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第7話 絶望

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「突然、申し訳ありません。私、千代さんと顔見知りの由良と申します。経盛様の配下の日向様に伺って、千代さんの家を教えていただきました。千代さんを探す手掛かりを掴むために、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

突然の由良の訪問に千代の両親は驚いたが、娘に近い年齢の女性が訪れたため、我が子と同じように優しく家に招き入れた。

こんな素敵な家族に囲まれて育ったから、千代さんは素直で笑顔が素敵な女性に育ったのね。

家の中には千代の兄弟も居たため、由良は千代の家族に囲まれながら、行方の分からない千代に思いを馳せた。

「千代さんの行きそうなところは?」
「うーん、あの子はこの村と紫雲城しか知らないからね」
「千代さんの悩みは?」
「前に帰省した時は元気そうで、悩みなんて無さそうだったよ」

由良の質問に千代の両親は答えるが、以前日向に話したことと同じような内容であった。
考えていた質問を全て終えたが、特に手掛かりは掴めない。

「お時間を取らせてすみませんでした。ご協力、ありがとうございました」
「こちらこそ、千代のことをお願いします。私たちは田んぼや他の子どもたちのことで探しに行けないので、あなたや城の皆さんが頼りです」
「千代さんを見つけられるように全力を尽くします」

解決の糸口が見えないことを悔しく思いながら、由良は千代の故郷を後にした。

日向様からの情報を待ちましょう。
それでも何も手掛かりが無いようなら、地道にはなるけど、片っ端から聞き込みしていくしかないわね。

日向からの報告が来るまで、由良は関所を回ったり、他国に嫁いだ知り合いに千代の人相を送り、見覚えが無いか聞いたり活動していた。


1週間後、待ち望んだ日向が由良の屋敷を訪れた。

「日向様!お待ちしておりました!私は千代さんのご両親にお話を聞きましたが、残念ながら収穫無しでした。すみません……。だから、日向様のお話をお聞かせ下さい!」

期待に満ちた瞳で由良は日向を見つめる。
そんな由良とは対照的に、重く低い声で日向の返事が述べられた。

「由良、すみません。経盛様に由良ともう会わないように言われました……。上手く立ち回れなかった私の責任です。申し訳ありません……」

日向の言葉を聞いた由良の青い瞳から輝きが失われる。
日向は心苦しく思いながらも、真実を語らねばならないと自分に言い聞かせて話を続けた。


ある日、日向は古い地図について尋ねるために経盛の部屋を訪れた。

「経盛様、本日はお聞きしたいことがございます。今、よろしいでしょうか?」
「なんだ?申してみよ」
「以前、お見せ下さった経盛様のお祖父様の代の地図のことなのですが、その地図を他の方にお見せしたことはございますか?」

突然、地図の話を出され、目的が分からない経盛は、訝しい顔で日向に問い掛けた。

「ああ、他にも見せた者はいるが、それを知ってどうする気だ?」
「千代さんの行方に繋がる手掛かりを探しておりまして、もしかするとその地図を知っている方が関係しているのかもしれないのです。由良も千代さんのことを心配して一緒に探してくれていますよ」

日向は由良の真面目で優しい長所を、経盛に伝えようとした。
しかし、その一言が裏目に出たのだ。

「なぜ千代の探索に由良が関わる?大方、我が友の知久を陥れて自分の無罪を確立しようとしているのだろう?」
「いえ、そのような訳では……」

口調と表情から経盛が由良を毛嫌いしていることが伝わり、何とか宥めようとするが上手い言葉が浮かばない。

「貴様は由良に騙されておる。もし、裏切り者の由良を庇うようであれば、貴様も同罪と見なして、この城から出ていって貰うぞ」
「それだけはご勘弁下さい」
「ならば、今後一切、由良と関わるな!よいな?」
「……はい、畏まりました」

由良の好感度を上げようとするつもりが、逆に経盛様を怒らせてしまった……。
私の力不足で不甲斐ない。
そして、この結果を由良にどう伝えようか……。

日向は項垂れながら、経盛の部屋を後にした。


「……このような経緯で、経盛様の怒りを買いました。地図を見た者の名前も伺えませんでした。誠に申し訳ありません……」
「いえ、私を思っての行動であって、日向様は悪くありません。今日も危険を承知で、私に伝えに来て下さり、ありがとうございます」

由良は日向に心配を掛けないように、心内を隠して気丈に振る舞った。
しかし、長い付き合いの日向には由良の無理が分かり、本心は傷付いていることに気付いている。

「由良のことが心配ですので、何とか隠れてここに通います。経盛様が本能寺に行かれた時など機会はあると思いますので」
「それはいけません!これ以上、日向様のお立場を悪くする訳にはいきません。日向様まで城から追い出されたら父が更に悲しみます。今日も知られる前に早くお帰りになって下さい」

そう言うと由良は日向を部屋の外へ押し出した。
日向の力であれば、由良を押し返して部屋に居座ることも可能だが、由良の声が涙声になっていることに気付き、振り向かずにされるがままとなり外に出る。

「呼んで下されば、すぐに来ます。私はいつでも由良の味方です」

そう部屋の外から声を掛けてから、日向は屋敷を後にした。
日向の足音が遠ざかり、聞こえなくなったのを確認してから、由良は我慢をやめた。
すると、涙が留めなく流れる。

どうして私の大切な物は手から溢れ落ちていくの……。
私の幸せはどこに行けば手に入るの?
日向様だけが頼みの綱だったのに……。

由良はもう日向に会えない事実を1番辛く感じていた。
婚約破棄の時以上の絶望に苛まれる。

幼い頃から一緒で、日向様がそばにいてくれることが無意識の内に当たり前になっていた。
永遠なんてこの世には無いのに、甘えていた私が悪い。
でも、経盛様からの愛も失い、大切な日向様の存在も失って、もう何も残っていない私はどうしたらいいの?

立ち直りかけていた由良はこの日、再び絶望の淵へ突き落とされた。
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