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小学生編
第5話 卵粥
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「ただいまー。留守番させてごめんね」
そう言いながら瞳のいる部屋を開けると、瞳はベッドに横たわりながらビデオを見ていた。
頬が赤いその姿から辛そうな様子が伝わってくる。
それでも瞳は朋花を気遣ってお礼を述べた。
「おばちゃん、おかえり。寒い中、買ってきてくれてありがとう」
「ううん、これくらいお任せあれ!薬を貰ってきたから飲めるようにすぐにご飯を作るね。お粥なら食べられそう?」
早く瞳を楽にするにはお薬が1番だと思った朋花は瞳の食べられそうな物を質問した。
「うん、お粥、食べたい」
「OK!じゃあ、今から作るからもうちょっと待っていてね」
瞳の返事を確認した朋花は早速キッチンで調理を始める。
やがて、ある料理が完成する。
「やっぱり病気の時はこれよね」
そう呟く朋花の前にはネギがたっぷり入った卵粥が湯気を立てていた。
これは朋花が小さい頃から病気の時に母が作ってくれた思い出の料理である。
「ご飯、出来たよー。起き上がれそう?」
「うん、今、行く」
朋花に呼ばれた瞳は少しふらつきながらも起き上がり、食卓についた。
「いただきます」
「うん、召し上がれ」
手を合わせると箸をとり、2人は黙々と食事をとる。
いつもは朋花がよく喋るのだが、今日は瞳に無理させないように静かに過ごしていた。
しばらくすると瞳が涙を流していることに朋花は気付く。
「どうしたの、瞳ちゃん?お粥、あんまり美味しく無かった?ごめんね、料理が下手で。ゼリーとかも買ってきてるからそっちにしようか?」
慌てて朋花が尋ねると瞳は横に首を振り、小さな声で呟く。
「……ううん、違うの。とっても美味しいの……。だって、ママと同じ味がする……」
その言葉を聞いて朋花の心にある考えが浮かんだ。
なるほど、お姉ちゃんもお母さんの真似をしていたのか。
朋花にとっての思い出の味は姉である梨花も同じであり、それは瞳へと受け継がれていた。
涙を流す瞳を見て、そう言えば我が家に来てから瞳が泣いていないことに朋花は気付く。
私でもふとした時にお姉ちゃんを思い出して寂しくなるのに、瞳ちゃんはもっと寂しい思いをしていたはずよね。
それなのに泣かなくなったのは元気になったからだと勘違いしていたわ。
瞳が熱を出す程我慢していたことに気付いた朋花は立ち上がると涙を流す瞳を後ろから抱き締めた。
「ずっと我慢させていてごめんね。ここが瞳ちゃんの家だから、泣きたい時はいっぱい泣いていいんだよ」
「……おばちゃん、お母さんに会いたいよ……。お父さんとお出掛けしたいよ……」
やはり迷惑を掛けないように子どもながら気遣っていた瞳は朋花の言葉で涙腺が決壊し、より大粒の涙を流した。
そんな瞳の姿を見て、朋花は瞳が落ち着くまで抱き締め続ける。
やがて、気持ちが落ち着いた瞳は卵粥を完食し、薬を飲んだ後は疲れ果てて寝入っていた。
翌日、瞳の熱を測ると薬が効いたのか平熱に戻っていた。
「熱が下がってよかったよ。まだ無理は禁物だから今日も学校はお休みして、もし明日も大丈夫だったら登校しよっか」
「うん、分かった。おばちゃん、今日も卵粥を作ってくれる?」
昨日、朋花から遠慮しないように言われた瞳は今日から自分の気持ちに素直になろうと思い、あの卵粥が食べたいと口にする。
それを聞いて朋花は、それくらい御安いご用と明るい声で返事をした。
「勿論作るよ!まだ材料はあるから今から作ってくるね」
「嬉しい!ありがとう!」
そうお礼を述べる瞳の顔は笑みが浮かんでいる。
体と心が楽になったのか瞳の心は明るい気持ちになっていた。
そのまま瞳は順調に回復し、翌日には元気に学校へ行くことが出来た。
そしてその日の夜、夕飯を食べながら2人は週末の予定について話していた。
「瞳ちゃんが元気になってよかったよ。今週の土曜日、瞳ちゃんが大丈夫ならお出掛けしよっか。どこか行きたいところはある?」
泣いている時にお父さんと出掛けたいと瞳が言っていたことを思い出した朋花は、瞳がどこか出掛けたいのではないかと思って質問したのだ。
突然の質問に少し考えてから瞳は答える。
「うーん……。あっ、自然公園に行きたい!あそこのアスレチックで遊ぶの好きなの」
「自然公園、楽しいよね!おばちゃんも子どもの頃、よく行ったわ。よし、分かった!じゃあ、土曜日は電車でお出掛けしようね」
車に乗れない瞳とのお出掛けは電車を使うしかない。
幸い自然公園は近くまで電車で行けるため、2人で電車に乗って出掛けることが決定した。
そして、朋花にはもう1つこなすべき仕事があった。
瞳が元気になり、朋花も出勤出来るようになった日、在宅ワークの相談を行う。
「先日は急なお休みをいただき、ありがとうございました。ご迷惑をお掛けしてすみません。それで相談したいことがあるのですが……」
上司と話した結果、webデザイナーの仕事は在宅でも可能なため、出勤が難しい日は自宅で仕事が出来るようになった。
これでこれからは瞳が体調を崩しても大丈夫ね。
本当は先に予測して相談出来ていたらよかったんだけど、経験の無いことはなかなか難しいわね。
まあ、今回は何とか乗り越えられたし、週末のお出掛けを楽しむことにするわ。
次の楽しみに向けて心を切り替えた朋花は週末のことばかり考えるようになった。
やがて土曜日、朋花は瞳と一緒に自然公園へ出掛けた。
車は乗れないが電車なら瞳は大丈夫であった。
瞳がアスレチックをするのを見て、子どもの頃を思い出した朋花も手を出したが思ったように体が動かない。
「おばちゃん、こっちこっちー!」
「あれー、昔は出来たのになあー」
スイスイと進む瞳とは対照に、朋花は首を捻りながら体の衰えを感じる1日となった。
そして翌日、筋肉痛となった朋花は更に自分の体の衰えにへこむこととなる。
そう言いながら瞳のいる部屋を開けると、瞳はベッドに横たわりながらビデオを見ていた。
頬が赤いその姿から辛そうな様子が伝わってくる。
それでも瞳は朋花を気遣ってお礼を述べた。
「おばちゃん、おかえり。寒い中、買ってきてくれてありがとう」
「ううん、これくらいお任せあれ!薬を貰ってきたから飲めるようにすぐにご飯を作るね。お粥なら食べられそう?」
早く瞳を楽にするにはお薬が1番だと思った朋花は瞳の食べられそうな物を質問した。
「うん、お粥、食べたい」
「OK!じゃあ、今から作るからもうちょっと待っていてね」
瞳の返事を確認した朋花は早速キッチンで調理を始める。
やがて、ある料理が完成する。
「やっぱり病気の時はこれよね」
そう呟く朋花の前にはネギがたっぷり入った卵粥が湯気を立てていた。
これは朋花が小さい頃から病気の時に母が作ってくれた思い出の料理である。
「ご飯、出来たよー。起き上がれそう?」
「うん、今、行く」
朋花に呼ばれた瞳は少しふらつきながらも起き上がり、食卓についた。
「いただきます」
「うん、召し上がれ」
手を合わせると箸をとり、2人は黙々と食事をとる。
いつもは朋花がよく喋るのだが、今日は瞳に無理させないように静かに過ごしていた。
しばらくすると瞳が涙を流していることに朋花は気付く。
「どうしたの、瞳ちゃん?お粥、あんまり美味しく無かった?ごめんね、料理が下手で。ゼリーとかも買ってきてるからそっちにしようか?」
慌てて朋花が尋ねると瞳は横に首を振り、小さな声で呟く。
「……ううん、違うの。とっても美味しいの……。だって、ママと同じ味がする……」
その言葉を聞いて朋花の心にある考えが浮かんだ。
なるほど、お姉ちゃんもお母さんの真似をしていたのか。
朋花にとっての思い出の味は姉である梨花も同じであり、それは瞳へと受け継がれていた。
涙を流す瞳を見て、そう言えば我が家に来てから瞳が泣いていないことに朋花は気付く。
私でもふとした時にお姉ちゃんを思い出して寂しくなるのに、瞳ちゃんはもっと寂しい思いをしていたはずよね。
それなのに泣かなくなったのは元気になったからだと勘違いしていたわ。
瞳が熱を出す程我慢していたことに気付いた朋花は立ち上がると涙を流す瞳を後ろから抱き締めた。
「ずっと我慢させていてごめんね。ここが瞳ちゃんの家だから、泣きたい時はいっぱい泣いていいんだよ」
「……おばちゃん、お母さんに会いたいよ……。お父さんとお出掛けしたいよ……」
やはり迷惑を掛けないように子どもながら気遣っていた瞳は朋花の言葉で涙腺が決壊し、より大粒の涙を流した。
そんな瞳の姿を見て、朋花は瞳が落ち着くまで抱き締め続ける。
やがて、気持ちが落ち着いた瞳は卵粥を完食し、薬を飲んだ後は疲れ果てて寝入っていた。
翌日、瞳の熱を測ると薬が効いたのか平熱に戻っていた。
「熱が下がってよかったよ。まだ無理は禁物だから今日も学校はお休みして、もし明日も大丈夫だったら登校しよっか」
「うん、分かった。おばちゃん、今日も卵粥を作ってくれる?」
昨日、朋花から遠慮しないように言われた瞳は今日から自分の気持ちに素直になろうと思い、あの卵粥が食べたいと口にする。
それを聞いて朋花は、それくらい御安いご用と明るい声で返事をした。
「勿論作るよ!まだ材料はあるから今から作ってくるね」
「嬉しい!ありがとう!」
そうお礼を述べる瞳の顔は笑みが浮かんでいる。
体と心が楽になったのか瞳の心は明るい気持ちになっていた。
そのまま瞳は順調に回復し、翌日には元気に学校へ行くことが出来た。
そしてその日の夜、夕飯を食べながら2人は週末の予定について話していた。
「瞳ちゃんが元気になってよかったよ。今週の土曜日、瞳ちゃんが大丈夫ならお出掛けしよっか。どこか行きたいところはある?」
泣いている時にお父さんと出掛けたいと瞳が言っていたことを思い出した朋花は、瞳がどこか出掛けたいのではないかと思って質問したのだ。
突然の質問に少し考えてから瞳は答える。
「うーん……。あっ、自然公園に行きたい!あそこのアスレチックで遊ぶの好きなの」
「自然公園、楽しいよね!おばちゃんも子どもの頃、よく行ったわ。よし、分かった!じゃあ、土曜日は電車でお出掛けしようね」
車に乗れない瞳とのお出掛けは電車を使うしかない。
幸い自然公園は近くまで電車で行けるため、2人で電車に乗って出掛けることが決定した。
そして、朋花にはもう1つこなすべき仕事があった。
瞳が元気になり、朋花も出勤出来るようになった日、在宅ワークの相談を行う。
「先日は急なお休みをいただき、ありがとうございました。ご迷惑をお掛けしてすみません。それで相談したいことがあるのですが……」
上司と話した結果、webデザイナーの仕事は在宅でも可能なため、出勤が難しい日は自宅で仕事が出来るようになった。
これでこれからは瞳が体調を崩しても大丈夫ね。
本当は先に予測して相談出来ていたらよかったんだけど、経験の無いことはなかなか難しいわね。
まあ、今回は何とか乗り越えられたし、週末のお出掛けを楽しむことにするわ。
次の楽しみに向けて心を切り替えた朋花は週末のことばかり考えるようになった。
やがて土曜日、朋花は瞳と一緒に自然公園へ出掛けた。
車は乗れないが電車なら瞳は大丈夫であった。
瞳がアスレチックをするのを見て、子どもの頃を思い出した朋花も手を出したが思ったように体が動かない。
「おばちゃん、こっちこっちー!」
「あれー、昔は出来たのになあー」
スイスイと進む瞳とは対照に、朋花は首を捻りながら体の衰えを感じる1日となった。
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