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番外編

就職先は貧乏伯爵 前編(ジョエルの両親)

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ジョエルの母であるドリアーヌは商人の父とメイドの母の間に生まれた。
メイドの立場では雇い主から言い寄られると断れないため、関係を持つこととなった。
もともとドリアーヌの父は妾としてドリアーヌの母を屋敷に住まわそうと思っていたが正妻がそれを許さず、結局ドリアーヌは生まれた娘とともに市井で暮らすこととなる。


ドリアーヌの父は働かなくてもいいくらい仕送りをしたかったが支援することすら正妻が嫌ったため、正妻に見つからない少額のお金しか渡すことが出来なかった。
仕送りは家賃と食費で無くなるため、内職などをして得た僅かな給料をやりくりしてドリアーヌの母は娘を育てる。
やがて、ドリアーヌがある程度大きくなると他の家庭にはお父さんがいるのに、自分の家にはお母さんしかいないことに疑問を持つようになる。

「ねえ、ママ。どうして私のお家にはパパがいないの?」
「パパはね、ドリアーヌが赤ちゃんの時に乗っていた船が沈没して行方不明になったの。パパがいなくても、ママがパパの分までドリアーヌのことを可愛がってあげるから心配しないでね」
「うん、ママ、大好き!」

母の説明に納得したドリアーヌは母に抱き付く。
そして、母はドリアーヌを抱き締め返し、頭を撫でて愛情を伝えた。

ドリアーヌの父親から仕送りを貰っていることが正妻にバレたら、この仕送りすら無くなってしまう。
そうなったら生活出来なくなるから、ドリアーヌを本当の父に会わせることは出来ないわ。
ごめんね、ドリアーヌ。

母は心の中でドリアーヌに謝りながら、その分寂しい思いをさせないように精一杯愛情を注いだ。
このようにドリアーヌは最低限の生活をしながら庶民として育てられたが、母に愛されていることを十分に感じていたため、寂しい思いをすることは無かった。
ドリアーヌは大きくなると仕事で忙しい母を助けるために家事をするようになり、貧乏生活でも母との2人暮らしを楽しんでいた。


そんなドリアーヌの暮らしが一変したのはドリアーヌが15歳の時である。
突然、死んだと思っていたはずの父から会って話がしたいと連絡がきたのだ。
その手紙を見た母はドリアーヌに真実を打ち明ける。

「今まで隠していてごめんね」
「ううん、びっくりしたけど、お母さんが隠していたのは私のためを思ってなのを分かっているから大丈夫だよ」

ドリアーヌが受け入れてくれたことに母は安堵する。
そして、本題へと移る。

「今まで送金だけで手紙なんて無かったのに、急に送ってきたということはドリアーヌにとって良い話ではない可能性があるわ。断ってもいいけど、どうする?」

そう母に聞かれたドリアーヌは、しばらく悩んでから答えを出した。

「うーん、どんな用件なのか気になるし、とりあえず話だけでも聞いてくるわ」
「うん、分かったわ。それじゃあ、後で返事を書いておくわね」

ドリアーヌの母はドリアーヌの意見を尊重して、ドリアーヌの父に会って話を聞くと返事を送った。


それからしばらく経ったある日、ドリアーヌの父が馬車でドリアーヌを迎えに来た。
それが父と初めて会った瞬間である。

「やあ、ドリアーヌ。大きくなったね」

そう初対面のおじさんに話し掛けられて、父とどう話していいか分からないドリアーヌはとりあえず一礼した。
ドリアーヌの父はその様子を見て微笑むと、今度はドリアーヌの母に視線を向ける。

「苦労を掛けさせてすまない。立派に育ててくれてありがとう。今日は君も屋敷に来てくれて構わないのに、本当にいいのかい?」
「いえ、奥様に悪いので私は遠慮しておきます。今日はドリアーヌのことをよろしくお願い致します」

今日はドリアーヌの母は同伴しないため、ドリアーヌ1人で父から話を聞くことになっていた。

「じゃあ、しばらくドリアーヌを預かるぞ。さあ、馬車を用意してあるからこっちにおいで」
「ありがとうございます」

馬車を用意してくれた父にドリアーヌはお礼を述べる。
そして、母の方に向き直ると出発の挨拶をした。

「それじゃあ、お母さん、行ってくるね」
「いってらっしゃい。気を付けてね」

母に見送られながら父と一緒に馬車に乗り込んだドリアーヌは、初めて父と2人きりで過ごすことになる。


馬車の中では父と2人きりのため、必然的に父と話さなければならない。
しかし、初対面の父と何を話してよいか分からず、緊張したドリアーヌが固まっていると父の方から話し掛けてきた。

「ドリアーヌは今、学校に通っているんだろう?楽しいかい?」
「はい、宿題がいっぱいあって大変だけど、毎日友達に会えるので楽しいです」

父に普段の生活を聞かれたドリアーヌが学校でのことを話している内に父の屋敷に到着した。

わあ、なんて大きなお屋敷なのかしら。

初めて訪れた父の屋敷の広大さにドリアーヌは圧倒される。
父の案内で屋敷に入るが、ついキョロキョロと周りを見渡しながらドリアーヌは父の後ろを歩いて行った。
やがて、応接室に辿り着く。

「さあ、ここに座って」

そう父に言われ、ドリアーヌはふかふかのソファに腰掛けた。
向かいに父が座り、早速父が本題を切り出す。

「今日、お前を呼んだのは縁談の話がしたかったからなんだ。今まで苦労を掛けてすまなかった。せめてものお詫びとして、貴族との縁談を取り付けてきた」

突然の結婚話にドリアーヌは驚きながらも最後まで話を聞こうと耳を傾ける。

「貴族に嫁げば安泰な生活を送れる。だから、これがお前の幸せになると思うんだ。相手は3歳年上のジェラール・ブランシール伯爵で、昨年、お父上の跡を継いで若くして伯爵になられたお方だ」

貴族と結婚と聞いててっきりおじさんに嫁がされると思っていたドリアーヌは相手が思っていたよりも年が近く、話を聞きながらどんな男性なのだろうと少し気になっていた。
どうしてもこの縁談を成功させたい父は更に話を続ける。

「縁談と言っても最後は本人同士の相性があるから、1度会ってみるのがいいと思うがどうかね?来月で空いている日があったら教えてくれ。もし結婚が決まったら、ドリアーヌが胸を張って嫁げるように支度金はたんまり用意するから安心してくれ」

商人として成功を収めた父にはお金はたくさんあるが、平民出身であることに引け目を感じていた。
そこで金の力で貴族と繋がりを得るために縁談をドリアーヌに持ち掛けたのだ。
勿論相手の貴族は貧乏伯爵と呼ばれていることは調査済で、お金を積めば平民の娘でも結婚するだろうと目論んでいる。
ただし、相手は辺境伯爵であり、そんなところに可愛い娘を嫁がせて苦労させるのは嫌だと思った父は、ドリアーヌに白羽の矢を立てたのだ。
そんな事情を知らないドリアーヌはとりあえず会ってみてから結婚を考えようかなと呑気に考えている。

「今まで結婚を考えたことが無かったのでまだ実感が湧きません。でも、せっかく話を持ってきて下さったので、一先ずお相手の方と会ってみようと思っています。来月なら2週目と3週目の休日なら空いています」

前向きなドリアーヌの気持ちを聞いて、父は笑顔になる。

「ああ、それが良いと思うぞ!せっかくの機会だからとりあえず顔だけでも見てくれ。それじゃあ、先方の予定を聞いてお見合いの日を決めておくぞ。また詳しく決まったら手紙を送るから、待っていてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」

こうしてお見合いの段取りが決まり、再び父の馬車で家まで送って貰った。
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