コアラの歩み

三条 よもぎ

文字の大きさ
上 下
5 / 38
小学生編

第4話 急病

しおりを挟む
瞳と暮らし始めて2週間が経過した。

最初は手間取るばかりでバタバタとしていたけど、やっと新しい生活のリズムに慣れてきて少し余裕が出てきた気がするわ。

そう朋花は思っていたが、やはり物事はそう簡単に上手くはいかない。

「おばちゃん、何か頭が痛い……」
「えっ、大丈夫?ちょっと待ってね。確かこの辺に……」

朝、起きてきた瞳が体調不良を訴えたため、それを聞いた朋花は引き出しをがさごそと探り始めた。
そして、しばらくすると目当ての物が見つかる。

「あっ、あった!はい、体温計。ちょっと熱を測ってみよっか」

やがて、電子音が聞こえ、体温計の表示を見てみるとそこには「38.6」と数字が表示されていた。
どうやら疲れが溜まって瞳は発熱しているようである。
これでは登校させられないと思った朋花はまず会社に連絡する。

「……はい、……はい、すみません。よろしくお願いします」

突然のことであたふたとしながらも仕事を休むことが出来た。
次は瞳へのフォローである。
大人でも新しい生活は慣れるまでしんどいのに、まだ子どもの瞳に無理をさせてしまったことを朋花は謝った。

「瞳ちゃんの体調に気付けなくてごめんね。毎日バタバタで全然休めて無かったよね……」
「ううん、おばちゃんこそお仕事あるのにごめんなさい」

その瞳の返事を聞いて、朋花は心の中で自分を叱責した。

子どもに気を遣わせては駄目だ。
ここは落ち込んでいる場合ではないわね。
とりあえずまずは病院ね。

とりあえず掛かり付けの小児科を予約しようと姉の家から持ってきた荷物を探り、診察券を探し出す。
そして、電話で予約が取れたため、小児科に向かう準備に移った。

本当は車の方が早いけど、まだ瞳ちゃんが乗れないから歩いて行くしか無いわね。

車の事故のトラウマで瞳はあれから車やバス、タクシーに乗れなくなっていた。

「病院の予約が取れたから今から行こうか。ちょっと寒いけど歩いて行くから着込んでマフラーと手袋をしっかり着けてね。しんどくなったらおんぶするからすぐ教えてね」
「うん、分かった。ありがとう、おばちゃん」

支度を終え、同じ町内の小児科を目指して2人は歩き始めた。


子どもの足だと時間が掛かり、30分程歩いてようやく小児科に辿り着く。

「では、こちらの問診票をお書きになってお待ち下さい」

受付で渡された問診票を朋花が記入する。
問診票の質問事項を母子手帳を確認しながら書いていった。

友達に言われた通り、確認しておいてよかったわ。
でも、お姉ちゃんなら何も見ずに書けるんだよね。
やっぱり母子手帳を見ながらだと書くのに時間が掛かっちゃうなあ。

母子手帳の見覚えのある字を見ていると、これを書いた姉の姿が朋花の脳裏に浮かんでくる。
寂しい気持ちが沸き上がると同時に、早く診察を終えて瞳を寝かせてあげたいのに手間取る自分にがっかりしながらもその気持ちは胸に押し込めた。


「疲労による発熱でしょう。熱が下がるまでゆっくりと休ませてあげて下さい」
「分かりました。ありがとうございました」

やがて、診察と会計が終わり、処方箋を出されたがこのまま瞳を歩かせるのは可哀想と思った朋花は1度帰宅することにした。
歩いて家に戻り、瞳を布団に寝かせる。

「ちょっとお薬を貰って、熱さまシートとか買い物してくるね。1人でお留守番、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、すぐに行ってくるから待っててね」

その返事を聞いて朋花は鞄を持つと今度は車で出掛けることにした。

「まずは薬局に行って、それからスーパーに寄って……」

誰もいない車内で独り言を呟きながら、1つ1つ用事を済ませていく。

大人になって風邪とか体調不良で休むことがほとんど無かったから何も考えて無かったなあ。
これから仕事とか休む頻度が増えるだろうから考えないと。

独身時代のように身軽に行動出来ないことを今回のことで実感し、朋花は次こそ大丈夫なように準備しようと思いながら買い物を済ませた。
全ての用事を終え、朋花は慌てて瞳の待つ家へと帰る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

事故物件ガール

まさみ
ライト文芸
「他殺・自殺・その他。ご利用の際は該当事故物件のグレード表をご覧ください、報酬額は応相談」 巻波 南(まきなみ・みなみ)27歳、職業はフリーター兼事故物件クリーナー。 事故物件には二人目以降告知義務が発生しない。 その盲点を突き、様々な事件や事故が起きて入居者が埋まらない部屋に引っ越しては履歴を浄めてきた彼女が、新しく足を踏み入れたのは女性の幽霊がでるアパート。 当初ベランダで事故死したと思われた前の住人の幽霊は、南の夢枕に立って『コロサレタ』と告げる。 犯人はアパートの中にいる―……? 南はバイト先のコンビニの常連である、男子高校生の黛 隼人(まゆずみ・はやと)と組み、前の住人・ヒカリの死の真相を調べ始めるのだが…… 恋愛/ТL/NL/年の差/高校生(17)×フリーター(27) スラップスティックヒューマンコメディ、オカルト風味。 イラスト:がちゃ@お絵描き(@gcp358)様

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

(仮)仮のカレシと仮カノジョ

橘 碧紗(タチバナ ヘキサ)
ライト文芸
お付き合いしたいあの人は、私にとっては高嶺の花。 少しでも自分に自信を持ちたくて、友達から仮のカレシを紹介してもらうが……

処理中です...