい」
初めて子犬を抱き上げたみたいな声出すんじゃねーよひとのチンコ触って! と突っ込めたら気持ちよかっただろうに俺の声帯はビビりすぎていて掠れた声しか出さない。
するっと下着から取り出された俺のアレは、最高に恥ずかしいことに若干もう濡れていた。恥ずかしい。むり。ほんとむり。泣く。三十一歳だけどこれは泣いていいと思う。
ただでさえ無理なのに、妙に感動しているナガルは容赦なく俺を掴む。ばか擦んな、馬鹿ぐりぐりすんな! って言いたいのにひゅっと息と一緒にひっこんだ言葉は、喘ぎ声にしかならない。
「へーなんか、自分の触ってもほら、感覚ってよくわかんないけど。なんかあったかいゴムみたいだねぇー。わりといけるなぁ。うん。ていうかタイラさんかわいいね? 真っ赤だね? ちょっと泣いてるね? うっそ、かわ……えー。これもっとぐちゃぐちゃしたらもっと泣いてくれる?」
「おま、やめ……っ、ぁ、だめ、だめだめだめだっつって……っ、ひ、ぁ……っ!?」
俺の先走りを指に絡めて、まんべんなく竿にまとわせるように塗りたくって擦る。それだけで結構もう無理だったのに、どこかなぁーここかなぁーなんてにこにこしながら丁寧に丁寧に擦りあげていくものだから、本当に涙が滲んできた。
生理的な涙なのか、屈辱の涙なのか、自分でもわからない。
俺の目じりを嬉しそうに舐めるナガルの唾液の冷たさだけをリアルに感じていたのは、お得意の現実逃避かもしれない。
なんで俺、こんなとこで知らない男にチンコ握られてんの?
なんて疑問を考えると死にそうになるし、やっぱり罰だとか思っちゃうし、そうすると今までの罪とかそういうの考え始めてまた意識が飛びそうになるから、いっそ俺は快楽を追った方がいいんじゃ……? と思い始める。
こう言っちゃなんだが、子供ができるわけじゃない。女の子はそのリスクがある。どうしてもある。でもおれは、いざこいつの精子がうっかり体内に入ったところで、ちょっと腹を下すかもしれないだけだ。
そもそもゴム常備してないからアナルセックスはできないし。残念ながら肛門ってやつはいきなり棒を入れるようには作られていない。
相手がバイブならこっちが負けるかもしれんけど、いざ尋常にレイプされそうになったところで、しばらくご無沙汰だった俺のソコには、がんばっても指くらいしか入らないだろう。たぶん。
ゲイでもバイでもないこいつがそこまで頑張ってレイプするとも思えない。いきなりその辺から適当な棒を持ってくる可能性は否定できないのが、なんかこう、アレだけど……。
うん。これは現実逃避だ。やっぱり俺は、現実逃避が大好きなくそやろうだ。
ママとか、母さんとか、同居人とか、別れた恋人とか。そういうものを考えるのに疲れた。半分くらいは自業自得なんだけど、本気で疲れた。
頭がぼんやりしてくる。意識が、段々理性から本能にシフトする。
ぬるぬるの先っぽに緩やかに爪を立てられ、思わず腰を浮かしてしまう。もうすっかり濡れたチンコはがっつり勃っていて、恥ずかしさなんかカンストしてもうわけがわからなくなっていた。
「タイラさん、やっぱちょっと痛いっていうか強めの方が好きだねー。先っぽ、ぐーってするの、好きでしょ? これ、イイ?」
「っあ、ぁ……ふ、……っ、それ、だめ、だから……ぁっ」
「嘘つき」
俺の目の前でかぱ、と口を開けて笑ったナガルが、すっと頭を下げる。そして俺の喉に齧りつく。
「…………っ、ひ、ぅ……!」
ゾク、とした快楽が腰に走る。喉ダメ喉ダメ喉ダメなんだってば、って伝える術がない。俺の口はだらしなく喘ぎ声を吐き出すだけの駄目な器官でしかない。
歯を立てられ、べろりと舐められ、肌を吸うように啄まれてそのあまりの気持ちよさに眩暈がして、頭が真っ白になった。
ああ、うん。俺はこの感覚を知っているし、たぶん大体の成人男子は知っている筈だ。……あー……、むり……しにたい……いやしにたくはないけど、しにたくはないんだけど、できればいますぐ逃げ出して押し入れの中とかで膝をかかえて蹲りたい。
「わー……タイラさん、もしかして、喉噛まれてイッちゃった? え? ……チンコじゃなくて? 喉? うそ、はは、ちょうえっちじゃーん」
うるせーだまれ、と言いたかった。
言いたかったのに言えなかったのは、けらけら笑うナガルがけらけら笑いながらも俺のアレをぐちゃぐちゃにするお作業を一切やめる気配がなかったからだ。
管から白い粘着質な液体がすべて出た後も、ぬめぬめぐちゃぐちゃする手を一切休めない。
いやいやいやいや! まて! まてナガル待ってほんと待ってください無理だって……!
「待っ……なが……っ、い、イッた、イッた、から、ダメ、ダメ、も、やめ……っ、扱かな……っ!」
「ん? なんで? タイラさんすごーく気持ちよさそうだよ? 駄目じゃないし嫌じゃないよね? 嘘よくないよ? うわぁすっごい出たねぇ……おれも脱いどきゃよかったかなぁ? 次終わったら脱ぐね? タイラさんも脱いじゃおっかぁ」
「つ、次って、何……、ぁ、や……そこばっか、駄目だって、言っ……っ、ん、ぁ、」
「くびれのとこ、好きだね? 覚えたよ? あは、すげーね。すげーかわいい。タイラさん今度鏡あるとこでしようよ。すんごいどろどろの顔してんの、見たらきっともっと恥ずかしくてきもちいーよ。……いま想像した? わーえっち。びくびくしたね。かわいいね?」
「ぁ、あ、みみ、だめ……ぁ、ふ……」
「噛まれんの、好き?」
「…………す、」
すき。と、うっかり本音が出そうになった時、急に俺の左側――ナガルが囁いているのは右側だ――に、何かが落ちて来た。
何か、ボールみたいなもの。白くてでかいスイカくらいの大きさのもの。
何? って思った。普通に。ごく普通に思ってしまった。そして俺は……理性をぶっ飛ばしたままの俺はごく普通に反射的に左側を見てしまった。見てしまったから、認識してしまった。
腰を折り異常な体勢で顔を床につけ、俺の方を凝視している顔面が溶けた女を。
「――――――……ッ」
いつもだったらもっと用心する。用心して無視する。
それなのにこの時は理性なんてものぶっ飛ばしたままで、すっかり忘れていた。
ここは、ママの家だということを。
目がない。うっすらここか? という名残はあるが、鼻もないし口もなんていうか……どろどろに溶けていて唇の痕跡すらない。ただぼっかりと穴が開いているように見える。
あー。あー。あー。あー。と、金属のような声がする。左側から、一気に全身に鳥肌が立つ。
思わず本気で身体を起こそうとして、伸し掛かる男に力任せに阻止された。精液まみれであることなんか一瞬で忘れてもがく。でも、ナガルは放してくれない。
「なが……っ、ひ、ひだり、そこ、すぐ……っ」
「ん。知ってる知ってる。いるなぁ、って思ってたもん。おれ、タイラさん程じゃないけどわりと見えてるからねー。これ、タイラさん初見? いままでいた?」
「は、はじめて……みる、奴、」
「そかー。じゃあ除霊むずいかー。話は長けりゃ長い程効くって感じだからねーいきなり現れた奴にはおれ、基本無力なのよねー。ってことで、はいこっち見て」
「え。え?」
「どうしようもないから無視一択だねーどうせ逃げらんないでしょ、この家の中からは。大丈夫大丈夫、霊障なんてね、大体は木の持ちようだからさ。ごはんちゃんと食べてちゃんと寝てれば大概平気だよー」
こいつ何言ってんだ。
こいつマジで言ってんのか。
俺の横の奴が見えてんのか本当に見えてんのか? 聞こえてんのか? あーあーあーあーあーあーあーあーって、ほら。ほら、言ってんじゃん。唸ってんじゃん。どろどろの女が顔をべったり俺に近づけてんじゃん。すぐそこにいるじゃん。
そう訴えたいのに口はパクパク動くだけで、パニックになった俺からは涙しかでない。
それでもどうにか言葉を探す。どうにか、おまえに言わなきゃいけない言葉を探す。
「ナガル、助けて……!」
一瞬、なんでかナガルから表情が消えた。
ずーっとあたりまえのようにそこにあった壊れたオモチャみたいな笑顔が消える。けれどすぐに、心底嬉しそうに眼を細めて、まるで人間みたいにナガルは笑った。
「うん。助けるよ。おれがタイラさんを助ける。だからだいじょーぶだってば。安心して、ね? せーよくって幽霊より強いとかよく聞くでしょ? 聞かない? そう? おれはたまにきくよ? えっちなこと考えてたらユーレイ撃退しちゃいましたーとか。……だいじょぶ、おれがいるよ? だからタイラさんは怖がらないでさ、そんなやつ気にしないでさ、おれだけ見てよ」
ゆっくりと近づく顔の意味がわからないのに、本能で『あ、これキスだ』と目を閉じる。
隣で溶けた女が唸っている。キスなんかしている場合じゃない。場合じゃないのに、俺は啄む唇の甘さに一瞬で現実逃避した。
拘束されていた両手を開放され、迷わずにナガルの背中に手をまわして抱きしめた。
ナガルの濡れた手が俺の頬を掴む。覚えのある精液のにおいがする。でも不快よりも快感が勝る。
「……ん……、ふ………………タイラさん、キスうまいねー。……ちょっと、はまりそうー……」
「ぁ……ふ………………、……っ」
柔らかい舌が絡む。くちをあけろ、と言われるまでもなく当たり前のように舌を差し出した俺に、ナガルは余計なことは言わずに食いついてきてくれた。
キスに味なんかない。ないのに、甘ったるい雰囲気が充満する。
飴を転がすみたいにお互いの舌を舐め合って、十分満足して少し離れたのに、やっぱもうちょっとと思ってねだってしまう。
たりない。と言えば、ナガルは笑う。笑ってキスをしてくれる。
たっぷりキスを堪能したのに――左の奴は消えないんだけどどういうことだ勿部ナガル……。
そう思いじろりを睨むと、聡い男はけろっと笑う。
「おれ別にー、ちゅーしたらそいつ消えるよーとか言ってないよー? 気にしないで無視しよ! って言っただけー」
「む、無視って言われても、う、ひ、ぎゃ!? おま、何!?」
「おっぱいないねーそうだよねー男の人だもんねー、でもまあこれはこれでぐっとくる……これ乳首?」
「お、おま、おまえ、何やっ、」
「えー? えっちなこと再開。だってユーレイとか、気にしても仕方ないし。いるもんはどうしようもないし。そんなことよりタイラさーん、おれともっとエッチしよ?」
「しねーよ馬鹿そこ退け、ぅあ、ちょ……っ、だ、だめだめだめ喉、ひ、ぃ、あ」
「……ウィークポイントはっけーん」
喉をべろりと舐められ、濡れた場所を指先でなぞられただけでもうだめだ。全く腰に力が入らない。
左からは相変わらずあーあーあーあーあーあーあーと金属みたいな唸り声が聞こえてくる。怖くて見れないけど、顔の溶けた女は普通にそこにいるんだろう。
「せ、せめて、ば、ばしょ、……場所、変えて……っ」
「ん? そう? 別にここでよくない? あ、おふとんの上がイイ的なこと?」
「いい! 布団がいい! 布団好き!」
「そっかーじゃあお布団……えーでもおふとんってタイラさんの部屋じゃない? ……そこ通っていくの?」
そこ。
と指し示された居間の入り口を見る。
そんですぐに、見なきゃよかったと後悔する。
立ちふさがるようにそこにいるのは、いままで見たことないような形相のこの家の主だったから。
「………………座布団の上で、いいです」
「ん。おれもそう思うー」
けらけら笑う男に抱き起され、はいばんざーいと服を脱がされ、ずり、ずり、と床を這うような音で移動する溶けた女を背後に感じながら、服をぬぐ綺麗な男のどこをみたらいいのかわからなくて、今こそ現実逃避がしたいと心底思った。
結局この日は座布団の上で一夜を明かしてしまったんだけど。
溶けた女も、ママも、いつの間にか居なくなっていて、俺に残ったのは若干放り出せなかった羞恥心と綺麗な男の予想外に優しいキスの記憶だけだった。
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